音楽の未来はAIにある? 2023年音楽シーンにインパクトを与えた音楽AIニュースまとめ


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音楽シーンにおいて、AIはこれまでにも音楽制作機材や音楽配信プラットフォームでのパーソナライズなどさまざまな用途で活用されてきた。しかし、2023年は"AIの台頭"と言えるほど、AIが音楽シーンにもたらす影響が大きくなったと感じる1年だっただろう。その結果、AIは新たな可能性や課題をもたらした。block.fmでも2023年は音楽シーンにおけるAI関連のニュースを報じてきたが、本稿ではその中でも特に注目すべき出来事をピックアップして、振り返っていく。
音楽の未来はAIにある? AIに対するアーティストの反応
EDMシーンを代表するDJ/プロデューサーのDavid Guettaは、AIの活用に対して、積極的な姿勢を示したアーティストのひとりだ。2023年、David GuettaはAIがAIが生成したEminem音声を使った楽曲「Emin-AI-em」を公開し、注目を集めたことは記憶に新しい。David Guetta自身は同曲が商業リリースされることはないと述べる一方で、AIと音楽クリエイティブの可能性に関しては、「音楽の未来はAIにある」と発言。のちにこのことを振り返り、AIに対する持論として、「音楽センスがひどければ、AIを使っても音楽はひどいまま」と語り、AIはあくまでツールであり、アーティストを定義するものは、技術的な能力よりもセンスであると主張した。
The Beatlesのメンバーであり、ロックのレジェンドとして知られるPaul McCartneyも、2023年にAIを音楽制作に活用したことで注目を集めたひとりだ。Paul McCartneyはAIによる音源分離を使用してJohn Lennonが残した古いデモテープから歌声を抽出し、ボーカルのみのステムを生成。それを用いながらThe Beatlesの“最後の新曲”である「Now And Then」を完成させたことを明らかにした。しかし、AIを実際に音楽制作に用いながらも本人はAIの可能性自体には期待する一方で、この先のことはわからないと、慎重論とも言える発言を行っている。
またNile Rodgersは、AIの台頭について、「数十年前にドラムマシンが誕生したときの恐怖と非常によく似ている」とコメント。しかし、テクノロジーを敬遠せずにうまく活用したアーティストの例として、故Aviciiを挙げながら、今後のAIの活用の可能性については、何が正しいかはアーティスト自身で判断するべきとし、「奇妙なことにAIは大したものではないかもしれないけど、もしかしたらすごく良いものになるかもしれない」と述べている。
一方、AIとともに音楽シーンでも昨今注目を集めるXRテクノロジーを融合させることで、新たなバーチャルアーティストを生み出す試みも見られた。
BTSの所属先として知られる、韓国の大手音楽エンターテインメント企業HYBEは音楽とテクノロジーを融合したプロジェクト「Project L」の取り組みの一環として、2023年5月にAIとXRテクノロジーを活用した新人バーチャルアーティスト、Midnattをデビューさせている。韓国の有名アーティストであるLee HyunをモデルとするMidnattのデビュー曲「Masquerade」のMVは、韓国語に限らず、日本語、英語、中国語、スペイン語、ベトナム語の6言語に対応するが、これにはAI音声スタートアップ企業のSupertoneのAI音声技術を活用。アーティストが外国語で歌唱した発音をAIが補正し、自然な発音で伝えられるようにすることで、より多様な言語圏で没入感のある音楽を提供できるとされている。
AI音声カバーに対する批判的な反応
このようにAIに対して肯定的なスタンスを示す有名アーティストが、実際にAIを活用した音楽を発表していく中で問題視されたのが、AIによる実在するアーティストの音声を無許可でカバーするディープフェイク楽曲だ。このAI音声カバーについて、高定期な意見を述べたひとりがOasisの元ボーカルであり、ソロアーティストとしても活動するLiam Gallagherだ。
Liam Gallagherは、自身の音声を使って制作された"架空のOasisのアルバム"というコンセプトのAIアルバム『The Lost Tapes』が話題になったことで、ファンのひとりから聴いたことがあるか尋ねたところ、「アルバム全曲ではないが1曲は聴いたことがある」と回答。さらに「めちゃくちゃすごいサウンドだ」と述べている。
一方、Drakeは自身の音声を無許可で使用したAI音声カバー曲が話題になったことを受けて、インスタグラムで懸念を表明。その投稿でDrakeは、「これがAIに耐する我慢の限界」という意味を示す"This is the final straw AI"というキャプションをつけて、レコード会社のUniversal Music GroupがSpotifyやApple Musicなど音楽プラットフォームに対して、AI企業がアーティストの楽曲にアクセスすることや、その音源をもとにAIを訓練することをブロックするよう要請したと伝える記事の画像を投稿している。
Drakeの所属するUniversal Music Group(UMG)の広報担当者は、無許可で使用したAI音声カバーを阻止することについて、「プラットフォームが楽曲の無断使用を防ぎ、アーティストや他のクリエイターの権利を侵害するコンテンツの摂取を阻止することは、アーティストに対して道徳的・商業的な責任がある」とコメント。また「プラットフォームパートナーが、アーティストに害を与える方法でAIサービスを使用するのを防ぐことを期待する」と発言している。
実際にUMGはSpotifyやApple Musicなどに対し、AIによる音楽へのアクセスを制限するよう呼びかけており、それを受けて、Spotifyはプラットフォーム上で公開されている音楽生成AIサービス「Boomy」を使用して作られた楽曲の7%、「数万」曲を削除。ただしこの件は、実際にBoomyでディープフェイク楽曲が作成されていたのではなく、同サービスで作成されたAI音楽を、botを使って不正再生したという嫌疑がかけられたことによるものだ(2023年11月にSpotifyは2024年初頭から実施するロイヤリティ支払いシステムの変更点のひとつとして、不正再生に対する罰則を挙げている)。
ちなみに問題になったDrakeとThe WeekndのAI音声カバーコラボ曲はグラミー賞候補曲として提出されるも、ボーカルがアーティストやレーベルによって使用許諾がおりているものではなく、商用利用も不可能なため賞の対象ではないという理由で、グラミー賞の対象外となっている。また、AI音声カバーが話題になった2023年5月にはこのテクノロジーを悪用し、Frank Oceanのディープフェイク楽曲集を販売するという詐欺行為が行われていたことも発覚している。
このような無許可によるAI音声カバー問題に注目が集まる中、他のアーティストに先駆けて、この技術を有効活用する方法を提示したのが、かねてからAI音声カバーに対して、肯定的なスタンスを表明してきたGrimesだ。Grimesは自分の音声を合法的にAIにカバーさせるだけなく、収益を折半できるAI音声ソフト「Elf.Tech」を公開。AI利用に伴う権利侵害をクリアにする形で音楽分野における合法的なAI活用の一例を示した。
その後、Elf.TechはKitoのような有名アーティストにも使用され、AI Grimesとの公式コラボ曲がリリースされたほか、Grimesはインディペンデント音楽配信サービスであるTuneCoreとも提携。これによりAI Grimesとのコラボ曲を作ったTuneCoreユーザーは、同プラットフォームを通じて自分の曲を世界中に配信可能になっただけでなく、その収益をTuneCoreのシステムを利用してGrimesと折半可能になった。
アーティストの権利保護が課題
AI音声カバーをはじめ、権利者であるアーティストやレコード会社に無許可でAIに音楽を学習させることが問題視される中で、音楽業界としてもAIを合法的かつ有効に活用するための新たな取り組みも試みられるようになった。
例えば、ブロックチェーン技術を利用した音楽配信サービス・Audiusは、アーティストの権利を保護しながらAIを活用できる新機能「AI Music Attribution」を導入している。
またYouTubeは今年8月に、「AIを音楽に活用するための基本的な考え方(AI Music Principles)」の制定とUniversal Music Group(UMG)のアーティスト、作詞・作曲家、プロデューサーが参加する「YouTube Music AI インキュベーター」の発足について発表。生成AIがクリエイティビティの新しい扉を開く中、この急速に進歩する分野において、YouTubeと音楽業界はこれまでの長期的な協働関係を継続し、責任を持ってAIを活用し、音楽業界と連携しながら責任ある改革の追求とクリエイティビティの強化を目指すことや、AIがクリエイティビティの新時代への扉を開く一方で、適切な権利保護と音楽業界への機会提供がなければならないとする考えも表明している。
その取り組みの一環として、YouTubeは2023年11月にGoogle DeepMindが開発する先進的な音楽生成AIモデル「Lyria」を利用した「Dream Track for Shorts」と「Music AI Tools」というふたつのAI音楽生成ツールを発表。Dream Track for Shortsは、現在実験的に一部のクリエイター向けに提供されている「YouTube Shorts」向けの機能で、Charli XCX、Siaら数組のUMG所属アーティストが参加しており、ユーザーがテキストで作成したい音楽のスタイルや歌詞のテーマなどを入力し、実験に参加しているアーティストの中から好きなアーティストを選択すると、YouTube ShortsのBGM用にそのアーティストの音声を使用した短い楽曲(最大30秒まで)を作成できる。
一方、Music AI Toolsは音楽制作の現場向けの機能だ。この機能では、鼻歌から新しいギターリフを作る、作成中のトラックをレゲトン調など別のテイストに置き換えるといった処理がAIにより簡単に行なえるようになる。YouTubeによると、このツールのテストは、2023年後半からMusic AI Incubatorの参加者を対象に行われる予定だ。
そのほかにも2023年にはSXSWでは、「Human Artistry Campaign(HAC)」という、人間の創造性と文化を支援する方法でのAI技術の開発・利用の保証に取り組む、クリエイティブ産業団体や労働組合などによる国際的な連合・運動が発足。10月にはHACに参加するレコード会社のUniversal Music Group(UMG)と音楽制作プラットフォームのBandLabが共同で、「AIの倫理的使用及びアーティストの権利の保護に対する共通のコミットメントを推進していく」と発表している。
今後のAIと音楽クリエイティブの関係の行方は?
現時点の音楽シーンにおいても、AIに対しては、革新的なテクノロジーであり、音楽の創造性や多様性を高めるという見方がある。また、2023年はテキストから音楽を生成できるAI音楽ツールが一般向けに公開され、これまで音楽を作った経験がない人でも自分のオリジナル音楽が持てるようになるなど、AIによって音楽へのアクセシビリティも高まっている。一方でAIを正しく活用していくためには、アーティストなど権利者の権利保護をはじめとしたルールメイキングは、音楽シーンにおける重要な課題であり、2024年もその動向が注目されるだろう。block.fmでは、引き続きAIと音楽クリエイティブの関係に注目していく。


