『容疑者X』『愛しのモニカ』など東野圭吾作品がインドで映画化される事情とは? インドにおける日本映画認知度の変化


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Text:バフィー吉川
「インド各地で空前のホラー映画ブーム?!配信サービスの普及で大きく変化したホラーの概念とトレンド!!」でも紹介したように、インドではサスペンスやスリラーといったジャンルが見直されてきている。
その流れとして、日本のミステリー小説を映画化するという流れも出てきているのだ。
日本のNetflixでも9月21日から配信開始された『容疑者X』の原作は、日本のミステリー小説界トップに君臨する東野圭吾による「容疑者Xの献身」だ。
配信開始後、9月18~24日のノンイングリッシュ映画グローバルトップ10の1位にランクインするなど、世界的にも注目されている。
またNetflixでは、同じく東野圭吾原作の「ブルータスの心臓」をインドで映画化した『愛しのモニカ』(2022)も配信されている。
日本の作品や文化が注目され始めている背景には、日本のアニメブームがあり、それらがもたらしたインドエンタメへの影響が少なからずある。シャー・ルク・カーン主演映画『PATHAAN/パターン』(2023)のなかにも「金継ぎ」というワードが出てくるが、こういった日本文化への興味は、「NARUTO -ナルト-」などの影響も強いだろう。
しかし日本のミステリー小説を映画化する流れは、また違った位置にあるのではないだろうか……。
■今後急ピッチで進むかもしれない?! 日本映画のリメイク企画
まず『容疑者X』が2023年に映画化された理由として考えられるのは、リメイク、映画化権失効が近づいているということだ。
ナット・ウルフ主演で映画化された『Death Note/デスノート』(2017)も映画化権が失効するために急いで制作された作品だ。もともとワーナーが映画化権を取得し、劇場公開作品として制作される予定だったものが、結局のところ手配が間に合わず、Netflixに売却し、急遽Netflix配信映画となってしまった裏事情がある。
「容疑者Xの献身」がNetflix映画として制作されると公に発表されたのは2年ほど前のことだが、インドで映画化されると発表されたのは2013年のことで、もはや10年前のことだ。
監督は当初の予定通り『女神は二度微笑む』(2012)や『ドゥルガー〜女神の闘い〜』(2016)などで知られる、インド映画界のなかでもミステリー作品を得意とするスジョイ・ゴーシュが務めているが、2013年といえばNetflixはまだ配達DVDレンタル会社。よって当初からNetflix映画として制作されていたはずもなく、巡り巡ってNetflix映画となったことからも、『Death Note/デスノート』と似た経路を辿っての映画化とも考えられる。
スジョイ・ゴーシュは映画監督だけではなく、日本でも吉岡里帆主演で『見えない目撃者』(2019)としてリメイクされた韓国映画『ブラインド』(2011)のヒンディーリメイク『Blind』(2023)の製作や、トム・クルーズ主演のハリウッド映画『ナイト&デイ』(2010)のリメイク『バンバン!』(2014)の脚本にも関わっており、リメイク映画を得意としたクリエイターのひとり。今までいくつものリメイク作品を成功に導いてきたが、今作では自らメガホンをとり映画化したということだ。
とくにNetflixやAmazonは劇場公開が実現しなかった企画や作品に資金を出して、自社に作品として配信するラインが強いことからも、表に出ていないだけでインドが映画化権、リメイク権を取得した日本の作品がまだまだあるとすれば、今後多くの日本映画や小説がインドで映画化される可能性は高いだろう。
そして、ここからは次のフェーズとして、そういった日本の作品を原作としたインド映画が今作のように注目されたとなれば、権利の処理的な映画化ではなく、積極的に日本の作品を映画化しようという流れや、インドの劇場で日本の作品が公開されるかもしれない。配信サービスを通じて日本映画が観られる環境による後押しもあり、韓国やスペイン映画を2、3年のスパンでリメイクしているように、今後日本映画もそうなるかもしれない。
現に『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブー 冥き夕闇のスケルツォ』や『すずめの戸締り』、『THE FIRST SLAM DUNK』といったアニメ映画が小規模ではあるがインド国内で劇場公開されていて、アニメ産業は急激なスピードで日本の影響を受け始めていることからも、そうと決まればそれほど時間がかからないのがインドという国だ。
■日本版よりも原作寄り? 『容疑者X』の魅力
「容疑者Xの献身」といえば、日本ではフジテレビ系のテレビドラマで福山雅治主演作「ガリレオ」シリーズの劇場版第1弾として制作された『容疑者Xの献身』(2008)が有名だ。
ドラマ版「ガリレオ」はコミカルな要素を含んでいるが、劇場版はコミカルな要素を極力抑え、あくまで東野圭吾のミステリー作品としての質を重視したものとなっている。
それは劇場版第2弾の『真夏の方程式』(2013)や第3弾の『沈黙のパレード』(2022)なども同様で、ドラマ版とは差別化をしている。
ところがビジュアルの面では映画的なテコ入れがされている。『容疑者Xの献身』の場合は堤真一が演じており、細かい設定をかなり省略。「容疑者Xの献身」は中国と韓国でも映画化されているが、どちらも日本版のビジュアルイメージを引き継いだものとなっている。
それらをふまえて今回の『容疑者X』を観てみるとどうかというと、石神にあたるナルーというキャラクターは、髪が薄く、実年齢より老けていて、柔術の使い手であるなど、日本版では省かれていた原作要素が入っており、その点からも、映画版『容疑者Xの献身』のリメイクではなく、原作を映画化しようとしていたことが改めてわかる。
そしてナルーを演じている俳優もなかなか渋いチョイスだ。ZEE5のドラマシリーズ「Bloody Brothers」や『An Action Hero』(2022)、『血の抗争 Part1』(2012)など、ハードボイルドな役が多いジャイディープ・アフラワットがかつらを付けて、激しい演技を封印し、内なる狂気を隠し持ちながらも計算深いという、なかなか難しい役を見事に演じきっている。
ジャイディープは、もともと演技派ではあるものの、新たな一面を見られたともいえるだろう。
ストーリー自体の大まかな流れは同じだが、ガリレオ的立ち位置のキャラクターのカランを、『ダーリンズ』(2022)や『慕情のアンソロジー2』(2023)など、最近Netflixに気に入られているような感じがするヴィジェイ・ヴァルマが演じている。ガリレオだけでなく、草薙と工藤を混ぜ合わせた要素を持ったキャラクターになっていて、ひとりのキャラクターに強引に詰め込み過ぎた感じはするものの、その分ナルーの視点が際立っていて、主人公がカランではなく、ナルーであることが強調されているようにも感じられた。
ナルーの自己犠牲によってマヤと娘が罪悪感を抱くという、原作や日本映画版において、人間の損得だけでは測り切れない“情”というものを持った不器用な生き物であることを一番良く描き出している部分が、かなり薄口に処理されている。
そのため感情が入り乱れる人間ドラマというよりは、自己満足な一方通行のような消化不良的余韻を残してしまうのは残念でならないのも確かではあるが、マヤのナルーに対する煮え切らない態度が良いスパイスとなっていて、日本含むアジアでの映画版のなかで一番静かな余韻を残すものだと感じるし、マヤを演じたカリーナ・カプールの演技も大きく機能しているといえるだろう。
ちなみにカラオケバーで歌った曲(歌はネハ・カッカーの吹替え)は今作のタイトルソングとされているのだが、オリジナルで作中に一部映像も使用されている1969年のヒンディー語映画『Intaqam』のなかのリタ・マンゲシュカルによる楽曲「Aa Jane Jaan」。劇中で「誰でも知ってる曲」と言っていた通り、インドでは大ヒットソングとして知られている名曲だ。
そして忘れてはならないのが、マヤの娘のタラを演じているナイシャ・カンナの存在だ。今作では、やや控えめな演技となっているが、『あの時にもう一度』(2016)ではカトリーナ・カイフの幼少期、『Hichki』(2018)ではラーニー・ムケルジーの幼少期、『女神は二度微笑む』ではヴィディヤ・バランの幼少期を演じたスーパー子役。
今後注目の若手女優となっていくことは間違いないだろう!!
またNetflixでは今作の他にも、RAW(インド調査分析局)のスパイ活動をセンシティブな視点から描いた『諜報』や、ある殺人事件を巡って二人の刑事が自分自信の問題とも直面していく「霧」といった、インドのサスペンス映画やドラマが多く配信されている。
この機会に他のインドサスペンスを観てみるのはいかがだろうか。



