『ガリーボーイ』のゾーヤー・アクタルが手掛けたアメコミ映画『アーチーズ』は、“インドらしくない”ミュージカル作品?


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Text:バフィー吉川
Netflixオリジナルのインド映画において今年最大の注目作品と言っても過言ではないほど、大々的にプロモーション活動を行ってきたビッグプロジェクトの『アーチーズ』がついに12月7日から日本でも配信開始!!
インドでも一部地域に限定されるものの、流通しているアーチー・コミックスの代表的人気シリーズ「アーチーズ」を原作に、設定を60年代のインドに置き換えただけではなく、インドでは逆に珍しいガッツリなミュージカル仕様となっている。
そんな今作を手掛けたのは、『鼓動を高鳴らせ』(2015)や『人生は二度とない』(2011)などといった作品で知られるだけではなく、インドにおけるヒップホップ文化を加熱させ、アカデミー賞のインド代表作品に選出された『ガリーボーイ』(2019)など、インドのなかで、しかも規制の多かった大衆作品のなかで表現の限界に挑んできたゾーヤー・アクタル。
『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』(2007)、『ハッピーニューイヤー』(2014)などを手掛けたコレオグラファー(振付師)のファラー・カーンや『マダム・イン・ニューヨーク』(2012)、『ディア・ライフ』(2016)のガウリ・シンデー、『マルガリータで乾杯を!』(2014)のショナリ・ボースなどと並び、2000年代後半以降のインド映画界で女性が活躍できる場を構築したひとりとしても知られているゾーヤー。
そんなゾーヤーがただ単にアメコミを映画化するだけというのは考え難い。ゾーヤーの作品らしいと思えるギミックが所々に隠されているに違いないだろう。
■「アーチーズ」とは何??
この度、インドで映画化された「アーチーズ」だが、もともとはアーチー・コミックスが出版する、今も続く長寿アメコミシリーズが原作となっている。
日本においても「アーチーでなくちゃ!」というタイトルで1971年~73年にかけてアニメが放送されていたことや、近年ではドラッグやセックスといったティーンが抱える問題を強く反映させ、そこに殺人やカルト宗教といったサスペンス要素を組み合わせ、最終的には悪魔や天使、特殊能力、タイムトラベル、マルチバースとぶっ飛び続けたドラマシリーズ「リバーデイル」としても知られている。また同じくアーチー・コミックスから出版され、世界観を共有する作品としては「ケイティ・キーン」や「サブリナ:ダーク・アドベンチャー」などの姉妹作品も制作された。
「リバーデイル」はミュージカルというジャンルではなく、それに特化したミュージカル・エピソードも定期的にあったものの、普段のエピソードからミュージカル要素が強く、キャラクターたちの歌唱シーンがやたらとあった。そのためシングルカットやアルバム化もされるほどクオリティの高い曲が多く、音楽を楽しむ側面も強い作品であったのだ。
おそらくゾーヤー・アクタルは、「アーチーズ」という作品自体に音楽は欠かせない要素であると理解していて、「リバーデイル」の誇張された意思を継いでなのか、今作はミュージカル映画となっている。
インドにおいて2010年後半以降は、配信サービスやシネコンの普及によって全世代をターゲットとした大衆向け作品が減り続け、上映時間も2時間前後になるものが多く、逆に最近のハリウッド映画の上映時間の方が長いくらい。比較的大衆向けの作品においてもミュージカルが削られるなど、がっつりとした“ミュージカル映画”といえるものが極端に少なくなった傾向にある。
ところが今作はがっつりなミュージカル映画。ところがインドのミュージカルテイストではなく、『グリース』(1978)や『フットルース』(1984)を意識したようなものとなっており、音楽もカントリーやロックと、いわゆるドメスティックな“インド映画らしさ”がないという印象を受ける。
ただし、ゾーヤー・アクタルが手掛けているということからも、単にアメリカやイギリスミュージカルを意識したシンプルなミュージカル映画とも考え難いからこそ、映像の裏にあるメッセージ性を探ってしまうのだが、実はそんな先入観をあざ笑うかのように、一周回ってシンプルなミュージカルなのかもしれない……。
■“キング・オブ・ボリウッド”シャー・ルク・カーンの娘が本格デビュー
『PATHAAN/パターン』や『JAWAN』と2023年だけでもインド国内で連続メガヒットをとばし、他国においても全米ボックスオフィスの公開初週トップ10に入り、12月21日に公開される新作『Dunki』も期待が高まるキング・オブ・ボリウッドことシャー・ルク・カーンだが、実は子どもたちにも注目が集まっている。
シャー・ルクがオーナーのクリケットチーム「コルカタ・ナイトライダーズ」のドラフト会議には、シャー・ルクの代理で子どもたちが出席するなど、すでにメディアへの露出が多いのだ。
長男のアーリアン・カーンはドラッグ・スキャンダルでネガティブな印象がついてしまったが、実業家としても知られ、独自のブランドも展開されている。近年はカラン・ジョーハル監督作『Rocky Aur Rani Kii Prem Kahaani』(2023)で助監督を務め、父のシャー・ルクに加え、ランヴィール・シンやランビール・カプールなどが出演予定のウェブシリーズ「Stardom」の監督を務める予定もあるなど、バックステージでの活躍が期待されている。
そして今作で長編映画デビューとなるのが長女のスハナ・カーンだ。インフルエンサーやモデルとしてすでに知られているスハナではあるが、女優としては2019年の短編『The Grey Part of Blue』に出演したのみということもあり、実質的に今作が女優デビュー作といえるだろう。
すでに企画中の主演新作では、シャー・ルクと親子共演するのではないかとも話題になっているなど、今後の活躍に期待したいところ。
スハナはヴェロニカを演じるのだが、もうひとりの女性主人公ベティを演じるのは、若くしてこの世を去ったシュリデヴィの娘であり、つまりジャンビィ・カプールの妹にあたるクシ・カプールだ。クシも今作が本格的な女優デビュー作となり、今後の活躍が期待できるビッグスターの誕生を日本のNetflixでも目撃できるということだ。
さらに言うならアーチー役は、ジャーナリストとして知られるシュウェータ・バッチャン・ナンダの息子、つまりインド映画界のレジェンド、アミターブ・バッチャンの孫にあたるアガスティヤ・ナンダ。
インド映画界のサラブレットたちが集められた豪華なキャスティングということにも改めて注目してもらいたい。
■テジャス、Dot.など若手アーティスト多数参加の楽曲たち
今作の楽曲には、インド映画音楽ではお馴染みのアリジット・シンなども参加し、作詞をゾーヤー・アクタルの父でもあり、古典から現代音楽まで幅広く手掛けるジャヴェド・アクタルが手掛けているのだが、それだけではなく、普段映画音楽には参加しないような若手アーティストの参加も話題となっている。
そのことから10~30代をターゲットとしており、インド国内というより世界を意識した作品ということがわかるはずだ。
今作の多くの楽曲に男性メインボーカルとして参加しているのは、テジャスだ。このテジャスというアーティスト、インド映画音楽への参加は今作が初めてとなるが、インドのポップ界では話題の若手アーティストのひとりでもある。
ロックやファンク、R&Bなど幅広いジャンルに挑戦しているテジャスだが、とくにビートルズの影響を大きく受けており、フルイングリッシュの楽曲を制作するうえでビートルズファンであったことが大きく彼を助けたとされている。
ちなみにコンピレーションアルバム「The Beatles And India」では、同じく若手女性アーティストのMaliと共に「アクロス・ザ・ユニバース」をカバーして話題にもなった。
そしてフレンチポップのようなおしゃれな楽曲の女性メインボーカルをDot.が担当するなど、インド国内でもグローバルアーティストを中心に構成されており、ドメスティックなイメージが付いてしまっているインド音楽のふり幅の広さを世界に見せつけるようなものとなっている。
ほかにも「A・R・ラフマーンによる、インドからグローバルアーティストを発掘・育成するプロジェクト「NEXA Music」はインド音楽の歴史を変えるのか?!」のなかでも紹介したシメトリ(リヤ&シムラン・デュガル)などの今後のインド音楽界を背負うであろうメジャー&インディーズの若手アーティストが多数参加する豪華極まりないものとなっている。
今作はNetflix映画であるが、一部劇場でも公開されており、しかも年末公開ということもあって、賞レースを意識した展開がされているとも考えられる。もしかしたら米、英国アカデミー賞へのノミネートも念頭においているのではないだろうか。




