ラップのリリックを犯罪の証拠として使用することを制限する法案がカリフォルニア州で成立

この記事をシェア
近年、ラッパーの表現の自由が脅かされている。今年5月には全米1位ラッパーのYoung Thug(ヤング・サグ)とGunna(ガナ)が連邦RICO法、いわゆるリコチャージに違反するギャング活動と恐喝容疑で逮捕されたが、証拠として彼らの楽曲のリリックやSNSの投稿などが使用されていた。
ラップのリリックは刑事裁判で犯罪の“証拠”となり得るのか?この事件をきっかけに大きく注目されているラッパーの表現の自由。それを守るべく立ち上がったのは、かつて警察に対し牙を向いていた伝説のヒップホップグループ、N.W.Aの出身地であるカリフォルニア州だった。
カリフォルニア州知事がラッパーの表現を守る法案に署名
カリフォルニア州知事のGavin Newsom(ギャビン・ニューサム)は9月末、刑事裁判でラップのリリックを証拠として使用することを制限する法案に署名。表現の自由に対するアーティストの権利を保護する画期的な法案が成立した。ZOOM上で行われたセレモニーにはMeek Mill(ミーク・ミル)、Ty Dolla $ign(タイ・ダラー・サイン)、Too Short、(トゥー・ショート)やE-40(イー・フォーティ)らも出席。
CA is the 1st state to ensure creative content - like lyrics & music videos - can't be used against artists in court without judicial review.
Thanks, @JonesSawyerAD59 for your work & @yg @KillerMike @tydollasign @Tyga @MeekMill @E40 @TooShort for your dedication to the cause. pic.twitter.com/cpOSCiHh0X
— Office of the Governor of California (@CAgovernor) September 30, 2022
州知事は法案について「あらゆるアーティストが偏見や訴追を恐れずに活動できるべきだ」とコメントしている。この新法でカリフォルニア州の裁判において使用を制限されるのはラップのリリックだけでなく、「パフォーマンスアート、ビジュアルアート、詩、文学、映画、その他のメディア」などアート全般が含まれる。
出席したToo Shortは80年代から活動していた経験より、自分たちの世代はリリックによって検察官から標的にされていたことを挙げ、次世代のカリフォルニアのアーティストたちに自由が与えられることに感謝している。セレモニーには他にも、グラミー賞を主催するレコーディング・アカデミーのCEOやJay-Z(ジェイ・Z)とMeek Millらが立ち上げた司法改革を行う組織REFORMのチーフ、歴史あるヒップホップレーベルのDef Jamの元代表らも参加。今後は全米でさらに議論が活発になることだろう。
一方ニューヨークでは認めらず
同様の法案はヒップホップ生誕の地であるニューヨークでも先に取り扱われていた。法律改正に対してはJay-ZやMeek Millらも支持を表明していたが、残念ながら否決に。この時は他のジャンルに比べてヒップホップのリリックばかりが証拠として使われることが多いと問題になり、法案を提出した議員の1人はカントリーミュージックのJohnny Cash(ジョニー・キャッシュ)やロックのDavid Byrne(デヴィッド・バーン)が危険な内容を歌っていても誰も信じないだろうと述べていた。
ニューヨーク市では今年2月にEric Adams(エリック・アダムス)市長がドリル・ミュージックの規制を指示。これはドリル・ミュージックが犯罪を煽るものだという理由からで、物議を醸した。後日Eric AdamsはMaino(メイノ)やFivio Foreign(ファヴィオ・フォーリン)らニューヨークのアーティストと面会し、「規制する意向はない」と発表したが、先日ニューヨークで開催されたヒップホップフェス「Rolling Loud」では数名のドリルラッパーが「出演することで暴力行為の可能性が高まる」としてニューヨーク市警察から出演を取りやめることを求められ、キャンセルとなっていた。
カリフォルニア州ではこの法案が2023年1月より施行される予定だ。