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話題のコラボ機材「SP-404MKII Stones Throw Limited Edition」はなぜ生まれた? Roland初のレコードレーベルコラボの狙いとは

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PHOTO: Roland
開発・企画プロジェクトに関わったRolandのエンジニア白土氏に、コラボ相手にStones Throwを抜擢した理由など、本コラボの狙いについて訊いた。
2023/11/22 19:30
Jun Fukunaga
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昨年創業から50周年を迎えるも、その勢いは止まることなく、今年は新たに東京・原宿に日本初の直営店「Roland Store Tokyo」をオープンさせるなど、Rolandは音楽機材メーカーのパイオニアでありながら、常に新たな挑戦に取り組んでいる。

そんな同社が今秋、新たな試みとして、アーティストではなく初のレコードレーベルとのコラボを実施。世界中のビートメイカーの間で高い人気を誇るサンプラー「SP-404MKII」と、アメリカ・ロサンゼルスを拠点とするインディペンデント・レコードレーベル「Stones Throw」との限定コラボモデルとなる「SP-404MKII Stones Throw Limited Edition」を発表した。


SP-404MKII Stones Throw Limited Editionは、SP-404MKIIにStones Throwの名盤を手掛けてきたアートディレクターJeff Jank氏によるアートワークが施された特別仕様の本体に、レーベル所属アーティストが制作したサウンドを新たに収録した限定モデル。さらに、Stones Throw所属アーティストによるオリジナルの7インチレコードとミックステープのカセットが特典として付属するコレクターズ・パッケージとなっており、この特別な仕様はRoland、Stones Throw双方のファンの間で多くの反響を呼んだ。

今回block.fmは、この話題の限定モデルに改めて着目し、インタビューを実施。SP-404MKII Stones Throw Limited Editionの開発・企画プロジェクトに関わったRolandのエンジニア白土健生氏に、レコードレーベルとのコラボを決めた理由やStones Throwをコラボ相手に抜擢した理由をはじめ、SP-404MKIIの人気の秘訣やユニークな活用方法まで話を訊いた。

***

レコードレーベルとのコラボで新しいシーンや文化を生み出すきっかけにしたい

ーRolandとレコードレーベルのコラボは今回が初とのことですが、アーティストではなくレーベルとのコラボを考えた経緯を教えてもらえますか?

白土:メインストリームの音楽シーンを見れば、こういった場合、アーティストとコラボする傾向が強いと思います。ただ、ダンスミュージックのようにどちらかと言えばアンダーグラウンドな文化、特にヒップホップやハウス、テクノシーンの場合は、アーティスト個人よりもレコードレーベルが大きな影響を持っていて、それがシーンや文化を構築してきた歴史があります。

例えば、ヒップホップだと今回当社がコラボしたStones ThrowやBrainfeeder、Delicious Vinyl、ハウスだとTRAX、デトロイトテクノだとUnderground Resistanceといったように、レコードレーベルが着実に文化を形成してきました。その歴史を踏まえると、アーティストよりもむしろレコードレーベルとコラボした方が今後新しいシーンや文化を生み出すきっかけになると考え、今回はレコードレーベルとのコラボを選択しました。

SP-404MKIIはビートメイカーからの支持が高い機材ですが、その中でコラボ相手にStones Throwを抜擢した理由は?

白土:コラボ相手としていくつかのレーベルが候補として挙がっていたので、その選定には正直すごく悩みました。ただ、SPシリーズの歴史を振り返ると、Stones Throwからは約20年前にMadlib(とMF Doom)の『Madvillainy』やJ Dillaの『Donuts』といったSP-303(SP-404の前身モデル)で制作されたアルバムがリリースされていたり、それらのアルバムがヒップホップやローファイヒップホップの金字塔となったことで、SPシリーズの文化も急速に発展していったという経緯があります。

正直なところ現在のStones Throwは、いわゆるゴリゴリのヒップホップアーティストはあまり所属しておらず、どちらかと言えばチルな雰囲気のフォークやあるいはソウル、ファンクのバンドが多く所属しているので、厳密にはSPシリーズのイメージとはやや異なるのですが、今回はSPシリーズの起源にフォーカスしたいということもあって、最終的にStones Throwがコラボ相手としてふさわしいという結論に至りました。

ーなるほど。個人的にはBrainfeederとのコラボも実現してほしかったです。

白土:もちろん、BrainfeederもSPシリーズを語る上では欠かせない存在です。その理由はBrainfeederも“Flying Lotusが立ち上げたLAビートのレーベル”というイメージで語られることが多かったからです。ただ、近年はそういった音楽性よりも、もっと実験的な音楽性にシフトしている印象が強いですね。

ー確かに最近は長谷川白紙さんやBPMが速いダンスミュージックのアーティストとも契約していますね。

白土:以前は、Ras GのようにSPシリーズとも縁が深いアーティストがBrainfeederに所属していたのですが、彼はSP-404MKII開発が始まる前の2019年に亡くなってしまって。

それと今回は過去の歴史を重んじるという意味でStones Throwとのコラボを決めましたが、実は以前から商品のレビューをStones Throwのアーティストにお願いしたり、来日時にミーティングしたり機材を貸し出したりするなど、RolandとStones Throwの繋がりは深いんです。そういったさまざまなかたちでの交流があったことも今回のコラボに繋がっています。

ーSP-404MKII Stones Throw Limited Editionでは、J.RoccやMndsgnなど日本でも人気が高いStones Throw所属アーティストの曲が10曲収録されています。それぞれ16のパターンと16のサンプルを備え、アーティストのクリエイティブなサウンドを深掘りして、ジャムやリミックスに活用できるとのことですが、この仕組みを考えた理由を教えてもらえますか?

白土:SP-404は非常にクセが強いというか、取扱説明書を読むだけですぐに使いこなすのは難しい機材と言われることがあります。そのためユーザーさんの中には、SP-404単体で曲を完成させるイメージがあまりないという人もやはり一定数おられるんです。

一方でアメリカの西海岸では、SP-404単体で曲を制作する美学を尊重するアーティストも存在しますし、その場で即興でビートを作るコンテストも行われるなど、その美学が文化として根付いています。

ただ、どのように作業しているのか、どんな仕組みになっているのかなど、SP-404自体に興味を持たないとそういった美学はなかなか理解されにくいと思うんです。なので、今回はアーティストがSP-404単体でどのように曲を作っているかに対する興味を持ってもらいつつ、併せてアーティストごとに制作アプローチがかなり違うという部分も見てもらう目的でこの仕組みを考えました。

ここだけの話、SP-404では4小節のオーディオを単純に16個並べて一気に再生させるのが、一番楽な曲作りの方法だと思います。ただ、今回収録した10曲の中には、そういった方法で作られた曲もあれば、ちゃんとアーティストが自分でひとつずつ打ち込んで作った曲もあります。本当にそれぞれの曲で作り方がかなり違うので、そこに気づいてもらえると嬉しいですね。

ー新曲を収録するにあたり、Stones Throwの所属アーティストにはどのような内容で制作を依頼されたのでしょうか?

白土:Limited EditionにはStones Throwから5人のアーティストが参加していますが、特に何のルールも決めず、“ご自由にどうぞ”という感じで完全にアーティストに任せる形でやってもらいました。皆さんノリノリでやってくれたので、当社としても非常にありがたかったですね。それとLAでローンチイベントを開催しましたが、同じようにノリノリで出演してくれましたし、お客さんも会場がパンパンになるくらい入っていただき、すごく盛り上がりました。

ーユーザーが収録されている新曲の素材を使って曲を制作した場合、Bandcampなど音楽プラットフォーム上で曲を販売することもできるのでしょうか?

白土:Stones Throwとは著作権フリーで使える音源を作ってもらう契約になっているので、皆さんが普段から使用されている著作権フリーのサンプルと同じようにSP-404MKII Stones Throw Limited Editionの収録素材を使って制作した曲をリリースしていただけます。

ーちなみに原宿のRoland Store Tokyoに行けば、SP-404MKII Stones Throw Limited Editionを実際に触って試奏できますか?

白土:はい。現在、Roland Store Tokyoで展示しているので、そちらで試してもらえればと思います。また、通常のSP-404MKIIに関しては、当社ウェブサイトの「DEALER LOCATOR」ページでおよその展示店情報をご確認いただけます。

ただ、通常のSP-404MKIIとStones Throw Limited Editionの中身自体は同じなので、操作感だったり機能を実際に触って確認したいということであれば、通常のSP-404MKIIでもご確認いただけます。

Limited Editionでは日本の"痛車"の技術も採用

ーStones Throwの名盤を手掛けてきたアートディレクターのJeff Jank氏によるアートワークや、所属アーティストによる7インチレコード、ミックステープのカセットが付属するなど、ファンにとっては非常にコレクターズアイテムとしての価値が高い仕様になっています。このアイデアはどういったきっかけで生まれたのでしょうか?

白土:最初からRolandサイドもStones Throwサイドも特典に関しては同じ方向性で考えていたのですが、そのことは実際にコラボが決まった後の初回の打ち合わせ時に時に、双方から「レコードを付けたい」という意見が出たことでわかりました(笑)。

レコードは、今のようにデータで音楽を聴くことが主流の時代においては、特別感のあるプレミアムなアイテムだと思います。だからこそ絶対に特典にしたいと思っていたのですが、私自身も25年以上DJとして活動していたり、海外のマーケティングメンバーの中にはプロのDJもいたりするので、基本的にプロジェクトメンバーにはレコードに対する熱い想いがあるんですよ(笑)。


それとカセットテープに関しても、最近カセットビートテープが再注目されていますし、音質自体もコンプがかった独特の音になっているので、配信やダウンロードとの違いを感じていただけたらということで特典としてつけることにしました。

ー確かにレコードやカセットなどフィジカルフォーマットの音源が特典として付属すると、さらにコレクターズアイテムとしての価値が増しますね。

白土:そうですね。コレクターズアイテムという意味では、本体のパネルにもこだわりました。Limited Editionの本体自体は通常のSP-404MKIIと同じマレーシア製ですが、パネルに関しては日本製になっています。

このパネルでは、日本の“痛車”で使われる技術が使われていますが、その技術は他の国にはない日本独自のものです。具体的に言うと、非常に大きなフィルムを印刷して、そこに熱を加えた後に真空で丸めてからカッターで切るというものなんですけど、作業自体も日本の職人さんが手作業で行っています。

元々、プロジェクトチーム内でJeff Jankさんから上がってきたデザインをどうやって使えばいいんだろう?みたいな感じでアイデアを練っていたところ、最初に浮かんだのはスマホのケースのデザインなどで使われている水彩転写でした。ただ今回は柄が重要ですし、間延びしてしまうと都合が悪いということで、そのアイデアは見送ることになりました。それでいろいろリサーチしていたところ、「そういえば、痛車って」と思ったことでその技術を採用するという考えに至りました。

ー 今、パネルの話もありましたが、SP-404シリーズといえば、パネルのカスタム文化もよく知られています。これはどういったことがきっかけで生まれたカルチャーなのでしょうか?

白土:当時のエンジニアや開発メンバーに尋ねても、これだと断言できる明確な答えはありません。メーカーが直接仕掛けたと言う人もいれば、あるアーティストが最初に貼り始めたとする説もありますが、後から考えると、その当時だとアルミのレコードケースを使うDJが多く、そこにレコードレーベルやレコード店のステッカーを貼るという文化が定着していました。

またクラブに設置されたターンテーブルやミキサーにステッカーを貼ることは難しいのですが、SPは個人の所有物なので、ステッカーを貼ることは自由です。だから、自分の所有物にステッカーを貼る文化の一環として発展していったのではないかと考えています。

ちなみにSP-404MKIIではパネルの型紙のデータを提供しており、ユーザーさんは自分でデザインしたものをシール紙に印刷し、それを貼ることで独自のカスタマイズができます。これによって、ユーザーさんはよりSP-404に愛着を感じられるようになるはずです。

日本では演劇場や野球場、テレビのバラエティ番組などでも使用されているSP-404

ーSP-404シリーズはシリーズ累計で10万台以上を販売しているとのことですが、改めてRolandとして、このシリーズが今なお世界中で人気を博していることについて、どのように捉えているか教えていただけますか?

白土:初代のSP-404を開発していたエンジニアやその企画を担当してたメンバーに話を聞くと、正直ここまで人気が出るとは思ってなかったそうです。世間的には、もしかするとローファイヒップホップシーンで非常に人気があり、その界隈のビートメイカーに使用されているイメージが強いのかもしれませんが、実際にはさまざまな要素が複雑に絡み合っていると思います。

例えば日本の場合、放送局や学校の放送室、演劇部、野球場、遊園地などで、ジングルの再生にSP-404がよく使用されています。また、お笑い芸人が面白いセリフや変わった効果音を入れてネタに使うなど、バラエティ番組の企画にも利用されていますし、アイドルの番組のクイズ企画でも使われるなど、バラエティー番組全体での需要も高まっています。ただし、そういった使用法は主に日本国内に限られます。

ー海外だとやはりビートメイキングの機材として、ビートメイカーに使われるケースが多いのでしょうか?

白土:そうですね。アメリカの西海岸のビートメイキングシーンでは、元々AKAIさんのMPCを使ってビートを制作していた人たちの間で、ちょっと歪んだようなクセのある音がすることなど、「これを使うとより面白いビートが作れるぞ!」という評判が広まっていったことでSPシリーズの人気が高まっていきました。またコンパクトで持ち運びやすく、電池駆動も可能なため、ツアーなどで利用されるようになったのも人気が高まった一因です。

ー先ほどビートメイキング以外に効果音を鳴らす目的でSP-404MKIIを使用することも一部では定着しているというお話がありましたが、そのほかにも何かSP-404MKIIのユニークな使用方法はありますか?

白土:ビートメイキング以外の使い方ということであれば、キーボーディストやギタリストが演奏中にSP-404を自分の脇に置いて、サンプルやドラムのフレーズを再生し、それに合わせて楽器を演奏したり、ライブ時にSEを再生したりする時に使用されることもあります。

また地下アイドルのライブでは、SP-404に曲を事前に入れておき、それをひとつずつ順番に再生しながら歌うケースも見られます。こうした現場では、音響担当やPAスタッフがいないことも多いので、手軽に曲を自分たちのタイミングで再生するために使われているようです。

ー地下アイドルのライブ用に使われているイメージは全くなかったです。ほかにも何かありますか?

白土:あとSP-404MKIIは、USB1本でPCと簡単に接続できるオーディオインターフェースとして利用することもできます。その場合、例えば、YouTube視聴時にSP-404MKII経由でYouTubeの音を聴くことができます。また約40秒ほど過去に遡って保存できる機能も搭載されているので、YouTubeやSpotifyを聴いている時に気に入ったフレーズがあったり、自分で演奏した楽器のフレーズが良かったりした場合はSP-404MKIIに自動録音されているその録音を遡って呼び出すことができます。

ちなみに最近は、ポッドキャストの配信用に使用されるケースも増えています。マイクとSP-404MKIIとPCを接続して、拍手などの音効用のサンプルを入れておけば、配信用のオーディオインターフェース兼サンプラーとして使用いただけます。

それとDJモードという機能も搭載されているので、オーディオで曲をいくつか入れておけば、DJミックスも可能です。シンクボタンが搭載されているので曲同士のビートシンクも簡単ですよ。

ー今後、Stones Throw以外にもコラボの予定はありますか?

白土:Stones Throw Limited Editionリリース前もコラボの話をいただくことはありましたが、リリース後の反響が予想以上に大きかったこともあり、コラボの相談は増えたので、改めて今回のコラボのインパクトの大きさを実感しています。

ーコラボオファーは、Stones Throwのようなヒップホップ/ビート系レーベルなど、音楽系のオファーが多いのでしょうか? また今回のようにSP-404MKIIとのコラボを意図したオファーなのでしょうか?

白土:そういうところもありますし、音楽業界以外からもお声がけいただいています。まだ詳しいことは言えませんが、今後はそういったコラボも考えています。またカスタムするという点では、コラボレーターの方は今回のようにSP-404MKIIにオプションというか、レコードやカセットに限らず何か特別感のある特典をつけることを望まれていますね。

ーRolandさんのコラボアイテムでは、過去にはUNIQLOさんとのTシャツやPUMAさんとのスニーカーもすごく話題になりましたよね。ただ、Roland機材とのコラボではなかったので、今回のようなコラボ機材もどんどんリリースして欲しいという声もあるのではないでしょうか?

白土:Rolandとしては、機材に限らずコラボレーターにとってもメリットがあるのであれば、ぜひやりたいと思っています。それでいうとPUMAさんとのコラボスニーカーをリリースした時は、原宿のプーマさんのショップに初めて行列ができたくらい大きな反響があったとお聞きしています。このようにどうせやるのであれば、お互いのお客さんが広がるようなコラボがいいなと思っています。

そういう意味では、今回のStones Throwとのコラボはヒップホップという同じ文脈にあるものなので、次はもっとお客さんの幅を広げるという意味で違うジャンルとコラボしてみたいですね。それとSP-404MKII以外の機材とのコラボも今後、機会があればやってみたいので、良いお話があれば実現させていきたいと思っています。

【商品情報】
サンプラー 『SP-404MKII Stones Throw Limited Edition』
オープン価格
発売日2023年10月27日(金)
info:https://www.roland.com/jp/promos/sp-404mk2_stones_throw/

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