TAKU INOUE × ☆Taku Takahashi| いい曲の定義は?スランプのときはどうする?2人の“タク”によるプロデューサー・トーク

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ゲームやアニメの楽曲をはじめ、DAOKOやEve、anoらの楽曲プロデュース、星街すいせいとのプロジェクトなど、日本のユース・カルチャーになくてはならないプロデューサー、TAKU INOUE。
m-floとして常に新しい感性で音楽を発信する傍ら、宇多田ヒカルやBE:FIRSTなど国内外のアーティストの楽曲プロデュースも手掛ける☆Taku Takahashi。
そんな2人の“タク”によるプロデューサー対談が実現!
多岐にわたるプロデュースワーク、そしてDJとしても活躍する共通点を持つ彼らだが、どのようにして新しい音楽を生み出しているのだろうか?様々なトピックで質問を投げかけ、ポップカルチャーからクラブシーンまで支持を得る理由を探る。
目次
「スランプに陥ったときはどうしてますか?」
「制作時のルーティンはありますか?」
「1番困るクライアントは?」
「音楽AIツールを使うのは積極派?慎重派?」
「いい曲の定義とは。ヒット曲にするための法則はある?」
「DJとしてクラブの好きなところ」
「DJ/プロデューサーとしてのこれから」
「スランプに陥ったときはどうしてますか?」
☆Taku Takahashi(以下、☆Taku):基本、僕は常にスランプです(笑)。なんとなくフレーズを作って音色を選ぶ作業を延々とやってるんですけど。イノタクさんはどうですか?
TAKU INOUE(以下、イノタク):僕も大概スランパーなので(笑)。でも、やっぱり手を動かさないと精神的に落ち着くことはないとわかったので、嫌でも手を動かすのを最近は強く意識してます。
☆Taku:曲を作る時、最初の段階でなんとなくゴールは見えてるんですか?
イノタク:レファレンスを選ぶので、なんとなくのイメージができてるときはラッキーですね。そこに向かって進んでいけば完成する。「この曲のこの感じと、この曲のこの感じを合わせたい」ってイメージが自分の中にあると、楽しく制作できることが多いです。
☆Taku:びっくりするぐらい一緒です。でもこれ、人によるでしょ。そういうのにスポイルされちゃうから嫌だっていう人もいるし。イノタクさんは一曲にいろんな要素を入れてるけど、そこが僕と似てると感じるんですよね。
イノタク:m-floの曲も急に違う要素が入ってきたりするじゃないですか。僕はそれを青春時代に聴いてるので、かなり影響を受けてると思います。
☆Taku:僕がどうしてそうなったか、最近思い出したんですけど。昔、NYのイケてるラッパーたちが集まって作った曲があって。オリジナルは1つのトラックなんだけど、ブート版のリミックスが、そのラッパーごとにトラックがどんどん変わっていくものだったんですよ。支離滅裂なんだけど1曲として成り立つのがその曲でわかったというか。m-floもすごく支離滅裂だけど、なんとなくまとまってる。イノタクさんの曲も、自分がいいと思ったものをコンピレーションして、それをまた新しいものにしてると感じます。“ベンチマーク”とか“レファレンス”って言い方すると冷たいけど、自分がワクワクするものって必要ですよね。
イノタク:まさにそれを目指してます。やりたい方向性が見つかるとやっぱり仕事が早いですよね。
「制作時のルーティンはありますか?」
イノタク:まずはレファレンスを探します。昔は普段から常に音楽を聴いていたので、やりたいことのストックが溜まってたんですけど。年を取るごとに、音楽聴くのも映画観るのも体力がいるなと感じていて。だから意識的に聴く時間を設けるようにしてます。ミュージシャンとしてどうなんだって感じですけど(笑)。
☆Taku:わかります(笑)。レファレンスはどうやって探してますか?
イノタク:最近はやっぱりサブスクですかね。クラブで遊んでる時に友達に教えてもらったりとか。あとは、ラジオで見つけることも多いです。運転しながらJ-WAVEを聞いてるんですけど、気になる曲が流れてくることが多くて。後で調べて聴き直すことがよくあります。
☆Taku:あぁ、わかる。音楽って勝ち負けがないようで、あるものだと思っていて。それは売れた枚数とかじゃなく。僕の負けは、ラジオで不意に流れてきた曲に「うわ、何これ」って感じた瞬間が負け。でも嬉しい負けなんですよ。「俺もこれやってみたい!悔しい!」って。だから自分の曲もラジオで流れたときに「何だこれは?」って思ってもらえたら爽快だと思って作ってます。
イノタク:それは絶対嬉しいですよね。ちなみに僕は「m-floの新曲やべえ!」って毎回感じてますよ。「No Question」が出たときは「復活だ!」と思ってワクワクして聴きました。めちゃくちゃ参考にさせてもらってますし。
☆Taku:嬉しい。光栄です。僕はイノタクさんのサウンドデザインがすごく好きなんですが、メインで使ってるシンセはなんですか?
イノタク:シンセはSERUMとかSPIREとか、みんなが使ってるようなものですね。ひとつ特徴をあげるとしたら、僕はいまだにサンプリングがすごく好きで。シンセの音も、そのコードで鳴ってるサンプルを探したり。シンセに限らず、ストリングスのサンプルをシンセっぽくしたり、そうやってレイヤーすることが多くて。
☆Taku:僕もサンプリングが好きだから、イノタクさんの音が好きなわけだ。イノタクさんの曲は音が重なっていても暑苦しくない。ボディーブローがしっかり来るんだけど、ずっと聴いてられる。あれはどうやってるんですか?
イノタク:そう言ってもらえると嬉しいですね。確かに音数が多いので、すごく整理はします。一時期、音数を減らそうと思ったこともあったんですけど、自分がやっても仕方ないなと思って。多いのを個性にしながらも、整理はちゃんとしなきゃいけないなと。だから、EQとかはかなり追い込んだりします。あとは音数を多くしても休符は絶対残す。音を入れない瞬間を作るのはやっぱり大事だと思ってます。
☆Taku:空間とデュレーションのこだわりがすごい。気づかないところに入れてますよね。それが秘訣かぁ。
「1番困るクライアントは?」
イノタク:これはなかなかいい質問ですね(笑)。
☆Taku:アハハ(笑)。そうですね…、与件がないクライアントかな。向こうの考えがまとまってないとき。そういう時は、何をやったら面白くなるかを一緒に考えます。ファンを新しく広げたいのか、それとも今のファンを喜ばせたいのか、とか。自分のソロやm-floだとそこまでそういう考え方はしないんですけど、プロデュースワークの場合は、そのプロジェクトの成功や、そのシンガーが自信を持って歌えるものをどうやって引き出すかって考えるので。
イノタク:逆に、「これを絶対やってください」みたいなのはどうですか?
☆Taku:あぁ〜。これは自分のわがままな部分なんですけど、自分の曲をレファレンスに持ってこられるとそれも困るんですよ。同じことができない。サンプリングって奇跡的にハマるものがあるから、シンセだけで作るときに比べて、再現性が低いんですよね。そこは難しいところ。イノタクさんはどうですか?
イノタク:☆Takuさんと同じで、目標が見えてないのは困るかな。あとは「好きにやってください」っていうのも結構困りますね。そう言われるのが嬉しい人もいると思うんですけど、 僕は迷っちゃう。
☆Taku:大喜利のお題が少しでもあるとやりやすいですよね。そこからオリジナリティーも出せるし。でも向こうとしてはやっぱりイノタクさんが好きだから…。
イノタク:そう。よかれと思って言ってくださってるんですよ。なにかひとつキーワードがあれば、そこから作っていけるんですけどね。
☆Taku:直しがすごく細かいクライアントはどうですか?そういうこともあります?
イノタク:ナムコのときもありましたし、今のクライアントワークスでももちろんあります。実はそれ、嫌いじゃなくて。内容にもよりますけど、これだけ細かく聴いてくれてるんだなっていう安心感が得られるので。これだけ細かく聴いてくれるなら、本当に納得して世に出してもらえそうだなという気持ちになります。
☆Taku:なるほどね。僕もミックスの前の段階で10回直ししたことがあります。「なんか違うかな〜」っていうのを繰り返して、最終的には最初のものに戻ったんですけど(笑)。でも、一緒に探せるなら時間の許す限りやりたい。こういうときの「何が違うか」を探すのって結構大変ですよね。
イノタク:それが我々の仕事なんですけどね。
☆Taku:そう。彼らの言語を音楽化させるのは僕らの仕事だからね。あぁ、あとは連絡があまり取れないクライアントはちょっとドキドキする。曲が出来上がったら、そのチームのグループLINEに送るんですよ。それが既読になってからなかなか返事来ないと…色々考えちゃう(笑)。
イノタク:わかります!あれ怖いですよね(笑)。既読ついたけど返信来てないとき。デモを出してからの待ち時間というか、特にLINEが1番怖いですね。
「音楽AIツールを使うのは積極派?慎重派?」
イノタク:僕はまだ使ったことがあまりないんですけど、面白そうだなと思ってます。本当に困ったらちょっとアイデア出しに使ってみようかな。歌詞を入れたら曲作ってくれるものとかありますよね。
☆Taku:ここ数ヶ月でまたさらに進化していて。「このジャンルでこういう旋律で、こういう曲みたいな感じで、こういう歌詞で」って言ったら、もうトラックからメロディーと歌詞まで全部書いてくれるのが出ましたよ。
イノタク:…我々はいらなくなりますね、ついに(笑)。しかもクオリティも全然悪くないじゃないですか。
☆Taku:そう。最近のはさらにクオリティが高くなっていて。僕の友達は「この流れは止められないから、使える側になったほうがいいよ」って言ってた。
イノタク:本当にそう思います。
☆Taku:絵でも音楽でも、AIにちゃんとしたプロンプトを入れないといいものが返ってこない。それは、ボカロPがいろんなテクニックをみんなで切磋琢磨して作っていった感じと似てる。だから僕も反対派じゃなくて、即戦力になるものにできると思ってます。ちなみに最近はトラックから歌まで作って、ステムまで書き出してくれるんですよ。
イノタク:えっ!そうなんですか。今「さすがにステムはできないだろう」って思ってたんですけど。
☆Taku:でも聴く側からしてみると、何で作られてようが、その曲がいいと感じたらいいんですよね。
イノタク:そうなんですよ。やっぱり、その曲で感動したかどうかが大事で。
☆Taku:とはいえ、全部任せてたら、そもそも自分がやる意味ないし楽しくなくなる。無敵モードでゲームしてもつまらない、それに近いつまらなさがあると思ってます。
イノタク:絶対そうですよね。作る側はやっぱり作れた方が楽しいですよね。
☆Taku:今、うちの現場は、メロディーを作って男性が仮歌を入れたあと、歌う人が女性の場合はAIを使って女性の声にして渡すようにしてます。
イノタク:え、そんなこともできちゃうんですか?それは使おう。ミックスを軽くやってくれるAIもありますよね。結構いろんな活用の機会が増えてるんだろうなと思いつつ、まだ手を出してなくて。
☆Taku:あと、さっきイノタクさんが言ったように、僕らの存在意義がどうなるかっていう問題はあるよね。
イノタク:だんだんそういう悩みになってきそうですよね。 絵を描く人は、今すでにそういう状態に近いじゃないですか。我々も他人事ではないですね。
☆Taku:昔の人は何かしら楽器が弾けないとミュージシャンになれなかった。僕は楽器が弾けないんですが、それでもプロになれたのはDTMというものができたから。そういう意味で、誰でもAIを使って作曲ができるようになったとしても、みんながいい曲やヒット曲を作れたり、完成度が高いものを作れるわけじゃない。面白い発想とか、そういったところはまだAIを使いながら戦えるんじゃないかなって。
イノタク:そう考えると、ディレクション能力が鍵になってくるかもしれないですね。プロデュース能力とか。
☆Taku:イノタクさんはAIに対して、余裕ではないけど、そんなに不安がってもない感じですね。
イノタク:今は割とワクワクの方が強いですね。ひとつ好きな話があって。ヌーノ・ベッテンコートっていうギタリストがヴァン・ヘイレンの現場に行って、ヴァン・ヘイレンのギターとセッティングでギターを弾かせてもらう機会があったそうなんです。でも弾いてみたら完全にヌーノの音だったと。つまり、どんなにツールが一緒でも、人が違うだけで出音が全然違う。そういうのをまだ信じてるからかもしれません。
☆Taku:あぁ、なんの根拠もないんだけど、DJが同じ曲をかけていても人によって違って聞こえることってありますよね。
イノタク:不思議ですよね。あれはやっぱりマジックだなと思います。絵と違うのは、音楽は時間を有するアートじゃないですか。だからいろんな不確定要素がより入りやすいのかなと思っていて。そういうところでAIの制御はまだ難しいんじゃないのかなという、希望的観測を…。
☆Taku:その考え方すごく好きです。多分ツールは想像以上にどんどん良くなる。その中で、使えるところは使いつつ、そこで出せないものが何かを探し続けたい。
イノタク:確かに。そこでまた自分の立ち位置を探す楽しみがあるかもしれないですね。まぁ、来年には「やばい、仕事がなくなる」って言ってるかもしれないですけど(笑)。
「いい曲の定義とは。ヒット曲にするための法則はある?」
☆Taku:自分の中で“いい曲の定義”ってなんですか?
イノタク:難しい質問ですね…。月並みかもしれないですが、好きな曲は絵や景色が見える。自分の曲でもそうなんですが、好きな曲を聴くと思い浮かぶ風景みたいなものがあって。歌詞とか曲調と全然関係ない絵だったりするんですけど。だから自分で作るときも、その状態になるまでやります。
☆Taku:耳で聞くものなのに何かが見えてくる。それぞれの曲で何が見えたかって覚えてるんですか?
イノタク:覚えてるんですよ。だから聴くと思い出すんですよね。
☆Taku:僕の場合はいい曲を聴くと、絵じゃなくて「ふにゃ〜」とか「ぐにゅ〜」みたいな感覚的な何かがありますね。最近そういう感覚を言語化するのが好きなので言語化してみると、キュンと来る旋律。ルートの音を使うタイミング。あと、不安にさせる6度、ラの音。ラとシとドの使い方をどのタイミングにするかで、切なさが変わるなと思ってます。ラで不安にさせて、シでドに行きたくさせて…。
イノタク:ドで解決する、と。
☆Taku:そう。あとは、歌詞がその時代のリアリティーを感じさせて共感できるものがいい曲なんだろうなって、今のところ言語化してます。
イノタク:かなり具体的ですね。
☆Taku:ちなみに、イノタクさんはヒット曲になる法則ってなんだと思います?
イノタク:アハハ…あったら知りたいですけどね(笑)。
☆Taku:ですよね(笑)。僕も知らないし、たくさんヒット曲を出してる人たちも知ってるようで知らないかもしれない。自分でわからないなりに考えたのが、すごく曖昧なんですけど、“ムード”。
イノタク:曖昧ですねぇ(笑)。
☆Taku:そう(笑)。その時代のムード。例えば、Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」ってめっちゃいい曲だと思うんですよ。だけど、あれタイミング間違ってたら大コケしてるかもしれない曲だなと。
イノタク:あの曲、すごいですよね。狙ってるかわかんないですけど、ちゃんとヒットさせて。
☆Taku:本当によくできてるし、聴いていて面白いし、TikTokでミームにしても面白い。それで、結構テクニカルなこともしてる。
イノタク:ですよね。トラックとしてもかっこいい。
☆Taku:でもチャラい部分やコメディ要素もあって、すごく絶妙なバランスでできてる曲だと思うんです。あとはタイアップもあったりとか。でも、タイミング次第で全く状況が変わると思うんですよ。今すごくムード的に合うタイミングにはまってたんだなって。
イノタク:それは時代のムードだけじゃなく、そのアーティストの周りのムードとかも含めて。
☆Taku:そう。あの前の曲がないとダメ。あの曲でデビューしてたら、変な曲って言われて終わりかなって。
イノタク:確かに、ちゃんと積み上げてきたものがあっての、「Bling-Bang-Bang-Born」だから。
☆Taku:そう。実力と名曲だけじゃダメで、その時代とその人の周りのムードが全部当てはまるとヒットになるのかなって、最近思ってるんです。
イノタク:そこを掴める人がやっぱり名プロデューサーと呼ばれる人なんでしょうね。それは難しいよな〜。自分のことを客観的に見るのが1番難しいですからね。
☆Taku:そうなんだよね。僕、いつも自分に「力抜けよ」って言い聞かせるんですけど。特にm-floのとき。プロデュースの時は真面目にやりつつも、いい感じにリラックス出来てると思っていて。満足してもらえたり、いい結果が出たりするのは、うまく力が抜けてるのも大事だなと思うんです。
イノタク:冷静になるってことかもしれないですよね。視野が狭くなってると、変なことしちゃうじゃないですか。特にm-floのように思い入れがあるとそうなりがちですよね、きっと。
☆Taku:若い時の方がそれほど力んでなかったなと思う。だから今は力の抜き方を考えながら。「こうじゃなきゃいけない」が強くなりすぎたり、「この手癖は前やったよね」とか、自分のハードルを自分で高くしないように気をつけてますね。
イノタク:ファンなら手癖を聞きたいはずですからね。
☆Taku:自分も気持ちいいしね。それをやりすぎちゃう傾向があるから、少し抑えようかと思ってたんだけど。最近はあれこれ考えすぎず、もう素直になろうかなって。さっきイノタクさんも「これで大丈夫かな?」と思いながら作ってると話してましたけど、出てる作品からは僕、迷いは全然感じないですよ。
イノタク:それはそうですね。そういう状態になるまで、やっぱり頑張ります。でも、迷って出す時も正直あります(笑)。もちろん音楽的には絶対そう聞こえないようにしてますけど。
☆Taku:聞く側はわからない。話してるとみんな、クリエイターは半信半疑でやってるって言うよね。
イノタク:そうだと思いますよ。みんな迷いながらやってるはずだと信じてます。
「DJとしてクラブの好きなところ」
☆Taku:クラブの好きなところはいっぱいあるんですけど、ひとつは楽屋で他のDJたちと音楽の話をすること。最近聴いてる曲、打ち込みの新しいテクニック、機材の話とか。そういう話をクラブでできるのがすごく楽しい。
イノタク:プロデューサー的なクラブの楽しみ方ですね。僕はもう明確にクラブの好きなところは、音がでかいところです。これに尽きる。でかい音で音楽聴けば楽しい。
☆Taku:体験してない人からすると、「うるさいだけじゃん、そんなに違うの?」って言う人もいるかもしれない。音が大きいと楽しいって、やっぱりあの振動なのかな?
イノタク:特に低音の振動。あれは行かないと絶対わからない。特にサブベースの鳴りとか。Major Lazerの「Pon de Floor」を初めて聴いたときは家のスピーカーだったんですけど、ドロップのところがスカスカだなと思って。それが現場で聴いたらびっくり。あれがサブベースの初体験だったと思います。
☆Taku:わかる。フロアにいて気分が良くなったら、お客さんが少ない時とかはスピーカーの前を占領しちゃう。あれは至福のとき。あとは、人がぎゅうぎゅうに入ってて、めっちゃ湿気た空気になってるところでの音の鳴りとか。カラッとしてるところの鳴りと違いますよね。多分数値化できることだと思うけど。
イノタク:当然お客さんの数でも音が変わりますし。そういうのも面白いですね。
☆Taku:大きい音が鳴っていて、同じ音楽好きの人たちが高揚してる雰囲気もいいよね。
イノタク:みんなあえて酒とか飲んで、タガを外す場所じゃないですか。そういう部分も好きですね。あとはみんな少しオシャレして行くのも好き。特別な大人の遊ぶところ、みたいな雰囲気がいいですよね。
☆Taku:クラブは怖い人がいっぱいいるっていうイメージがあるけど、実際はそんなことないじゃないですか、特に電子音楽系のイベントは。だけど、なんで怖いイメージがついちゃうんだろう。今の若い人たちもそういうイメージなのかな?
イノタク:そうだと思いますよ。クラブはちょっと敷居高いなって。特に僕の、アニメの曲とかを聴いてくださるファンの方とかも、「勇気を出してMOGRAに初めて行きます」みたいなコメントをSNSでよく見かけます。
☆Taku:「行ったら楽しかった」ってみんな言うでしょ?
イノタク:そうなんですよ。でもやっぱり敷居は未だに高いと思います。
☆Taku:どうやって楽しんだらいいかがわからない、っていうのもあるのかな。
イノタク:あぁ、周りに変な目で見られるんじゃないか、とか。
☆Taku:ちゃんとやれてないとダメだと思っちゃう人は多いかもしれないですよね。変な踊りしちゃったら…とか。クラブカルチャーが最初に盛り上がったアメリカやヨーロッパは、かっこいい踊りをしてモテようとする人もいれば、いかに自分がユニークな踊りをして場を盛り上げるかっていう人もいて。
イノタク:自分がどう見られるかを割と気にしないというか、変な踊りだったとしても個性として受け入れられてますよね。
☆Taku:そう、「よくやった!」みたいな。そういう意識の差で、日本ではまだ敷居が高いものだと思われるのかな。
イノタク:海外だと、おじいちゃんおばあちゃんでもダンスミュージックで踊ったりするじゃないですか。日本だとなかなかないですよね。
☆Taku:僕、そこに関しては未来があると思っていて。昔は音楽って若い人のたちだけのもので、それ以降は懐メロしか聴かない人がほとんどだったと思うんです。今はサブスクになったおかげで、新譜と旧譜の境目もだいぶ減ってきた。あと、40〜50代になっても音楽離れしなくなってきてる。ダンスミュージックで踊るおじいちゃんおばあちゃんになるまではもう少し時間がかかるかもしれないけど、徐々にそういった人たちが増えてくるんじゃないかな。
「DJ/プロデューサーとしてのこれから」
イノタク:僕はしばらくソロの音源を出してなかったので、今年こそは出そうという気持ちでやってます。あとは女の子の曲ばっかり書いてたから、男の子の歌う曲を作りたいですね。
☆Taku:イノタクさんはソロを出すときって、締切を決めるんですか?
イノタク:決めます。というか、レーベルが決めてくれます。言ってくれないと絶対にやらないんで。
☆Taku:締切がなくてもやれる人ってすごいですよね。ダンスミュージック界隈のリリースってなんとなくの締切なのに、その環境で出し続けてる人はすごい。僕は締切を決めないでいたら、ソロを出すと言い続けて10年経ってしまいました(笑)。
イノタク:締切は大事(笑)。でも、僕も☆Takuさんもプロデュースワークで結構やりたいことをやれちゃってるのはあるかもしれません。
☆Taku:確かに。お題があっても、自分たちのエゴを出してますもんね。
イノタク:僕はあえて、プロデュースワークでも半分以上がエゴでやるようにしてます。僕に頼んでもらったからには、という気持ちがあって。
☆Taku:なるほどね。ソロ以外にもやりたいことはありますか?僕も引き続きいろんなプロデュースをやりたいと思ってるんですけど、今年m-floが25周年なんですよ。
イノタク:すごいですね。25年、1つのことを続けるって本当にすごい。
☆Taku:僕らもびっくりというか、「そんなに経ってるんだ」という気持ち。だから今年はm-floの曲もリリースしたいと思ってます。あとは、いろんなミュージシャンと一緒にセッションしたり、lovesも積極的に行っていこうと。
イノタク:期待ですね!僕のレファレンスが増える(笑)。
☆Taku:頑張りどころだなって…。あ、また力入っちゃってるでしょ?(笑)
イノタク:ホントですね(笑)。でも、すごく楽しみに待ってます!