ラップのリリックは罪の証拠となり得るのか?アメリカのヒップホップシーンを揺るがす裁判の行方と問題点


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2022年5月。リーダーのYoung Thug(ヤング・サグ)や、すでに釈放されたGunna(ガンナ)らYSL Recordsのラッパーが全部で28人、殺人や武装強盗、ギャング活動に関与した疑いで逮捕された。組織犯罪を取り締まるいわゆる「RICO法」を犯したとして罪に問われている本件は、今年に入ってから“ラップのリリックが証拠として扱われる”ことが焦点ともなっている。
当初からSNSなどの投稿に関しては起訴状に記されており、今年11月になってジョージア州フルトン郡の裁判官が“条件付き”としつつも「リリックを証拠として扱う」方針を発表した。
実際に争点となっているリリック
2021年11月、Young Thugはアメリカの人気番組「Saturday Night Live」に出演し、シングル「Tick Tock」をパフォーマンスした。そのリリックには「額縁(楽曲のセールス記録達成で送られる)をもらう前から、俺は地元ではチャポのような存在だ」とある。
チャポとはメキシコの麻薬王El Chapo(エル・チャポ)を意味しており、このリリックから今後の裁判で実際に麻薬王のような活動をしていたのか、殺人を含む多くの犯罪を実際に指示してきたのかが問われる。検察側は特に、レンタカーを借りライバル関係にあるギャングメンバーを殺害したことを主張している。
条件付きで扱うとは?裁判官のコメント
裁判官は11月の時点で起訴状で言及されている17組のリリック(Young Thug以外も含む)について、公判で予備的に認められるとの判断を下した。昨年12月にはYoung Thugの弁護士が異議を申し立てていたが却下されたことになる。裁判官のコメントは以下の通り。
「私は現在保留している該当する歌詞を、証拠として認めようとする場合、基礎的に適切であれば条件付きで認める」
裁判で使われる言葉を日本語に訳すことは難しいが、裏付けもあり、適切なプロセスを経て証拠として提出されれば証拠になりうる、という意味に捉えられる発言だ。同時に今後の裁判において検察側が追加の歌詞を提出することも認めている。
リリックはクリエイティブなものである
Young Thugに関する裁判の一連の流れを見て、中には自身のリリックはフェイクだと認めるラッパーも出てきている。ベテランラッパーのFat Joe(ファット・ジョー)は30年以上のキャリアの中で、「自分の曲の95%は嘘のリリックだ」と発言。その時々で感じたものを曲にし、それがクリエイティブなものだと説明しており、もちろんリリックが裁判の証拠に使われることには反対している。
21 Savage(21・サヴェージ)もRolling Stoneのインタビューで「俺のリリックはフィクションだ。中には実際の生活に基づいたものもあるけどね」とコメント。
100%リリックの通りに行動していたのであれば証拠として扱われることもあるだろう。しかしラッパーの中にはその全てのリリック自分で書いたわけではないケースも多い。それらの判断を裁判官はどう下していくのだろうか。
.@21savage tells Rolling Stone that his music is "fiction as hell."
"Some of it be based off of real life, but a lot of it be creative stories."
Cover story: https://t.co/ZZAKadIVSk pic.twitter.com/aCjIgVCip4
— Rolling Stone (@RollingStone) December 18, 2023
カリフォルニア州ではリリックの使用を制限
2022年10月、カリフォルニア州知事は法廷での証拠としてラップのリリックの使用を制限する画期的な法案に署名した。ここがアメリカの“合衆国”として難しいところなのだが、こちらの州では認められ、他の州では禁止ということはよくあるケースなのだ。この法案はアメリカ国内でも初のことで、カリフォルニア州は一歩先に進んでいるという感もある。署名をする際にはオンラインでMeek Mill(ミーク・ミル)やTy Dolla $ign(タイ・ダラー・サイン)、さらにはグラミー賞を開催するレコーディング・アカデミーのCEOまで出席した。
カリフォルニア州においてこのような法案が通ったのには背景がある。2021年12月に亡くなったロサンゼルス出身のラッパーDrakeo the Ruler(ドレイコ・ザ・ルーラー)と彼のチームは、2017年に殺人の容疑で逮捕されていた。2019年には殺人容疑は晴れ、その後司法取引に応じて2020年に釈放。
その間検察は「Drakeo the RulerのリリックやMVは、彼とそのチームが実質的な暴力的ギャング集団である証拠だ」と主張していたのだ。しかし結果は無罪に。この事件は現在も続くYoung Thugのケースに最も近いものではないだろうか。
CA is the 1st state to ensure creative content – like lyrics & music videos – can't be used against artists in court without judicial review.
Thanks, @JonesSawyerAD59 for your work & @yg @KillerMike @tydollasign @Tyga @MeekMill @E40 @TooShort for your dedication to the cause. pic.twitter.com/cpOSCiHh0X
— Governor Gavin Newsom (@CAgovernor) September 30, 2022
先に釈放されたGunnaは?
Young Thugらと同じタイミングで逮捕され、昨年末にいち早く釈放されていたGunna。その後6月にはニューアルバム『A Gift & A Curse』をリリースし、ライブ活動も行うようになっていった。当初はスニッチ呼ばわりされていたものの、今となっては沈静化。本当のところはYoung Thugのみが知ることかも知れないが、「fukumean」はJay-Z(ジェイ・Z)がプレイリストに入れるなど大ヒットとなった。
ライブでは「Free Young Thug」を叫ぶなど、忠誠心を見せるGunnaだが、旧友(となってしまうのか…)Lil Baby(リル・ベイビー)は先日Gunnaのことを、裏切り者を意味する「Rat」だとコメントするなど、まだ関係性は悪いまま。Young Thugの父親はこのLil Babyの発言に対し「黙れ」と一蹴していたが、まだまだほとぼりは冷めないだろう。
今月予定されていたYoung Thugの裁判は1月に延期。他州では制限されている裁判におけるリリックの使用を、無理やりにでも続けるのか否か。2024年も引き続き注目していきたい。


