『サイバーパンク2077』はどうやってユーザーからの支持を取り戻したのか?コミュニティとの開かれた対話と、驚くべき作り込みによる脅威の復活劇


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11月14日、今年最も優れたゲームを決めるアワード「The Game Awards 2023」における各部門のノミネート作品が告知された。
世界各国100以上のメディアやインフルエンサーを含む審査員によって選ばれた各部門ノミネート作品には、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』や『バイオハザード RE :4』、『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』など錚々たるタイトルが並んでおり、今年がゲーム豊作の年であったことを思い出させる。そんな粒ぞろいなタイトルの中に、今年追加コンテンツ「仮初めの自由」がリリースされた『サイバーパンク2077』も以下の部門でノミネートされていた。
■「BEST NARRATIVE」(仮初めの自由のみノミネート):優れた物語性を持つ作品を表彰する部門
■「BEST ONGOING」:リリース後もアップデートによってユーザーを満足させている作品を表彰する部門
■ 「BEST COMMUNITY SUPPORT」:コミュニティへの反応や透明性のある対応を行った作品を表彰する部門
中でも注目されるのは「BEST ONGOING」と「BEST COMMUNITY SUPPORT」だ。この2つの部門は、『フォートナイト』、『Destiny 2』、『ファイナルファンタジーXIV』など現在もサービスを行っているオンラインゲームを中心に作品が選ばれており、ノミネート作の中でシングルプレイ専用の作品は『サイバーパンク2077』のみ。本作が選ばれた背景には、リリース後数年をかけて行われた地道なアップデートと、ゲームを飛び出した作品の拡張を行い続けたことだと筆者は考える。本稿では、『サイバーパンク2077』の発表から現在に至るまでの道のりを振り返り、どのようにコミュニティと向き合い、ユーザーたちを満足させるまでの作品に至ったのかを見ていこう。
謎多き発表から2020年期待の新作タイトルとなるまで
『サイバーパンク2077』の存在が公に発表されたのは2012年となるが、本作が世間から一気に注目を浴びたのはその6年後の2018年。そして本作を手がけるゲーム会社CD PROJEKT REDも、その6年間で大きく変貌していたことが本作の期待をさらに上げたのであった。
CD PROJEKT REDは、ファンタジー小説「The Witcher」を原作としたアクションゲーム「ウィッチャー」シリーズを手がける、ポーランドに拠点を置くゲーム会社。「ウィッチャー」は、ダークなストーリーと奥深いキャラクター設定に軸を置いたアクションゲームとして、一部ゲームファンから強く支持される作品であった。
そんなCD PROJEKT REDの名が全世界に一気に知れ渡ることとなったのが、2015年に発売された『ウィッチャー3 ワイルドハント』だ。本作は「ウィッチャー」の魅力を幅広い層に届けることに成功し、一部ゲームファンだけでなく、各ゲームメディア、批評家からの賞賛を受ける。そして「The Game Awards 2015」にて、その年の最優秀作品を称える賞「GAME OF THE YEAR」を獲得したのであった。
その間『サイバーパンク2077』に関する続報はほとんどなかったが、「E3 2018」にてついにトレーラーが発表された。所狭しと建設された高層ビルと、さまざまな言語の看板が並ぶきらびやかな街、魅力的ながら危険な匂いを漂わせる住人。トレーラーを見た人の多くが、本作の舞台となる街、ナイトシティに惹かれた瞬間だ。
さらに2019年には、物語のキーマンであるジョニー・シルヴァーハント役にキアヌ・リーヴスが抜擢されたことを発表。同時に発売が2020年4月に決定した。「GAME OF THE YEAR」受賞経験のあるゲーム会社が手がける、超巨大な未来都市を舞台としたアクションゲームに、キアヌも登場する。これに人々が期待しないはずはない。2019年、各ゲームメディアが掲載する「2020年期待のタイトル」に必ずと言っていいほど本作は入っており、発売前にも関わらず多くのゲーマーからの支持を得る作品となっていた。
度重なる延期と大量のバグ……期待のタイトルが背負った大きな傷
「2020年期待のタイトル」となった『サイバーパンク2077』であったが、発売を目前とした2020年からは、その存在に少しずつ影がかかり出す。ナイトシティというあまりにも巨大な街を作り上げるのに膨大な時間がかかることや、新型コロナウイルスによる開発の難航により、発売は二度の延期。そして、開発完了を報告し発売を控えている状態で三度目の延期発表と、発売が延期されるたびにゲームファンの不安は増していった。
そして12月10日、春には出るはずであった『サイバーパンク2077』が年の瀬にやってくる。欲望渦巻くナイトシティでの冒険は、幾度の延期を経て、ゲーマーが満足するものには……決してならなかった。不安定なパフォーマンス、相次ぐ不具合、ゲーマーたちが何年も夢見たナイトシティの生活は、いとも簡単に崩れ去ってしまった。SNS上には多くのバグ報告があがり、そのあまりのバグの多さと奇怪さに一部ユーザーには「サイバーバグ」と揶揄されてしまったほどだ。
リリース直後、パフォーマンスに関する問題が顕著に起こったのはコンソール版。特にPS4、Xbox Oneはゲームのクラッシュや、セーブデータの破損の報告が殺到した。それを受け、PS4/Xbox Oneは返金対応という措置が取られ、PlayStation Storeでは、本作のPS4版の販売が停止されるまでに至った。
メディア、インフルエンサー向けの先行プレイはPC版のみに制限されており、コンソール版のゲームプレイは発売されるまでほとんど公にされてこなかったこともあり、その不透明な行いには多くの反発も。その勢いはヨーロッパやアメリカでは集団訴訟の対象になるほどであった。ニューヨークタイムズはこの一連の出来事を「ゲームの歴史の中で最も目に見える災害のひとつ」と報じていた。
— CD PROJEKT RED – Japan (@CDPRJP) December 14, 2020
地道なアップデートによる“ナイトシティの再建”と、誠実で透明性のあるコミュニティへの対応
12月の発売から約1ヶ月ほど経った2021年1月14日。CD PROJEKT REDの共同設立者・Marcin Iwiński氏が、本作のクオリティと不誠実な対応について、説明・謝罪を行い、今後は致命的な不具合の修正とアップデートに焦点をあてていくとするロードマップを公開した。2021年下半期には、PS5/Xbox Series X|Sなどの次世代機に向けた無料アップデートを配信すると予告。動画の最後には、プレイヤーと開かれたコミュニケーションを取ることを約束した。
このロードマップ通り、2021年の『サイバーパンク2077』は地道なアップデートを繰り返し、不具合を一歩ずつ修正。CD PROJEKT REDによる“ナイトシティの再建”が始まったのだ。その甲斐あって、同年6月にはPlayStation Storeにて本作のPS4版が発売再開。その後も「全プラットフォームでゲームが快適に遊べるように」をモットーにアップデートを続けた甲斐あってか、同年11月にはSteamの新規プレイヤーから高評価を寄せられていることを報告。約1年間の実直な姿勢が評価されたかたちだ。
最近の #サイバーパンク2077 のレビューがありがたいことに大変好評で、開発も喜んでいます。継続してゲームを改善している開発と、1年を通して本作の良さをデジタルフォトやファンアートで伝えてくださっている皆様のおかげだと思っています。本当にありがとうございます! https://t.co/4PaosaIwUH pic.twitter.com/VbFqQUvTkA
— 本間 覚(フォース) (@homma_force) November 26, 2021
2022年2月には大幅な不具合の修正に加え、さまざまな新要素を追加したパッチ1.5を配信。さらにこのパッチでは、PS5版、Xbox Series X版向けに60fpsで快適にゲームを動作させる「パフォーマンスモード」と、最新技術によるリアルな光と影の表現を可能にする「レイトレーシングモード」を追加。それに合わせて公開されたレイトレーシングモードでの実機プレイ映像は、まさしく発売前ゲーマーたちが夢見ていた『サイバーパンク2077』の姿であった。1年と数ヶ月におよぶ再建によって、ナイトシティは更に美しく、魅力的な街へと進化したのだ。
アニメ『サイバーパンク エッジランナーズ』による作品世界の拡大、ゲームとの相互作用
地道なアップデートによってユーザーの信頼を少しずつ取り戻していった『サイバーパンク2077』だが、本作は違うかたちで注目を浴び、さらなる評価を受けることとなる。そのきっかけとなったのが、2022年9月からNetflixにより全世界配信されたアニメ『サイバーパンク エッジランナーズ』だ。このアニメは、CD PROJEKT REDと日本のアニメ制作会社TRIGGERがタッグを組んで制作。監督は、TRIGGERの取締役で『天元突破グレンラガン』、『プロメア』を手がけた今石洋之だ。アニメはゲーム『サイバーパンク2077』の発売前から密かに計画されており、2020年6月に制作を発表、2022年の公開を目指して制作が進められていた。
CD PROJEKT RED、TRIGGER(@trigger_inc)、Netflix(@NetflixJP_Anime)の3社による、オリジナルアニメーションシリーズ『サイバーパンクエッジランナーズ(原題)』が発表!
本シリーズは2022年に公開される予定です。詳細はこちら:https://t.co/Q4UuleICwA #サイバーパンク2077 pic.twitter.com/ure4pCTwWV
— CD PROJEKT RED – Japan (@CDPRJP) June 25, 2020
『サイバーパンク エッジランナーズ』は、『サイバーパンク2077』の持つ華やかでありながらもダークな作品の作りと、TRIGGERの持ち味である迫力ある構図とダイナミックな描写が見事に合致した作品となった。原作の持ち味でもある暴力表現、ゴア描写や性描写は、CD PROJEKT REDの単体出資でなければ公開が難しかったのではないかと思うほど容赦がない。この容赦のない表現とナイトシティのリアルを描いたストーリー、そこから生まれる儚さは、まさしくこのアニメにしかない魅力となっていた。また、『サイレントヒル』シリーズの楽曲を手がけた山岡晃によるサウンドトラックを始めとする素晴らしい楽曲たちも、本作の大きな魅力のひとつだ。
アニメの制作では、リアルな描写でゲームの世界を描きたいCD PROJEKT REDと、アニメ制作のプロであるTRIGGERとの間で何度も衝突があったという。GAME Watchが行ったインタビューでは、脚本や絵作り、キャラクターの改変などにかなりの時間を要し、本作の世界観をアニメーションへと落とし込んでいったことが語られた。監督である今石洋之も発売前の『サイバーパンク2077』をプレイし、その時撮影されたゲームのスクリーンショットがアニメの構図づくりにも大いに役立ったという。そうして数年もの制作期間を経て『サイバーパンク エッジランナーズ』が配信された。
『サイバーパンク エッジランナーズ』は米映画評論サイトRotten tomatoesにて、評論家の肯定的評価が100%、観客の肯定的評価が95%と、批評家、観客ともに高い評価を獲得した。また、2023年に行われた栄誉あるアニメアワード「クランチロール・アニメアワード 2023」にて、アワードの大賞である「Anime of the Year」を受賞。ゲームの外伝作品という位置づけでありながら、2022年に公開されたアニメの中で最も優れていると評価を受けたのだから驚きだ。
また、アニメの配信に合わせ『サイバーパンク2077』でもアップデートを実施。アニメの主人公デイビッドのジャケットや、レベッカのショットガンをはじめとするアイテムの追加により、アニメを見たゲーマーたちは『サイバーパンク2077』に再訪した。今石洋之がアニメの構図作りに本作のスクリーンショットを使った効果もあり、ゲーム内での聖地巡礼が発生する事態へ。Steamでの本作の同時接続プレイヤーは、アニメ配信前から2~3倍となる6万人前後を記録したそうだ。CD PROJEKT REDとTRIGGER、両社のこだわりあるクリエイティビティによってゲームにも大きな相互作用が生まれ、本作の魅せる世界はさらに拡大していったのだ。
ゲームの根本を変えた「アップデート2.0」とDLC「仮初めの自由」でさらに拡張されたナイトシティ
2023年もナイトシティは拡張を続ける。9月には、最初で最後の拡張パックとして「仮初めの自由」を発売。「仮初めの自由」では、ナイトシティの新地域「ドッグタウン」を舞台に、本編をさらに拡張する新たなストーリーが展開。「仮初めの自由」では、ユーザーからのフィードバックを重視し、選択肢がもたらす結果をより明確に伝えることに重点をおいたと語られており、それがユーザーから評価され、冒頭で紹介した「The Game Awards 2023」の「BEST NARRATIVE」にもノミネートされたかたちだ。
また、それに合わせて配信された大型アップデート「アップデート2.0」は、スキルシステムの刷新や新たな戦闘システムなどゲームを根本から変化させるものに。スキルには『サイバーパンク エッジランナーズ』に登場したキャラクターをイメージしたものや、アニメに基づいたゲームシステムの刷新も行われた。
ゲーム、アニメ以外にもナイトシティの拡張は続いていく。『サイバーパンク エッジランナーズ』の制作にも携わったBartosz Sztyborのコミック『Cyberpunk 2077: Big City Dreams』が、SF/ファンタジー作品に与えられる権威ある賞、ヒューゴー賞を獲得。さらには、ドラマ『ミスター・ロボット』や、映画『レヴェナント: 蘇えりし者』に参加したプロダクションAnonymous Contentと提携した、『サイバーパンク2077』の実写化計画が発表された。1本のゲームをベースに、様々なメディアミックスがなされ、そのどれもが高い期待と評価を得ているのは他でも類を見ないだろう。
リリース当初は苦境に立たされていた『サイバーパンク2077』も、コミュニティに対して透明性のある対応を行い、ユーザーからのフィードバックをもとに1年以上をかけ地道な不具合修正とアップデートを続けた。そして、ゲームだけに留まらない世界の拡張により再評価されることとなった2023年の7月には、Steamにて54万件以上のレビューを経て、全レビューに占める高評価の割合が80%に達する「非常に好評」ステータスを獲得(Forbes)。満を持して発売された「仮初めの自由」は、リリースから10日で300万本の売上を達成、それと同時に『サイバーパンク2077』本編も2500万本の売上を達成した。
その道のりが評価され、今回「The Game Awards 2023」にて「BEST ONGOING」と「BEST COMMUNITY SUPPORT」にノミネート。一度はゲーマーの信頼を失ったCD PROJEKT REDだが、発売前以上に大きな信頼を獲得するまでに至ったのだ。
徹底した作り込みで説得感のある架空世界「ナイトシティ」
このように、大逆転の復活劇を遂げた『サイバーパンク2077』とCD PROJEKT REDだが、今まで述べてきたような世界の拡張ができたのは、本作の舞台となる都市、ナイトシティがあまりにも説得感のある架空世界を作り上げていたとことに起因するだろう。
CGWORLDによれば、本作のディレクションには3人のアートディレクター陣主導によって作られた「アートバイブル」なる社内向けドキュメントが存在。ディレクター陣の思うサイバーパンクを再定義し、そこから作られたコンセプトアートがナイトシティの中核にあったようだ。これを実際のゲームに落とし込んでいるのだから恐ろしい。
そして、本作で流れる音楽もナイトシティという架空世界を作りこむために重要な要素となった。ナイトシティに存在するアーティストという設定で、世界各国のアーティストが楽曲参加。例えば、block.fmでもおなじみカワムラユキがプロデューサーを務めるアイドルユニット、ナマコプリは「US CRACKS」という日本出身の3人組アイドルグループとしてゲーム内に登場する。こういった設定が、本作に楽曲提供したアーティストそれぞれに存在するのだ。そしてユーザーはナイトシティでしか聴けないアーティストの楽曲を通して、よりナイトシティに没入していく。
細部までこだわり抜かれた設定とそれを落とし込むディレクションにより、ナイトシティはあまりにも説得感のある架空世界へとなった。アップデートや拡張パックにてさらなる広がりを見せたものの、リリース当初からナイトシティという都市には魅力が溢れており、本当にある都市を冒険しているかのような気分にさせてくれた。そしてこの作り込まれた世界観を土台に、アニメやコミック、実写映画化など新しいクリエイティビティが誕生する場所となっている。作り込まれたナイトシティは、ゲームだけにとどまらない新たな可能性を幾重にも秘めているのだ。
『ブレードランナー』や『攻殻機動隊』など、サイバーパンクをテーマとした作品はこれまでもリリースされてきたが、『サイバーパンク2077』はナイトシティの作り込みと上述してきた作品世界の拡大により、2020年代以降の新たなサイバーパンクのアイコンとして君臨している。CD PROJEKT REDによれば、「仮初めの自由」制作後、チームは『サイバーパンク2077』の続編にあたるプロジェクト「Orion」の制作に入る。ナイトシティが舞台になるかどうかはまだ不明だが、本作で提示したサイバーパンクな世界をさらに深く、広く見せてくれるはずだ。





