Drake 『Honestly, Nevermind』レビュー:ダンスミュージック視点から探るハウスアルバムの意図


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Drakeが6月17日に7枚目となるスタジオアルバム『Honestly, Nevermind』をリリースした。本作は、リリース前日の6月16日にInstagramで24時間以内にリリースされることが突如予告されたサプライズリリースのアルバムだ。
そんな本作はハウスミュージックを大胆に取り入れた内容だった。それ故に従来のDrakeのファンを始めとしたヒップホップリスナーからすると、率直に言って違和感を覚えるアルバムだったと思う。
『Honestly, Nevermind』参加プロデューサーとソングライター
リリース直前に公開されたトラックリストには、エグゼクティヴプロデューサーとしてDrake本人や盟友のNoah “40” Shebibのほか、Oliver El-Khatib、 Noel Cadastre、そして2017年に"プレイリスト"という形でリリースされたミックステープの『More Life』に参加していた南アフリカを代表するハウスプロデューサーのBlack Cofeeがクレジットされていた。だが、その段階ではまさか本作が"ハウスのアルバム"になることを予測できた人はあまり多くはなかったはずだ。
しかし、本作にはBlack Cofee以外にトラップ系のEDM曲で知られるCarnageがテックハウス名義のGordoとして6曲をプロデュースしているほか、Axwellの秘蔵っ子として知られるKlahr、ベルリンのハウスシーンで活躍するハウス/テクノ系プロデューサーの&MEとRampaがソングライターやプロデューサーとして参加しており、収録曲14曲中12曲がハウスを中心としたダンスミュージックになっている。
その中で衝撃を受けた曲のひとつは1曲目「Intro」終わりですぐに始まる2曲目の歌モノハウス「Falling Back」だ。同曲は&MEとRampaがプロデュースを手がけた曲なのだが、この2人はベルリンの人気レーベル
<Keinemusik>の中核を担う存在であり、どちらかと言えばアンダーグラウンドなハウスシーンで知られた存在だと言える。
そんな2人を序盤から起用したことに個人的にがっつりと衝撃を受けたわけだが、本作では他にもベッドが軋む音が印象的なジャージークラブを取り入れた「Currents」が収録されるなど、ハウス以外にもクラブミュージックファンが唸る楽曲が収録されていることは特筆すべき点だろう。
だが、"当たり障りのないトラップを捨てた"と評したNMEのように、大ヒットを記録した前作『Certified Lover Boy』から大きく路線を変更したチャレンジ精神を良しとするメディアもある一方で、その路線を否定的に捉えるEvening Standardのようなメディアもあるなど、アルバムに対する評価は大きく分かれている。
その中でひとつ気になったのが、Clash Magazineによる"完全に解き明かすのに長い時間がかかるパズル"という本作に対する意見だ。これまでの成功したフォーマットを捨ててまで取り組んだこの"ハウスアルバム"は、どのような意図があって制作されたのだろうか? その答えを探る上で筆者が注目したのがダンスミュージックとリンクする"Virgil Abloh"と"トレンドとしてのアフリカのハウス"の2つのキーワードだ。
故Virgil Ablohに捧げられたアルバム
まずひとつ目のキーワードとして、挙げた"Virgil Abloh"に関連していえば、Drakeはリリース直後に発表したステイトメントで、本作が昨年亡くなった人気デザイナーのVirgil Ablohに捧げる追悼アルバムだということを公言している。
Virgil Ablohといえば、有名ラッパーたちのアートワークを手がけるなど、"ヒップホップシーンと繋がりが強いデザイナー"というイメージがある。しかし、生前はDJとしてBoiler Roomやコーチェラにも出演するなど、音楽シーンとはさらに深いところで繋がっていた。
またDJではヒップホップセットでプレイすることもあったが、イビサ発の人気パーティー「CircoLoco」のイベント出演やDJミックスを提供するなど、ハウス/テクノでもプレイすることができる幅広い音楽性の持ち主だった。
その趣向は自身のトラックメイカーとしての活動にも反映されており、Virgil AblohはBoys Noizeとのコラボ作品のリリースやテクノシーンのベテランプロデューサー/DJのLoco Diceのリミックスなどを手がけるほか、ドラムンベースやクラブジャズ系のリミックスなどもリリースしている。
Virgil Ablohを追悼するという意味では、先述のBlack Coffeeにも注目する必要があるだろう。生前、Virgil AblohとBlack Coffeeの2人はDJとして共演する以外にVirgil Ablohが手がけるブランド「OFF-WHITE」を通じて、ファッション方面でもコラボ。2人は友人関係にあったという。
またBlack Coffeeは、昨年末にアフリカのプロデューサーによるハウス/テクノ曲を中心としたDJミックス『For My Dear Friend V』をVirgil Abloh追悼のためにリリースしている。このことを考えると晩年のVirgil Ablohが好んだハウスを取り入れ、Drakeが"Virgil Abloh捧げるハウスのアルバム"を制作したとしてもそこまで不思議ではないのかもしれない。
トレンドとしての"アフリカのハウス"
次に2つ目のキーワードとして挙げたいのが"トレンドとしてのアフリカのハウス"だ。古くはダンスホールを取り入れるなど、その時々にアンダーグラウンドのトレンドを自身の楽曲に取り入れてきたDrakeは、トレンドに敏感なアーティストとして知られている(時にそれが理由で批判されることもあるが)。
ちなみに本作でプロデューサーの1人として起用したGordoが得意とするテックハウスは現在、「Beatport」で最も人気のあるジャンルであることから、筆者としてはそのあたりの抜け目のなさにDrakeらしさを感じずにはいられない。しかし、それ以上にDrakeの抜け目のなさを感じるのは、アフリカのダンスミュージックへのアプローチだ。
近年、USのメインストリームのポップスシーンではBurna Boyなどアフロビーツ勢の躍進などもあり、アフリカの音楽に対する注目度は高まっている。またクラブシーンでは3年前にBeyoncéによる南アフリカ発祥のハウス「ゴム」のフックアップも話題になったが、今年のグラミー賞でBlack Coffeeが「ベスト・ダンス/エレクトロニック・アルバム賞」を獲得したことは、昨今のダンスミュージックを含むアフリカの音楽の人気を高めていく上で追い風だ。
そんな中、今クラブシーンでは南アフリカ発祥のハウス「アマピアノ」の人気が急速に拡大。このジャンルは現在日本でもじわじわと認知度が高まっているが、最近ではBeatportでも独立したジャンルとして取り扱われるようになるなど、すでにグローバルでは現行ダンスミュージックシーンにおけるトレンドのひとつになっている。
もちろん、Drakeもシーンの人気DJであるUncle WafflesをSNSでフォローするなど以前からアマピアノには注目している。
そのような背景からハウスのテイストを取り入れた本作を"アマピアノにDrakeが接近したアルバム"と捉える向きもあるようだ。
after that Uncle Waffles insta story, you just knew Drake had an amapiano in his bag🤣🤣🤣 pic.twitter.com/6ajypYEKoq
— Ðuro Kralj (@Duranovic_) June 17, 2022
例えば本作の12曲目に収録されている「Tie That Binds」は、厳密にはアマピアノではないが、それに近いテイストの曲ではある(特にアマピアノ愛好家からすると意見が分かれるところだとは思う)。そのことを考えるとDrakeは、本作ではかなり意識的に"アフリカのハウス"を取り入れている可能性が高い。
また本作では、アマピアノシーンとも交流がある南アフリカを拠点に活動するコンゴ出身のシンガーソングライターのTresorことTresor Rizikiが6曲でクレジットされているのだが、このこともDrakeがアフリカのテイストに興味を持っていることの表れだろう。
Drake “ HONESTLY , NEVERMIND” Album Out Now🦉
Honoured to finally share that I’ve collaborated with @Drake on new music for his latest album.Worked on 6 songs together and it’s also a great honour to contribute vocals on 3 songs .Collaborated on Track 4 , 8 , 9 , 10 , 11,12💎 pic.twitter.com/jXMYeT7wkB— TRESOR RIZIKI (@tresorofficial) June 17, 2022
実際にTresorには南アフリカのハウス系DJ/プロデューサーのDa Capoとコラボした「Lighthouse」という楽曲があるのだが、今作でのDrakeによるハウススタイルの楽曲はそれとの近さも感じる。そう考えるとやはりDrakeは、今作で取り入れるべきトレンドの要素として、アマピアノを含めた広い意味での"アフリカのハウス"にインスパイアされているはずだ。
本作に関しては先月リリースされたKendrick Lamarの最新アルバム『Mr. Morale & The Big Steppers』に対抗するための飛び道具的な要素として、ハウス要素を取り入れたという声もある。その辺りは筆者には分かりかねる部分ではあるが、少なくとも本稿で挙げた"Virgil Abloh"と"トレンドとしてのアフリカのハウス"は、本作を構成する上で重要な要素になっているように思える。
確かにこれまでのDrakeのアルバムからするとハウスを大胆に取り入れた本作は、実験的な内容だったことは間違いない。ただ、どちらかと言えばヒップホップよりもダンスミュージックを好んで聴いてきた筆者の目には、今回のハウスミュージックに接近したアプローチは好意的に映った。この路線が今回限りのものかどうかはわからないが、今後も本作のように大胆に音楽性を変えて、リスナーを驚かせるDrake作品も聴いてみたいものだ。





