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Nujabesとの最後の会話。彼のサウンドがなぜ、他の人たちとは違っていたか

2024/03/01 20:45
☆Taku Takahashi
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PHOTO: YouTube
2024年、生きていれば50歳を迎えたNujabes。これまで多くを語らなかった☆Taku Takahashiが彼への想いを綴った。

Text:☆Taku Takahashi

Nujabesと最後に会った日のことを今も鮮明に覚えている。その日、久しぶりに彼から連絡が来た。

「タク、忙しい?久しぶりにご飯でもどう?」

「じゃあ鉄板焼きはどう?広島焼きが美味しい店が新宿にあるんだ。空いてるんだけど、めちゃくちゃ美味しいんだよね」

「そこはタクに任せるよ」

彼の口調からは、ただ美味しいご飯を食べたいというより、むしろ色々話したいんだろうな、って感じがした。何時にお店に行くか決めて、久しぶりの再会を楽しみにした。この日は、彼が交通事故で亡くなる2週間くらい前のことだった。

Nujabesと出会うころのヒップホップシーン

Nujabesと初めて出会ったのは1998年頃だったと思う。m-floがデビューする前のこと。当時、渋谷を中心に日本のヒップホップシーンが活気づいていた。Verbalが「Rhyme Brokers」と「Been So Long」を含むm-floのデモ曲を渋谷界隈で配布していたのを覚えている。違った感じの音を作っていた僕らは、渋谷のシーンでなかなか受け入れられなかった。「ヒップホップはこうあるべき」という風潮が強かったからだ。

「m-floのサウンド?これヒップホップじゃないっしょ」と言う声が多かった。当時の僕らはヒップホップのメンタリティで作っていたが、今振り返ると、彼らのその解釈が間違っていなかったかもしれない。作っていたトラックはヒップホップの影響を受けていたものの、ハウス、ジャズ、ソウル、R&Bなど様々なジャンルの要素を取り入れていた。ヒップホップの定石や雰囲気から外れていると見なされても不思議ではなく、僕のトラック制作の技術もまだ未熟だった。

「周りは周り、自分たちは自分。振り回されずに自分の道を行く。ヒップホップの3大要素は重要だけど、最も大事なのは既成概念にとらわれず新しいものを発信する反骨精神」という考えを持っていた。自分たちの考えをしっかり持ってはいたが、僕にとって渋谷は音楽の神聖なる場所であり、そこで認められない寂しさがあった。同じ音楽を愛する人たちと深く共感を分かち合えない、その寂しさは大きかった。

そんな時、m-floのサウンドを最初に褒めてくれたのがNujabesだった。正確には、彼がNujabesとして活動する前、「ギネスレコード」のオーナーの“セバジュン”と名乗っていた時のことだ。

きっかけは音楽機材の話から

彼が初めて電話をかけてきたとき、m-floのサウンドが他と違って面白いと言ってくれた。

「今のシーンでどう見られているかはさておき、タクくんたちは自分たちの道を進んで、面白いことを続けるべきだよ」と励ます言葉をかけてくれた。渋谷の街で受け入れられない孤独感を、彼の温かい声が癒してくれた。

Nujabesと最初に話したとき、すぐに仲良くなり、敬語を使わなくなった。お互いの好きな音楽について話が盛り上がったとき、彼がトラックメイキングについて話し始めた。

「実は僕もトラックを作ってるんだけど、タクはサンプリングした音を細かく切ったり、ループさせるときどうしてる?これがめちゃくちゃ時間かかってめんどいんだよね」

「え?セバくん、『Recycle!』ってソフト使ってないの?」

当時、PCで音楽を作るのは主流ではなかったが、彼は新しい作品を作るための知識を貪欲に求めていた。

「何それ?」

「サンプラーに取り込んだ音をマックにSCSIで移して、そこでスライスするんだ…」

「ちょっと待って。電話じゃわからないよ。タクの説明、複雑すぎるんですけど(笑)」

音楽機材やソフトウェアになると興奮して複雑に説明する僕がいる。少し躊躇してから、彼はこう言った。

「遅いけど、今からタクの家に行って見せてもらってもいい?」

どうやら興奮していたのは僕だけでなかったらしい。

「全然いいけど。でもウチ、横浜の外れだよ。鎌倉の近く」

時計を見ると12時を過ぎていた。

「タクがいいなら今から行くよ。僕は渋谷からだけど、高速は空いてるから1時間くらいで着くと思う。住所教えて!」

音楽作りを愛する僕にとって、すぐ行動に移す彼の熱意が心地よかった。思いつきで、渋谷から横浜の外れまで、来てくれるのが嬉しく、初めて会う彼が遊びに来るのをワクワクして待った。彼が言った通り1時間後に到着。電話での意気投合の後だったので、初対面とは感じなかった。ソフトウェアとハードウェアの使い方を説明し、ヒップホップに対する価値観や取り組み方について話しているうちに、夜が明けていた。

違うサウンドを作っている2人が不思議と意気投合できた理由

サウンドの方向性が全く違っても、音楽に対するアプローチが似ていたから、お互い意気投合できたんだと思う。Nujabesはジャジーなヒップホップを作っていて、他の日本のヒップホップやアメリカでリリースされているものとは何かが違っていた。

共通点もあった。僕は日本のメジャーシーンにヒップホップやエレクトロニック音楽がもっと普及することを望んでいた。一方でNujabesはアンダーグラウンドシーンのトレンドから一線を画し、独自のものを生み出したがっていた。フィールドは違うけど、現状を変えたいという共通の願いがあった。そんなところが気が合ったんだろう。

仲が深まると、互いの曲を聴かせ合ったり、ゲームをしたり、カフェで雑談をしたりという時間が増えた。お互い色々なことを相談する間柄にもなっていた。音楽について議論することもあり、時にはその議論がヒートアップしすぎて喧嘩することもあった。それでも、バワリーキッチンというカフェで夜遅くまで音楽談義をしたり、彼のスタジオでお互いの音を聞き合う日々が続いた。

Nujabesのサウンドはなぜ唯一無二なのか?

Nujabesは周りのトレンドに左右されず、常に自分が鳴らしたいサウンドを追求していた。彼はジャズのレコードをサンプリングするのを好み、DJ Premier、DJ Spinna、The Beatnuts、Slum Villageなどから影響を受けていると話していた。でも、彼が手がけると自分だけの音になり、すでにNujabesというスタイルが確立していた。彼が選ぶサンプリング素材は他とは一線を画し、チョップしてかっこよく、ループにして美しく聞こえるサンプルを見つけ出す天才だった。

さらに、彼にはかっこいいラッパーを見つける抜群の嗅覚があった。普通のアンダーグラウンドシーンとは一味違うラッパーを世界中から探し出し、僕にも紹介してくれた。

当時はインターネットで音楽を自由に聴ける今日のような時代ではなかった。レコード店を持つことで、彼は世界中のユニークなサウンドを集めることができた。今振り返ると、レコード店を経営していた理由の一つはそこにあったのかもしれない。

彼の音楽を解説すると、オーソドックスなサンプリングを基盤にしつつ、その上にフリージャズの生演奏のような要素を加えた作品が多い。彼のサウンドが“ローファイヒップホップ”と称されることもあるけど、もし彼がそれを聞いたら、きっと不満だっただろう。発狂して僕に電話してくる彼をなだめている自分を想像すると、思わず笑みがこぼれる。同時に、もうその電話がかかってこない寂しさも感じる。

彼のドキュメンタリー『MUSIC IS MINE MUSIC IS YOURS』を観て感じたこと

(※編集部注:本ドキュメンタリー映像は2024年3月1日20時時点で非公開となっています)
3月5日15:00追記:ドキュメンタリーは新しいURLで公開されましたが、何か問題が合った場合は再度非公開になる可能性があります。YouTubeは記事の最後に埋め込んでいます。

Nujabesのドキュメンタリー『MUSIC IS MINE, MUSIC IS YOURS』は、90年代の日本のヒップホップシーンの急成長を背景にして始まる。中心地は宇田川町近くのCISCO坂で、この場所はアニメ『呪術廻戦』のエンディングシーンで登場することでも知られている。
Photo:編集部

CISCO坂には、「CISCO」という伝説のレコード店を含む多くの店が集まっていた。その一角にNujabesが経営する「ギネスレコード」があった。この店はユニークなセレクションとNujabesの個性が反映された場所として知られ、彼が自分の音楽性を探求し続けた重要な拠点だった。ヒップホップシーンでは横のつながりが重視されていた中で、Nujabesは独自の道を選び、世界的に認められるアーティストに成長していく。

この作品では、Nujabesの人となりや音楽へのアプローチ、そして彼がいた時代のヒップホップシーンについて、彼の周りの人々が語っている。当時A&Rをやっていた竹内方和や「Free Soul」で有名な橋本徹のような伝説の人物から、Verbal、DJ YANATAKE、AMBUSHのYoon( ユン)、シンガーソングライターのMINMI(ミンミ)、後輩のSphere of Influence(スフィア・オブ・インフルエンス)、m-floのバックDJをしてくれていたDJ HoriiやDJ Deckstream(DJ・デックストリーム)まで、多様なメンバーが登場している。これらの知人が多く登場することで、親しみや懐かしさを感じさせられた。

改めて思うのが、Nujabesが選んだラッパーの中にVerbalが入っていることは、自分にとっても誇らしい。最近はファッションやITのイメージが強い彼だが、この作品はMCとしてのVerbalの良さも出してくれていて、とても嬉しかった。
verbal
ドキュメンタリーにはDEV LARGE(デヴラージ)、RIKO、キングギドラ、SHAKKAZOMBIE(シャカゾンビ)、ダースレイダー、MUROなど、日本ヒップホップシーンの重鎮たちの貴重な映像が豊富に盛り込まれている。さらに、Nujabesとコラボしていたかもしれないアーティストに関するサプライズも後半で明かされ、その本人も映っている。m-floのLisaや僕も短時間だが画面に映り、特に若かった頃の自分を見た時、刺々しい自分の姿に苦笑いがこぼれた。

予期せず自分が映ると知り、正直戸惑ったが、監督のAbe Selassieは日本のヒップホップの歴史とNujabesの才能溢れる軌跡を巧みに編集している。あとは、この作品が使っている貴重映像を使う許可をTV局や出演してる人たちに取っているのかが心配だ。アメリカではフェアユースの概念があるが、日本ではそのルールが存在しない。場合によっては、このタイミングでは見られないかもしれない。僕としては、教育のために目をつぶってもらいたい。

Nujabesとの未来の会話

鉄板焼き屋で久しぶりに会ったNujabesは、世界的ヒットを出した後も、いつものセバジュンだった。音楽業界がCDからストリーミングサービスへと移行していく中、自分たちが作りたいサウンドで、プロとしてどう進んでいくべきか、最近どんな音楽を聴いているのかなど、いつも通りの音楽談義で盛り上がった。お互い同じ悩みを持ちながらも、これまで通り、知恵と情熱で頑張れば、きっと人々に響くと確信していた。彼もそう感じていたと思う。

帰りに車で送ってもらった時、彼は新しいプロジェクトを聴かせてくれた。それは今までとはまったく違うサウンドだった。ジャンルで言えば、オーガニックなドラムの4つ打ち、つまりハウスミュージックだった。これには正直ビックリしたが、同時に嬉しくもなった。その中で、いつものセバジュンから質問が投げかけられた。

「タク、どう思う?」

「今までのNujabes作品と比べても新しくて面白いし、かっこいいよ。何か気になるところあるの?」

自分の感想をそのまま伝えた。完成度の高い作品を作っても、セバジュンはいつも、何か足りないところを探そうとする。

「いや、作品としてまだ詰めるところはあるんだけど、それとは別で自分が今出したい作品と、過去に出した作品とのギャップが大きすぎないかなって」

Nujabesの言うことはもっともだ。アーティストは常に新しいことに挑戦したくなる。慎重に答えなければと思い、しっかりと伝わるように返した。

「わかるよ、その気持ち。別名義でやるっていう手もあるけど、Nujabesはずっと進化しているじゃん?だからそのまま同じ名義でハウスを出しても不自然じゃないと思うよ。そもそも、僕らのサウンドがみんなとは違うところを評価してくれてたのセバジュンじゃん。どんどん違うことをやっていっていいんじゃない?」

3秒ほどの沈黙の後「まあ、もうちょっと考えてみるよ」と彼は返事した。セバジュンがそんな風に答える時は、僕の答えとは関係なく、大抵の場合、答えはもうすでに決まっている。彼がどんな決断を下すのか楽しみだった。そして彼は言った。

「まあ、音楽シーンもどんどん変わっていくけど、お互い頑張ろうね。曲が完成したらまた聴いてほしいな」

「もちろん!」

お互いに肩を叩き合い、「またね」と言って、Nujabesの車が去っていった。

Nujabesが残したもの

これまでNujabesについて話すことを避けてきたのは、彼を失った寂しさと、その事実を認めたくなかったからだ。心は不安定で満たされない感情でいっぱいで、自分だけが取り残されたような感じがした。それが自己中心的だともわかっていて、いつかなんらかの形で向き合わないといけないなと思っていた。このドキュメンタリーを見て、過去を振り返るきっかけをもらい、行動力のあった彼を思い出した。それが、彼について書く決心をさせた。セバジュンは音楽を通じて友情を深めた友人であり、異なるジャンルであれライバルでもあった。彼が新しい曲をリリースする決断をどう下したか直接知ることはなかったが、車で彼の新プロジェクトを聴いた時、「もっと頑張らなきゃ」と強く思わされた。この瞬間は、彼の音楽から受けた刺激の中でも特に印象的だった。

現在、新たな楽曲をリリースしていないにも関わらず、Nujabesの音楽は色あせることなく、まるでリアルタイムで体験しているかのような新鮮さを保ち続けている。Nujabesは日本だけでなく世界にその名を刻んだ音楽家で、流行に流されず、自分が心から感動する音楽を追求し続けた。その結果、多くの音楽ファンが今も彼の作品を愛聴し、彼の音楽をリアルタイムで体験していない人々にもその魅力が伝わっている。Nujabesは作品を通じて、現在も多くの人々の心に影響を与え続けている。

[公開情報]
sabukaru Presents:
A Nujabes Documentary – MUSIC IS MINE MUSIC IS YOURS
https://youtu.be/K1U6QXvqoj8?si=-uVPDc1mQFxLnUIn

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