Louis Cole『nothing』カジュアルに奏でられるオーケストラ・サウンド。DIY精神が際立つ名門楽団とのコラボ作


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Text:竹島ルイ
天才。超人。怪物。Louis Cole(ルイス・コール)の、この恐るべき才能をなんと形容すればいいのだろう。
ニューアルバム『nothing』には、その卓越した音楽性がより明快なかたちで刻印されている。名門楽団メトロポール・オーケストラとの共演を果たした本作は、彼の華麗なるディスコグラフィーの中でも、ハイライトのひとつと呼ぶべき作品に違いない。
メトロポール・オーケストラといえば、ビッグバンドと交響楽団が融合した独自のスタイルで、Ella Fitzgerald(エラ・フィッツジェラルド)、Pat Metheny(パット・メセニー)、Herbie Hancock(ハービー・ハンコック)、Elvis Costello (エルヴィス・コステロ)、Robert Glasper(ロバート・グラスパー)といった新旧スターと共演してきた、オランダを代表する管弦楽団。
1945年に創設されて以降、グラミー賞で24度のノミネートと4度の受賞と、輝かしい実績を残してきた。そんな歴史あるオーケストラが、Louis Coleに「我々のために作曲をしてほしい」とラブコール。異色のコラボレーションが実現した。
父親の影響でクラシックにも造詣が深かったLouis Coleはこれを快諾し、作曲に没頭。単なるアレンジだけでなく、一部のオーケストレーションも担当した。ドラムのみならずギター、ベース、シンセサイザーも操るマルチ・インストゥルメンタリストで、作曲、アレンジ、ミックス、マスタリング、おまけにPVの監督までやってしまう彼は、いつものDIY精神で、名門楽団の管弦楽法にまで目を光らせたのだ。いやもう、天才にも程がある!
アリア、ファンク、ビッグバンド・ジャズ。バリエーション豊かな楽曲たち
『nothing』収録曲は全17トラック(そのうち15曲が書き下ろしの新曲)。そのほとんどが2023年にドイツとオランダで行われたツアーのライヴ録音だ。Louis Coleはおよそ9ヶ月をかけてベストトラックを選定し、音のバランスを調整する作業に明け暮れたという。彼がこのアルバムで最も心血を注いだのは、ミキシングだったのである。
ちなみにツアーの模様は、YouTubeで視聴することが可能だ。手練のミュージシャンたちがガイコツスーツに身を包んで演奏している姿は、観ていて微笑ましい。音源を先に聴くか、ライヴを先に観るか。まだ『nothing』未体験の方は、嬉しい悩みが待っている。
アルバムは、「Ludovici Cole Est Frigus」と名付けられたオーバーチュアで幕をあける。まるでバッハのバロック音楽のような、荘厳なアリア。続く「Things Will Fall Apart」では一転して軽やかなホーン・セクションが鳴り響き、いつものLouis Cole節が炸裂する。思わず腰が疼く、浮き立つようなファンクネス。そしてサビからブリッジ、ミドルへと移行すると、次第に弦楽器とキーボードによる静謐なエレクトロニカへと変貌し、演奏時間4分35秒のあいだに様々な表情を見せていく。
3曲目の「Life」は、イントロから弦楽器のスタッカートが激しくリズムを刻み、人力ドラムン・ベースと化したLouis Coleの高速ドラミングが重なって、ハイテンポなグルーヴが空間を埋め尽くす。思えば、8歳のときに初めてドラムスティックを手にしたというこの男は、幼少時よりJames Brown(ジェームズ・ブラウン)やStevie Wonder(スティーヴィー・ワンダー)に熱中し、サックス奏者の父親スティーヴから英才教育を受け、南カリフォルニア大学ソーントン音楽学校でジャズを学んでいだ。彼は唯一無二のスーパー・ミュージシャンであると同時に、超絶技巧のスーパー・ドラマーなのだ。気づけばヘッドバンギングしてしまっている、タテノリ感。彼の音楽はいつだって、身体に直接作用する。
その後も、幻想的なシンフォニーが美しい「It All Passes」や「nothing」が続く。そして、古き良きビッグバンド・ジャズ・スタイルが楽しめる「Cruisin’ for P」、ロックンロールな疾走感が気持ちいい「A Pill in the Sea」、ご陽気管弦楽の「Wizard Funk」、11分12秒に及ぶ大作「Doesn’t Matter 」など、バラエティ豊かな楽曲群で駆け抜ける。8曲目と9曲目に演奏時間が1分少々の「Who Cares 1」、「Who Cares 2」がインタールード的にインサートされているのも、構成として巧みだ。
その後も、既存曲を色彩豊かなオーケストレーションで蘇らせた「Shallow Laughter : Bitches」や「Let it Happen」。Louis ColeとGenevieve Artadi(ジェヌヴィエーヴ・アルタディ)のポップ・ユニットKNOWER(ノウワー)のノリを思わせるファンク・チューン「Weird Moments」と、バリエーション豊かな楽曲が続く。個人的な推しは、13曲目の「These Dreams are Killing Me」。オーケストラによって心躍るようなリフが繰り返され、ちょっとメロウなメロディをLouis Coleとコーラス隊が優しく歌い上げる。彼のクリエイティビティが高次元で発揮された、グッド・アンセムだ。
ディズニー映画サントラのようなエンターテインメント感
Louis Coleのディスコグラフィーを思い返してみると、その音楽はジャズ、ロック、ソウル、ファンク、EDM、時にはゲーム音楽のようなチップチューンにまで乱反射している。有り余るほどの音楽的教養と、豊かな音楽的感性。自身のソロ・ワークスはもちろんのこと、ユニットのKNOWERや、盟友Thundercat(サンダーキャット)とのコラボレーションなどを通して、彼はワン・アンド・オンリーなサウンドをアウトプットし続けてきた。
『nothing』も、間違いなくその延長線にあるアルバムだ。一聴すれば分かるが、サウンドは決して形式ばったものではない。その手触りは、これまでと同じようにとってもカジュアル。本作には、ベーシストの Sam Wilkes(サム・ウィルクス)やピアニストのJacob Mann(ジェイコブ・マン)など、Louis Coleの作品ではお馴染みのミュージシャンが多数参加しているが、総勢50名余のメトロポール・オーケストラの面々も、新しい仲間としてゴキゲンに演奏していることが伝わってくる。
アルバムは、Louis Coleの歌声とピアノだけで作られた小曲「You Belonged」で美しく閉じられていく。ゆっくりと心の中で広がっていく余韻。小難しいことなんて、何ひとつない。この高揚感や感傷性は、ディズニー映画のサウンドトラックを聴く感触によく似ている。まさにザッツ・エンターテインメントだ!
Do It Youreself。オーケストラとの初めての共作においても、Louis Coleはそのスピリットで傑作をモノにしてしまっている。『nothing』は魔法のような煌めきに満ちた作品だ。



