コラム|『ShowMinorSavage』テーマカラー「ネイビー」から読み解く音楽、スタンス、可能性


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「ShowMinorSavageいいですよ」と薦められた。BE:FIRSTオーディションの中から生まれたBMSG所属のAile The Shota、SOTA(BE:FIRST)、MANATO(BE:FIRST)によるユニットである。
薦められたのはいわゆる推しだから、ということではなく音楽としてかっこいいからとのことで、聞けばユニットと同名の1st EP『ShowMinorSavage』にはChaki ZuluやTRILL DYNASTYと言った、ヒップホップ好きならお馴染みの名手たちが参加しているという。さらには自分たちのセルフプロデュース曲までバッチリ入っている。スピンオフ的な企画とは思えない気合いの入りよう。そこまで事情を知らずとも、これは紛れもなく本気のチャレンジなのだとアウトラインをなぞるだけでも分かる。
曲を聴きつついろいろと調べてみると(主にはRolling Stone Japanのインタビュー)BE:FIRSTのオーディション中、コレオグラフのテストの際に生まれたユニットであり、3人は意気投合した。その段階からその場限りにしたくないという強い思いがあったそう。3人の中での共通の好きなアーティストには、ミーゴス(Migos)やクリス・ブラウン(Chris Brown)の名前を挙げ、リファレンスにしているということも話していた。
その中で、個人的に特に印象に残ったのは自分たちのイメージカラーを、「Navy(ネイビー)」としていたこと。確かに、収録曲でありセルフプロデュース曲「No Cap Navy」にも「Navy」が使われているし、ジャケもネイビーを想起させる深いブルーを用いている。
「ネイビー」。EPを聞いた印象と繋がった。洗練された高貴な青、一方で若さ溢れる自由奔放な青、その二面生が混じり合うネイビーブルーは彼らのイメージにピッタリだ。もちろん共感覚など持ち合わせてはいないが、なんとなくしっくりきたというわけ。
ネイビー、ネイビーブルー、藍色、紺青、群青、それらについていろいろ調べてみた。ネイビーとはそもそもイギリス海軍(ネイビー)の軍服に使われていたことからその名がついた色。最初は海の青=マリーンブルー(Marine Blue)とも呼ばれていたが、いわゆるネイビーブルーが定着したらしい。ともあれ発祥はUKであった。
なるほど。『ShowMinorSavage』を聴いたとき、アメリカ的というよりも先にUKっぽい質感を思い浮かべたことにも合点がいく。一曲目「SUPER ICY」では、トラップをベースとしながら、いわゆるジャージークラブ的なリズム(Rolling Stone Japanのインタビューではジャージードリルと言っていたけど)も取り入れつつ、ダンサブルなトラックに乗せ、抜群の歌唱力で歌もラップもこなす。「Thinkin’ bout you」ではR&B的なアプローチをさらにミックスしてロマンスをしっとりと歌い上げる。ここには確かにクリス・ブラウン的な要素を感じつつ、パッと浮かんだのは、YouTuber・ラッパー・俳優・プロボクサーなど多彩な経歴を持っているUKのアーティスト、KSIの楽曲群である。
この人、UKアーティストならではの2Stepトラックも多いけど、アメリカのアーティストっぽい質感があって、それでいながらUK発音が絶妙にミスマッチなコントラストが新鮮で面白い。歌もうまいし、ラップもキャッチーだ。ほんの少しの違和感と、しかしどのような曲調でも耳心地良く聴こえる不思議。そんなKSIのカメレオンスタイルに近いものをShowMinorSavageに感じたのがファーストインプレッションである。
BMSGの一員として地上波メディアでも活躍している一方、今回のサイドプロジェクトは“大衆的”というよりも、徹底的に彼らの好みを突き詰めて高い純度で実現している。同じ音楽領域ではあるがキャリアを横断していると言う点でもKSIと共通しているし、それこそSKY-HIが率いるBMSGらしさでもある。ビートメイク、ソングライティング、プロデュース、ダンスの振付、そして表舞台でのパフォーマンス。いろいろなことをやって才能を活かして稼ぐ。それがグローバルスタンダードなのだ。その領域に足をかけるShowMinorSavageのようなアーティストが国内においてもスタンダードになってほしいと思えるような作品だった。
さて、「ネイビー」に話を戻すことにする。藍色は日本でも古くから親しまれている色だ。藍染の濃紺は「ジャパンブルー」なんて呼ばれたりもする。古来日本では“禁色”と呼ばれる身分制度の副産物が存在した。赤や紫、特権階級じゃなければその色を身に付けられないのだ。しかし藍色は平民でも誰でも身に付けられる色で、人気を博したという。現代においてもそうだが、昔から藍色の濃さによってその価値が決まっていた。濃淡はあれど、藍色は階級の垣根を超えた大衆色で万人に好まれていたそうだ。これはポップスとヒップホップという領域を跨ぎ、行き来する彼らにも通じる。
ヒップホップが音楽だけでなく、文化を内包しているからこそ、出自やバックグラウンドに重きを置く向きがあるのは当然である。そこにガラスの天井というか、境界線みたいなものはうっすらと、しかし確かに引かれていたわけだ。一定の年齢以上の世代であれば、なんとなくその感覚があるのではないだろうか。ヒップホップカルチャーをリスペクトしつつ、誰かが決めた境界線はぴょんと超えていく軽快さが彼らの(いや、厳密には今の「Z世代」と呼ばれる世代の)良さだ。自分たちのセンスを信じ、ピュアに好きな音楽に向き合って、楽しんで作っているのが良いのだ。打算的ではないからこそ、すっと耳に馴染む。ポップスを聴き馴れた人はもちろん、ヒップホップを好きな人にも。幅広いリスナーにリーチする彼らの魅力は確かに「藍色的存在」と言ってもいいだろう。
文化を搾取することはあってはならないという前提を踏まえた上で、ShowMinorSavageの活動はBMSGが生み出すムーブメントを通じてお茶の間から路上に逆輸入されたものであっても、ピュアで、かつクリエイティブであれば支持を得られることの国内アーティストにおけるモデルタイプとなり得る。
知る限りで言えばリル・テッカ(Lil Tecca)がネットやゲームカルチャーから頭角を顕し、遡れば横ノリを複合した文脈からタイラー・ザ・クリエイター(Tyler, The Creator)やオッド・フューチャー(Odd Future)の面々、引いてはファッションシーンでも偉大な権威を持ち、飛躍し続けているファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)がヒップホップアーティストとしても支持されていることはご存知の通り。彼らはストリート的ではあっても(比較的)ルーツを辿れば音楽に精通した、いわば音楽ナードなクリエイター的感覚を持っている人物たちである。いわゆる、スラム育ちでストリート叩き上げのフッドスター、というアーティストとは少し毛色が違うと言えるだろう。それでも彼らは多くのアーティスト、リスナーから支持され、その人気を不動のものとしている。(多様な人種文化背景と成熟度が違うから一概に比べられないとは思うのだけれど)。
さらに言えばBMSGの元締め、SKY-HIこそ身を持って、日本でそれを体現してきた存在だと個人的には認識している。AAAとして大きなステージで大観衆を沸かせたかと思えば、小箱のフロアで踊っていたり(びっくりする)、親交のあるラッパーの客演として明け方にラップしたり。オープンマイクに参加したり。そうやって、場所、出自、スタイルを問わず好きをピュアに追求してきた人であり、アンダーグラウンドもメインストリームも行き来して、国内におけるクロスカルチャーな土壌を耕してきた先駆者のひとりであるのは周知の事実。その遺伝子を継ぐ彼らだからこそ、さらに突き抜けてBMSGスタイルを貫き通してほしいと思う。
そもそもなぜ、ネイビーが軍服に使われたのか。それは褪色(たいしょく)しづらい色ということが大きいという。つまり、タフってこと。そしてスーツや制服などに多く用いられ、欧米では銀行など公的な文書のサインにはネイビーのインクが用いられることが一般的らしい。複写のカーボン紙に記入することを前提としているため、オリジナルがネイビー、複写は黒になるというわけだ。ネイビーのインクはフェイクではない本物の証明なのである。知ってか知らずか彼らの自信を表しているようで面白い。
このように規律的で、権威の象徴であるとともに、日本の藍色のように階級を超えた奔放さも含んでいる。さらには調和や協力、深い知恵なども表すとされており、実際にはもっと複雑に絡み合う価値観と多様性こそがネイビーという色の性質なのだ。
「No Cap Navy」の曲中、
「Yo. Listen, これは遊びさ 飾りじゃない 好きなように呼べばいい 何でもあり」
というリリックが示す通り、もっといろいろな音に触れ、もっと遊んでリスナーやファンを驚かせてほしいと率直に思う。1st EPはあくまで自己紹介で挨拶代わり。そんな余韻を残してくれたShowMinorSavage。今後国内だけでなくアジアやUS、ヨーロッパ圏のアーティストとリンクしていく姿を見てみたい。UK発祥の「ネイビー」にちなんで、2StepやUKGなどUKジャンルのダンスミュージックにも接近してほしいなと、個人的には思った次第。現在ミーゴスが3人のインスピレーション源になっているとのことだが、くれぐれも仲良くしてほしい。
最後になるが、日本の諺にはこんな言葉がある。
『藍は青より出でて藍より青し』
もともとは、中国の荀子(じゅんし)による『荀子』勧学(学問のすすめ)篇の冒頭で編まれた「出藍(しゅつらん)の誉れ(ほまれ)」から生まれた故事成語である。この荀子は、中国における哲学者のメインストリーム的存在である孟子・孔子の「性善説」を批判した人物として、異端者扱いされたらしい。
上述した諺は「青は藍草を材料にして作るが、藍草よりも青い」という、努力を止めなければ教えを受けた人は師よりも優れるという意味を持つ。(師もまた努力を怠ると弟子に追い抜かれるという戒めも含まれる)。
そしてこの言葉はこう続く。
『氷は水より出でて水より寒し(氷は水からできるが、水よりも冷たい)』
「今はまだ日本ではマイナー(異端)だけどイケてる音楽を発信する」という志を持つShowMinorSavage。SKY-HI総帥が青ざめるくらいに強烈なインパクトを残すまで、ぜひともカマし続けてほしい。それこそが彼らの歌う、目指すべき「SUPER ICY」なスタイルと言えるのではないか。
Text:Tomohisa Tomy Mochizuki


