レビュー|ミステリアスなトラックメイカーThe Burning Deadwoodsによる、Tokyo発Alternative R&Bサウンドを聴く

この記事をシェア
2021年9月よりハイペースにクオリティの高い楽曲のリリースを重ねているトラックメイカーユニット「The Burning Deadwoods」がこれまでのリリースに新曲を加えた形でアルバムをリリースした。
The Burning Deadwoodsは、Deadwood FとDeadwood Kによる二人組ユニット。それ以外の詳細は全くの謎に包まれているが、特定のボーカリストは持たず楽曲ごとにフィーチャリングボーカルを迎え、リリースを続けている。これまでの作品ではkiki vivi lilyや次世代ガールズ・ユニオンFAKYのAKINA、 ネット発の次世代シンガー春野、E-girlsで活躍した鷲尾伶菜のソロプロジェクト伶、作詞でReolが参加しているなど、なにやら只者ならぬ雰囲気。
この他にもMATTON & inui(PEARL CENTER)やKona Rose、Sincere、Salaといった、その実力が注目される次世代アーティスト達も起用。人選からもプロデューサーとしての確かな選球眼がうかがえる。
豪華な客演を迎えるビートはLo-fiやCity Pop的なサウンドから、USシーンで盛り上がりを見せるAlternative R&Bを感じさせるような内容まで幅広く、しかもどの曲も楽曲としての完成度が高い。
The Burning Deadwoodsサウンドの面白い部分は、ジャンルを横断しながらも各曲が薄味になることもなく、散らかりすぎることもない絶妙なバランス感覚の上で、しっかりとしたポップス性も土台に備えているところだ。
アルバムは「Introduction」から始まりデビュー作となる「Turn Me On feat. kiki vivi lily」で幕を開ける。シティポップ・テイストのディスコビートにkiki vivi lilyの甘くグルーヴィなボーカルが絡み合う1曲で、シンセの音色からベースのアレンジなどの細部まで最初のリリースとは思えないクオリティの高さを見せている。
トップラインの展開も秀逸で、kiki vivi lilyの声の一番心地いい部分をロングトーンに持ってきたサビまで一気に引きずり込まれる。DJプレイで序盤をがっつり盛り上げてくれそうな1曲だ。
続く「Everlasting Eternity feat. AKINA from FAKY」では実力派ガールズユニットFAKYよりAKINAを迎えたJazzyなR&B。
バッキングのピアノやドラムの質感など隅々までクールなJAZZ要素が漂うトラックとなっており、今日的なポップスの枠に留まらないサウンドだ。ポップス色の強いFAKYからすこし意外性のある人選だが、この楽曲ではAKINAのギミックなしでの歌唱力も再認識できる。
11月にリリースされた「Labyrinth feat. 伶」ではシンガーにE-Girlsで活躍した鷲尾伶菜のソロプロジェクトの伶、作詞には国内外問わず人気のシンガーソングライター/マルチ・クリエイターReolが参加。近づこうとすると消えてしまいそうな伶のどこか淡く儚さのあるボーカルと、Reolの巧みな言葉遊びで紡がれるリリックは、まさに迷宮にはまり込んでしまいそうな危険な響き。
サウンド面では昨今DrakeやDoja Catもリリースするなど、盛り上がりを見せるAfrobeatを取り入れており、グローバルなシーンの動向と自然な形でリンクを果たしている。
そして今回のアルバムでは19歳にして貫禄の歌唱力を見せる新鋭シンガーSalaを迎えての「Moon In Shadow feat. Sala」を新たに収録。The Burning Deadwoodsサウンドの真骨頂と言えそうな幻想的なキーボード主体のAlternative R&Bサウンドとなっており、SZAを彷彿とさせるようなアーバンで現代的なポップネスを感じさせる1曲。
振りかぶりすぎずにすっとフックに入ってくる展開も秀逸で、ビートで派手な展開をつけすぎなくてもトップラインではしっかりフックを感じさせる。
熊井吾郎、Shin Sakiuraといった面々とも共作し頭角を現す新鋭シンガーSalaのボーカルは、透明感のある綺麗な声質なのに一声だけで空気を塗り替えてしまうような存在感があり、ポテンシャルの高さを感じざるを得ない。
物事の考え方においてBrian Enoに影響を受けたというDeadwood F、そしてジャズ全般の音楽に影響を受けたというDeadwood K。別々で活動していたが“お互いの隙間”が埋まると思い、共同制作を始めた。曲作りの分担等は決まっておらず、お互いに何度かやり取りを繰り返して楽曲を完成させる。ボーカリストは全て、自分たちがリスペクトしているアーティストにオファーをしているそうだ。
アルバム後半、インスト曲「Undone」から続くのは「Mystic feat. MATTON & inui from PEARL CENTER」。PEARL CENTERのボーカリストであるMATTONとinuiが参加したどこかコズミックな広がりを感じるネオ・ソウル。
キーボードを中心としたトラックに、MATTON & inuiによる透き通るような清涼感のあるセクシーさのコーラスワークが広がる。こういったソウル系ジャンルへの造詣の深さも伺える仕上がりだ。
「Fantasy feat. Kona Rose」はさらに一歩深くThe Burning Deadwoodsの音楽性を感じさせるTokyo的CHILL感のハウス〜Alternative R&B。スローな四つ打ちのイントロからAlternative R&Bなサウンドへと展開、どこまでも心地よいテンポと、ヒーリング効果が科学的に証明できそうなKona Roseのボーカルがコロナ禍のストレスフルな日常にグッと刺さってくる。
ステレオタイプに陥らないトップラインは、バースでのアーバンでクールなダンスミュージック的動きから、フックでは包容力のあるR&Bテイストへと変化。シンセパッドやアルペジオ、フィンガースナップまで一音一音に深い音作りへのこだわりが現れており、隙のないサウンドプロダクションとなっている。
本楽曲のゲストボーカルとしてプロフェッショナルなボーカルワークを見せるKona Roseは、父親にモータウンレコーズ元プロデューサーのGeorge Jackson、母親にMichael Jacksonのダンサーとして活躍したYuko Sumida Jacksonを持つサラブレッド。
日本語と英語を織り交ぜたグルーヴ感溢れるボーカルが印象的で、R&B〜ダンスミュージックシーンでグローバルな活躍が期待できそうなアーティストだ。
EPのラストを締めくくる「Behind feat. 春野 & Sincere」ではチルでLo-fiなサウンドを得意とする春野と、R&B/Soul系の実力派シンガーとして注目を集めるSincereが共演。
SincereはSIRUPや向井太一に楽曲提供を行う注目の女性プロデューサー・Chocoholicを迎えた楽曲をリリースしており、本格的なR&B/ソウルをルーツに感じさせるシンガーだ。それに対しニコニコ動画やYouTubeでの活動で知られる春野は、R&Bのテイストはありつつもどちらかというとチル&Lo-fiなポップスよりの印象がある。
微妙に違ったルーツ同士の組み合わせのようにも思えたが、チル x Lo-fi x R&Bという相性抜群なコーディネートで素晴らしい化学反応を見せている。夕暮れ時のドライブ中、ちょっと疲れてきたときなどに流れてきたら最高だ。
The Burning Deadwoodsはジャンルで縛ろうとすると掴み所がない存在に思えるかもしれないが、今回のアルバムを通して聴くと確実にThe Burning Deadwoodsにしかなし得ないサウンドがあり、ジャンルに関係なくチルいサウンドを求める誰もが一度聴いてほしい内容になっている。
全曲シングルクオリティの音楽制作センスに加え、フィーチャリングの人選センスやジャンルクロスオーバーしながら音楽シーンの現在を映し出すようなプロデューサー感覚など総合力も高い彼ら。
ユニークな活動形態を通してどのように進化していくのか、次世代の才能によるAlternative R&Bを軸とした新たなムーブメントが起こりそうな予感のするEPだ。
【リリース情報】
The Burning Deadwoods
『T.B.D.』
配信日 : 2021年12月29日(水)
M1. Introduction
M2. Turn Me On feat. kiki vivi lily
M3. Everlasting Eternity feat. AKINA
M4. Labyrinth feat. 伶
M5. Moon In Shadow feat. Sala
M6. Undone
M7. Mystic feat. MATTON & inui from PEARL CENTER
M8. Fantasy feat. Kona Rose
M9. Behind feat. 春野 & Sincere
<Listen & DL>
https://lnk.to/_tbd
<The Burning Deadwoods プロフィール>
東京発トラックメイカーによる2人組バンド。特定のボーカリストは持たず、ダンスミュージックを軸にAlternativeR&B、Jazz、Lo-fi、Citypopなどジャンルを横断したサウンドで、ゲストシンガーを招き2021年より楽曲をリリース。リリカルなトップラインに現代性とポップネスを掛け合わせたスタイルで注目の日本人アーティスト。
twitter : https://twitter.com/TBDeadwoods
Instagram : https://www.instagram.com/tbdeadwoods/
Youtube : https://www.youtube.com/channel/UCChYy56ZjXjgmdZ_wvCn5bQ