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なぜ今、インドでヒップホップがブームなのか?火付け役のラップバトル番組・MTV「ハッスル」から探る

2024/01/11 20:30
Buffy Yoshikawa
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PHOTO: KaanPhod Music YouTube
映画やドラマの中にもヒップホップが取り入れられるなど、インドでヒップホップブームが過熱している。その火付け役と言われるMTVの人気番組「ハッスル」シーズン3から、ブームの理由と今後注目のラッパーを探る。

Text:バフィー吉川

インドでは、現在ヒップホップブーム真っ最中!

シャー・ルク・カーン主演映画『JAWAN』やヴィジャイ主演映画『LEO』、Disney+Hotstarドラマ「Aarya」などの作中曲や主題歌にもヒップホップが取り入れられるなど、様々なドラマや映画のなかでもヒップホップの存在感が無視できなくなってきている。

またそういった作品が全米でも公開され、インドのヒップホップが注目されることも多くなってきている。先日公開されボックスオフィスの上位にランキング入りした、ランビール・カプール主演映画『ANIMAL』の曲がビルボードでも注目されるなど、世界的なインド音楽ムーブメントの入り口としてインド産ヒップホップが大きな役割を果たしていると言っても過言ではない。

映画やドラマに使用されているだけではなく、インド国全体でヒップホッブ自体がムーブメントとなっており、それは東西南北だけではなく、隣国のパキスタンやバングラデシュ、スリランカでも同時多発的に巻き起こっている。

そんなブームの先駆けとなった番組が、「インドの人気ラップバトル番組、MTV「ハッスル」シーズン3開幕 さらに盛り上がりをみせるヒップホップシーン」でも紹介したMTV「ハッスル」である。

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インド・ヒップホップ界の絶対王者ハードシャーが審査員を務め、ラジャ・クマリのような海外からの逆輸入アーティストではなく、インド国内における女性ラッパーの先駆けであるDeeMC、シーズン1の準優勝者EPR、インド映画・ドラマの楽曲にラップを取り込み成功に導いたイッカ・シン、人気ラッパーのディーノ・ジェームスらがチームを編成して競わせるというもので、オーディション番組「The Voice」に似た形式の構成となっている。

前シーズンよりもパフォーマンス・ステージが豪華にスケールアップしたことで、より場を盛り上げる演出が可能となり、ライブ感が圧倒的に増したのも注目すべき点ではあるが、それだけではなく、出場者はもちろん、チームリーダーとのセッションやインドのヒップホップ界に精通するゲスト審査員、ゲストパフォーマーなどの豪華さにも注目が集まっている番組なのだ。

今シーズンではゲスト審査員として、『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!』(2012)や『バンバン!』(2014)といったボリウッド映画のスコアで知られる兄弟作曲家デュオ、サリム=スレイマンのサリム・マーチャントや、ヒップホップデュオのSeedhe Maut(Calm、Encore ABJ)、多言語を操るアーティストのグル・ランダワなどが参加したが、一際注目を集めたのは女優のサマンタ。

サマンタは『ランガスタラム』(2018)や「ファミリー・マン」など、テレビや映画で幅広く活躍するトップ女優であるが、ゲストパフォーマーとして登場したシーズン2ファイナリストのグラビティによる「Jalaluddin」のパフォーマンスを見て、思わず涙を流すほどの「ハッスル」ファン。

サマンタだけに限らず様々な業界に多くのファンを抱えているのも、この「ハッスル」という番組なのだ。

そしてこの度、クリスマス・イブの12月24日にシーズン3のグランドフィナーレを迎え、優勝を勝ち取ったのは、最年少出場者のUDAYことウデイ・パンディ! 準優勝はベーシック、後に100RBHが続くこととなった。

以前「インドの女性ラッパーが急増中!MTVのラップバトル番組や映画業界がヒップホップシーンに与えた影響を考察」のなかでも注目のアーティストのひとりとして紹介した頃は、まだインディーズで、インド国内でも知名度がそれほどなかったムルナル・シャンカーがトップ6まで残るという健闘をみせたが、惜しくも上位3位には食い込むことができなかった。

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しかし、前シーズンのトップ10で敗退したスラシュティ・タワデが大活躍をみせているように、すでに「ハッスル」のファイナリストに残っただけで道は切り開かれたといっても過言ではないのだ。ムルナルがメジャーデビューを果たすのは、もはや時間の問題といえるだろう。

今後の活躍への期待も踏まえて、上位アーティストの紹介と、今シーズンの魅力や見所について改めて紹介していこう!!

■優勝:UDAY(ウデイ・パンディ)

シーズン3の出場者のなかで最年少。実は誕生日が結果発表の前日ということもあり、19歳になったばかりで最高の称号を手にしたウデイ。

16歳のころからラップを書くようになるが、自身のYouTubeチャンネル「UDAY」では有名アーティストのカバーを投稿しており、「Baatein Khudse」や「2023 INTRO」といったオリジナル楽曲も投稿しているが、音楽業界で目だった活躍はみせていなかかった。

そのため「ハッスル」への出場は、ウデイにとってインドのヒップホップ界に存在感を見せつける大きなきっかけであり、まだ幼さが残る印象がありながらも“ラップの天才”と評価された。

今後の期待や可能性を見出されての優勝だといえるだろう。

■準優勝:ベーシック

ベーシックことシュロック・ヴェルマは、パンジャブ語ラップに影響を受け、大学時代にラップに目覚める。基本スタイルとしてはパンジャブ語と英語のミックスであるが、ときにヒンンディー語やウルドゥー語のテイストを組み合わせることも。

「ハッスル」の審査員であるバードシャーやヨーヨー・ハニー・シン、ディヴァイン、ラフタールなどからも大きな影響を受けているが、同時にエミネムやケンドリック・ラマーといった海外のアーティストを通して、基礎やパフォーマンスを独学で学んだ。

ベーシックという名前は、彼はラップが音楽の本質と捉えていることから、ベーシック(基本的な)を意味している。

YouTubeやSNSを通してパフォーマンスを投稿し続け、「ハッスル」シーズン2の優勝者MCスクエアやパラドックスなどともコラボ、多くのステージに参加するなど、すでにインドのラップ愛好家の間では知られた存在であったが、「ハッスル」に出場したことで、その知名度は一般にも広がったといえる。

■トップ3:100RBH

西インドのマハラシュトラ州アマラヴァティ出身のマラーティー語ラッパー。映画『ガリーボーイ』のモデルとして知られるディヴァインのレーベル「ガリーギャング」と契約しており、マラーティー語ラッパーとしてすでに知名度がある。

またMC MawaliやMC TodFod、NAAR、グラフティアーティストのロブスターなどが参加するヒップホップグループ「The Swadesi Crew」のメンバーとしても知られている。

100RBHの音楽性は、イスラム教の宗教歌謡カッワーリーを取り入れたものや地方性を活かしたドメスティックなラップが特徴的であり、良い意味でクセの強いアーティストともいえる。

こういった地方では有名であっても、全体的な知名度が低いアーティストが輝けるのも「ハッスル」の良いところだ。

■トップ6:ムルナル・シャンカー

ムルナルは、もともとパブやバーなどで他のアーティストのカバーをしていたシンガーソングライターであった。2010年頃からシンガーとしては活動していたが、2019年にヒップホップに目覚め、ラップにのめり込むようになっていった。

2019年にリリースしたマラーティー語ソング「Na Jane Ka」の頃は、ラップパートはあるものの、まだ清純派といった印象があったムルナルだか、2020年以降はヒップホップ色の強い楽曲が多くなり、「Listen Up」や「Last Woman of Earth」のように、ポップソングの中にラップパートを入れ込むタイプと「Game of Fame」や「Kattey」のように直球ラップソングの両刀で独自の道を開拓した。

ムルナルは、KR$NAやKARMAなど多くのラッパーが所属する音楽レーベル「Kalamkaar」の中で唯一の女性ラッパーであるが、メディアが近年まで女性ラッパーという存在を取り上げたがらなかったのが、少しずつ変化してきているのを肌で感じていると語っている。

可能性が一気に広がったのと同時に、ムルナルの音楽性もベストタイミングで開拓されたのではないだろうか。またパフォーマンスからもわかる通り、ポップ色が強い曲が多いことからも、今後プレイバックシンガーや映画の主題歌への起用もあり得る才能の持主だと言える。

そしてムルナルのリスペクトするアーティストはインド国内アーティストではなく、ビヨンセ。それは彼女の楽曲のサウンドや女性の強さを全面に押し出した歌詞からもなんとなく伝わってくるはずだ。

■まだまだ広がり続けるインドのヒップホップ・ムーブメント

紹介した4人のほかにもトップ6に残ったビジャイ・ダダやケイデン・シャルマはもちろん、敗退していったアーティストたちも「ハッスル」を通して、大きなチャンスを得たことは間違いなく、今後の活躍が期待できる。

出場アーティストたちのプロフィールなどを見てわかることは、やはりYouTubeやSNSが才能を披露するプラットフォームとして欠かせない時代であること。

ケイデンのように貧しい家庭であっても、インターネットを通じ音楽を学び、自身も発信する環境があるというのは、デジタル化がいかにインドの音楽業界に革命をもたらしているかを改めて実感する。

今回「ハッスル」を通して、インド国内でも知られていなかった地方アーティストたちが一般的に知られるようになったわけだが、それはほんの一部に過ぎない。

数々のオーディション番組を通して、その才能が発掘され続けているが、それでも足りない。まだまだ有り余る才能を持ったアーティストが圧倒的母数で存在しているのだ。

例えば東インドのコルカタやバングラデシュのベンガル語圏内でも非常にヒップホップが盛り上がっており、KDivaやリアランといった若手女性ラッパーが活躍をみせている。シーズン4が開催された際には、そんなベンガル語圏内の若手ラッパーたちにも参加してもらいたい。

必ず大きな刺激となり、インド国内のヒップホップに対するイメージが更に変わり、世界的にも、より注目されることは間違いないだろう。

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  • Buffy 吉川

映画評論家・ヒンディー・ミュージック評論家のバフィー吉川がインドエンタメの”今”を紹介します。