音楽ライブで人形劇?! Oneohtrix Point Neverによる斬新なVJ融合ライブを体験


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「アイディアとして確実にあるのは……典型的なエレクトロニックミュージックのコンサートのお約束を無視する、というか。エレクトロニックミュージックのコンサート、と言われて誰もが抱く予想を裏切るようなものをやりたい、ということだね」
そう、Rolling Stone Japanのインタビューで語っていたOneohtrix Point Never(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、以下OPN)の最新ライブにおいて、筆者は通常では感じることのない衝撃を受けた。その理由は舞台の一角に設置された、当日のステージを細部まで再現したミニチュアだった。このミニチュアの中でOPNを模した粘土細工の人形がリアルタイムで動かされ、演出されていたのだ。さらに驚くべきことに、この人形の動きは背景の大型スクリーンに映し出され、VJの映像とシームレスにリンク。この目を疑うような演出は、観客に新たな視覚体験を提供していた。
このユニークな演出を企画したのは、映像作家のFreeka Tet(フリーカ・テット)。彼は最新アルバム『Again』収録曲「A Barely Lit Path」のミュージックビデオを監督した人物だ。さらに驚いたのは、その彼が実際にステージ上で人形を操っていたこと。アナログの人形劇と3DCGをはじめとする最新の映像技術との融合は、OPNが特徴とする電子楽器と生楽器の複雑な重なりと調和しており、これまでにない創造性に富んだステージを実現していた。
OPN、Daniel Lopatinの音楽世界
Oneohtrix Point Neverはアメリカ出身のDaniel Lopatin(ダニエル・ロパティン)によるプロジェクト。Daniel Lopatinは作曲家兼プロデューサーとして活動しており、電子音楽と実験音楽の分野で頭角を表した。彼の音楽はその革新的なサウンドデザインと多層的なテクスチャで知られ、シンセサイザーを基軸としたアンビエント、ノイズ、ドローン、コンクレート音楽の要素が融合した独自の作品が支持されている。
OPNは2017年に映画『グッド・タイム』サウンドトラックでカンヌ国際映画祭のサウンドトラック賞を受賞。しかし、それでもその頃はどちらかといえば、まだまだ一部の電子音響音楽好きの間でのみ知られるカルトスターにすぎなかった。
The Weekndも認めるOPNの才能
そんなOPNのキャリアにとって大きな転機となったのは、2020年にリリースされた世界的ポップスターであるThe Weeknd(ザ・ウィークエンド)のアルバム『After Hours』にプロデューサーとして抜擢されたことだ。アルバムがヒットを記録した後もThe WeekndとOPNの蜜月は続く。コロナ禍の2021年に開催されたスーパーボウル・ハーフタイムショーにThe Weekndが出演した際には音楽監督を務め、OPNのアルバム『Magic Oneohtrix Point Never』でもコラボが実現。さらにThe Weekndのアルバム『Dawn FM」ではエクゼクティブプロデューサーのひとりに選ばれるなど、OPNはカルトスターから世界屈指のプロデューサーにまで昇りつめた。
自伝的作品であるニューアルバム『Again』
革新的なステージデザインを背景に開催されたOPNの来日公演は、最新作『Again』の楽曲を中心に壮大な体験を提供していた。その『Again』は、本人の言葉を借りれば「観念的自伝」であり、メッセージであり、デジタル言語と音響的パラノイア、記憶されたものと忘れ去られたものの呪術的な逆流であり、そのすべてがOPNのトレードマークであるメロディックなタッチで表現されている。
最新アルバムから過去の名曲までが披露された圧巻の最新ライブセット
オープニングアクトのステージが終わり、ライブが始まるまで待つこと20分。舞台は幻想的なスモークで包まれ、ついにOPNの最新ライブが幕を開けた。映像作家Freeka Tetを伴いOPNが姿を現すや否や、会場は期待でざわめき始める。ライブは最新アルバムのタイトルトラック「Again」でスタートし、その瞬間ステージは生き生きとしたエネルギーに満ち溢れた。続く「World Outside」では刺激的なノイズ、重厚なビート、ロボットのようなボーカルが響き渡る。そして、"Again"の文字がステージ後方のスクリーンに浮かび上がり、『Again』をテーマにしたライブとして完璧なスタートを切った。
Photo by Yukitaka Amemiya
しかし、OPNはそこで止まらない。2009年の楽曲「Time Decanted」を披露し、新旧のミックスでファンを驚かせる。最新モードへのフリを見せつつ、深い音楽の旅へとオーディエンスを誘う。そして「Plastic Antique」をはじめ、「Zones Without People」や「Mutant Standard」などサイケデリックでトランシーなリフが炸裂する楽曲から、壮大なアンビエントの「Power of Persuation」や「Imago」まで、彼の音楽的範囲の広さを存分に堪能させられるセットを展開。ライブの中盤は『Again』のアルバムコンセプト「観念的自伝」を体現するかのような、深く思索的なセクションとなった。
なるほど!と思わされる一方で、そろそろ新曲も聴きたい気分が高まってくる中、OPNは迎えたライブ後半戦、ついにファンが期待していた最新モードにシフトチェンジ。アコギの音とノイズが絡み合うシューゲーザー的楽曲「Krumville」、「Memory Of Music」や「Nightmare Paint」といった轟音ノイズとギター、電子楽器の音が一体となった騒々しくも美しい、美しくも儚い、感情を揺さぶる要素が渾然一体となる曲など、まさに電子音響音楽の魅力が詰まった 『Again』からの新曲がたっぷりと披露された。
ライブの終盤と圧巻のフィナーレ
ライブのクライマックスに向け、OPNはシンセサイザーの鋭い音色が特徴の「Boring Angel」をプレイ。この曲では意識を切り取るかのような鋭角なシンセの音がループし会場を包み込む。続いてOPNの人気曲「Chrome Country」がライブのハイライトとして披露された。圧巻だったのは、本来約5分のこの曲が約10分にわたって演奏されたことだ。美しいピアノの音色やクワイア、浮遊感のあるパッド、荘厳さが宿るストリングスが印象的な曲だが、今回のライブではそこに激しいノイズなども加わったことで陶酔感も向上。目を閉じて聴いていると自分の意識がサイケデリックな色をした万華鏡の中に取り込まれていくような感覚を覚えた。
「Chrome Country」を披露し終えた後、OPNは観客に向けて感謝の言葉を口にし、ここで一旦ステージから退場。会場からはすぐさまアンコールを求める大きな拍手が巻き起こった。しばらくして、鳴り止まない拍手に応えるように再びOPNがステージに現れる。『Magic Oneohtrix Point Never』収録曲「Nothing’s Special」からスタートしたアンコールセットでは『Garden of Delete』から「Animals」、そして最後に『Age Of』から「We’ll Take It」を披露して圧巻のステージを締め括った。
Photo by Yukitaka Amemiya
映像演出の中のサプライズ、OPNファンを魅了する小ネタたち
映像演出の面では、OPNファンであれば気づくであろう小ネタも盛りだくさんだった。たとえば先述した人形は今回4体登場したが、そのひとつは『Age Of』収録曲の「Black Snow」に登場したエイリアン。また「Animals」では、赤ジャージを着た俳優のVal Kilmer(ヴァル・キルマー)出演MVも映像演出に取り入れられていた。ほかにも「We’ll Take It」でもそのMVが映像素材として活用されていたが、MVでは3DCGで表現されていた人物が今回の映像ではFreeka Tetが操る人形に置き換えられていたのだ。そういった小ネタも観客の視覚や意識を大いに刺激する要素となっていた。
Photo by Yukitaka Amemiya
世界を巡るOneohtrix Point Never、次なるステージへの展望
OPNはこのツアーを機に、ベルリン、マンチェスター、ロンドン、パリ、ニューヨークといった世界各地の主要都市を訪れる予定であり、その先駆的なステージは引き続き多くの観衆に深い印象を与えることだろう。また2024年のコーチェラへの出演も決定しており、OPNの音楽とパフォーマンスはさらに多くのオーディエンスに届けられることになる。今回の来日公演で示された音楽とビジュアルアートの融合による境界の拡張は、OPNの将来の活動においてますます期待を集めるものとなりそうだ。





