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インド映画とマイケル・ジャクソンの密接な関係性|『バンバン!』『ムンナー・マイケル』や、海外エンタメへのリスペクト
その圧倒的な個性で世界から注目されるインド映画には、キング・オブ・ポップことマイケル・ジャクソンから影響を受けた作品も多い。マイケルから影響を受けている作品や、インドが海外のエンタメをリスペクトする理由を探る。
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Text:バフィー吉川
音楽業界に多大な影響を与えた人物、マイケル・ジャクソン。“人類史上最も売れたアルバム”として知られるアルバム 『Thriller』がリリース40周年を迎えたことで、11月末にはビルボードトップ200チャートの7位にランクインしたことも大きな話題となっており、今もなおシーンに存在感を示し続けるまさに“キング・オブ・ポップ”だ。
そして、世界中の人を魅了してやまない彼が生み出したダンスは、インド映画においても大きな影響を与えている。
トム・クルーズ、キャメロン・ディアスW主演作『ナイト&デイ』(2010)のヒンディー・リメイク映画で、公開から8年越しに日本でも劇場公開されることが決定した『バンバン!』(2015)のタイトルソングでは、主演のリティク・ローシャンが、バキバキに割れた腹筋でマイケル・ジャクソンにリスペクトを捧げたダンスを披露している。
リティクは同作品のインタビューの際にも「マイケルは私のアイドルだ」と語っているほどで、これ以外にもマイケルのステップを取り入れたダンスを様々な作品で披露しており、生粋のマイケルファンであることはインドでも有名な話だ。
実はリティクに限ったことではなく、インド映画のダンスシーンには、マイケル・ジャクソンの影響が強く出ているものが多い。それはダンサーや振付師の多くがマイケル・ジャクソンという存在を神のように崇拝しているからだ。
マイケル・ジャクソンへの愛とリスペクトが爆発した『ムンナー・マイケル』
それを象徴するかのような作品として、2017年にはタイガー・シュロフ主演で『ムンナー・マイケル』という映画が公開された。同作は日本でも一部劇場ではあるが上映され、DVDも発売されているため、是非観てもらいたい傑作だ。
この作品は、マイケル・ジャクソンを崇拝する元ダンサーによって育てられた孤児を主人公とした物語。タイガーがマイケルよりもスタローンに見えるとか、年齢設定がおかしいというツッコミ所もあるが、それは置いといて……。
マイケルの写真がチラっと出てはくるものの、残念ながら権利の関係上、楽曲は使用することができない。しかし、それを補うかのように全編にわたってマイケルっぽい歌とダンスシーンが展開されるのだ。つまりマイケルらしさというものを理解できているからこそ再現可能であったということ。
リティク同様に、タイガーもダンサーとして高いスキルを持っているが、今作のために、ロサンゼルスで実際にマイケルの振付師だった人物からレッスンを受け、更に高みを目指したほどの力の入れようであるし、楽曲を手掛けた作曲家のプラナイ・M・リジアもマイケル好きとして有名な人物だったりと、マイケルへの愛とリスペクトに溢れた作品なのだ。
『ムンナー・マイケル』以外にも、『若さは向こう見ず』(2013)の「Badtameez Dil」ように「スリラー」のゾンビダンスを一部分だけ取り上げているものもあれば、『Kill Dil』(2014)の「Nakhriley」のようにがっつり取り込んでいるものもあったりと、様々なインド映画でマイケルリスペクトを感じることができる。
ディズニー制作のインド映画『ABCD 2』(日本未公開)では、ラスベガスでマイケル・ジャクソンのモノマネをしているストリート・パフォーマーを拝むシーンがあるほど。
これはインドに限ったことではないかもしれないが、ダンサーを目指す者にとってはまず第一に目指す存在というのは、インドも同じなのだ。インドのダンス系オーディション番組を観ても、マイケルのパフォーマンスを披露するダンサーが毎年多く参加している。
インドが海外エンタメをリスペクトする理由と過程
『ムンナー・マイケル』にもダンスコンテストの審査員としてカメオ出演しており、「インディアン・アイドル」や「ジャスト・ダンス」など、オーディション番組の審査員としても有名なファラー・カーンが振付師を目指したきっかけも、80年代のディスコブームでマイケル・ジャクソンの「スリラー」ダンスの素晴らしさを知ったからだと語っており、実際にファラーが監督を務めた『ハッピー・ニュー・イヤー』(2014)でもマイケルをリスペクトしたダンスシーンが盛り込まれている。
ファラー・カーンのように、70~80年代の海外カルチャーに影響を受けた映画人やアーティストも多く、そういった人々が2000年以降のインドエンタメを大きく発展させた立役者であるだけに、そこから派生したクリエイターたちも、その意識を受け継いでいる。
マイケルだけに限らず、例えば『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977)や『グリース』(1978)、『フットルース』(1984)といったダンス映画ブームの影響も大きい。様々な映画のダンスシーンでトラボルタの「あのポーズ」は今でも頻繁に取り入れられており、2022年6月に公開された『Nikamma』の中でも現役のように使用されている。他の国でも風刺的なネタにされることはあったりもするが、堂々と使っているのはインドくらいではないだろうか。
ボリウッドやトリウッドのように、インドの映画産業がハリウッドにちなんで〇〇ウッドと言うようになったのも、アメリカ文化への大きな憧れとリスペクトからきているものであり、もともとインドのエンタメ自体の基盤が海外エンタメであることを象徴している。
日本でもヒット中の映画『RRR』の中でも、どこかブルース・リーの『ドラゴン怒りの鉄拳』(1974)というか、香港映画の香りが漂っているのも決して気のせいではなくて、インド映画のアクションシーンの根底にはブルース・リーやジャッキー・チェンがいるからなのだ。
さらに2010年代になると、デジタル化が進み、世界のエンタメがより簡単にアクセス可能となったことで、もっと面白い化学変化が起き出した。
デジタル化による2010年代からのリスペクト対象の分散
プリヤンカー・チョープラー主演の『ガンデイ』(2014)の「Asalaame-Ishqum」は、明らかにクリスティーナ・アギレラ主演映画『バーレスク』 (2013)の影響を受けている。『フラッシュダンス』(1983)や『シカゴ』(2002) の要素も取り入れてはいるものの、どこからどう観ても、『バーレスク』が着想元であることがわかる。
また近年で特徴的といえば、インドでもMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)やDCなどのアメコミヒーロー映画が人気を博していることだ。『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(2022)や『ソー:ラブ&サンダー』(2022)なども週末ランキングでは1位を獲得しており、11月11~13日の週末ランキングでも『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が1位を記録している。
その影響は作品にもすでに出ており、タイガー・シュロフ主演のアクション映画『シャウト・アウト』(2020)の中でも、キャプテン・アメリカを明らかに意識したアクションシーンが登場する。他にも「ジョン・ウィック」シリーズや「ワイルド・スピード」シリーズなど、多くのハリウッド映画を意識した作品が年々増え続けている。
また動画配信サービスの普及で、映画を観るという行為自体が手軽になり、良くも悪くも映画に対する価値観は大きく変化している。簡単に世界中の作品が観れる環境になったことで、視野は急激に広まっているのだ。
少し前までは、流通の限られたものから影響を受けてきたわけだが、事情が変わってきた。つまりインドのクリエイターの心の中には、常にマイケル・ジャクソン、常にブルース・リー、常にジョン・トラボルタがフォーマットしてあったのが、今では世界中のエンタメとリアルタイムにリンクが可能となっている。
ラテンが好きでジェニファー・ロペスやシャキーラをリスペクトするダンサーやアーティストも多くなっているなど、個性がかなり分散されている。そこにインドならではのセンスだったり、ナショナリズムをミックスすることで、唯一無二のクオリティと世界観が構築されたものが出来上がってくるのだ。
そしてそれが今一斉に、そして圧倒的な母数で世界に押し寄せようとしている。何より世界もインドエンタメが個性的で面白いと世界が気づきはじめているのだ!!
こんなにもエンタメに貪欲な国は他にない……。