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ミュージカル大好き監督ケイシー・レモンズによる世界的歌姫の伝記映画がついに完成!『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』

2022/12/28 18:30
Buffy Yoshikawa
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ミュージカルに思い入れが強く、黒人女性の強さを表現する監督が描くホイットニー・ヒューストンの半生。その映画の見どころとは。

Text:バフィー吉川

日本でも有名なホイットニー・ヒューストンとケヴィン・コスナーの共演作『ボディガード』(1992)における主題歌「I Will Always Love You」は全米シングル・チャートで14週連続No.1を記録し、同作のサウンドトラックは最も売れたサウンドトラックとされている。他にもギネス記録やグラミー賞6冠など、亡くなった今でも多くのファンを抱え、様々なアーティストに影響を与え続けている伝説的歌姫ホイットニー・ヒューストンの伝記映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』がついに完成した。

本作では「I Will Always Love You」は勿論、「I Wanna Dance With Somebody」や「How Will I Know」といったホイットニーの名曲の数々が効果的に配置されており、物語を彩っている。

監督を務めたケイシー・レモンズは、『プレイヤー/死の祈り』(1997)や『ハリエット』(2019)といった作品の中で、常に黒人社会を切り取り、その中でも黒人女性の強さを描き続けてきた。そんなケイシーがホイットニー・ヒューストンという偉大すぎるアーティストをどのような切り口で描くのかにも注目してもらいたい。

企画はずっとありながらも実現不可能だったホイットニーの伝記映画

実はホイットニーの伝記映画の企画は今回が初めてではなく、今までに何度も企画されてきた。しかし実現に至らなかったのは、ホイットニーの歌声を再現できる女優やアーティストが見つからなかったからだ。ホイットニーの歌声は「ザ・ヴォイス」と呼ばれるほど、その歌声は唯一無二であり、誰も到達できない領域なのだ。

『リスペクト』(2021)でアレサ・フランクリンをジェニファー・ハドソンが、『ロケットマン』(2019)でエルトン・ジョンをタロン・エガートンが見事に演じきったのは例外中の例外で、歌声の再現が困難として断念される企画は少なくない。

一方で『ヴォイス・オブ・ラブ』(2021)のように、明らかにセリーヌ・ディオンの伝記映画でありながらも、アリーヌという架空の人物設定にされているように、あくまで本人ではないという設定で押し切るパターンもあるが、『スターダスト』(2020)のようにデヴィッド・ボウイの伝記映画でありながら楽曲も使用できず、歌声もそれほど似てないということで、趣旨を見失っている作品もある。

ところが近年は、映像技術や音響システムの進歩によって、アーティスト本人の音源とシンクロさせることに違和感がなくなってきたことから、『ボヘミアン・ラプソディー』(2018)は成功を収めているし、『エルヴィス』(2022)も一部は本人の音源をシンクロさせているのだ。

『ボヘミアン・ラプソディー』以降、アーティストの伝記映画が圧倒的に増えたのも、伝記映画の成功というより、音源のシンクロを違和感なくできるようになったことが理由だ。

『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』でホイットニーを演じているナオミ・アッキーもPodcastのミュージカルドラマ「CUPID」の中で見事な歌声を披露しているし、実際にホイットニーの音源が存在しない曲「Guide Me, O My Great Jehovah」や教会のシーンなどはアッキー自身が歌っている。何よりホイットニーと共に名曲を作り続けてきた音楽プロデューサーで、今作にもプロデューサーとして参加しているクライヴ・デイヴィスも認めた歌声だ。アッキーの存在があったからこそ実現できた企画だといえるだけに、吹替えなしでも成立したかもしれない。

しかしそれでもホイットニーの音源を使用しているのは、唯一無二の存在というリスペクトがあるからだ。アーティストの伝記映画はリスペクトがなくては成立しないのだ。

ミュージカル大好き監督ケイシー・レモンズが描くホイットニー・ヒューストン

I WANNA DANCE WITH SOMEBODY

ケイシー・レモンズは、スパイク・リーの『スクール・デイズ』(1988)や『羊たちの沈黙』(1991)などに出演する女優としてキャリアをスタートさせながら、1997年に『プレイヤー/死の祈り』(1997)で長編監督デビューを果たす。同作にも出演したサミュエル・L・ジャクソンを再び起用した『ケイブマン』(2001)や1960年代の人気司会者ピーティー・グリーンの伝記映画『Talk to Me』(2007)など、常に黒人社会を舞台とした作品を制作してきた。

ジェニファー・ハドソンを主演に起用したミュージカル『クリスマスの贈り物』(2013)は、アレサ・フランクリンとC・L・フランクリンの関係性をモデルとした再生の物語であり、ジェニファーと父の役を演じたフォレスト・ウィテカーは、のちに『リスペクト』(2021)で本当にアレサとC・L・フランクリンを演じることになった。

中でも黒人社会の中で、女性の強さを描く作家性がある。それが認められたことで、『ハリエット』(2019)では、多くの黒人奴隷を解放に導き、正に黒人女性の強さの象徴ともいえるハリエット・タブマンの姿を描き、高い評価を得ている他、「セルフメイドウーマン~マダム・C.J.ウォーカーの場合~」、「Women of the Movement」といったフェミニズム色の強いドラマのエピソード監督も務める。

また一方で、黒人社会においてのキリスト教への信仰心というものが丁寧に描かれるのも特徴的で、『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』の中でも、ホイットニーの神への信仰心が根底にあることも描かれている。ホイットニーの母であり、アレサ・フランクリンやエルヴィス・プレスリーのバックアップを務めたゴスペルシンガーのシシー・ヒューストンとの母娘の関係性において、信仰がどう影響していたのかを自然に描いているのだ。

そして何よりミュージカルが好きだということだ。『クリスマスの贈り物』こそミュージカルであるものの、例えばミュージカルではない『ハリエット』でもその傾向があった。主人公に起用したシンシア・エリヴォは、スティーヴン・スピルバーグが映画化したことでも知られる、アリス・ウォーカー原作「カラー・パープル」の舞台版でジェニファー・ハドソンと共演したミュージカル女優として知られており、近年では、ジェニファーと同時期にドラマ「ジーニアス:アレサ」の中で、アレサ・フランクリンを演じ、演技・歌唱力共に高い評価を得ている。

他にも舞台に多く出演する俳優を起用することで、全体的に舞台感を演出しており、観ていて「本当はミュージカルにしたかったんだろうな」ということが伝わってくるし、ミュージカルではないのに本編の中で歌うシーンもある。黒人奴隷同士での会話が禁止されていたため、歌を通じて意思疎通を行う行為というのは史実上で存在しているものの、またそれとは違っている。そして何より、シンシアの歌声の魅力を伝えようとしているのが伝わってきて、「Stand Up」はその象徴的主題歌といえるだろう。

そんなミュージカルに想い入れの強いケイシーが、ホイットニーを題材としたミュージカル映画を撮るというのだから、期待しないではいられない。

ところがこの企画は、もともと『フォトグラフ』(2020)や『エブリシング』(2017)などで知られるステラ・メギーによって映画化が進められていたところ、作品の方向性の不一致によって降板し、急遽ケイシーが抜擢されたもの。

ホイットニーといえば、決して順風満帆なアーティスト人生というわけではない。白人のような歌として黒人から「ホワイティー・ヒューストン」と言われ批判も絶えなかったことや、レズビアン疑惑、夫のDV、父親の横領などスキャンダルが常に付きまとっていたことでも知られている。何より薬物依存により起きた事故で亡くなっているだけに、綺麗なミュージカルというわけにはいかないのだ。

ステラの場合はどちらかというと、重圧な人間ドラマを得意としているだけに、そういったホイットニーの暗部をメインに描こうとしたところ、製作サイドのエンターテイメント作品としての方向性と嚙み合わなかったのではないだろうか……。

実際に今作は、人間ドラマよりもホイットニーの音楽性にフォーカスしたものとなっていることから、両親、クライヴ・デイヴィス、親友のロビン・クロフォードとの関係性がざっくりとしか描かれておらず、ドラマ部分の弱さや説明不足な点が目立つ作品であることは間違いない。そのため、ある程度ホイットニーの知識を持ち合わせていないと、背景が解りづらい部分が多いのも確かなだけに、事前にドキュメンタリー映画の『ホイットニー ~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』(2018)を観ておくことをおすすめする。

とは言っても楽曲部分の構成は見事の一言で、1991年のスーパーボウルでの国家独唱の臨場感や1994年のアメリカン・ミュージックアワードで歌った「ドリームガールズ」の楽曲「And I Am Telling You I’m Not Going」のカバーで締めくくるというのは、なかなか憎い演出だ。

「ドリームガールズ」といえば、2006年にビヨンセ主演で映画化もされているが、実はその以前に、ホイットニー主演で映画化する企画があった。ホイットニーはビヨンセが演じたディーナ役でキャステイングされていたが、その中でどうしても、映画版ではジェニファー・ハドソンが演じたエフィが歌う「And I Am Telling You I’m Not Going」を歌いたいと熱望したことで企画が進まなかったなど、この楽曲への想い入れが強かったことがわかる。

ホイットニーというアーティストを熟知しているケイシーだからこその演出の数々が目を惹くものの、ドラマ中心にするかエンタメ性を中心にするかで模索していたのが伝わってきてしまうのが少し難点。暗い部分がありながらも、思い切ってエンタメ性に振り切ってしまった方が良かったとは思うが、いろいろと規制があった中でなかなか健闘したのではないだろうか。

次回は思いっきりミュージカル作品を制作してもらいたいところだ。

作品情報

I WANNA DANCE WITH SOMEBODY
【ストーリー】
ホイットニー・ヒューストンはいかにスターダムを駆け上がり、時代を熱狂させた<グレイテストソング>はいかにして生まれたのか。すべての壁を超え、「歌いたい曲を自分らしく歌う」ことに命を燃やした先に、彼女は何を見たのか……。
【クレジット】
原題:I WANNA DANCE WITH SOMEBODY
監督:ケイシー・レモンズ
脚本:アンソニー・マクカーテン
出演:ナオミ・アッキー、スタンリー・トゥッチ、アシュトン・サンダース、タマラ・チュニーほか
公式サイト:https://www.whitney-movie.jp/
12月23日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国の映画館にて公開中!

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