『WIRED』日本版 主催「WIRED Futures 2023」トークセッション『生成AI時代の「音楽のゆくえ」』レポート:音楽生成AIがアーティストに与えるクリエイティブの可能性とは?


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昨年、MidjourneyやStable Diffusionといった、ユーザーが入力したテキストに応じて、AIが画像を生成する画像生成AIが注目を集めたが、今年は音楽シーンでも生成AIに大きな注目が集まった。
2023年は音楽シーンでも生成AIが台頭
音楽シーンではこれまでにDJソフト「djay Pro」の音源分離機能やiZotopeのマスタリングプラグイン「Ozone」などDJプレイや音楽制作をアシストするAIツールがすでに一定のシェアを持っていたが、昨今注目を集めている音楽系の生成AIはそれらとは異なるものとなっている。
例えば、試用版が公開されたGoogleの「MusicLM」や今年9月に公開されたStability AIの「Stable Audio」、ここ数日SNSで大きな話題になっている「Suno AI」などは、先述したMidjourneyやStable Diffusionと同じくユーザーが入力したテキストに応じてAIが音楽を生成することができる。そのため、これらの音楽生成AIを利用すれば、特別な知識やスキルがなくともユーザーは自分のオリジナル音楽を手軽に作成できる。そこに音楽性AIを利用する大きなメリットがあると言えるだろう。
一方で、今年はDrakeなど著名アーティストの音声を無断学習したAIカバーも大きな注目を集めた。AIカバーは、その後物議を醸したことで公開先の音楽プラットフォームからの削除が相次いだが、その技術に対して肯定的なスタンスを表明してきたGrimesは、自身の声をAIにカバーさせるツール「Elf.Tech」を開発。他のアーティストに使用を許可するだけでなく、同ツールを利用した楽曲を作成したアーティストとのロイヤリティ分配のルールも定めるなど、AI利用に伴う権利侵害をクリアにする形で音楽分野における合法的なAI活用の一例を示している。
このように音楽生成AIによって、アーティストや音楽クリエイターの仕事が奪われることになるかもしれないという"AI脅威論"がにわかに広がり始めるなか、現在は、AIを自身の音楽クリエイティブへの活用を模索したり、そのためのルール作りに取り組んだりするアーティストや音楽クリエイターの数も増えつつある。
またルール作りにおいては、今年8月にYouTubeがAIを音楽に活用するための基本的な考え方を発表したほか、UNIVERSAL MUSIC GROUP(UMG)との提携による「YouTube Music AI Incubator」の設立を発表している。「音楽アーティストとその作品を保護しつつ、音楽のユニークで創造的な表現を強化」を目的としたこの取り組みでは、実験的にUMG所属のアーティストやプロデューサーが参加しており、今年11月にYouTubeはショート動画サービス「YouTube Shorts」向けにCharli XCX、Siaらの音声を使った短い音楽を作成できる「Dream Track」、鼻歌からギターリフを作るといったことができる「Music AI Tools」を発表するなど、アーティストや音楽クリエイターの権利の保護や彼らの能力の拡張の可能性を視野に入れた動きを見せている。
AI研究者/アーティストの徳井直生とトラックメイカーのSTUTSが音楽におけるAI活用の可能性を語る
12月8日に東京・虎ノ門ヒルズ TOKYO NODE HALL / ARCHにて行われた未来を実装するメディア『WIRED』日本版によるカンファレンス「WIRED Futures 2023」でも、生成AIと音楽クリエイティブの関係はテーマのひとつに。
「WIRED Futures」は『WIRED』日本版が年に1度開催する大型カンファレンスで、国内外のゲストと一緒に2050年の未来を追体験するトークセッションやワークショップを展開。今回行われたトークセッションのひとつ、『生成AI時代の「音楽のゆくえ」』には、AI研究者でありアーティストとしても活動する徳井直生とトラックメイカー/音楽プロデューサーとしてポピュラーミュージックの第一線で活躍するSTUTSが登壇し、音楽クリエイティブにおけるAI活用の可能性について、意見が交わされた。

音楽の発展の歴史を振り返ると人間とテクノロジーの共生関係は無視できない。特に現代のポップミュージックにおいては、block.fmリスナーにとっても関わりが深いRolandのリズムマシン「TR-808」やベースシンセ「TB-303」、AKAIのサンプラー「MPC」の登場により、ハウスやテクノ、ヒップホップ、そしてメインストリームのポップスまでが大きく発展することになったのはすでに多くの人が知るところだ。
こうした音楽テクノロジーは、既存の音楽制作技術をハックしたといえる。例えば、サンプラーはその代表的な例であり、近年であれば、DAWもその例と言えるだろう。また、興味深いことに「TR-808」や「TB-303」といった機材は、本来メーカーが意図していたユースケースから使用者が誤用したことで新しい音楽カルチャーを生み出したという歴史もある。こうした、正統な教育を受けた音楽プレイヤーでは考えつきにくい、できない人ならではの視点がテクノロジーと結びついたことでこれまで音楽カルチャーが拡張してきた。
現状の音楽生成AIは実際にアーティストが使えるツールなのか?
そのような背景を踏まえて、トークセッションで語られたのは、生成AIはあくまで人間が使う技術やツールであり、それを使うことでこれまで人間が考えられなかった表現が生まれる可能性があるということ。また生成AIによって誰もがオリジナル音楽を持てるようになった世界の先には揺り戻しとして人間が人力で演奏すること、あるいはそうして作られる音楽自体の価値が上がっていく可能性があるということだ。
しかし、現状の音楽生成AIには実際にアーティストが使えるツールにはなっていないという問題もある。トークセッションでは、音楽生成AIがアーティストと共創するツールであるならば、有名なテック系大企業が開発するものだけでなく、それらを実際に使用するアーティスト側からも開発されていく必要があるという意見も述べられた。
また音楽生成AIを使用するアーティストとしては、なんとなく自分の頭の中でイメージしているものを一旦具現化する上では有用だという意見も交わされた。しかし、音楽を作る側のアーティストとしてはやはり自分で作りたい気持ちがあるとも。そのため、音楽生成AIは、あくまでDAWやサンプラーと同じようにツールとして使っていきたいという考えも示されていた。
現状の音楽生成AIは、従来のデジタルレコーディング技術を駆使して制作するものよりも音質の面で劣るものが多い。その点は実際に使用するアーティストにとって、不満が残るところだろう。しかし、音楽生成AIは画像生成AIに比べてデータ量の多さなどもあり、発展のスピードは大体2年遅れ程度のため、その問題もすぐに解決されることになると予測する意見もあった。また音質面も含めて、アーティストの曲を学習し、まるまるコピーできるような音楽生成AIが登場する日もそう遠くないうちにやってくることになるが、AIを開発する側としてはそういったものが仮にできたとしてもそれで本当に人間が幸せになれるのかどうかは考えていく必要があるという認識も示された。
サンプラーを手にしたことで“ジャズ"ができるように
今回のトークセッションを聞いていて、頭に浮かんだのは、昔何かの雑誌で読んだKev Brownというヒップホップアーティストのインタビューだ。2000年代に活躍したKev Brownは、ジャージーヒップホップの名盤『I Do What I Do』で往年のファンには知られているが、近年はローファイヒップホップ人気を受け、J DillaやNujabesらに続く"OG"のひとりとして、その界隈で再評価されている。
そんなKev Brownは先述のインタビューで、サンプラーを手にしたことで「俺にもジャズができるんだと思った」的なことを述べていた記憶があるのだが、音楽生成AIもまさにそういうものだと改めて思わされた。つまり、ジャズをプレイヤーとして演奏する能力がなくても、レコードからサンプリングすることで自分なりの"ジャズ"を表現することができる。それはテクノロジーによって人間の音楽能力が拡張されたということを意味する。
サンプラーやDAWのように自分がイメージする音楽を具現化する手助けするツールとして、音楽生成AIを活用していくことができれば、その認識も将来的には"AI"ツールではなく、ただの便利な音楽制作ツールとして、アーティストや音楽クリエイターに認知されていくことになるはずだ。そうなったときにTB-303を誤用するかのように音楽生成AIを誤用して、人間が新たな音楽クリエイティブやカルチャーを生み出していくのではないだろうか?






