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若手アーティストが2000年代エレクトロに注目する理由。ハイパーポップからエレクトロに接近する新世代シンガー、daineにインタビュー

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PHOTO: ZEROTOKYO
2020年代に入ってからにわかに復活の兆しを見せていたエレクトロだが、今年はいよいよその復活が本格化する可能性が高まっている。現行シーンにおいて、いち早くその音楽性を取り入れた新鋭アーティストに、なぜ若い世代がエレクトロに注目するのか、話を訊いた。
2024/04/11 18:30
Jun Fukunaga
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「今年はエレクトロが来る!」

思い返せばここ3〜4年、気がつくとそのようなセリフを口にし続けてきた。しかし2024年は、例年以上にエレクトロ復権ムードが高まっているように感じている。

近年の音楽シーンから感じるエレクトロ復権ムード

なぜなら、かつてこのシーンを作り上げた大物アーティストが今春再始動することをすでに公に発表しているからだ。そのうちの1組、フレンチエレクトロを代表するJustice(ジャスティス)は、4月に約8年ぶりとなる新作アルバム『Hyperdrama』をリリースする。

一方、同じくこのシーンを代表する“ダーク版Daft Punk”ことGesaffelstein(ゲサフェルスタイン)も、5年ぶりとなる最新アルバム『Gamma』をリリースしたばかりだ。しかも驚くべきことに、この2組は4月に行われる世界的音楽フェス、コーチェラ2024にも揃って出演する。2000年代にエレクトロのムーブメントをリアルタイムで体験したことが、その後の人生に大きな影響を及ぼしたと言っても過言ではない筆者としては、非常に胸がアツくなる話だ。

このような大物エレクトロアーティストの復活だけに限らず、近年の音楽シーンを振り返るとそこかしこにエレクトロ復活の兆しが見られる。例えば、現行ダンスポップシーンの歌姫と評されるDua Lipa(デュア・リパ)は、2020年に“2000年代風の80sリバイバル”を思わせるアルバム『Future Nostalgia』やそのリミックスアルバム『Club Future Nostalgia』をリリースしている。

また、同年には似たようなコンセプトのKylie Minogue(カイリー・ミノーグ)のアルバム『Disco』や、フィルターハウスを取り入れたLady Gaga(レディー・ガガ)とAriana Grande(アリアナ・グランデ)のコラボ曲「Rain On Me」などもリリースされている。このことから2020年はメインストリームのダンスポップシーンにおいて、2000年代エレクトロが再評価される兆しが現れた瞬間だった。

それ以降、2000年代エレクトロ復権ムードは徐々に醸成されていき、2023年は往年のJusticeを思わせるDua Lipaの「Houdini」や再びエレクトロ・ダンスポップに接近したKylie Minogue「Padam Padam」といったシングルがヒットしている。

また2024年は、近年ハイパーポップに接近していたCharli XCXが、2000年代エレクトロの影響が伺えるアルバム先行曲「Von dutch」をリリース。このようなシーンの動きを見ている限り、昨今のダンスポップに見られたY2Kレイヴ回帰ムードは、2000年代エレクトロリバイバルムードへとシフトしているようだ。

しかし、このような2000年代エレクトロ復権ムードは、メインストリームの音楽シーンにだけ見られるものではない。むしろアンダーグラウンドなダンスポップシーンやそこに属する若いアーティストたちの間では、より本格化しているようにすら思えるのだ。

エレクトロに接近した音楽性で注目を集める、次世代シンガーdaine

そのシーンにおいて、現在頭ひとつ抜け出した存在感を放っているのが、初来日公演を行ったばかりのdaineだ。オーストラリア・メルボルン出身のdaineは、エモやハードコアをルーツにしながらも、トラップやハイパーポップなど幅広いジャンルの影響を受けた次世代シンガー。DIYアーティストとして活動していたキャリア初期は、エモやトラップを取り入れた音楽性を打ち出していた。

しかし、ワーナー・ミュージック・オーストラリアと契約後の2021年には、ハイパーポップシーンを代表する100 gecsのDylan Bradyをプロデューサーに迎えた「boys wanna txt」をリリースするなど、ハイパーポップに大きく接近してみせた。

また、その後も以前の音楽性をキープしたEP『Quantum Jumping』のほか、往年のPC Musicを彷彿とさせるハイパーポップ曲「boyhots」をリリース。その結果と言える作品が2023年リリースされたEP『Shapeless』だ。

同作にはエモやトラップ、ダンスポップ、ドラムンベースなど、多岐にわたるジャンルの曲が収録されており、まさに“シェイプレス”な内容になっている。

しかし、daineの音楽性の進化はそこで止まらない。驚くべきことに、それ以降にリリースした直近のシングル「bite back」、「Cut My Heart Out」、「Shades On」の3曲は、ディストーションによって歪んだシンセ、ダンサブルなイーブンビートが印象的な2000年代エレクトロを彷彿とさせるサウンドになっている。

Z世代は、エレクトロが流行っていた頃のクラブシーンにあった自由な雰囲気を体験したい

元々、筆者は以前のエモやトラップを取り入れたdaineの音楽性に魅了されていたことで、block.fmの企画『block.fmが選ぶ「今から知っておきたい2021年注目のアーティスト」』において、注目アーティストのひとりに選出していた。そのこともあって、最近の2000年代エレクトロを彷彿とさせるサウンドにも興味が湧いた。

初来日公演の取材の際、先述の3曲が本人にとっても2000年代エレクトロを意識したものであるのか尋ねてみたところ、それを認めた上で、現在21歳であるdaineらしい答えが返ってきた。

「エレクトロが流行っていた当時はまだ子供だったので、なにが流行っていたはあまり覚えていません。でもZ世代の若者は、エレクトロが流行っていた2000年代のクラブシーンにあった、自由な雰囲気を体験したいと思っています。私たちの世代はちょうど大人になる頃、パンデミックに自由を奪われたので」

クラブミュージック好きであれば、大人になってクラブで楽しい時間を過ごすことを楽しみにしている10代も多いだろう。しかし、そのような時期をパンデミックに奪われたことで自宅で過ごすことを余儀なくされたdaineは、その経験についてこう語る。

「その頃の私は世界最長の監禁状態でしたね。監禁されたまま18歳になり、19歳になっても監禁されたまま。本当に『今、この状態の何が楽しいの?』って感じでした」

パンデミック以前ならアーティストとして当たり前に体験できたことも、daineはパンデミックによって体験できなかった。自身の初ライブを振り返り、「とても不思議な体験だった」とdaineは語る。

「初めてのライブは、すごく混乱しました。それ以前は楽曲をオンラインで公開していたのに、急に観客がいる状態でライブをしたから、すごく不思議な感じがしました。 でも、観客が私の曲を歌っている声を聴いたときは、本当に嬉しかった。その時の観客には感謝の気持ちしかありません。」

「もしパンデミックがなかったら、私の曲の歌詞を誰も知らなかっただろうし、今みたいに多くのファンもいなかったはず。普通は観客を増やすためにライブをすると思うけど、ラッキーなことに私の場合はそういう下積みのためのライブをする必要がなかった。でも、そういうことがあったからこそ、今はファンが自分を求めてくれる環境の中でライブができることに感謝しているんですけどね」

エモやハイパーポップ、エレクトロまで織り交ぜた、ジャンルレスな音楽性に魅了された初来日公演

その言葉通り、集まった観客に感謝の気持ちを示すかのように、初来日公演では気迫のこもったパフォーマンスを披露したdaine。約30分のライブセットでは、ステージを激しく動き回りながら、ベースへヴィーなトラップ「dainecore」のほか、エモやハイパーポップ、ドラムンベース、エレクトロまでを自在に操り、先述した『Shapeless』を思わせるジャンルレスなライブで観客を大いに魅了した。

特にUKのロックバンド、Bring Me The Horizon(ブリング・ミー・ザ・ホライズン)のシンガーOliver Sykesとのコラボ曲であるエモな「SALT」では、音源そのままのデス声スクリームまで披露され、daineがライブにかける熱い想いが伝わってきた。

また先日、“daineは私たち世代のAvril Lavigne”とSNSで投稿しているユーザーを見かけたが、ドラムンベースとインディロックのテイストを取り入れた「portal」は、サウンドのフォーマットこそ違えど、ライブの盛り上がりを見ていると、昔クラブでAvril Lavigne(アヴリル・ラヴィーン)の「Sk8er Boi」がかかった瞬間を彷彿とさせた。

Photo by ZEROTOKYO

Photo by ZEROTOKYO

Photo by ZEROTOKYO

全力パフォーマンスによってライブ中に足を怪我するというハプニングも起きてしまったようだが、コンデションが悪い中でも、ライブ終わりに筆者が日本での初ライブの感想について尋ねてみると、daineは気さくに答えてくれた。

「日本のお客さんは、本当に私のことを気にかけてくれていて、情熱的だと感じました。ライブができて本当にラッキーでした。実は今日、原宿でショッピングしていた時も同じように思いましたね。正直、これほど他人に気遣われた経験は今までになかったので驚いています。だから、今夜私のライブをサポートしてくれたお客さんには、すごく感謝しています」

エレクトロはリバイバルしている

ライブ終盤で披露されたdaineのエレクトロ曲「Cut My Heart Out」は、ライブ会場だったZEROYOKYOに非常にマッチするダンサブルな楽曲のため、この日一番の盛り上がりを見せていたように思う。そのこともあり、「現在若い世代のアーティストの間でエレクトロがリバイバルしていると思うか」と尋ねたところ、次のような答えが返ってきた。

「エレクトロはリバイバルしていると思います。若いアーティストは、みんな4つ打ちのクラブミュージックを作っているし、その流れ自体は素晴らしいことだと思います」

トレンドに流されず、自分が作りたいものを作る

しかし、daineは続けてこうも語った。

「そういう意味では、エレクトロはリバイバルしていると思いますけど、自分としてはあまりそういうものに流されたくないというか。結局、一度トレンドになってしまうと、どんなに人気があるものでもいつかはブームが終わってしまうので。だから、いつも自分の作りたい音楽だけを作っています」

その言葉を裏付けるかのように、最近daineは自身のX(旧Twitter)で“エモのEP”を制作中と投稿している。そのことについて尋ねてみたところ、daineは今後の活動の展望を含めて次のように語ってくれた。

「ここ1年大きな変化がたくさんあったことで、正直新しい音楽をあまり作れていませんでした。でも、少しずつ創作意欲が湧いてきたこともあって、何年も前にベッドルームで作っていた頃のような曲を作り始めました。そういう音楽はとても謙虚でシリアスなものなので、私にとってはクラブミュージックよりも本質的というか、自分に合った音楽だと思いますね。もちろんクラブミュージックも大好きだけど、今の自分の気持ちとしてはそんなモードなんです」

さまざまな音楽を独自に消化するスタイルは、自分が本当に作りたい音楽を作るという気持ちの表れである。そして、それがdaineというアーティストの本質的な魅力であることが、明確に伝わってきた。今後も型にはまることなく、自由な発想で我々を驚かせたり、エモショーナルな気持ちにさせたりする楽曲を作り続けていくであろう。さらなる飛躍を願いつつ、引き続きdaineに注目していきたい。

本稿の冒頭でも述べたように、現在は欧米を中心に多くのブレイク前の若手アーティストが、2000年代エレクトロリバイバルを思わせる楽曲を発表している。以下は筆者が、現在リリースされている膨大な楽曲の中から「2000年代に流行したエレクトロクラッシュやニューレイヴのリバイバルを感じさせる楽曲」をテーマに独自に選び出し、作成したプレイリストだ。

この中にはもちろんdaineの楽曲も含まれているが、それ以外にも2023年フジロックに出演したニュージーランド出身のBENNEによる直球エレクトロ曲「Green Honda」を筆頭に、100曲以上の楽曲をピックアップしている。ちなみに楽曲のほとんどは2021年から現在までの間にリリースされたものだ(聴いていると正直に言って、今が2000年代なのか2020年代なのかわからなくなる)。

筆者自身は昨年からこのような楽曲の発掘に励み、2000年代のエレクトロの復活を提唱しているが、今回のdaineの発言でその考えがより確信に近づいたと感じている。

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