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『ランガスタラム』『K.G.F:Chapter 1&2』ドメスティックな印象を打ち破る、南インド映画・音楽の新たな潮流

2023/07/22 20:00
Buffy Yoshikawa
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“インドらしさ”という既存の印象をアップデートする、日本でも公開中の南インド映画2作品を深掘り。

Text:バフィー吉川

7月14日から『ランガスタム』と『K.G.F:Chapter 1&2』の計3本のインド映画が日本の劇場でも公開されている。この3本の作品、実は全て南インド映画。

2022年のインドにおいて年間興収の1位に君臨したのは、北のボリウッドではなく、南の『K.G.F:Chapter 2』であった。しかも同作の場合は、サンダルウッドとも呼ばれているカンナダ語映画だ。

コロナ禍の影響で大作映画の延期が続いたことやヒンドゥー至上主義によるボイコット運動なども重なり、北よりも南インドの勢いが勝っているという報道が多くされた。

もちろん例外はあるものの、南インドは神話や伝統文化などを描いたドメスティックな作品が比較的多く、第95回アカデミー賞のショートリストに選出された『カンタラ』や『Ponniyin Selvan』もそういった系統で、いわゆる他国から見た「インドらしさ」に溢れた作品が多い。

そのことからも、欧米化が進む北インドのボリウッドよりも日本では人気になりつつある。だからこそインド国内でも南インドの方が人気かというと、それは他国の視点からの見解に過ぎないのではないだろうか。またそれは、南インド内でも地域によって温度差が違うようにも感じられる。

あくまで娯楽作の興行的な視点から見ればそうなのかもしれないが、エンタメ業界全体で見た場合、そうとも限らない。特にドラマや音楽は、まだまだ北が圧倒的に先に行っていて、それを南が追いかけているのが現状である。

例えば『K.G.F:Chapter 2』でいうと、確かに描いていることは、インド特有のものではあるのだが、演出や音楽の使い方は欧米を意識していることがわかるし、『RRR』であっても、ハリウッドやヨーロッパ映画へのオマージュが多数含まれていた。タミル語の映画も現代を舞台にした多くのアクション映画では、ハリウッドの影響が大きく出ている。

ドメスティックなものを題材とした作品は確かに幅広い年齢からウケが良いというのはあるが、『K.G.F:Chapter 2』の場合は作中曲にヒップホップを起用するなど、比較的若者向けの作品に思える。つまりヒットの要因としては、ドメスティックな部分が強い南の作品だから自国民に愛されるという単純な理由というわけでもないということだ。

現在のインド映画市場を動かすユーザー層というのが、20~40代と比較的若い層にシフトしつつある。その世代は配信サービスの普及で、あらゆる国の映画を観られる環境になっている。つまり映画に対しての認識が変わり、目が肥えてきていることから、実はドメスティックな部分に向かうというよりも、より若い世代にウケの良い、海外エンタメ要素が高くてグローバルな作品化に向かっている気がしてならない。

固定概念というのは、どうしても視野を狭くしてしまう。この度、公開される作品を例に、特に今回は“音楽”に着目し、同じ南インド映画であっても曲の使い方やトレンドが異なっており、一概に“南インド映画・音楽”とひとくくりに言い切れないことを知ってもらったうえで、もっと深堀すると、新たなものが見えてくるかもしれない!

■重圧なサウンド! カンナダ・ロックが響き渡る!! 『K.G.F:Chapter 1&2』

【ストーリー】

CHAPTER 1
1951年、スーリヤワルダンはコーラーラ近郊で金鉱(KGF)を発見し、採金ビジネスに乗り出す。全てを一族で管理して巨万の富を築くいっぽうで、労働者は外部から遮断された環境で奴隷のように働かされ、苦しい生活を強いられていた。同じ年にスラム街でひとりの少年が生まれる。少年は唯一の身内であった母を10歳のときに亡くし、生き残るためにマフィアの下で働き始める。ロッキーと名乗った少年は、マフィアの世界でのし上がっていく。やがて最強のマフィアとして恐れられるようになったロッキーは、ボスからKGFの実質的な支配者であるスーリヤワルダンの息子を暗殺するよう指令を受けるのだが…。

CHAPTER 2
KGFを支配下に置いたロッキーは、新たな金鉱を発見し事業を拡大していく。しかし敵対勢力も黙ってはいなかった。スーリヤワルダンの弟で、死んだと思われていたアディーラが現れ、KGF奪還を目指し勢力を束ねていく。そしてロッキーの唯一の弱点である恋人リナをさらい人質とする。リナ救出に向かったロッキーは、アディーラに撃たれ瀕死の重傷を負う。そしてアディーラは金輸出を妨害してKGFを孤立させ、ロッキーの同盟者をせん滅していく。最大の敵に窮地に追い込まれたロッキー…果たして彼はKGFを守り、生き残ることができるのか!?

【作品情報】
監督・脚本:プラシャーント・ニール
出演:ヤシュ、シュリーニディ・シェッティ、ラヴィーナー・タンダン、タマンナー、アナント・ナーグ(CHAPTER 1)、サンジャイ・ダット(CHAPTER 2)ほか
撮影:ブヴァン・ゴウダ
音楽:ラヴィ・バスルール
『K.G.F: CHAPTER 1』2018年/154分/G
『K.G.F: CHAPTER 2』2022年/166分/G
インド/カンナダ語/シネスコ/5.1ch/字幕翻訳:藤井美佳
字幕監修:池亀彩/配給:ツイン

「K.G.F」シリーズは、音楽が非常に重要な作品だ。というのも作品の構造がかなり特殊で、それは監督のプラシャーント・ニールの作家性ともいえるのだが、全編が予告編のようになっている。

カット割りや音楽の使い方も予告編を作るように制作されていることもあり、まるで6時間の予告編を観ているような感覚になるのだが、インド映画に限らず、予告編を彩る音楽の重要度というのは高いのではないだろうか。

今作が予告編のような映画であるからこそ、音楽のもつ重要性が他の映画と比べてもかなり高く感じられるのは大前提として、様々なジャンルの曲を共存させているのも注目すべき点だ。

音楽監督を務めるのは、プラシャーントの長編監督デビュー作『Ugramm』(2014)からタッグを組むラヴィ・バスルール。重圧なカンナダ・ロックが響き渡る中で、サントシュ・ヴェンキーやサチン・バスラー、そして神秘的な歌声のアナンヤ・バットといったカンナダ映画音楽には欠かせないシンガーたちが曲に命を吹き込んでいる。

どの曲も魅力的なものばかりで、テーマソングともいえる「Dheera Dheera」も作中で何度も効果的に使用されているのだが、中でも注目してもらいたいのは、『K.G.F:Chapter 2』のエンディング曲「The Monster Song」だ。

この曲を歌っているアディティ・サーガルは、俳優のアルン・サーガルの娘としても知られるアーティストだが、今回は得意なラップを披露している。

また近年は女優としても活躍しており、『ヴェーダ』(2022)では、母親の仇をうつために復讐と鬼と化した少女の役を演じ、かなり体を張った演技を見せてくれた。

またプラシャーントは、1970年代のヒンディー語映画へのリスペクトも強い。最近「ジー・カルダ ~絡み合う7人の友情~」や『慕情のアンソロジー2』で体を張った演技をしているタマンナーがアイテムガールとして登場する楽曲「Jokae」(歌はアイラー・ウドゥピ)は、70年代のエキゾチックなプレイバックシンガー、おそらくアシャ・ボスレやラタ・マンゲシュカルあたりを意識したものとなっており、そこに現代的なサウンドも組み合わせていている。

60~70年代のヒンディー語映画音楽を現代ポップスやヒップホップなどとフュージョンさせるスタイルは非常に相性が良く、インド音楽業界ではひとつのトレンドでもある。

ボリウッドのレジェンド、アミターブ・バッチャンの大ファンだと言うカナダのアーティストのRaghavが、『Yaadon Ki Baaraat』(1973)の作中曲でアシャ・ボスレが歌う「chura liya hai tumne jo dil ko」をサンプリングした「デスペラード」を発表し、若者を中心に、アシャの曲にあわせて踊る動画が世界中でバズっているほど。

一方でヒンディー語吹替え版では、タマンナーのシーンは存在せず、代わりにモウニ・ロイの「Gali Gali」(歌はネハ・カッカー)に差し替えられている。

■“ロックスター”デーヴィ・シュリー・プラサードの音楽が物語の明と暗を演出する『ランガスタラム』

【ストーリー】
1980年代半ばのアーンドラ・プラデーシュ州中部、ゴーダーヴァリ川沿岸の田園地帯、ランガスタラム村。チッティ・バーブ(ラーム・チャラン)は、モーターを使って田畑に水を送り込むことを生業にする労働者。難聴で、他人の声がよく聞き取れない障碍を持っているが、さほど気にせずに毎日を楽しく暮らしている。彼は近所に住むラーマラクシュミ(サマンタ)に惚れて、調子はずれな求愛をする。一方、村は「プレジデント」を自称する金貸し兼地主のブーパティ(ジャガパティ・バーブ)によって牛耳られている。チッティ・バーブの兄で中東ドバイで働いているクマール・バーブ(アーディ・ピニシェッティ)は、プレジデントが好き放題にする故郷の村の有様を帰省した際に見て心を痛め、州会議員ダクシナ・ムールティ(プラカーシュ・ラージ)の力添えで、村長選挙に立候補して政治家として村の生活を改善していこうと思い立つ。

【作品情報】
監督・脚本:スクマール
出演:ラーム・チャラン、サマンタ、ジャガパティ・バーブ、アーディ・ピニシェッティ、プージャー・ヘーグデーほか
原題:Rangasthalam
2018年/インド/テルグ語/シネスコ/5.1ch/174分
映倫申請中(インドでの区分はPG12相当)
字幕:加藤 豊
配給:SPACEBOX
ⓒMythri Movie Makers

『ランガスタラム』は、ラーム・チャランの役者人生の中で転換点になる重要な作品と言われており、確かにラーム・チャランの様々な表情を観ることができて、ファンにはおすすめの作品だ。

今作の舞台は80年代の田舎ということもあって、ドメスティックな曲が当然ながら多いのだが、今作の音楽を担当しているのは、テルグ映画音楽界ではお馴染みのデーヴィ・シュリー・プラサードことDSPである。

デーヴィは作詞・作曲家以外にも振付師としても活動している。「ロックスター」という呼び名もあって、マイケル・ジャクソンをリスペクトするアーティストのひとりでもある。

ロックからラブソング、テクノポップまで近代的な音楽も得意ではあるが、一方で今作や、同じスクマール監督が手掛けた『Pushpa: The Rise – Part 1』(2021)の曲のような地域性のよく出たドメスティックな曲ももちろん得意であり、幅広いジャンルを操る天才。

その活躍は南だけに留まらず、ヒンディー語映画『サーカス』の「Sun Zara」なども手掛けているほか、インドから飛び出しアメリカでライブも行うなど、世界からも注目され始めている。

『ランガスタラム』の曲の中では、デーヴィのベスト盤にも収録されているラーマラクシュミ(サマンタ)のチッティ(ラーム・チャラン)に対する気持ちを描いた「Rangamma Mangamma」はコミカルな曲として印象深い。

ヴィジャイ、ラシュミタ・マンダナ主演映画『Varisu』(2023)の「Rajithame」が南インドを中心にダンスナンバーとして人気を博した、ヒンドゥスターニー(北インド古典音楽)のアーティスト、M.M.マーナシーが歌うことで、より一層印象深い曲になったのだが、タイトルトラックにもなっている「Ranga Ranga Rangasthalaana」も忘れてはならない。

歌っているのは『RRR』の「ナートゥ・ナートゥ」のリードボーカルを務めたことで世界中にその歌声が知られるようになったアーティスト、ラーフル・シップルガンジだ。

ラーフルが一般的に知られるようになったのは、タレント発掘リアリティ番組「ビッグ・ボス・テルグ」シーズン3で優勝したことがきっかけではあるが、もともと映画のプレイバックシンガーやYouTubeの動画投稿でも注目を集めていた。

ラーフルのスタイルは、独学で学んだインドの準古典音楽、ハイデラバード民謡をベースとしていながら、ヒップホップの要素も取り入れるなど、古と新が共存するアーティストであることから、南北関係なくインドの中で人気がある。それでいて映画音楽ではない「Daawath」や「Baby」といった曲はポップ色も強いことから、北インドにおいても人気を博している。

■ステレオタイプを打ち砕くおすすめの南インド映画音楽

〇テルグ語映画『Saakini Daakini』より「Kadile Kadile」

「NEXA Music」シーズン2の楽曲やドラマ「フォー・モア・ショット・プリーズ!」の作曲家として知られるマイキー・マクレアリーが手掛けたテルグ語映画の作中曲。

ラップも得意な若手アーティストのラムヤ・キルタナの歌声に「インディアン・アイドル」、「インディアン・アイドル・テルグ」へ出場したことでも話題になったシリーシャ、ソウジャンヤ・バァガヴァトゥーラ姉妹の歌声がシンクロしたものとなっている。

〇タミル語映画『マッスル 踊る稲妻』より「Ladio」

インド映画音楽の巨匠ラフマーンが手掛けたタミル映画『マッスル 踊る稲妻』(2015)のオープニングテーマ。

プレイバックシンガーとしても独立アーティストとしても知られるニキタ・ガンディがデビュー間もないころにソロに抜擢された曲としても知られている。

ヒンディー語版、テルグ語版の吹替えバージョンも制作され、どちらもニキタが自ら歌っている。

〇タミル語映画『Jailer』より「Kaavaalaa」

『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995)でお馴染みのタミル映画界のスーパースター、ラジニカーントの8月に公開される新作『Jailer』からタマンナーが出演するシーンに使用されているのが「Kaavaalaa」だ。

シャキーラをイメージしたようなビジュアルのタマンナーが印象的ではあるが、歌っているのは、『バンバン!』の「Meherbaan」や『パターン』の「Besharam Rang」など、シッダールト・アーナンド作品でもお馴染みのシルパ・ラオと主にタミル語映画で活躍し、シャー・ルク・カーンの新作映画『Jawan』にも参加するアニルーダ・ラヴィチャンダル。

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