【レビュー】青春時代の記憶を呼び起こす、Primulaの最新作『GONE』を聴く

DÉ DÉ MOUSE、Maika Loubté 、ONJUICYも参加の最新アルバムをレビュー。思春期のノスタルジーを表現する青春音楽家Primulaの楽曲は、記憶の片隅にある青春時代の情景を思い出させる。
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2019.05.28 04:00

Primula(プリムラ)は“青春”、“思春期”という言葉を音楽としてかたちにし、音を紡ぐ青春音楽家である。最新アルバム『GONE』を聴けば、きっとその意味が分かるはずだ。




Primula 3rdアルバム『GONE』をレビュー。DÉ DÉ MOUSEとの邂逅を経て生まれた青春エレクトロ劇場最新作


Primulaは2014年に2nd アルバム『Aquarius』を音楽レーベルNeguse Group(ネグセグループ)からリリース。ちなみに本稿では触れないが、Neguse Groupは山梨を拠点に不定期でさまざまなアーティストの音源をリリースしているレーベルで、けっこうすごい人がいたりして知る人ぞ知る虎の穴なのだ。


block.fmのDÉ DÉ MOUSE(デデマウス)特番でも言及されていたが、Primulaのタイトル楽曲「Aquerius」とMVがある日DÉ DÉ MOUSEの目に留まった。もともと気になっていたというDÉ DÉ MOUSEがPrimulaに直接コンタクトを取るきっかけとなり、ふたりは邂逅する。この出会いがDÉ DÉ MOUSEレーベルnot recordsから3枚目のアルバム『GONE』のリリースへとつながっていく。そんなストーリーだけで切り取ってみても、なんだかとても青春ぽい匂いがする。詳しくは以下の記事を参照してほしい。


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失われた時を求めて


最近、筆者は体調を崩し2週間ほど家で安静にしていなければならない状況になっていた。そんな中でもやらなければならない仕事があったため、原稿を書いては横になり、ほぼ自宅から出ることはない生活を送っていたのだが、そんな時になぜか幼少期夢中になっていたゲームのことを思い出していたのだ。


1999年発売のFINAL FANTASYⅧ(以下:FFⅧ)は、小学生だったころに発売されハマったゲームのひとつ。好き嫌いは分かれるが、美麗なグラフィックは前作FFⅦからだいぶ進化して、当時は子供ながらに感動していた。このゲームはSFファンタジーの異世界の物語であるが、学園を舞台にした青春モノでもあるのだ。


そんなゲーム動画を毎晩寝る前に見返していたら、歳の近い先生が主人公に恋していたり、学園祭バンドイベントがあったり、こじらせたヤンキーが執拗に何度も絡んできたり、ヒロインとダンスパーティで踊ったり、あきらかに広末涼子似(FFオフィシャルから言及されたことはないが、当時は広末涼子人気が絶頂大爆発状態で、FFのキャラデザに影響を与えたかもしれないと思わせるくらいにすごかったんじゃよ)の転校生が制服姿で華麗に登場したり、主人公は口数が少ないが、心理描写が異常に多かったり。FINAL FANTASYでありながら青春街道を突き進むような設定だったことを思い出し、動画でストーリーとセリフを追っかけているだけで精神的に豊かな気持ちになれた。


仲間や好きな人を相手に、青春時代はこうありたかったという描写や要素が非常に多いのだ。学園モノのアニメの人気が高かったりするのは、大人になった人たちの失われた青春時代への憧れや後悔がそこにあるのではないだろうか。青春音楽家Primulaはまさに、音楽によって青春、失われた尊い時間を表現し取り戻そうとしている。


それは今作に限らず今までのPrimula作品に共通しているコアとなる部分だ。2012年のアルバム『Youth Center』の「No Body Class Room」について自身で以下のような解説(設定付け)をしている。





これはフィクションかもしれないし、ノンフィクションかもしれない。だが言語化されたシチュエーションを、Primulaの楽曲は確かに映し出してくれる。誰しもが人生の一瞬を過ごしたであろう、限定された不思議な“教室”という空間を各々が思い出し、音楽とともに映像が再生されていく。




青春エレクトロニック第3章『GONE』


Primulaによる青春エレクトロ劇場『Gone』はブラスのような電子音が陽気なDÉ DÉ MOUSEとの「Make My Day」から幕を明ける。こちらのMVがまたすごい。体操着、水兵、制服、短パン、パンツ一丁、さまざまな青春まるだしスタイルと華麗なダンスで楽しませてくれるPrimulaは見慣れているが、DÉ DÉ MOUSEがフレッシュな制服姿で登場するのだ。この制服姿がイケてて、こういう高校生マジでいるよ! と思わせるのはほんとすごい。不老不死ですか。




MVをご覧いただければ分かる通り、Primulaの腰に巻かれたガチャベルト、チャリカゴにつけた鍵、階段手すりすべりといった青春要素がふんだんに盛り込まれている。PrimulaとDÉ DÉ MOUSEがMV内では直接出会わずに平行線を辿りながら、Primulaの必死な姿が、DÉ DÉ MOUSEに何らかの心境の変化を与えた、と想像させるストーリーも素敵。制服のスラックスの色が違うからたぶん他校生という設定なのだろう。私立と公立的な。


続く2曲目に収録されたタイトルトラックはMaika Loubté(マイカ・ルブテ)を迎えた切な系チューン。「GONE」のタイトル通り、過ぎ去ってしまって取り戻すことのできないものへの郷愁が音楽として表現されている。寂しいが、新たな希望を予感させる。そんな楽曲だ。霞みがかかったような、幻想的なMaika Loubtéのボーカルも素晴らしい。MVの舞台は銭湯。「Aquerius」以降、Primula × 水の共演は名曲認定で間違いない。たぶん水属性である。登場するPrimulaの襟足が異常に長いのは、つい引かれてしまいそうになる“後ろ髪”を表しているのだろうか。




ONJUICYを迎えたリードトラック「Back in the Days」


アルバムリリースから先行して公開された「Back in the Days(Air Max)」はグライムMCとして活動し、Trekkie Traxなどダンスミュージックシーンの重要レーベルとも交流があるONJUICYをフィーチャー。これも先述した記事を参照してもらえると分かるが、DÉ DÉ MOUSEがONJUICYとのコラボを「串カツ田中」でPrimulaに提案して実現したコラボレーションだという。


☆Taku Takahashiいわく10分でリリックが書けるという速筆で名高いONJUICYのグライムがPrimulaの青春エレクトロと融合。滑舌よく小気味よいラップのテンポが絶妙なスパイスとなって調和している。リリックもAir Maxをキーワードに過去から今に続くストーリーを展開。共感するとともに、色んなことを思い起こさせてくれる楽曲だ。




DÉ DÉ MOUSEによるリミックス「Back in the Days(Converse Remix)」もサプライズリリース。オリジナルとは別リリックとなって、違う世界線を描き出している。原曲でも印象的だった


あの ころ から 今 どこ まで 来た まだ ゲームの中


のフレーズが強調され、トラックはゴリゴリのトラップに。後半にかけだんだんと凶悪に変貌していく様は、それこそFFシリーズの倒しても倒しても終わらないラスボス戦を彷彿とさせる。フロアのでっかいスピーカーでブチ食らいたい悪魔的なダークサイドリミックスだ。




初夏の爽やかさと、湿気に満ちた気だるい教室が目に浮かぶ


4曲目の「Our Trouble」というタイトルなのにどこか楽しげな楽曲は、10代の多感な時期はトラブルにワクワクしていたように思えるし、一方で今思えば全然大したことないけれど当時はマジでやべえという切羽詰まった状況を表現しているように感じ取れた。RPGのコマンド画面のような「ピロン」という音が印象的。クライマックスにかけて盛り上がっていく構成は見事。衝動的に走り出したくなる。


季節感はあまり関係ないかもしれないがアルバムを通して、初夏の好天に聴いたら気持ち良さそうな爽やかヴァイブスと、反面どこか日本特有のジメジメした、湿度の高い気だるい雰囲気がある。蒸し暑い教室と、夏に向かってそわそわしていた当時のなんともいえない感情に包まれる。


系譜を辿ればさまざまなアーティストの影響を受けていたり、制作の技術的な部分でのこだわりがわかるのだろうが、それらが全く分からなくても(実際筆者は音楽を作っていないのでスキル的なところは正直分からない)肌で感じて、尊い青春のきらめきと不安定な感情を呼び起こさせてくれる作品である。


個人的にはアフロビートチックな不穏なビートと、爽やかさが同居したメロディーが特徴的な5曲目の「Primula Express」、夕暮れ時の校舎と空気感に満ちたノスタルジーを感じさせる10曲目の「Classroom5」、夏の本格的な到来、ピーカンの青空へと季節が向かっていくようなラストトラック「The New Blue」がお気に入り。


アタック強めのノイズがかった打ちこみが青春時代の解像度の粗さを思わせるのも特徴だ。インダストリアルな硬めの音に胸キュン必至のファンシーなシンセが組み合わさった、Primula印の青春エレクトロがパッケージングされている。




このように語るPrimulaと同様、アルバムを聴いて生まれた自分のエモーショナルな感情を文章にしたところで共感はしてもらえないかもしれないし、記事を書きながら戻らない青春を思い出すことで正直どこか物寂しくもある。だが少しでもこのアルバムの魅力が伝わればと思う次第だ。


『Gone』のジャケットは刺繍アーティスト二宮佐和子さんによるもの。表側ではなく裏側をジャケに持ってきて、刺繍の表側は開封しないと見られない仕様になっているという。



刺繍は青春要素を大いに含んでいる。刺繍を入れた学ランに憧れたり、体育着の名前の刺繍が乳首にこすれて痛かったり、刺繍は青春を象徴するアイテムだったように思う。


卒業アルバムを片手に、ニューアルバムをひっさげてチャリンコをこぎまくる青春音楽家、Primulaの最新作をゲットして、キミも今から青春時代にダイヴして、無邪気にダンスしてみないか。





image:Primula GONE


『GONE』

リリース:2019年5月15日

2,000円+税

レーベル:not records

品番:NOT0022

Amazonのほか全国のTOWER RECORDS、HMVなどのレコードショップでお求めいただけます。


『Gone』特設サイト:http://primulakyun.com/gone/


▶Tracks

Make My Day feat. DÉ DÉ MOUSE

GONE feat. Maika Loubté

Our Trouble

A Disappearing Rainbow

Primula Express

Back in the Day (Air Max) feat. DÉ DÉ MOUSE & ONJUICY

Tangling

Lost Over

Swimming in the Memory Pool

Classroom 5

Dantism

The New Blue


Produced by Daisuke Masuo and Masaki Watanabe

All songs written by Primula

Art direction, Design by Masaki Watanabe

Embroidery by Sawako Ninomiya


Featuring artists:

DÉ DÉ MOUSE (M01, M06)

Maika Loubté (M02)

ONJUICY (M06)


▶Primula




思春期 & 青春エレクトロニック。誰もを遠い少年の日に引き戻すメロディーと変質なサウンドを得意とする。

そのサウンドがUKを代表する映画音楽、テクノ・ダブステップアーティスト、SI BEGG(サイ・ベグ)の耳に留り『Jetlag And Tinnitus Reworks 5』でリミキサーとして起用される。

2012年8月、Neguse Group よりアルバム『Youth Center』でデビュー。2014年発表のシングル『My 1st Time EP』はiTunes エレクトロニックチャートで1位を記録。同年7月には2ndアルバム『Aquarius』を発表。

そして、2019年5月に3rdフルアルバム『GONE』を DÉ DÉ MOUSE 主宰の not records よりリリースする。

また、moshimoss によるプロジェクト Preghost のアルバムへの参加や、チェコの Kubatko とのコラボレーション、ラッパー mal da kid、校庭カメラガールツヴァイ他へのトラック提供、韓国で開催された電子音楽フェス Festival Morph や、Beat Invitational などの大型イベント、Natural High!、earth garden などの野外フェス、DOMMUNEへの出演、DÉ DÉ MOUSE 『dream you up』リリースツアーへの出演など、映像とダンスによる強烈なライブパフォーマンスを展開中。


written by Tomohisa“Tomy”Mochizuki


photo by Primula GONE


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