Floating Points『Cascade』は完全無欠の四つ打ちダンス・ミュージック。ミュージック・マエストロによる原点回帰的な一枚


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Text:竹島ルイ
2024年のフジロックで、RED MARQUEEに駆けつけたオーディエンスを熱狂の渦に包んだミュージック・マエストロ、Floating Points(フローティング・ポインツ)。近年は宇多田ヒカルのアルバム『BADモード』に参加し、「Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー」をはじめ全3曲を共同プロデュースするなど、日本でも知名度の高い存在になってきた。
小数点の位置が浮動する数学用語「浮動小数点」=フローティング・ポインツを名乗るサム・シェパードは、宇宙を自由自在に泳ぐように、アンビエント・ジャズ、ドローン、R&Bなどあらゆる音楽ジャンルをクロスオーヴァーさせながら、確固たる地位を築き上げていった。
サム・シェパードの詳細なプロフィールについては、すでにJun Fukunaga氏による「宇多田ヒカル『BADモード』の共同プロデューサー、Floating Pointsとはどんな人物なのか? その正体に迫る」というコラムがあるので、詳しくはこちらを参照して欲しい。
そして9月13日、全世界待望の最新アルバム『Cascade』がリリース。筆者は、このアルバムにどっぷりとハマっている。完全に無限ヘビロテ状態。最高 of 最高 of 最高 of 最高。脳からボキャブラリーが抜け落ちてしまうくらいに、このアルバムはプリミティブな魅力に満ちている。
そんな作品を、生で体感するチャンスが到来した。2025年2月には、東京のEX THEATER、大阪のGorilla Hallで来日ライヴも決定(筆者も駆けつけます!!!)。おそらく、煌めくレーザービームと地鳴りのようなサウンドが会場を包み込むことだろう。
期待しかない来日公演に向けて、本稿ではこのアルバムが持つ独自の魅力を振り返り、なぜこの作品を生で体感するべきなのかを解説していこう。
ラップトップのみで創り上げた、直球ど真ん中なエレクトロ
本作は、PitchforkでBest New Musicを獲得した2019年のアルバム『Crush』の続編という位置付け。
だが、アンビエントなテクスチャーに彩られた前作に対して、この『Cascade』は強烈なフラッシュの明滅を体いっぱいに浴びるような、完全無欠の四つ打ちダンス・ミュージック・アルバムに仕上げられている。
冒頭から鳴り響くのは、2022年にシングルとしてリリースした「Vocodor」のClub Mixヴァージョン。しょっぱなからフルスロットルだ。シンセサイザーが奏でるグルーヴィーなリズムが、タイトに刻まれるハイハット、スライスされたヴォーカルチョップと絡み合っていく、ディープハウスなトラック。アタマから脳汁出まくりである。
続く「Key103」は、弾力性のあるソフトな音色が恍惚へと誘う一曲。タイトルは地元マンチェスターのラジオ番組「Piccadilly Key 103」にちなんで名付けられたんだとか。
彼はこの番組をきっかけにして新しい音楽と出会い、エレクトロ・ミュージックに心を奪われ、レコードショップに通ってはオウテカやJ・ディラを聴きまくる日々を送っていた。そのことからも、このアルバムがサム・シェパードにとって原点回帰的な作品であることが伺える。終盤に入る前にキックの音だけが鳴り響く瞬間は、ちょっとケミカル・ブラザーズの「Star Guitar」っぽくて、筆者の密かなアゲポイントだったりする。
なお本作のミュージックビデオは、ジャケットデザインも手がけているアーティスト中山晃子が担当。まるで宇宙の始まりに遭遇したかのような、色彩豊かなマテリアルの流動が美しい作品だ。
その後も「Birth4000」、「Del Oro」、カリブーことダン・スナイスが参加した「Fast Forward」と、ダンサンブルなトラックのつるべ打ち。ファラオ・サンダースと共作した『Promises』にせよ、『Crush』にせよ、近年は電子音と非電子音を融合させた作風が目立っていたが、この最新作では、ラップトップのみで創り上げた直球ど真ん中なエレクトロが炸裂する。
だが6曲目の「Ocotillo」になると、一気にモードが切り変わる。ミリアム・アデフリスによる美しいハープで幕を開け(彼女は、Floating Pointsがアメリカの名門サンフランシスコ・バレエ団と共同で制作したバレエ作品『Mere Mortals』にも参加している)、サム・シェパードが大叔母から譲り受けたというクラヴィコード(ピアノの原型とも言われる鍵盤楽器)の音色を重ねていく。
やがて電子の音塊がコロコロと動き回り、まるでワームホールからワームホールへと、宇宙空間を超高速移動しているかのようなサウンドスケープに。そして6分を過ぎたあたりから、ビートのダイナミクスがさらに高まっていき、ダンスフロアを熱狂させるハードテクノ・モードに突入。
およそ8分というランニングタイムのなかで、まるで絵巻物のごとく、さまざまな景色を見せていくのだ。瞑想から恍惚、そして躍動へ。聴き手の感情を揺さぶりまくるこのトラックは、筆者の個人的ハイライトである。
アルバムは、スペーシーな「Afflecks Palace」、グリッチノイズの「Tilt Shift」、静謐なIDM「Ablaze」と、次第に内省的なサウンドに変化していく。ラスト2曲には宇多田ヒカルも参加しているのだが、ヴォーカルというよりも音のテクスチャーとして声が溶け込んでいる、という印象。温もりのある有機的なニュアンスが付与されている。
それにしても、ラストを飾る「Ablaze」の美しさをなんと例えれば良いのだろう。パステルカラーのように穏やかなシンセの音色。全てが溶け合い、混ざり合った、えもいわれぬサウンドスケープ。攻撃的と言っていいくらいにハードモードなこのアルバムで、最後にこんなにも“たおやか”な音を聴かせてくれるとは。
アカデミック・モードからの解放と反動
ここまで真っ直ぐなダンス・ミュージック・アルバムをリリースした背景には、近年サム・シェパードがアカデミックな仕事を手がけていたことからの反動も大きい。
ロンドン交響楽団やサンフランシスコ・バレエ団との邂逅を通じて、彼は五線譜にスコアを書く作業に没頭していた。元々は、マンチェスターの音楽学校でピアノを学んでいたというクラシック畑。古典音楽に立ち返ることで、自らに内在するメロディーとビートを楽理として理論化していったのだろう。
だが、全編に渡って高揚感のあるダンス・ミュージックに彩られたこのアルバムは、アカデミックなモードから完全に解き放たれている。かつて地元マンチェスターでエレクトロに夢中になっていたサム・シェパード少年の原体験が、はっきりと刻印されているのだ。『Cascade』は、反復されるビートが否応なしにカラダをクネらせてしまう、ミュージック・マエストロによる原点回帰的な一枚である。
そして、このアルバムの本質を最もダイレクトに感じ取るための絶好の機会が、冒頭で紹介した2025年の来日公演だ。本ツアーではレーザー・ライティングをYAMACHANG、ライブアートを前述の中山晃子が担当する。身体を解き放つダンス・ミュージックの魅力を余す所なく体現するこの作品は、ライブでこそ、その真価を発揮してくれるだろう。
来年の来日ライヴで、サム・シェパードはどんなパフォーマンスを見せてくれるのだろう。今から楽しみで仕方がない。
【イベント情報】

FLOATING POINTS LIVE IN JAPAN
TOKYO – 02.25 (tue) EX THEATER
OSAKA – 02.27 (thu) GORILLA HALL
OPEN / START 18:00
【TICKETS】
前売¥8,800(税込/別途1ドリンク代 ) ※整理番号付 ※未就学児童入場不可
[東京] イープラス・プレオーダー10/3-10/6、LAWSONプレリクエスト:9/28-10/2
[大阪] 9/28~TBC
一般発売 : 10/12(sat) 10:00 ~
詳細:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14407
【リリース情報】

label:Ninja Tune
artist:Floating Points
title:Cascade
release date:2024.9.13
配信リンク: https://floatingpoints.lnk.to/cascade
Tracklist :
- Vocoder [Club Mix]
- Key103
- Birth4000
- Del Oro
- Fast Forward
- Ocotillo
- Afflecks Palace
- Tilt Shift
- Ablaze
- Ocotillo (Ambient Mix) ※Bonus Track
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14214


