ヒンドゥー神話×アメコミヒーローの化学変化! インド映画『ブラフマーストラ』の知っておきたい5つの注目ポイント


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Text:バフィー吉川
『RRR』が日本で公開されたインド映画史上1位の成績を更新し続けており、日本でもインド映画ブーム到来などとメディアで取り上げられている中ではあるが、実際のところ『RRR』が公開されてから半年経って、日本公開されたインド映画は「インディアンムービーウィーク」や「インド大映画祭」、あるいは埼玉のSKIPシティや一部のイオンシネマなどで行われる英語字幕上映などのイベント上映などを除く一般劇場公開となると、『バンバン!』『エンドロールのつづき』『マスター/先生が来る!』と、半年でわずか3本程度しかなく、残念ながらまだインド映画ブームと言えるには程遠い輸入率である。
そんな中で5月12日から公開されるのが『ブラフマーストラ』だ。今作が日本でもヒットすることが、今後の日本におけるインド映画輸入率が向上するかどうかを握っていると言っても過言ではないだけに、何としてもヒットしてもらわないと困る。
『RRR』ほどプロモーションが行われておらず、なかなか情報も少ない作品ではあるが、実は、『ブラフマーストラ』は2022年に公開されたヒンディー語映画の中で1番高い成績をあげた作品であるということを知ってもらいたい。その証拠にアメリカでも約810館の小規模上映ながら、インド映画として初めて初登場2位を記録している(競合の少ない週だったということもあるが)。
また作中曲の「ケサリヤ」は、インドで新しいラブソングとして定着しつつあり、YouTubeでは3~4か月で4億回以上の再生回数を記録した。これは『RRR』の「ナートゥ・ナートゥ」の2倍近い再生回数であり、音楽的にも評価されていると言っていいだろう。
そんな『ブラフマーストラ』の注目点を5つの視点から紹介しよう!
■アストラバースの幕開け!!

『ブラフマーストラ』の原題は「Brahmastra Part One: Shiva」、実は3部作構成となっている。本作の監督アヤーン・ムカルジーはマーベルの「MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)」やDCの「DCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)」のように世界観を共有するシリーズとして、「アストラバース」と名付けた。今のところ第2作目「Brahmastra Part Two: Deve」が2026年12月、3作目「Brahmastra Part Three」が2027年12月の公開予定となっている。
またアヤーン・ムカルジーは2019年インド映画全世界興行収入1位を記録した『WAR ウォー!!』 の続編となる2025年公開予定の『ウォー2』の監督にも決定しているが、こちらもシャー・ルク・カーン主演超大作アクション映画『Pathaan』や、同じくサルマン・カーン主演のスパイアクションシリーズ最新作『タイガー3』と繋がる「スパイ・ユニバース」作品ということもあって、ふたつのユニバース作品を手掛けることになる。
インドでは配信サービスの普及などもあって、近年アメコミ映画が人気を博しており、2022年には自国の映画を差し置いて『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』や『ソー:ラブ&サンダー』がボックスオフィスの1位になっているほど。
タープシー・パンヌ主演のタイムパラドックスを扱ったスペイン映画『嵐の中で』(2018)のヒンディー・リメイク『Dobaaraa』(2022)では、マルチバースについて説明する際に、ドクター・ストレンジを例として持ち出しているほど、アメコミヒーローが一般化してきている。
ただアメコミ自体は、マーベルやDCといった一部のメジャータイルトのみであるがインドでも販売されており、もともと知名度は高い。その証拠に2004年には「スパイダーマン・インディア」という作品がインドで出版され、のちに逆輸入された。ちなみに6月に公開される『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』にもスパイダーマン・インディアが登場し、それに合わせてアメリカでも19年ぶりに単独新作が出版される。
しかしアヤーンの場合は、昨今のアメコミ映画ブーム以前から今作を企画していたように感じられる。もともと2014 年に制作が発表され、2016年のクリスマス映画となる予定だったのが延期を繰り返し、企画から8年の時を経て完成したといわれているが、実はもっと前からではないだろうか……。
何故そう思うかというと、アヤーンの初監督作品『Wake Up Sid』(2009)にその答えが隠されている。
主人公シドの部屋にはアメコミが大量に置かれており、壁にはクリストファー・ノーランの『ダークナイト』(2008)、パソコンの壁紙は「ジャスティス・リーグ」、着ているTシャツは「ザ・フラッシュ」や「スーパーマン」「バットマン」「ジョーカー」「スクービー・ドゥー」「怪力アント」「インクレディブル・ハルク」と、サブカルオタク青年という設定。中でもDCコミックス作品の割合が非常に多いことから、完全にアヤーン自身の趣味が反映されているように感じられる。
つまり監督になった当時からヒーロー映画をいつかは撮りたいと思っていたのではないだろうか、という結論にたどり着く。
それをふまえた上で改めて『ブラフマーストラ』を観ると、ブラフマンシュ(能力者)たちの使うアストラ(能力)のエフェクトが『グリーン・ランタン』に酷似していると感じるはずだ。
『Wake Up Sid』を観るまでは「X-MEN」や「ファンタスティック・フォー」などのマーベル系を意識しているものと感じ、またクライマックスでブラフマーストラを奪い合う様が『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)を意識しているかとも感じていた。実際に意識しているのかもしれないが、アヤーンが圧倒的に意識していたのはマーベルよりもDCコミックス作品に違いないだろう。
■アメコミヒーローとヒンドゥー神話の融合

『ブラフマーストラ』は、アメコミヒーローとヒンドゥー神話を掛け合わせたストーリーだ。
インドは多宗教国家であり、ヒンドゥー、イスラム、シーク、ジャイナ、キリスト、仏教など多くの宗教が混在しているものの、国民の8割はヒンドゥー教徒であるといわれている。
そのため『RRR』も叙事詩の「マハーバーラタ」と「ラーマーヤナ」が下敷きとされているように、時代劇、現代劇、ファンタジー、ホラーなど様々な作品で感覚的にも直接的にも、なんらかの形でヒンドゥー神話を取り入れたものが多かったりもする。
ヒンドゥー神話というと、宗教的なものを想像して、宗教色を全面に出した日本の某宗教映画的なものを想像するかもしれないが、ヒンドゥー神話はもともと宇宙規模の破壊や再生などファンタジーとマッチしやすく、日本のゲーム「ファイナル・ファンタジー」や「女神転生」シリーズなどでもヒンドゥー神話の神々をアレンジしたキャラクターが登場する。
例えば『マイティ・ソー』は北欧神話、『聖闘士星矢』はギリシャ神話をモチーフとしているが宗教的なものはそれほど感じないと同じだ。
今作もヒンドゥー神話が背景にあるとはいえ、あくまでファンタジーとしてコーティングされているし、下敷きになっているというだけでほとんどオリジナル設定であることから、全く知らなくとも問題ない。簡単に言えば正義と悪の超能力バトルである。
先日続編製作が正式に発表されたリティク・ローシャンの『クリッシュ 4』や年内に公開予定のインドを代表するスーパーヒーロー『シャクティマーン』の完全新作、他にも『Hanu Man』、『Adipurush』など、ヒーロー映画ブームの流れを受けて、今後も多くの「ヒンドゥー神話×ヒーロー」の方程式はますます過熱していくだろう。
■プリータムが手掛けた「ケサリヤ」が新たなラブソングの定番に
冒頭に紹介した作中歌「ケサリヤ」をはじめとする『ブラフマーストラ』の曲を手掛けた音楽監督のプリータムは、インドでは知らない人がいないほどの名作曲家兼プロデューサーだ。
ポップ、ロック、テクノ、ラテン、ヒップホップなどをインドの言語やインドの古典民謡、バングラ(インドとパキスタンにまたがるパンジャーブ州の民謡)などとミックスした独特な楽曲で、数々の音楽賞において常連である。
インド映画音楽において、A・R・ラフマーン、マイキー・マクレアリー、アミット・トリヴェディ、バードシャーなどに並んで、2000年代後半以降の映画音楽シーンに、いわゆる“洋楽感”をもたらした立役者のひとりでもある。
アヤーン・ムカルジーの前作『若さは向こう見ず』(2013)でもプリータムが音楽監督を務めたことで「Badtameez Dil」や「Dilliwaali Girlfriend」といった名曲が誕生した。
アヤーンの作品以外でも『心~君がくれた歌~』や『Jagga Jasoos』、最新作『Tu Jhoothi Main Makkaar』など、何かとランビール・カプール主演作とは相性が良いようで、貴公子とも呼ばれるランビールによるダンスのスタイリッシュさが映えるような曲に毎回仕上げてきている。
また「ケサリヤ」を歌っているのは、こちらもインドでは知らない人がいないほど映画音楽ではお馴染み。ヒンディー語のみならず、ベンガル語やタミル語などの曲も歌いこなすプレイバックシンガーのアリジット・シンだ。
しかしインドの音楽事情はなかなか特殊で、特に海外においては曲が知られていても作曲家や歌手がそこにリンクしてこないという事態がずっと発生している。『RRR』の「ナートゥ・ナートゥ」もアカデミー賞の歌曲賞を受賞したとしても、どれだけの人が歌手の名前を認知しているだろうか。
■ランビールとアーリヤーは実生活でもカップル
▲交際中に出演したスナックのCMソングMV「Smile Deke Dekho」
『ブラフマーストラ』は冒頭からいきなりランビール演じる主人公のシヴァとアーリヤー演じるイーシャの運命的な出会いが描かれ、とんとん拍子にふたりは恋に落ちていく。
尺の都合もあってか、かなりの急ぎ足にも感じるが、『Wake Up Sid』『若さは向こう見ず』と恋愛映画を手掛けてきたアヤーンが人物描写を薄くならないような絶妙なバランスで描いているのに加えて、作中歌「ケサリヤ」がふたりの心情の変化に寄り添う補助的機能を果たしている。
作中のセリフにもあるように、イーシャはシヴァ神の妻パールヴァティーの名前が由来とされており、シヴァにはイーシャがいないと不完全。つまりふたりが運命的に出会うのは必然であり、その結果として愛の炎が世界を救う。何物にも勝るのは「愛の力」という、改めて考えると、とてつもない臭い話になっているのだが、それを実際の夫婦(撮影時は恋人同士)が演じているのだから、少し照れくさくなる部分もある一方で妙な説得力も感じさせる。
ちなみにアーリヤーとランビールは今作が初共演という記載もあるが、細かいことをいうと、ランビールの主演映画『心~君がくれた歌~』(2016)の中でアーリヤーがDJとしてカメオ出演しているクラブのシーンで一度だけ共演している。
またランビールは過去にもディーピカー・パードゥコーンやカトリーナ・カイフといった共演者と交際関係にあったことは知られているが、今作の中でディーピカーがある役でカメオ出演しているほか、面倒を見ている孤児の誕生パーティでランビールとアーリヤーが踊ったのは、『火の道』(2012)でカトリーナ・カイフのダンスシーンに使用されている「Chikni Chameli」と、過去の交際相手も偶然なのか狙ったのか、何かしら関わっている。
■キャストへのこだわりと隠された裏設定

アヤーン・ムカルジーは長編監督デビュー作『Wake Up Sid』から、一貫してランビール・カプールを起用している。長編2作目となる『若さは向こう見ず』でも主役にはランビールを起用。さらに映画以外でもアヤーンが手掛けた「ペプシ」や「日産」のCMにもランビールを起用する徹底ぶりだ。
また今作には「キング・オブ・ボリウッド」ことシャー・ルク・カーンがカメオ出演しているが、アヤーンとシャー・ルクにもある繋がりがある。それはアヤーンがはじめて脚本に参加したのが、シャー・ルク主演の『Swades: We, the People』(2004)だったからだ。『ブラフマーストラ』の中でシャー・ルクはモハン・ガルバブというキャラクターを演じているが、実は『Swades: We, the People』の役名と設定が全く同じになっている。
さらに南インド映画の大御所アッキネーニ・ナーガールジュナが、今作で16年ぶりのヒンディー語映画出演となっているのも注目すべき点だ。
王道ヒーロー映画の要素もありながら、ところどころマニアにしか分からないネタをイースターエッグのように仕込んでいるのも「ユニバース映画」っぽいのではないだろうか。
今後展開される「アストラバース」に乗り遅れないように、今観ておくことをおすすめしたい!!
特別番組「バフィー吉川のI-POP IMPACT!」では音楽監督プリータムの構築する音楽をさらに深堀り!

『ブラフマーストラ』で音楽監督を務めたプリータムの手掛けた音楽について、さらに深堀りする特番「バフィー吉川のI-POP IMPACT!」をblock. fmで映画公開日の5月12日(金)19:00-20:00に放送。この記事では紹介しきれなかったインドの音楽シーンについてプリータムの音楽からたっぷり解説する。お聴き逃しなく!
■バフィー吉川のI-POP IMPACT!
ステレオタイプがぶっ飛ぶ60分!!
映画評論家・ヒンディー・ミュージック評論家のバフィー吉川がインドエンタメの”今”を紹介します。
番組ページ:https://block.fm/radio/ipopimpact
■作品情報

【ストーリー】
ムンバイに暮らす天涯孤独の青年シヴァは、ダシェラ祭で出会った女性イーシャと恋に落ちる。それと時を同じくして、見知らぬ科学者が何者かに襲われ、 ある物体を奪い去られるという不思議な幻視を見たシヴァは、科学者がその名を口にしていた芸術家のアニッシュ・シェティを探すことに。バラナシでアニッシュに出会うことができたシヴァとイーシャだったが、そこには幻視の中で科学者を襲ったジュヌーンらの姿があった。アニッシュが食い止めることで辛くも逃げ切ったシヴァたちは、すべてを知るというグルの寺院へと向かう。そこで追っ手が手に入れようとしているのは、神々から授かった武器“アストラ”と、その中でも最強の武器とされる“ブラフマーストラ”であることを知らさ れる。ブラフマーストラが目覚めることで世界は滅びてしまう…。しかもシヴァはそれらの武器を守護する役割を担う秘密組織“ブラフマンシュ”に属していた人物の息子であり、偉大なる火の力“アグネヤストラ”を宿していると告げられる。果たして、シヴァは自らの運命を受け入れ、世界を救うことができるのか……。
【クレジット】
監督・脚本:アヤーン・ムカルジー
出演:ランビール・カプール『SANJU/サンジュ』、アーリヤー・バット『RRR』、アミターブ・バッチャン、シャー・ルク・カーン、モウニー・ロイ、ナーガールジュナ・アッキネーニほか
2022 年/インド/ヒンディー語/167 分/シネスコ/5.1ch
原題:Brahmastra Part One:Shiva
字幕翻訳:浅井華林
提供:ツイン、Hulu
配給:ツイン
© Star India Private Limited.




