「死ぬまで自分の表現を」MC・作詞家、弥之助(from AFRO PARKER)インタビュー

「自分の人生には波風がない」と俯瞰する弥之助(from AFRO PARKER)に作詞へのこだわり、言葉、音楽への思いについて話を聞いた。
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2020.12.04 09:00

Writrten by Tomohisa Mochizuki

Photo:ki yuu


“平凡”から紡ぎ出す無限の詞世界。MC・作詞家として活躍する弥之助(from AFRO PARKER)インタビュー


コミカルでファンキー、ジャジーでチルな7人編成のヒップホップバンドAFRO PARKERのMCの1人にして、ラッパ我リヤ、サイプレス上野、餓鬼レンジャーといった面々が参加する人気コンテンツ『ヒプノシスマイク』への作詞提供、KREVA、スチャダラ、SALUにSONPUB、氣志團にyahyelと多様なゲストを迎えた香取慎吾アルバム『20200101(ニワニワワイワイ)』にも参加し、活動の場を問わず作詞家として頭角を顕す弥之助(やのすけ)。企業に就職し、現在も配属された静岡を拠点にしながら活動を続けているアーティストだ。


弥之助が作詞を手掛けたアニメ『ヒプノシスマイク』の新EDが公開されたばかりのタイミングで行われたインタビュー。東京を訪れていた弥之助はフーディにニューエラ、足下はナイキというオーセンティックなストリートマナーを踏襲したスタイルに身を包み現れた。その物腰は柔らかく「未だに、自分の歌詞と向き合うときには焦ります」とはにかむ。話だけ聞けば華やかですらある経歴の裏、“平坦”“平凡”と自身を形容し、「自分の人生には波風がない」と俯瞰している。ときにはその事実に葛藤し、苦悩しながら今に至るという。


MC、作詞家、最近では動画制作と、その色をカメレオンのように変化させる弥之助の経歴と素顔に迫りつつ、作詞へのこだわり、さらには言葉、音楽への思いについて話を聞いた。





「初めて僕が人前でしたラップはPESさんのバース」結成10年AFRO PARKERの原点


—現在のお住まいは静岡ですが、弥之助さんは千葉県出身なんですよね? 


弥之助:千葉県の柏で生まれました。22歳までずっと地元で、就職して静岡に配属になって。静岡に住んで8年目になります。


—アーティスト活動において不都合はないですか? 


弥之助:静岡の東部なので東京まで新幹線で1時間ほど。だからガッツリ影響があるわけではないですね。


—弥之助さんが所属するバンドAFRO PARKERは、メンバーが各地で就職しながら活動しているのも特徴ですよね。結成の経緯を教えてください。


弥之助:母体となるのは大学の音楽サークルですね。ライヴ企画のとき、生音バンドでRIPSLYMEのコピーをやったんです。初めて僕が人前で披露したラップはPESさんのバースでした。盛り上がったし楽しかったので「生音でラップをのせたバンドやろうよ」ってギターの加地三十等兵が言い出して、サークルと別で活動を始めたのがAFRO PARKERです。


—弥之助さん自身はいつから音楽に触れていましたか? 


弥之助:自分でプレイヤーとして始めたのは高校でクラシックギターの部活に入ってからですね。大学4年間はエレキギターを弾きながら並行してラップを始めました。


—リリックを書いたのも大学の時が初めてですか? 


弥之助:そうですね。ヒップホップには小学5年生くらいに出会ってずっと聴いていましたが、リリックを自分で書いたことはなかったです。AFRO PARKER結成後の最初のスタジオはRHYMESTERのバースを拝借して雰囲気で合わせてました(笑)。


—弥之助さんはトラックメイキングもされていますが、AFRO PARKERでの制作プロセスを教えてください。


弥之助:7人のメンバーの中で、トラックのタネを持ってくるメンバーが4人います。各々がDTM上でタネを作って、それを生音に置き換えていきます。DAWの音源がハマってればそのまま使うことも最近は多いですね。


—持ち寄ったタネを「これ、俺進めるわ」とかメンバー間で役割を割り振っていくんですか? 


弥之助:基本的にはタネを作った人がその楽曲の制作をリードしていきます。サウンドバリエーションの豊富さがバンドである意義とか面白さになるといいなと。歌詞は僕ともう1人のMCであるWAKATHUGが書いているので、トラックがどんな方向のものになっても、歌詞の世界観は勝手に収束していくというか。


—チームの連携が取れていて、仕事できる人たちなんだなって思います。


弥之助:みんな本当にサラリーマンとして仕事してますしね(笑)。でも元々友達だからっていう方が大きいです。やりたいことを提案していく過程でストレスが全くない。忌憚なく意見を言い合えるんで、ありがたいです。腹の探り合いはするけど(笑)。


—今の状況だと難しいですが、メンバー全員が集まる機会も多かったんですか? 


弥之助:コロナ前だとほぼ隔週でスタジオに入っていました。コロナ以降もオンラインではずっとやりとりしていて、YouTube配信企画『ロパ飲み』はコロナ禍でできることを考えて始めた企画です。配信のあとマジメなミーティングもしています。


—「ロパ飲み」で、ヒップホップの入り口として『THE EMINEM SHOW』を挙げていましたが、僕も海外のヒップホップをちゃんと聴くようになったのは『THE EMINEM SHOW』がきっかけだったんでシンパシーを感じました。


弥之助:最初は何言ってるか正直分からなかったけど、フロウだけで気持ちが良くて、そのあと気付いてなかった韻に気付いて面白い、意味を調べても面白い。「1曲で何度おいしいんだこの音楽は」っていう衝撃を受けました。





アニメ×音楽。初期衝動から『ヒプノシスマイク』への参加


—弥之助さんが初めて買ったCDは『アップルシード』のサントラだそうですが、アニメは昔から好きだったんですか? 


弥之助:アニメ単体もそうだし、同時に劇伴とか音楽を提供している人に関心が行きました。『アップルシード』の主題歌を手掛けたBOOM BOOM SATELLITESも海外をメインに活動していたので、聴いたときに“こんな日本人アーティストがいるんだ”という驚きもあって。そこからアニメ×音楽分野へ興味が広がっていきましたね。


—弥之助さんが作詞・楽曲提供している『ヒプノシスマイク』に参加した経緯を教えてください。


弥之助:最初はシンジュク・ディビジョンのキャラクター、サラリーマンラッパー・観音坂独歩のソロ曲「チグリジア」を担当させていただいたことがきっかけです。担当のディレクターさんがAFRO PARKERの「After Five Rapper 〜SHACHIKU REQUIEM〜」にキャラクターとの共通点を見出してくれたんじゃないかと。



—11月14日にはアニメ『ヒプノシスマイク』の新ED『絆-SHIBUYA Ver.-』が公開されました。反響はいかがですか? 


弥之助歌詞を追いかけてくれるファンの方が多くて、おかげさまで反響いただいています。


—ベースとなるトラックはtofubeatsさんで、イケブクロ、ヨコハマ、そしてシブヤと各ディビジョンの個性を活かしたトラックアレンジが加えられてますよね。作詞するにあたり、意識した部分はありますか? 


弥之助:シブヤ・ディビジョンのFling Posse「Shibuya Marble Texture -PCCS-」のような個々のキャラクター性が絡み合っていく展開を作りたかったのと、そこからさらに奥行きを持たせて、立体感が出ればいいなと。『ヒプノシスマイク』はアニメ以外にもドラマCDやコミカライズなど、メディアミックスが多様なコンテンツなんですけど、少しずつストーリーや設定が明らかになっていきます。先のストーリーを知っているもともとのファンと、アニメから観始めたご新規さんの双方が楽しめるようなバランスを意識しました。



—多様なメディアでストーリーが並行して展開している中で、矛盾がないようにまとめるのは大変な作業なのでは? 


弥之助:『ヒプマイ』に関して言うと、楽曲がストーリーに直結する重要な要素なので、それまでに出ている媒体を全部洗い直してから歌詞制作に入っています。ストーリーが曲の歌詞とリンクしている構造の作品は好きなので、作っていて楽しいですけどね。


—考察組がネットで歌詞やストーリーを考察していますがいかがですか? 


弥之助:嬉しいですよね。「ヘタなことできねえぞ」って、気持ちが引き締まります。


—『ヒプマイ』以外でも香取慎吾さんの「Metropolis(feat.WONK)」の作詞を担当されていますが、そのときはどうでした? 


弥之助:そりゃもうビビり散らかしました。WONKのベース・井上幹が大学の同じサークルだったこともあって、卒業後も繋がっていまして。それで、日本語のラップ部分の作詞を僕に依頼してくれたという経緯があります。






「その人の言葉になるよう“弥之助”を排除する」作詞家としてのスタンス


—AFRO PARKERで自分の曲を作るときと、作詞家として人の曲を手掛けるとき、メンタル的な違いはありますか? 


弥之助:AFRO PARKERの場合は、自分のことを自分の言葉で書いていくのでアウトプットはスムーズです。僕が思ったことと、そこから組み立てた言葉に齟齬が生まれようがないので。逆に歌詞提供の場合は弥之助の言葉であってはいけない、というつもりで臨んでいます。僕が思いついた言葉で、うまくライミングできていたとしても、そのキャラクターやその人が経験上知りえない、使わないだろうっていう単語は自然とハジいていきますね。他者の人生をまるごとかぶった気になって、その人の言葉になるよう“弥之助”を排除する作業が一工程増えるというか。『ヒプマイ』に関して言えば、弥之助はシーンにおいて決してメジャーな存在ではないので、僕を出し過ぎちゃうとエゴになってしまうというのもあるし、とにかくキャラクターに寄り添うというのが自ずと僕の戦い方になったんだと思います。


—作詞提供することで自身の活動に影響していることはありますか? 


弥之助:AFRO PARKERでの制作では出会えなかっただろうなという言葉に出会えたり、僕個人の詞・言葉って何なんだろうと立ち返って考えることは、作詞提供の体験がなければなかったことだと思います。書いているのは同じ人間なので、持ってる語彙は同じ。選び方や組み合わせによって歌詞を作っていく上で、弥之助の歌詞としていかに自分の表現の濃度を高められるかを考えるようになりました。


—作詞案件でいちばん印象的な楽曲を挙げるとしたらなんでしょう? 個人的には『ヒプマイ』のFling Posse「Stella」は、複雑な構成なので、思い入れが強そうだなと思ったのですが。


弥之助:作詞作業に入る前段階の時間が長かったのはこの曲ですね。キャラクターが別の人物を演じているという多層的な構成なので、歌詞を書く前にプロットを起こして整理する作業が必要でした。劇中劇としてのキャラクターだけが表出しちゃうと、せっかくのうま味が減っちゃうので。もともとのキャラクターの持ち味、関係性が浮かび上がってくるような作品が作りたかったんです。


—楽曲自体がミュージカル的で、「Shibuya Marble Texture -PCCS-」とは全く違うアプローチで驚きました。


弥之助:前作とのギャップがあった方が面白いなと思ったので、そこは狙っています。劇中劇というギミックがうまく作用しました。夢野幻太郎という作家キャラがいるディビジョンなので楽曲自体の説得力につながりましたし、物語を作るにはやりやすかったですね。それぞれが出会っていくところとか、楽曲での物語が『ヒプマイ』の物語にリンクしていくっていう構図を具現化できたかなと思います。


—他のディビジョンの曲と比較しても異質ですよね。ESME MORIさんの手掛けたFuture Bassなトラックも個人的に好きです。


弥之助:トラック痺れますよね。異質さも含め「何でもアリ」なシブヤらしいというか。『ヒプマイ』初見でもカッコイイって思ってもらえるインパクトを担保しつつ、元々のファン、リスナーにも驚いてもらえるような楽曲を意識しました。



—『ヒプマイ』で歌詞を提供するとき、声優さんにラップの仕方を指導することはあるんですか? 


弥之助:全くしないです。僕が仮歌を入れたボーカルデータを渡すだけ。フロウやリズムに関してはそれで明示できるので。細かな演技や発声なんかは声優さんの方がプロフェッショナルだし、キャラクターに魂を入れているのは声優さんですから、僕が正解を持っていないというか。「トラックの2拍目、4拍目をこの文字に合わせるとピッタリ合いますよ」とか、「このバースはキッチリラップするより、ちょっと拍をズラしてモタつかせるとカッコイイかもしれません」みたいな、リズム、フロウ、言葉のはめ方に関するアドバイス程度はすることもあります。


—声優さんの中でもヒップホップを知っている人、知らない人、ラップをやったことがある人、ない人っていると思うんですけど、声優さんと仕事してみていかがですか? 


弥之助:言葉の説得力がすごく増すんですよね。仮歌を入れるときにここはセリフっぽくしようとか、節回しをしゃべり口調っぽくしようってやってみるんですけど、返ってきた音源聴くと解像度がめちゃくちゃ上がっていて「そうです! これをやりたかったんです!! 」って感動します。





諭吉佳作/menを迎えた新曲「Lucid Dream」、「楽しいことは何事も自分でやってみる」


—AFRO PARKERとしては11月25日に新曲「Lucid Dream feat.諭吉佳作/men」がリリースされました。今年はluluさんやYONA YONA WEEKENDERSの磯野くんさんを迎えた客演曲をリリースしていますが、今作で共演した諭吉佳作/menさんの印象を教えてください。


弥之助:もともとTwitterでAFRO PARKERについてツイートしてくれているのを見つけて、そこから直接DMして一緒にやりましょうという運びになりました。透明感がありつつ、強い存在感を感じさせる歌声を持っている印象がありますね。


—「Lucid Dream」はどんなイメージで制作されたんですか? 


弥之助:日本語にすると“明晰夢”という、夢の中で“これは夢だ”って分かってる夢のことです。僕もたまに見るんですけど、感覚として現実と夢の境界があいまいになる。じゃあ今、僕らが現実と思っているものも夢じゃないとは言い切れない、というまあけっこうコスられているモチーフではあるんですが、そういった感覚を音や言葉で表現するとどうなるかという試みです。


—諭吉佳作/menさんの声も楽曲のイメージにピッタリハマっていますね。


弥之助:彼女の浮遊感と力強さを併せ持った声がより非現実感を増して聴く人に訴えかけてくるので、うまく作品のテーマを具現化できたかなと思っています。それこそ2020年なんか特に、夢か現実か分からないようなすごくふわふわした実感の中に人々がいるので、そういった日々の感覚にもマッチする気がしてます。



—弥之助さんは犬ドッグ the 猫キャットマン名義で動画撮影・編集・配信・MVのディレクションなども行っていますが、いつからやられてるんですか? 


弥之助:原体験で言うと中学の文化祭の劇の背景に使うアニメーションを作ったことですかね。動画編集も見よう見まねで模索しながら視覚的に気持ち良いタイミングを覚えていくって感じで。


—犬ドッグ the 猫キャットマン初監督のMVであるAFRO PARKER「Do I Love You? 」のMVも面白かったですし、楽しんでやっていたことが今の活動にもつながっているっていうのはなんとも弥之助さんらしいと思いました。


弥之助:どうなりたいっていうビジョンがあるわけではなく、興味の向くまま楽しそうなことには自分で取り敢えず触れてみたくなってしまうというか。モノにならず飽きてしまったものも山ほど…。



—一見、関係ないように思えても、横断的にいろいろと経験することで活きてくることもありますよね。


弥之助:音源制作時にバンド内でイメージを共有するのにも、各々の色んな経験が役に立っていますね。その曲で想起させたい情景を音にしていく際、どのくらい抽象的なのか、具体的なのかの言語化って、例えばカメラのピントや、どういうレンズか、どんなアングルか、みたいな話になっていくので。





弥之助の詞の源泉。置かれた環境で刺激をいかに受け取れるか


—僕は山梨と東京を仕事で往き来していて、自分の足でいろいろな場所へ行き、体験することで自分の世界に奥行きを持たせるように意識しているんですが、弥之助さんが普段の生活から意識していることはありますか? 


弥之助:静岡にいるからこそいわゆる都会以外での暮らしの曲が1曲できましたからね。置かれた環境の中でいかに刺激を受け取れるかは大事だと思います。刺激に対してあえて弱くなるというか。僕はただでさえ平坦な人生を過ごしてきているので、アンテナの感度を高めないと発信するものがない。でも当たり前と思っている事柄に疑問を持つとその都度世界が広がります。



—その感覚はこれからさらに重要になってくる気がします。現在、弥之助さんが作詞をする上でインスピレーションを受けているものはありますか? 


弥之助:自分で歌詞を書くようになってからは、自分の触れたもの全てが次の作品に少しずつ滲んでいくような感覚です。創作物だけではなく、空とか海とか見ていて、これを歌詞にするとしたらどういう言葉を連ねるんだろうっていうのを考えたり。それはネガティブなものも含めて、心が動いたら全部インスピレーションというか。


—弥之助さんの歌詞って文学的な歌詞が多く、美しい日本語を使うという印象を受けました。本を読むのも好きなのかなって思ったんですけど。


弥之助:本で言うと梶井 基次郎という小説家が好きです。人間の感情、モヤモヤしているよく分からないものを、スッと腑に落ちる美しい言葉に変換してくれる作家さんで、何でこんな言葉を生み出せるんだろうと。作詞の点で言うと高校のときさだまさしさんの詩に出会って、美しい日本語と時にギョッとするような言葉の組み合わせにメロディが絡み合って、そのギャップとコントラストに感動したんです。そういった影響を受けているので、綺麗な歌詞って言われるのは実は自分的にかなり嬉しいです。僕から出ていく表現も、そうであればいいなとは思っています。


—それをラップで表現しているのも素敵だなと思います。


弥之助:ヒップホップという文脈においては、僕は存在しにくいと思うんですね。波乱万丈もなければ、ゲットマネーしてのし上がってやろうみたいな気概もない。だからこそちょっとした感情の動きをいかに描写するか、日常をどう切り取るかで勝負するしかない。幸い日常-非日常っていうテーマは人が暮らす限り今後も描写されきることはないと思うので。ギミックとして、ヒップホップのイメージにない言葉でいかに面白く気持ち良いライミングをするか、それで新しいものが生まれるかもしれないっていうチャレンジもしてますね。


—それが、弥之助さんのアイデンティティになっているんじゃないでしょうか。


弥之助:そうなるといいなと。自分の環境とか自分の人生に、“何も起きてない”ことをどう表現するか。自分の中でいろいろな葛藤を経て今に至ります。未だに歌詞を書くときは自分にできる表現って何だろう? って焦ったりしますからね。「何か波乱万丈起きねえかな」みたいな(笑)。


—今、日本でもいろいろなタイプのアーティストさんが出てきてヒップホップの枠組み、表現は自由になってきたと個人的には感じています。


弥之助:確かに、AFRO PARKERは30年前だったら存在できないバンドだなって思います。クラシック音楽とか、何百年って経っても未だに新曲が出続けているような音楽と比較すると、ヒップホップは音楽史として生まれてまだ間もないオルタナティヴな音楽なんだけど、こうあるべきという縛りやステレオタイプのイメージが強かった気がします。大分自由になってきたので、僕もそれに乗っかって自由にやりたいなと思っていますね。





「言葉の隣りでいつまでも暮らしていたい」野心なき野望と作詞家の存在


—弥之助さん自身がこれから具体的に実現したいことはなんでしょうか? 


弥之助:あまり野心があるタイプではないのですが、しいて言えば、ストレスなく自分の表現ができる環境に居続けるってことですね。具体的な目標を置いてしまうとどうしても数値がつきまとうじゃないですか。それとのギャップに苦しんでしまうんです。気持ち良く創作できなくなってしまうのが恐い。死ぬまで自分の表現をできる環境と人脈をキープし続けることができれば、それこそ僕の野望は達成されたことになります。


—最近話題になった甲本ヒロトさんの言葉とリンクしますね。「ミュージシャンになってお金持ちになりたい」って答える人が多いけど、どっちかにしろと。ミュージシャンになるのとお金持ちになるのはノットイコールで、お金持ちになりたいならそれを真剣に考えろと。ミュージシャンになったら音楽始めたその時点で夢は叶ってるって言ってました。


弥之助:そういった意味ではまさにAFRO PARKERって、食うためにやっているバンドじゃないですからね。やりたい表現をとにかく”続ける”ことを皆大事にしていて、その継続性を担保するのが別に音楽そのものでなくてもいいというか。


—仕事をやりながらのアーティスト活動は理想的ですか? 


弥之助:最初からそうだったわけではないんですけどね。仮に、僕らが大学でバンド組んだ瞬間めちゃくちゃ売れてたら就職してないかもしれない(笑)。ただ、10年という期間、途中からは働きながらも楽しんでやってきて、気付けば自己表現できる“ハコ”が日常の隣りに故郷みたいにある。仕事とは別軸のそういう環境が用意されているっていうのはすごく贅沢だなと感じます。


—実際にそれができる人って少ないと思うんです。仕事1本になって、やりたかったことを諦めてしまうか、やめてしまう人がほとんどじゃないですか。今、みんな大変な状況の中、自己表現できる場所を保ち続けるっていうのは尊いことで、さらに並行して持続可能な生活を維持する生き方って、コロナ禍以降の理想的なライフスタイルかもしれない。


弥之助:本当にありがたいことです。人間にとって表現って、食べられないからやらないってわけにはいかないと思うんです。広い話をするとプロとアマとか、お金になるか否かとか、そういう括りから表現そのものは切り離されていく時代な気がします。


—もうひとつ個人的興味で聞きたいんですが、さきほどの甲本ヒロトさんの話で、デジタル世代は“詞を聴きすぎている”と発言していました。冒頭で、EMINEMの歌詞が分からなくてもライムとフロウを耳で楽しめたということにも繋がるんですが、国内外問わず、もっとぼんやり音楽を楽しんでイイという旨のことを言っていました。弥之助さんはどう考えていますか?  


弥之助:個人的な音楽体験で言うと、思春期真っ盛りの頃の僕はむしろ“詞が聴かれなさすぎている”って勝手に怒ってたんですね(笑)。作詞をするずっと前から言葉というものが好きで、それが歌の中で組み上がったり、逆にナンセンスに羅列されたり、他の言語っぽい響きになったり、っていうのが楽しかったので。だから歌詞なんてどうでもいいって風潮になったら悲しいし、僕としては歌詞を見てほしいのが本音です。さきほどお話した『THE EMINEM SHOW』じゃないですけど、まず音楽と語感で楽しんだ後で、内容に触れたらまた味わいが変わるって体験もあるかもしれないし。まあ最近だとふとした言い回しが深読みとか曲解されてゴニョゴニョ…みたいなこともあるので、もっとファジーに肩の力を抜いて音楽を楽しもうっていうことに関しては大いに賛成です。


—甲本ヒロトさん自身もそういった意味で言ったんじゃないかなと思います。内容も大事だけど、音楽全体を寛容に享受する方が豊かだというような主旨かと。弥之助さんにとって作詞、作詞家とはどんな存在でしょうか。


弥之助:筒美京平さんの曲に松本隆さんの詞、都倉俊一さんの曲に阿久悠さんの詞、みたいに、作曲者・作詞家のタッグでアーティストイメージを作り上げていく、みたいな形は今減りましたよね。今ももちろん分業はあるとは思うんですが、受け取られ方として詞のウエイトは曲ほどでは無いのかなと。言葉を生み出す身としては、もう一度“作詞家”として成立するような存在になれればこんなにかっこいいことはないなと思います。野心はないと言いましたが、それが僕の野望かもしれないですね。


—ことヒップホップにおいてはDIY精神もひとつの美学というか、トラックやリリックをひとり、もしくは仲間内でやるっていうのがスタイルとして普遍的にありますけど、トレンドを牽引しているようなスター、例えばDrakeとかKanye Westはチームを組んでゴーストライターもいっぱい雇ってるなんて揶揄されたり自分から発言したりしています。スタンスは違えど、チームでひとつのアーティストイメージを構築していくのことは日本の昭和歌謡でも行われていたことなんだなと、話を聞いていて面白いと思いました。


弥之助:そうなんです。ヒップホップの世界では自分でリリックを書くのが当たり前のことなんで、ゴーストライターという呼称はあまりポジティヴには捉えられていないですよね。あえて“作詞家”を影の存在ではなく表舞台にもう一度押し上げたい。そして、これからも言葉の隣りでずっと暮らせたらと思います。


—最後に、アナウンスできる範囲で今後の情報があれば教えてください。


弥之助:まだ解禁できないのですがバンドに関しては年内に動きがあるので楽しみにしていてください。歌詞提供案件も動き出す予定です。



【リリース情報】



タイトル:Lucid Dream feat.諭吉佳作/men

発売日:2020年11月25日(水)

アーティスト:AFRO PARKER ・ 諭吉佳作/men


配信リンク:

https://orcd.co/luciddream



【プロフィール】



AFRO PARKER

2MC+5人の楽器隊からなる生音ヒップホップバンド。2010年結成。 R&B、JAZZ、FUNKをルーツに持つ楽器隊のアンサンブルと、対照的な2MCの掛け合いを特徴とし、HIP HOPを軸とする幅広いアプローチで東京を中心に活動。 2012年にリリースした1stアルバム『Lift Off』は Amazon MP3 StoreのHIP HOP部門で1位を獲得。2016年10月にはレコーディングエンジニアにIllicit Tsuboi氏を迎えた2nd album『LIFE』をpara de casaよりリリース。2018年秋に怒涛の社畜期間から解放された彼らは配信Sg「Buddy」「Halation」を連続リリース。間髪入れることなく2019年3月にはSTUTS、Avec Avec などをリミキサーに起用した自身初のREMIX ALBUM「Nabe」をタワレコ渋谷新宿限定でリリースし大展開を獲得。そして4月10日、フィジカルでのオリジナル盤は約2年半振りとなる新作ミニアルバム 「Which date suits best?」をリリース。2019年12月に表参道WALL&WALLで開催した自主企画はSOLD OUT。

2020年2月-4月には3ヶ月連続配信Singleとして「Plastic Summer feat.lulu」「Klein Bottle」 「Night Heron feat.磯野くん(YONA YONA WEEKENDERS)」をリリース。


AFRO PARKER:http://afroparker.com


Twitter:https://twitter.com/afro_parker


Instagram:https://www.instagram.com/afro_parker/





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