「Drakeはヒップホップというよりポップだ」ベテランラッパーMos Defの発言から考える“ヒップホップ観”


この記事をシェア
ヒップホップがどれだけ大きなマーケットになろうとも。いや、マーケットが大きくなったからこそ、度々論じられる“ヒップホップ論”。誰がヒップホップで、誰がヒップホップではないのか。極論的には発信するアーティストの心のうちが決めるものではあるが、全米1位ラッパーもこの手の論争には巻き込まれるものだ。
Drake(ドレイク)が現在のヒップホップシーンを牽引するラッパーであることは明白で、数々のアワード、チャート1位を獲得しているが、先日、90年代に活躍したベテランMos Def(モス・デフ)、現Yasiin Bey(ヤシーン・ベイ)がDrakeの曲を「ポップだ」と発言したことに対し、SNSでは様々な論争が巻き起こっている。
「スーパーマーケットで流れていたらいいかもね」Drakeについての発言が賛否を呼ぶ
ポッドキャスト番組に出演した際に「Drakeは俺にとってはポップだ」と発言したMos Defは、続けて「もしスーパーマーケットにいて彼の曲がかかっていたらいいかもね」とコメント。その後スーパーにはあらゆる商品が置いてあることを例に出していたが、確かにDrakeの曲はトラップからR&B、最近ではハウスやアフロビーツ、レゲエなどジャンルを越えて人気なものが多い。そう考えると言い得て妙…ではある。
ポッドキャストの司会者は彼の発言を受けて「私はDrakeの音楽が好きだけど、あなたが言っていることもわかる。彼の音楽は商業的で、人々を楽しませる型が出来上がっているものだと思う」とコメント。Mos Defはそれに対して「みんなが好きになる音楽だよね」と同意した。
間違えたくないのが、これはMos Defからのディスでは無いということ。現にMos Defは「Drakeは才能のあるMCだ」と認め、この件に関してDrakeと直接話すこともできるとSNSでコメントしている。しかし「Drakeだけでなくヒップホップカルチャーに通ずるものであれば、もっと人々に訴えかけるもの、メッセージ性が欲しい」というのがMos Defの意見だ。
Drakeは静かに反論「ヒップホップはカルチャーで生き方だ」
Mos Defは直接話す準備ができていると話しているが、Drakeがそれに応じるような様子はない。代わりにWu-Tang Clan(ウータン・クラン)のリードMC、Method Man(メソッド・マン)のコメントをInstagramに投稿。そこでは「ヒップホップはカルチャーで生き方だ。ブレイクダンスでありライミング、ステージショー、DJのミックス、スクラッチ、ワードプレイ。それらがヒップホップだ」と語られている。Drakeからの反論・意見として受け取っていいだろう。
スクラッチのパイオニア、Grandmaster Flash(グランドマスター・フラッシュ)は過去にDrakeについて「異なるタイプのビートでラップすることのできる唯一の存在だろう。完璧な天才だ」とコメント。ハーレムのラッパー、Jim Jones(ジム・ジョーンズ)もまた「Drakeは史上最高のラッパーの1人だ」と褒め称えている。ヒップホップに籍を置くアーティストの中でもDrakeを認める意見が多いのもまた事実だ。
なぜMos DefはDrakeを「ポップだ」と言ったのか
Mos Defは1994年にキャリアをスタートさせ、1996年にはDe La Soull(デ・ラ・ソウル)らと活動をともにした。そして1998年には今も続くTalib Kweli(タリブ・クウェリ)とのユニット、Black Star(ブラック・スター)を結成。商業化していくヒップホップに相対する形でコアなファンを掴み、1stアルバム『Mos Def & Talib Kweli Are Black Star』は今でもクラシックとして聴かれ続けている。
単純に使うべきではないが、いわゆる“ヒップホップの黄金期”と呼ばれる中で育ち、ラッパーとして活動してきた人物だ。社会問題、政治評論家としても名を成した彼が(あるいはその世代が)、Drakeの曲を「ポップだ」と感じるのも仕方がないのかもしれない。元々社会的メッセージ性の高い音楽だったヒップホップ。それに比べてDrakeが社会派のラッパーかと言われれば、そうではないだろう。
しかしDrakeはトラップからハウス、アフロビーツやレゲエなどジャンルを越えてラップすることができるラッパーだ。Mos Defがインタビューでスーパーマーケットに例えて「ここにはいろんな商品がある!」と発言したこと、それこそが「Drakeの曲はショッピングに向いている」というコメントで伝えたかった意図なのではないか。繰り返すがディスしているわけではないのだ。
世代によって変化する「ヒップホップ観」
Drakeは世界で最も有名なラッパーの1人だろう。世界中のリスナーの中にはDrake以外ラップ、ヒップホップを聴かない、あるいはDrakeをきっかけにヒップホップに興味を持ち聴き始めた、そんなファンもいるはずだ。何がヒップホップで何がヒップホップでないのか結論付けることはできないが、少なくともDrakeが人々に“きっかけ”を与えているアーティストであることは明らかだ。
同時にMos Defのように“カルチャー”という言葉を交えて意見が出ることも納得できる。カルチャー、その中でもラップに限定されることだが、“ラップ”という音楽の手法が“ヒップホップ”とイコールではないことも頭に入れておきたい。ロックバンドのボーカルがラップしたからといって、ラッパーとカテゴライズしないことを考えればわかりやすいだろう。
しかしそうした他ジャンルの介入も両手を広げて迎え入れているヒップホップの懐の深さこそが、ここまでマーケットを大きくした要因でもある。サンプリング文化に見られるように、多くのジャンルを取り入れて成長してきたヒップホップにとっては当たり前のことなのだ。
ブーンバップこそヒップホップだ。そんな意見もあるが、ではKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)がブーンバップでラップをしているのか。していなければ彼はヒップホップでないのか?答えは出ているはずだ。アワードのようにカテゴライズすることで度々問題も出てくるが、ブーンバップもヒップホップだし、トラップももちろん。Kendrick LamarやDrakeもヒップホップだ。
この論争の中で明らかになったことは、世代によって「ヒップホップ観」が変化しているということだろう。仮にMos DefとDrakeの対話が実現するのであれば、Mos DefがDrakeに感じるように、Drakeから見た若い世代についての意見も聞いてみたい。これまでその影響力で何人もの新人ラッパーをスターダムに押し上げたDrakeだからこそ、彼なりの基準があるはず。世代の違うアーティストによる意見交換はいつの時代も興味深い結果となるはずだ。
この記事を読んだあなたにとって、「ヒップホップ」とは何ですか?




