次世代のUKラッパーLoyle Carnerインタビュー「UKヒップホップはお金に甘やかされていない」


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ここ数年の間、イギリスのラッパーを取り巻く環境は目まぐるしく変化している。2000年代初頭のオリジナルグライム以来となる空前のグライム・リヴァイバルムードは、同国内の若者を熱狂させた結果、グライムは押しも押されもせぬ確固たる人気ジャンルとしての地位を築いている。
そのグライムを代表するラッパー、Skeptaは、2017年にイギリスの音楽界における最も権威ある賞「マーキュリー賞」を受賞した。同じくシーンを代表するStormzyもまたデビューアルバム『Gang Signs & Prayer』でブリット・アウォード初のラップによる年間最優秀アルバム賞を獲得。さらにはグライムのゴッドファーザーとして知られるWileyが、英国王室より文化勲章のMBEを受勲する。その勢いは留まることを知らないといった様子だ。
しかし、これは一口に”ラッパー”といってもグライムシーンのラッパー、つまり”グライムMC”と呼ばれるラッパーたちの活躍であり、厳密にいうとヒップホップシーンのラッパーの活躍ではない。
だが、最近では2017年にDrakeがリリースした『More Life』に、イギリスのヒップホップの一種である「UKドリル」シーンのラッパーGiggsがフィーチャーされたことをきっかけに注目度が爆発的に増した「UKヒップホップ」もまた、グライムに続くようにその人気を拡大している。
UKヒップホップの新世代ラッパーLoyle Carner
そんなUKヒップホップの新世代ラッパーたちを以前、block.fmでは数名紹介したが、その中でも一際存在感を放っていたのがLoyle Carner(ロイル・カーナー)という存在だ。
このラッパーは、才能ある若手アーティストを毎年BBCがピックアップする「BBC SOUND OF 2016」に選出されたことで一気に注目を集め、昨年リリースしたデビューアルバム『Yesterday’s Gone』が、UKチャート初登場14位を記録。同アルバムは数々のメディアで年間ベストアルバムを獲得するなど話題作に。
そして、さらには2018年度のブリット・アウォードで2部門にノミネート、NMEアウォードでも最優秀ブリティッシュ・ソロ・アーティスト賞を受賞するなど昨年、イギリスで最もブレイクしたといえる活躍を見せた。
■関連記事:グライム、USとも違う新世代のUK Hip Hopとは?
名門Brit Schoolを同級生であった人気インディーロック・アーティストKing Kruleと共に卒業、Nasのロンドン公演やJoey Bada$$のUKツアーのサポートアクト抜擢などこれまで順風満帆なキャリアを歩んできたLoyle Carner。
しかし、その過程で彼は、自らADHD(注意欠陥/多動性障害)と難読症を告白。自分と同じようにADHDを持つ子供たちをサポートする活動「Chili Con Carner」にも力を入れるなどハンデをもろともしないポジティブかつ実直な姿勢で社会貢献活動も行うこともイギリスでは知られている。
block.fmでは、そんな彼が5月17日(木)に渋谷WWWでの初来日公演を行うタイミングでコンタクトをとり、イギリスにおけるUKヒップホップの現状や、独自性が高いMV、Tom Mischら人気若手アーティストとのコラボレーション、そして社会貢献活動などについてインタビューを行った。

Loyle Carner インタビュー
▷ これまで、どんなアーティストから影響を受けましたか?
Loyle Carner(以下LC):色んなアーティストや音楽、つまり全てだね。特に小さい頃はヒップホップを聴いていたけど、母と父はDavid BowieやLenard Cohenもよく聴いてたよ。ソウル、ファンク、ジャズ、ブルースなんかも聴いていたね。
▷ 今、イギリスではグライム以外にもUKヒップホップ、例えばDrakeのアルバムにGiggsがフィーチャーされたことなどもあり、UKドリル系のヒップホップも流行っていますよね?
LC:僕の彼女が学校の先生をやっているんだけど、生徒たちはドリルミュージックに夢中だ。動画を彼女が見せられるほど、UKドリルは人気があるね。
▷ 例えば、Age of Lunaのようなジャジーなヒップホップも人気があるようですが、正直なところ、まだ日本ではUKヒップホップの知名度はあまり高くありません。でも、そのUKヒップホップというジャンルの魅力を簡単に表現すると一体どのようなものになりますか?
LC:UKヒップホップはお金に甘やかされてないところがあるね。アメリカのヒップホップほど知名度はないし、みんなに伝えるためにお金が使われていない。UKヒップホップの曲を作ることで、お金が儲かるわけでもないし。音楽を作りたい人が作っているだけ。それがUKヒップホップかな。
▷ いつもあなたが公開してるMVは凝った内容で、面白いと思います。個人的に1番好きなのはKwesをフィーチャーした「Florence」です。そこで見られる料理をしながらラップをするようなアイデアが興味深いのですが、このようなアイデアはどこからやってくるのでしょうか?
LC:正直にいうと、わりと自然に頭の中浮かんでくるようなものだね。弟がすごく映像が好きで、ハマっていてさ。彼から結構アイデアをもらうこともあるんだけど、やっぱり曲のことを誰よりも深く知ってるのは自分なので、そこから自分のイメージするアイデアが生まれてくるという感じかな。だからMVのプロデュースにも共同プロデューサーとして関わっていたりするんだ。
▷ あなたはADHDを患っていることをオープンにされていますが、それはアーティスト名や運営する料理教室の「Chili Con Carner」にも影響を与えていると思うのですが、それはあなたの音楽にどのような影響を与えているのでしょうか?
LC:僕はADHD以外にも難読症でもあるんだよ。それでまず、アーティスト名なんだけど、それは本名のBen Coyle-Larnerを文字ってるんだ。そして、自分が影響受けるというか、音楽にどうこうというよりは、逆に「Chili Con Carner」をやることで彼らを助けたい。やっぱり、正直でオープンでいることは、どちらにも共通してることだと思うから。
▷ そのコンセプトがあなたが音楽業界で成し遂げたいことにもつながるのでしょうか?
LC:やっぱり自分のフィーリングについて語り合うのも大事だし、音楽を作ることは、自分の頭の中を整理するためでもあるし、正直に自分のことをオープンにすることで自分自身を助けることもできるし、ほかの人も救われると思う。
▷「Chili Con Carner」は名称としてもおもしろい名前だと思います。そのコンセプトはどのようなものですか?
LC:自分もそういう子供たちと似た環境で育ったので、物事に集中することがすごく難しいということもわかる。自分にとって、そうするためには、料理がすごく助けになっていて、みんなにもそういう環境を与えたい。それが学校であり料理教室なんだな。僕のお母さんも先生だし、彼女も先生なので、教育というものはいつも自分の周りにあった。まあシェフになりたかったけど、なれなかったんだけどね(笑)。
▷ 日本のファンが気になっていることですが、Rebel Kleff(レベル・クレッフ)やTom Misch(トム・ミッシュ)とは何度もコラボレーションをしていますよね? 彼らとの関係となぜコラボしてきたかを教えてもらえますか?
LC:僕はそもそもTom Mischのファンなんだよね。大学の友達が紹介してくれたアーティストでさ。彼のSoundCloudに「ラッパーとはコラボしません」ということが書かれていたのを知っていたから、連絡はすることはなかったんだ。でも、一年で大学を退学して、その夏に彼からコラボしようというメッセージが来たんだ。自分の中ではかなりビッグな瞬間だったね。
▷ 同じサークルで遊んでたんですか?
LC:いや、そうでもないよ。同じサウス・ロンドン出身だから、自分の知人が彼のことを知ってる人を知ってるという程度。彼の音楽を見つけた時、彼も同じくらいのタイミングで僕を見つけた。でも、彼より全然レベルは低くかったから、初めて会った時は、なんというかアイドルに会ったというか、そんな感じだったね。個人的には、未だ僕の音楽のレベルは彼のレベルには至っていないという感じかな。
▷ まるでちょっとしたファンのようですね
LC:そうだね(笑)
▷ 日本の話ですが、日本ではEDMのようなジャンルが流行ると、みんな大体それしか知らないという感じになりますが、ロンドンだと、グライムだったり、例えば、block.fmではWaveというジャンルを推しているですが、他のベースミュージックも同時進行で流行ったりしますよね? 他にもテクノやサイケデリックトランスなどロンドンでは常に色々なジャンルのパーティーが何かしら週末どこかで行われているイメージがあります。そういう中でUKヒップホップは今後どのようにその人気が拡大していくと思いますか?
LC:ロンドンでもそのあたりは同じというかメジャーなジャンルが頂点であとは傘のようにほかのジャンルが広がっているって感じだね。それとUKヒップホップの人気拡大については…う〜ん…難しい質問だね。ルーツを大事にしてるから、常に人気が拡大していくというのはちょっと嫌な風にも感じるよ。
例えば、今夜このライヴで自分の真実を伝えることはとれも気が狂っているようにも思えるから恐ろしくもある。リリックはロンドンで起こっていることや経験についてのものだし、ここで起こることではないしね。でももっと物事を深く見つめると、実は日本でも起こりうることだったりする。その点は、音楽が素晴らしい点だったりするよね。

▷ MVでもよく着用されていますが、今日もサッカーシャツを着用されています。イギリス人のあなたにとってやはりサッカーは特別なものですか?
LC:そうだね。やっぱり特別なものだよ。子供の頃なんか特にサッカーをすることが他の子供達とのコミュニケーションのきっかけになるしね。まあ、イギリスの男性はあまり自分の感情を語らないし、サッカーがそれを代弁してくれるみたいな感じなのさ。特に僕の場合は、それが父親とのコミュニケーションのきっかけになっていた感じはあるよね。
▷ もし生まれ変わったら、何になりたいですか?
LC:やっぱシェフかな。それかサッカー選手。もしくは両方だな。まずはサッカー選手になってからシェフになる。
▷ ラッパーではないですね(笑)
LC:もうラッパーは経験済みだしね。それにサッカーだと自分の全てを幼い頃からかけてやらないとサッカー選手にはなれないし。そういうところがなりたい理由かな。
▷これからどんどん日本でもファンが増えていくと思いますが、自分の音楽を紹介するための名刺がわりの1曲を教えてください。
LC:そうだね。じゃあ「Ain’t Nothing Changed」か「Florence」かな。この曲を聴いてもらうと僕の音楽のことがよくわかると思うよ。
▷ありがとうございました。

▶︎Loyle Carner
Twitter:https://twitter.com/LoyleCarner
Facebook:https://www.facebook.com/LoyleCarner
Instagram:https://www.instagram.com/loylecarner
最新アルバム『Yesterday’s Gone』配信中
written by Jun Fukunaga
photo: Takayuki Okada
