“大切なのはコピーや再構築ではなく新しい創造” 坂本龍一も認めた気鋭のジェネラティブアートデュオ、404.zeroインタビュー


この記事をシェア
2023年12月7日から9日の3日間にわたって開催された、電子音楽とデジタルアートの祭典「MUTEK.JP 2023」。
8回目となった今回は、テクノロジーとクリエイティビティの融合による実験的かつ革新的なオーディオビジュアル・ライブパフォーマンスのショーケースとして、渋谷Spotify O-EASTとWOMBを舞台に開催。連日、国内外の新進気鋭のアーティスト総勢53組によるパフォーマンスが繰り広げられた。
そのプログラムのひとつで12月9日にSpotify O-EASTにて開催された、エレクトロアコースティックからメディアアートまでを繋ぐ「Nocturne3」には、Kristina KarpyshevaとAleksandr Letsiusから成るロシアのジェネラティブアートデュオ、404.zeroが出演した。
A/Vアーキテクト兼ツールメーカーのKristina KarpyshevaとAleksandr Letsiusは、現代のジェネラティブアートの視覚と音の相乗的な可能性を高める、革新的なツールを共同で作成。数学、コーディング、音の科学に精通したジェネレイティブアートで、精神に作用する体験を生み出している。MUTEK.JP 2023では、明滅する儀式的なモノクロームの映像や壮大な神話のビジョンを思わせる映像を盛り込んだ最新オーディオビジュアルライブ作品『ISOTRP』を披露。日本のオーディエンスに強烈なインパクトを与えたことも記憶に新しい。
Photo by Shigeo Gomi
また、東京・NTTインターコミュニケーション・センター (ICC)にて3月10日まで開催中の『坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア』にも作品を出品するなど、今冬は日本のメディアアートシーンでも注目が集まった。
今回、block.fmではそんな404.zeroにインタビュー。日本デビューパフォーマンスを行ったMUTEK.JPや表現スタイルのルーツ、アーティストの間で注目を集めるAIに対するスタンス、そして彼らに影響を与えた坂本龍一について話を聞いた。
女性の活躍が非常に印象的だったMUTEK.JP 2023
ーー今回、MUTEK.JPでの日本の観客の反応はいかがでしたか?
Aleksandr Letsius:今回初めて日本でパフォーマンスを行いましたが、日本のオーディエンスには感謝を伝えたい。MUTEK.JPのマネジメントやテクニカルチームにも、非常にプロフェッショナルな働きでサポートしてもらいました。
Kristina Karpysheva:今回の現場では女性の活躍が非常に印象に残りました。サウンド・テクニカルエンジニアやビデオ・テクニカルエンジニア、マネジメントも含めて女性が多かった。今までの現場ではそういった場面をあまり見かけたことがなく、とても感銘を受けました。
裏方の皆さんのおかげで非常にスムーズにオペレーションでき、プレッシャーやストレスなくパフォーマンスを行うことができました。私にとってストレスのない環境は重要なので、すごくありがたかったです。
ーー日本では第21回文化庁メディア芸術祭アート部門審査員推薦作品に選出されたほか、2021年にはビジュアルアート作品が渋谷の街頭ビジョンで放送されました。MUTEK.JPでも渋谷の中心地にあるSpotify O-Eastでパフォーマンスを行いましたが、日本や渋谷に対してどんな印象を持っていますか?
Aleksandr Letsius:日本の人々はすごく礼儀正しく、落ち着いていて、かつ優しいという印象を受けました。渋谷に関しては、昼間はそういった人々が作り上げる社会性が反映されているように思えますが、夜になると印象がまた少し変わるというか。
Kristina Karpysheva:確かに、昼と夜とで街の印象が大きく違いましたね。ただ実際には、夜になっても昼間と同様にすごく安全に街を楽しめる環境が整っていて、それは日本特有の雰囲気だと思います。
路上やどこかのバーに行っても、自分が話したくなければ話さなくてもいい。そういう環境だったので安心して快適に過ごせました。普段こういったイベントに出演したとき、パフォーマンスが終わった後私たちはすぐにホテルに帰るんですけど、今回は初めてすぐには帰らず、現場にいた人と話したりもしました。フレンドリーで興味深い人もたくさんいましたね。その時に、MUTEK.JPがローカルアーティストたちと力強いコミュニティを築き上げていることを感じました。
Photo by Shigeo Gomi
“音と映像を同時に生み出すことはできるのか?”という問いかけが活動の原点
ーーコーディングとモジュラーシンセを用いたオーディオ・ビジュアルシンセサイザーで作品を制作/パフォーマンスされています。このスタイルに行き着いたきっかけは?
Aleksandr Letsius:僕らのプロジェクトは、独自のオーディオビジュアル・デバイスを使用してライブショーを作るというアイデアから始まったのですが、そのときはまだそのような機材は存在していませんでした。そして僕らは、Axoloti Boardを使用して自分たちのオーディオビジュアル・シンセサイザーを開発したんです。Axoloti Boardはサウンドプログラミングや、ノブやボタンなど様々なコントロール機能との接続を可能にするソフトウェアです。僕たちはそのようなデバイスを2つ構築しました。ケースをデザインしてレーザーカットを頼み、制御コンポーネントをつけ、全てを組み立てて作り上げたんです。初期のライブショーではこのデバイスを使用してパフォーマンスをしていました。
技術的な面で言うと、Axolotiを選んだのは、当時オーディオビジュアル・シンセサイザーを作るための適した機器がなかったから。僕らのデバイスならではの特徴は、サウンドシンセサイザーとして使用できるだけでなく、視覚化のためにサウンド合成データ(例えばrawのLFOやVCA、オーディオ出力以外に必要なデータなど)をTouchDesigner に送信し、サウンド合成と同様の原理で使用できる点です。高価すぎるモジュラーシンセサイザー以外の、従来のシンセサイザーを使ってここまで到達することは、当時の私たちにはとても難しかったですね。
シンセサイザーをプログラミングしてビジュアル要素を作っているとき、僕たちはそれぞれが独自のアプローチとアイデアを持ち込んで、交互に作業していることに気づきました。そうすると、ときにはコードにエラーが生じるんですが、そのことが予想外の興味深い結果をもたらすんです。まるで、意思疎通のない2人の作家が書いた本のようなものです。そのことに気づいて以来、僕らは「エラーから何か新しいものを発見する」という原理に基づいて創作活動をしています。
Kristina Karpysheva:大事にしているのは新しいものを作るということ。既存のものを再度作るということではないんです。最近は生成AIが注目を集めていますが、一番の問題は過去に作ったものを再度構築できてしまう点だと思います。やっぱり人間だけが新しく特別なものを作ることができるんですよ。とはいえ、それはあくまで現段階の話ですけど。また私にとっては、やっぱり自分の手で作る感触を持つということがクリエイティブにおける一番の楽しみなんです。これは自分たちがオーディオビジュアルライブをする上で面白さを感じている部分でもあります。
Photo by Shigeo Gomi
既存のものを再度作るのではなく新しいものを作る
ーー今、生成AIの話が出てきましたが、2023年は音楽や動画の分野でも生成AIの台頭が一般的に認知されるようになった印象があります。ただ現状、クリエイティブの分野で生成AIを活用することについてはさまざまな意見があります。生成AIを含めAIを活用して創作することに対してはどのような考えをお持ちですか?
Aleksandr Letsius:MidjourneyやChatGPTをインスピレーションとして使うのは全然アリだと思います。ただ、アーティストとしては、あくまでも自分の創作をアシストしてくれるものやインスピレーションを与えてくれるものとして使うことが、今はベストな形だと思っています。
ーー哲学的なテーマで作品を作られていますが、テクノロジーについてはどのようなものだとお考えでしょうか?
Aleksandr Letsius:テクノロジーは僕たちの生活の中で非常に重要な役割を果たしています。いくつかの側面があって、そのうちのひとつは人間全体の生活を改善する。その一方でテクノロジーの中には暴力的な方向に影響を与えるものもあります。
現在のテクノロジーは地球全体、生物学や政治学の観点、あるいはアーティストの観点で見ても、良い方に転ぶか、悪い方に転ぶかの瀬戸際にまで到達しているように感じていて…。もしかしたら数年後に振り返ってやっとその答えがわかるのかもしれません。
例えば、今は地球を消し去ってしまえるようなテクノロジーもありますし、もしくは改善していくためのテクノロジーも存在しています。アーティストがテクノロジーを使うことで、たくさんのオーディエンスを作ることができ、それによって社会にインパクトを与えることもできます。またテクノロジーの進歩により、アーティストが作った美しいものをさらに高めることもできると思います。
Kristina Karpysheva:アートには人の考えに影響を与える力がありますが、例えば、私たちのパフォーマンスも良いスピーカーで聴くかどうかで他人に与える印象は大きく異なると思います。だから、音楽という観点でテクノロジーを見れば、テクノロジーが発展することでよりよい音をオーディエンスに届けることができるようになります。でも、テクノロジーの発展によってアートのコピーが簡単になると、アートは逆の方向に進んでしまうかもしれないという懸念もあって…。
Aleksandr Letsius:全ての生物のDNAがそれぞれ違ったユニークなものであるように、僕たちも音楽をコピーをしたり、同じものを再構築したりするというわけではなく、多様性のある音楽を作っていきたいと思っているんです。
自分自身の進む道を自由に自分で選んでいいということを示してくれた坂本龍一
ーー坂本龍一さんのトリビュート展にも作品を出展されています。404.zeroにとって坂本龍一とはどのような存在ですか?
Aleksandr Letsius:坂本さんは非常に偉大な人間であり、自分自身の進む道を自由に自分で選んでいいということを示してくれた彼から、僕は多大な影響を受けています。20代の頃、ロシアの郊外で暮らしていて自分の将来がこの先どうなるのかわからなくなり、本当に不安に思っていたことがありました。でもその頃、坂本さんの音楽を聴いたことでそういった不安がなくなり、あたかも自分の将来に光が当たったような感覚を覚えたんです。
Kristina Karpysheva:坂本さんの音楽がいくつもの世代にわたって引き継がれていることに、アーティストとして感銘を受けています。実際にはお会いしたことはないのですが、初めてInstagramのDMでやりとりをした時も、昔から知っている友達のような感覚を覚えました。
残念ながら坂本さんは亡くなってしまいましたが、それでも彼の魂と一緒に生きているような感覚があるんですよ。彼のプレイリストに私たちの音楽を入れてくれたのは本当にうれしかったです。私たちにとっては、何かの賞をもらうことより、坂本さんが私たちの音楽を聴いてくれたことのほうがものすごく名誉なことだと思っています。
ーー坂本龍一さん以外に影響を受けた、あるいは注目している日本のアーティストやクリエイターはいますか?
Aleksandr Letsius:数年前、ロサンゼルスのフェスで一緒になった黒川良一さんですね。彼は高いクリエイティブ力の持ち主なので注目しています。他にも、実験音楽家の池田亮司さんや、宮崎駿監督にも影響を受けていますね。
Kristina Karpysheva:『攻殻機動隊』の作者、士郎正宗さんと寿司職人の小野二郎さんにも影響を受けています。
Photo by Shigeo Gomi
ーー2023年は振り返ってみてどのような1年でしたか?
Aleksandr Letsius:全体的には難しい1年でしたね。後半は前半よりも少し変化が見えてきたように感じています。
Kristina Karpysheva:コロナ禍の前は1ヶ月に何度も飛行機で世界中のいろんなところに出向いてパフォーマンスをしたり、作品を作ったりしていました。2020年にコロナ禍が始まった時は、その時に決まっていたパフォーマンスが全てキャンセルになり、本当にたった1週間で全てが止まってしまったのを覚えています。その後の2年間は“失われた2年間”という感じです。
Aleksandr Letsius:それで自分たちのパフォーマンスを再構築する作業を始めたのですが、2023年の夏にようやくその準備ができたことでパフォーマンスを再開しました。
Kristina Karpysheva:今回来日して、日本に引っ越したいと思いました。日本という場所が精神安定剤のように感じるというか、まるで水のように静かでうるさいこともなく、すごく落ち着くからです。そういう場所に私はすごくインスピレーションを感じます。だから、今は日本のように自分の心が落ち着く場所を探しています。
ーー最後に、2024年の展望も教えてもらえますか?
Kristina Karpysheva:2024年はより音楽にフォーカスして活動していく予定です。
Aleksandr Letsius:それとカートゥーン・アニメーション作品を作るという予定もあります。あとは自分たちが使っているソフトウェアの大きなアップデートも実施するつもりです。
通訳:桜木谷薫
インタビューでは、404.zeroの2人がアーティストとして、コピーではなく、自分たちならではのオリジナルなものを創作することを強く志向していることを感じた。今回2人が語ったようにAIをはじめ、テクノロジーには”再構築”を容易にするという側面がある。それはテクノロジーの強みとなる利便性と言える性質だが、そこに寄りかかるのではなく、テクノロジーを活用することで新しい創作のあり方を模索する。それが404.zeroのクリエイティビティを支えている。そんなことを実感した。

