シッダールト・アーナンド監督の分岐点作品、インド映画『バンバン!』がついに日本公開! 作中曲からその魅力に迫る


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Text:バフィー吉川
2月10日より全国順次公開予定のインド映画『バンバン!』。現在、インドだけでなくアメリカやドバイなどでも大ヒット中の超大作『Pathaan』のシッダールト・アーナンド監督が2014年に手掛けた作品であり、トム・クルーズ&キャメロン・ディアス主演作『ナイト&デイ』のヒンディーリメイクだ。
といってもリメイク度でいうと5%ほど。大まかな流れや細かい描写を真似ている程度で、ほとんど別の作品。リメイクというよりオマージュに近いかもしれない。
シッダールト・アーナンドという監督は、『バンバン!』以前は、『Salaam Namaste』(2005)や『Ta Ra Rum Pum』(2007)といった、ロマコメやファミリー向け作品を多く手掛けてきたのだが、アクション映画への憧れが強く、いつかアクション大作を制作したいと考えていた時に、丁度リメイク企画があったから飛びついたというのが事の発端である。
もともとは『Bachna Ae Haseeno』(2008)と『Anjaana Anjaani』(2010)で主演を務めたランビール・カプールを引き続き主演にする予定だったが、ランビールがトム・クルーズと比較されたくないという理由で出演を断ったことから、リティク・ローシャンが抜擢された。
そんな経緯もあって、リティクとシッダールト監督のタッグは今作から始まり、その後『WAR ウォー!!』(2019)や現在制作中の『ファイター』に加え『WAR ウォー!!』の続編企画もあるなど、シッダールト作品にリティクは欠かせない存在となった。
今となっては、シッダールト監督はアクション映画監督という地位を確立したわけだが、『バンバン!』はまだロマコメの余韻を残しており、アクションとロマコメの丁度中間的作品だといえる。
『WAR ウォー!!』になってくると、時代的にボリウッドが作中のミュージカルシーンを削る方向に向かっていたことも重なり、『Pathaan』でも作中のダンスシーンは2つしかないだけに、アクションも音楽も盛り盛りの今作はシッダールト作品の中でかなり貴重であり、間違いなくシッダールト監督にとっては分岐点作品なのだ。
今回はそんな『バンバン!』の中の楽曲を解説しながら、歌唱シーンやダンスシーンの歌声は吹替え(プレイバックシンガー)になっていることから、俳優が実際に歌っていると錯覚している人も少なくないだけに、映画では顔の見えないアーティストの素顔も紹介していきたい!!
■「Tu Meri」
日本でもインド公開当時にSNSを中心に注目を集めたことから、作品は観たことがなくても「Tu Meri」は知っているという人も多いはず。韓国やイギリスなどでもリアクション動画が上がるなど、「Bang Bang」と合わせて世界的にバズった。
そんな「Tu Meri」は、今作において音楽監督を務めるユニット、ヴィシャール=シェーカルのメンバーでもあり、「インディアン・アイドル」などのオーディションの審査員としてもお馴染みのヴィシャール・ダッドラニがボーカルを担当。
コレオグラファー(振付師・歌唱シーン演出家)はボスコ=シーザー(ボスコ・マーティスとシーザー・ゴンザルヴェスのユニット)が担当している。ボスコ=シーザーは、『PATHAAN』や『WAR ウォー!!』などシッダールト監督作品には欠かせないコレオグラファーだが、『きっと、うまくいく』(2009)や『PK』(2014)など、日本でも公開された有名なインド映画も担当している。
〇ヴィシャール・ダッドラニはこんな人
90年代インドにおけるインディーズ・ロックバンド「ペンタグラム」のボーカルであり、ザ・ヴァンプスやエイコン、イモージェン・ヒープなどといった世界的アーティストともコラボしたことでも知られている。審査員を務める「インディアン・アイドル」で今や若手注目株のシャンムカ・プリヤと共に披露した「Bang Bang」も話題に。(「Bang Bang」にはボーカルとして参加していないだけに貴重な映像だ)
■「Meherbaan」
シッダールト監督の作品において、バラードや幻想的な表現をする際に欠かすことのできないアーティストのシルパ・ラオの透き通った歌声に、ヴィシャール=シェーカルのシェーカル・ラヴジアーニー、アッシュ・キングの歌声がシンクロし、ギリシャの美しい風景が融合したシーンとなっている。
作中曲の中で、「Meherbaan」のみボスコ・シーザーではなく、アフメド・カーンが演出を手掛けている。アフメドといえば、『タイガー・バレット』(2018)や『シャウト・アウト』(2020)の監督としても知られているが、振付師や演出家としても活躍している。
ちなみにボスコ・シーザーとアフメド・カーンが振付をした作品として、同年公開作『Hasee Toh Phasee』(パリニーティ・チョープラー主演)のポスターが1時間7分18秒付近に一瞬登場する。公開年が一緒だからこその偶然かもしれないが……。
〇シルパ・ラオはこんな人
大学卒業後、シンガーソングライターとして活躍していたが『Anwar』(2007)の「Tose Naina」でプレイバックシンガーとしてデビューを果たし、今ではボリウッドを代表するシンガーのひとりとなっている。また「Meherbaan」のアンプラグドバージョンでは、アッシュ・キングと共に顔出しでその歌声を披露している。
■「Bang Bang」
「Tu Meri」の方が取り上げられることが多いが、一番見せたいのは実は映画タイトルにもなっている楽曲「Bang Bang」だ。
ベニー・ダヤールとニーティ・モハンのデュエットソングでありエンディング曲。以前、コラム:インド映画とマイケル・ジャクソンの密接な関係性|『バンバン!』『ムンナー・マイケル』や、海外エンタメへのリスペクト」でも紹介した通り、マイケル・ジャクソンを崇拝するリティク・ローシャンのマイケルリスペクトダンスも披露。
どうしてもリティクに目が行ってしまうが、『チェイス!』(2013)の「Dhoom Machale Dhoom」などと同様に水張りが良く似合うカトリーナ・カイフのダンスにも注目してもらいたい。
〇ニーティ・モハンはこんな人
オーディション番組「ポップスターズ」に出場したことで注目を集め、『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!』(2012)の「Ishq Wala Love」で本格的にプレイバックシンガーとしてデビューを果たした。映画音楽だけではなく、シンガーとしても活躍している他、自身のミュージックビデオには、シャクティとクリティ・モハンの実姉妹をダンサーとして参加させている。
〇ベニー・ダヤールはこんな人
ヒンディー語だけに留まらず、タミル、テルグ、カンナダ語など19にもおよぶ言語を使いこなすことからもインド映画全般において代表的なプレイバックシンガーのひとり。持ち曲は3500以上と正真正銘の大御所だ。2015年の「BBC Asian Network Proms」で『若さは向こう見ず』の「Badtameez Dil」をオーケストラバージョンで披露した。
■「UFF」
ハルシュディープ・カウルと「Bang Bang」でも歌っているベニー・ダヤールのデュエットソング。ちなみにバックコーラスはヴィシャール・ダッドラニだ。
ハルリーン(カトリーナ・カイフ)の妄想ソングとして使用されている「UFF」だが、妄想ということを活かしたファンタジックな世界観が印象的といえる。
現実に戻ったときに数秒だけカトリーナが実際に歌っているのは、『チェンナイ・エクスプレス~愛と勇気のヒーロー参上~』(2013)におけるシャー・ルク・カーンが実際に歌ったシーンや、『ガリーボーイ』(2019)のランヴィール・シンの生ラップなどを引いても90%以上が吹替えのボリウッドにとって、貴重なシーンかもしれない。
〇ハルシュディープ・カウルはこんな人
2つのオーディション番組で優勝し、2003年に『Aapko Pehle Bhi Kahin Dekha Hai』の「Sajna Main Haari」でプレイバックシンガーとしてデビューを果たす。ヒンディー語や英語の曲に加え、スーフィー(イスラム教神秘主義)の曲も歌う数少ないアーティストであり、『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)のダニー・ボイル監督によるイギリス映画『127時間』(2010)にも巨匠A・R・ラフマーンと共に参加している。
■「Are You Ready To Blow」
The S.P.Joyによる楽曲ではあるが、The S.P.Joyはあくまで編曲しているのであって、ボーカルとサンプリング音源が謎に包まれている一曲だ。冒頭でタイトルが表示されるシーンとクライマックスのカーチェイスシーンで使用されている。
SpotifyやiTunesなどの音楽配信サイトには2分半のパッケージ化されたものがあるがループしているだけで、曲自体は30秒程度しかない。
おそらくサンプリングしている曲の権利の問題もあって、サントラにもこの曲は収録されておらず、The S.P.Joy自身もイギリスで活躍するインド系アーティストでたまにエキストラレベルの役で映画に出演するというぐらいで、詳細が謎に包まれている……。

■『バンバン!』作品情報
【ストーリー】
インドの国際指名手配犯オマール・ザファル(ダニー・デンゾンパ)がロンドンで捕らえられた。だが、本国移送前に仲間が拘置所を襲撃し、脱走に成功。その頃、かつてインドからヴィクトリア女王に贈られたインド産で世界最大のダイヤモンド「コヒヌール」を、何者かがロンドン塔から盗み出す。北インドのシムラーに暮らすハルリーン(カトリーナ・カイフ)は、祖母(カムレーシュ・ギル)からこのニュースを聞かされる。宝石泥棒を主題とした映画と俳優の話に花を咲かせる祖母は、独り身のハルリーンに、自分の恋話を聞かせる。そこでハルリーンはマッチングサイトに登録し、サイトを通じて知り合ったヴィッキーとレストランで会い、楽しい時間を過ごす。だが、ハルリーンが席を外している間に彼は姿を消し、本物のヴィッキーが現れる。それまで一緒にいた男は誰だったのか——ハルリーンが思いを巡らせながら車を走らせていると、先ほどの男が負傷した状態で突然現れ、実の名はラージヴィールで、世界を股にかける盗賊なのだと打ち明ける。彼は、ザファルの求めでコヒヌールを盗んだ犯人だったのだ。翌日、ハルリーンはラージヴィールとの接触を疑われ、警察に連行される。そこにラージヴィールが現れ、ハルリーンを救出し、国境を超えた二人の逃避行が始まる。
【クレジット】
監督:シッダールト・アーナンド
脚本:パトリック・オニール(オリジナル脚本)/スジョイ・ゴーシュ、スレーシュ・ナーヤル
出演:リティク・ローシャン、カトリーナ・カイフ、ダニー・デンゾンパ、パワン・マルホートラ、ジミー・シェールギル、カムレーシュ・ギル、ディープティ・ナヴァルほか
音楽:ヴィシャール=シェーカル
原題:Bang Bang!
インド/ヒンディー語/ 2014年/156分
映倫区分/G
©️Fox STAR Studios
2月10日より全国順次公開



