インタビュー|Yaffle アルバム『Lost, Never Gone』ネガティヴの中にある美しさを探して

コライト、テクノロジー、ローファイなど最近の音楽シーンの動向とも重ね合わせながら、これまでの活動の延長線上にあるという本作について語ってもらった。
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2020.09.23 09:00

Tokyo Recordings所属のプロデューサー=Yaffle(小島裕規)が、初のアーティスト・アルバム『Lost, Never Gone』を9月18日(金)に配信リリースした。


これまでに音楽プロデューサーとして多くの日本人アーティストの作品に関わるだけでなく、CM、映画などの音楽制作も手がけてきたYaffleだが、その一方で自身の作品では海外アーティストとのコラボレーションを続けている。


昨年の欧州コライト旅で書き溜めた数々の楽曲を一つの物語としてまとめあげた本作は、これまでの活動の延長線上にある作品と彼の中で位置づけられたものであり、リリースを重ねてきたシングルやEPとは異なる“長い話”としてアルバムが作りたかったという。


本インタビューでは、ベッドルームミュージックの先駆け世代である彼のルーツを軸に、海外アーティストとのコライト、テクノロジーによって変わる音楽制作手法や音質の捉え方など、最近の音楽シーンの動向とも重ね合わせながら、アルバムについて話を聞いた。


「ポップミュージックの感覚で、色んな要素を取り入れている」




ーーアルバムのプロローグとなる「LNG, before」は、ロンドンのBalls Pond Rdの路上で思いついたのことですが、その時のインスピレーションをアルバムの1番最初に持ってきたのはなぜでしょうか。


Yaffle:そこに滞在していたのがちょうどアルバムの制作中で。素材自体はできているんだけど、アルバムとしてどんな感じでまとめようか考えていた時でした。Balls Pond Rd自体はなんてことない普通の生活道路なんですが、小雨の中でイヤホンをしながら歩いていたら、雨の音が耳に入ってきて。最初は聴いていた曲のSEだと思っていたんですけど、実は本当の雨の音が聞こえていた。その雨の音の感じがアルバムのまとめ作業とパチッとハマったこともあって、雨の音を録音しました。


その道は人通りが多いわけじゃない。ロンドンに友達がいないわけじゃないけど、わざわざ会いに行くってわけでもない。どこか少し寂しい、侘しい感じがするけど不思議とネガティヴではないような気分で。そんな風に感じた自分の心象風景をアルバムのプロローグにしようと思ったんです。


ーー本作では、フューチャーベース、ドラムン、ダンスホール、トラップなどビートのバリエーションも多様ですが、ビートメイキングにはどういったこだわりがありますか? ビートのバリエーションを多様化させた意図は?


Yaffle:自分には、いわゆるクラブDJからトラックメイクを始めたといったバックボーンがありません。元々は全く違う場所が出自になっているので、クラブミュージック的なジャンル感にアイデンティーを重ね合わせていないんです。


僕自身は元々ジャズをやっていたんですが、例えばジャズだと、ラテンやアフリカンの要素がつまみ食い的に取り入れられているものも結構あるんです。それに近い感じで、おもしろそうな要素があれば取り入れてみようとする。だから僕の音楽は、感覚的にはジャズやジャズロックの影響が割と色濃いし、クラブミュージックというよりはポップミュージックの感覚でやっているから、自然と色んな要素が入ってくるんだと思います。



ーー本作ではフューチャーベースを基調にしつつも、インディーロックの影響も強く感じました。ポップミュージックの感覚であって、特にクラブミュージックのジャンル感には固執していないとおっしゃられましたが、インディーロックが持つポップな感覚のようなものは、意図的に取り入れられたのでしょうか? 


Yaffle:その辺りに関しては無意識ですね。今回、フューチャーベースっぽい感じというのはなんとなく自覚的にやっていますが、インディーロック的な要素については、自分がかなり影響を受けた世代だったこともあって、無意識に溢れてくるものなのかなという感覚です。でも、逆にいうと意図的に避けてきたところでもある。だから、そういったところに気づいてもらえたのは嬉しいですね。


ーーフューチャーベースの曲としてはもちろん非常に高いクオリティの作品になっていると思っていたのですが、Yaffleさんの場合はそこにインディーロックの要素が独特の味になっているというか、聴いていてメロディーの感じや細かい音の作り方の部分にそういった要素を感じました。


Yaffle:フューチャーベースに興味を持ったのは、ジャンルとしてもおもしろいものが増えてきたことで盛り上がり始めていた2010年くらいの時期ですね。最初は4つ打ちっぽいダンスミュージックに抵抗がありつつも触れていったんですが、自分の中でスッと入ってきたのが、ちょうどBPMが110かそれ以下くらいに落ちてきた頃。ポストダブステップも落ち着いてきた時期で、色々なバックボーンを持った人がシーンに参入し始めていたし、“ハウス”とはまた違うダンスミュージックが広がっていたことに大きな影響を受けました。


「バンドやオーケストラの延長という意味での“コライト”」




ーー小袋成彬、藤井 風、iri、CapesonなどのアーティストからCM、映画の音楽制作まで幅広く活躍されています。一方で、ご自身のプロジェクトでは海外アーティストとのコラボも多いですよね。海外のアーティストたちと交流することで、どういったものを得られるのでしょうか。 


Yaffle:昔から海外の音楽が好きだったし、その中に自分が飛び込んでみたかったというのが1番の目的ですね。


得られるものはコラボ相手によって違うんだけど、日本の感覚とはドラスティックに違う部分が自分の中では劇薬になり得るというか。海外アーティストとのコラボにはそういう部分での刺激があると思っています。


ーー今回のアルバムではヨーロッパ4か国(イギリス、フランス、スウェーデン、オランダ)のシンガーソングライターからグライムMCまでコラボ相手も様々ですが、その4カ国のアーティストそれぞれの特色は、本作にどのような影響を与えましたか?


Yaffle:音楽を作る上では、歌に曲を引っ張ってもらいたいという想いがある。だから、歌いやすいトラックをまず作っておいて、歌を入れてもらってから、トラックを消してまた一から作るということを普段からやっています。そういう意味で、自分のトラックは言葉のグルーヴにすごく引っ張られているところがあるので、今回、1番大きく影響を受けたのは言語毎の音のグルーヴですね。


ヨーロッパの中でもコンチネンタルかそうじゃないかという部分が大きいと思っています。 例えばフランス語だと言葉のグルーヴが全然変わってくる。イギリスの英語みたいにパキッとトラジションがでるわけじゃないんで、横ノリになりやすいんです。ちょっと言語化するのが難しいんですが、ヨーロッパ言語って南に行けば行くほどセクシャルなんですよね。セクシーさを出そうとするとき、日本だとひとつキャラをいれないとできないみたいな人もいるんだけど、彼らの場合は地でやっているから、そういう雰囲気を作るのがやっぱり上手い。特に南欧の人だと天然で艶っぽい感じが出るし、キャラっぽくならないんです。



Yaffle:ロンドンは街自体がゴチャゴチャしていることが、アーティストに影響してるかもしれません。フランスのようにひとつの文化圏が明確に街の中で線引きされているのとは異なり、もっとひとつの中に多様な文化が溶け込んだ感じがあります。例えばロックもそうですが、イギリスの音楽って、違う場所で生まれたものを取り込んで自分たちらしいものに変えてしまう文化的なパワーがあるんですよね。だから、日本人の自分が作った曲であっても言語の雰囲気によって、イギリスの音楽の要素を感じる曲になるところはあると思います。


ーー本作では現地のアーティストのセッションで生まれた、いわば“ビフォー・コロナ時代”の音楽制作手法といえますが、物理的な接触を避けなければならない“ウィズ・コロナ時代”ではそういった手法が難しくなっています。一方で、リアルなコミュニケーションが難しい状況の中、オンラインでセッションできるツールが開発されるなど、現在の状況をテクノロジーが補完しているような面もありますよね。


Yaffle:個人的には、テクノロジーを活用したツールに関してすごくポジティヴに受け取っていますが、もうひとつブレークスルーが必要だなとは思っています。結局、話さなくても僅かな表情の変化とかで人間ってコミュニケーションを取っている部分があると思う。セッションでも表情を見れば、「ちょっとこれは嫌いそうだな」とかがわかるように、相手を見ながらお互いに感じ取っている部分があるので、現状のテクノロジーだと、実際に会ってセッションしている感じにはまだならない部分がどうしてもあります。とはいえ、テクノロジーのズレによって意図しないものが生まれる部分もあると思うし、ある種の“しばり”の中でやっていくおもしろさはポジティヴな要素としてありますね。


自分は、いわゆるコライトのようにボーカルとトラックを二層化する作り方ではなく、全部が溶けてひとつになるような感じで音楽を作っているので、今後オンラインセッションの中でも何かが生まれるなら個人的には嬉しいですね。でも現時点では、まだコライトのオルタナティヴな手法として常用されるものにはならないんじゃないかと。


クライシスの時に生まれる音楽は、その時の空気感を切り取るというか。そういう時期だからこそ光る部分もあると思うんですよ。自分の場合だと音楽を作ることって、石みたいなものをノミで削っていくようなことで、続けて行くと削られて細くなっていく感覚があります。だから、今みたいな状況だと少なくとも以前と同じようなものは作れないとは思っています。




ーーコライトの話が少し出てきましたが、本作もコライトが重きをなしている作品だと思います。今の音楽シーンはコライト文化が支えているような側面もある一方、特に日本だと自分一人で作り上げたいと考えるアーティストはまだまだ多く場合によってはネガティヴに捉える人もいるかと思います。Yaffleさんの場合は、コライトをどのようなものとして捉えていますか? 


Yaffle:コライトにも色々あって、例えば作業の効率化という意味でのコライトでは、海外のヒットチャートに入ってくる曲のようにパート毎の担当を決めて担当者の責任でそのパートのみ完成させて、あとはノータッチみたいなものがそれにあたると思います。でも個人的には効率化のためのコライトにはあまり興味がなくて、どちらかというとコラボレーション的な意味でのコライトはアリですね。パーソナルな作品にしたい場合だと1人で作り上げる方がもちろんいいとは思いますが、僕自身はあまりパーソナルなものに興味がありません。結局、今のポップスをパーソナルなものとして作れるようになったのはテクノロジーのおかげなんですよね。


僕個人は、色が重なってグラデーションになっているものが良い作品だと思っていて、最初から最初まで1人で作り上げたパーソナルな作品はモノトーンに見えてしまうこともある。自分がやりたいのは、ひとつ芯が通っているけど、そこに様々な色がグラデーションとして重なっているもの。そういう意味で個人的には、コライトはバンドやオーケストラの延長として捉えています。


だからコライトというものを考えた場合、産業としてのコライトと、バンドのように一緒に音楽を作り上げていくという感覚でのコライトに分かれると思います。僕の場合だとミックスもマスタリングも人にお願いしたい。全部一貫して自分がやってしまうと驚きがないけど、自分が投げたものに対して返ってくるものが楽しかったりします。だからコライトには、自分以外の色が加わる良さもあるよということはいいたいですね。


ーーこういったコライトに関する考え方も世代でまた違ってきそうですね。


Yaffle:僕らの世代とそれ以前の世代では、一人で作るか複数人が関わって作るかということについての捉え方が逆転していると思います。それはテクノロジーのおかげ。昔は、1人で全部作ることの方が難しかったから、例えば大瀧詠一さんがやっていたことがおもしろかった。でも今だと基本的なことは1人で全部できてしまうからこそ、あえて他人の手をいれるみたいな感じになっている。


なので、DAWもストリーミングもあって、制作から流通まで1人でやろうと思えばできてしまう環境の中、自分が思い描いている作品のイメージにどれだけ外部のものをプラスしていくかっていう選択肢を持っているのが今の時代だと思います。感覚的には楽器を買って音を足すみたいな。ベッドルームで音楽が作れますって言い出したのは僕らの世代くらいからですが、それより下の世代になってくるとさらに“まずは1人の状態から音楽を始める”環境が当たり前になっていると思います。コライトは場合によって、特に日本だとどこか商業的に見られる部分もありますが、それよりもバンドのセッションみたいにもっと気軽なものとして広がっていけばいいなと思いますね。




「“ローファイ”なものとどう向き合っていくか」


ーーちなみに本作の制作ではどんな機材を使用されましたか? 


Yaffle:DAWはAbleton Liveを使いましたが、前提としてなるべくラップトップの中で完結するようなシンプルな感じにしました。あとGenelecの小型スピーカーを滞在先では使っていました。ギターはビンテージのものを使いましたが、そもそも古臭い楽器は古臭いものを使うというのをモットーにしているので、モダンなギターやピアノを使おうとはあまり思いません。それよりも、その機材が最も輝いていた時代のものを使うというか、その時代ならではの音の良さを封したまま、今の時代に持ってくるような形で使いたかったので、ProphetだったりMoogのビンデージシンセも今回はそういうふうに使っています。


移動しながら滞在先で制作していたこともあり、ボーカルを録音する環境があまり良くなかったので、iZotopeのRX 7みたいなオーディオリペア・ツールにはすごく助けられました。その意味で、ちょっと前からローファイな音楽が流行っていますけど、僕個人としてもこの先“ローファイ”なものとどう向き合うかはすごくテーマだと思っているんです。


昔は専門のエンジニアが高額な機材を使って全部処理していたから、当時のハイファイな音になっていたわけですが、今は機材の値段が昔と比べて安くなって、良い意味で“素人大集合”みたいな状況が生まれています。そういうことを考えると結局、これからはもうハイファイなところからモダンなものは生まれない。かつて中古で売り出されていたTR-808とかTR-909がテクノ、ハウスを生み出したように、今後も新しい音楽は安価な値段の機材からしか生まれてこないんじゃないかなと思いますね。


これも昔と今では逆で、Lo-Fiな音楽って今は新鮮に感じる一方、ハイファイなものって逆に20世紀的なものというかどこか古臭く感じるところがあります。でも、いわゆる今の“ローファイ”って、「ローファイ・ヒップホップ」みたいに、味の素みたいにかけておけばとりあえずそれっぽくなるといった感じの意味合いも強いと思うんですよね。


そういう中で違いを出していくのは大変だと思いますが、僕はローファイな部分をどう自分の中で記号化していくのかを考えています。というのも、自分のベーシックはパンチがあったり、レンジが広かったりするハイファイなものにあるのですが、それ一辺倒だとなんとなくダサい音になってしまうと思っていて。だから、そういう近代的な役割をローファイに持たせるためにも、音の立体感とかモダンな要素を取り入れた“2020年のローファイ”な音をどうやって表現していくかをこれからの課題にしています。




ーー最後に、本作が1stアルバムとなりますが、改めてこのアルバムは自身にとってどういった作品で、どんな人に聴いていてもらいたいですか? 


Yaffle:今まではシングルリリースという形で短い話ばかりをしてきたので、長話がしたくなったというのがアルバムを作ろうと思ったのがきっかけです。だから自分の中のある期間のまとめとして、言いたかったことをこのアルバムで言うことができました。またこれをきっかけに自分の中のモードを変えようと思っているので、その意味では、これまで自分がやってきたことの延長線上にある作品という位置付けですね。


寂しいとか辛いとかネガティヴな感情って基本的には避けて通るべきものではあるんですが、どこかで必要な時もある。ネガティヴの中にも、ある種の美しさみたいなものが存在するという感覚があるので、そこにシンパシーを感じてくれる人に聴いてもらえたら嬉しいですね。






【リリース情報】




Yaffle <1st Album> 『Lost, Never Gone』

Release date: September 18th, 2020 

Label: Picus Records/Caroline International 

Artwork by OBKR (Nariaki Obukuro) 


配信リンク

https://caroline.lnk.to/lngbyyaffle


Tracklisting: 

1. LNG, before LNG, ビフォア 


2. À l'envers feat. Elia ア・ランヴェール feat. エリア 


3. Rafter feat. Nick Moon ラフター feat. ニック・ムーン 


4. GMYP feat. Ugo GMYP feat. ユーゴ 


5. You Come Undone feat. Elodie ユー・カム・アンダン feat. エロディー 


6. Blindness feat. Nick Moon and Shao Dow ブライドネス feat. ニック・ムーン and シャオ・ドウ 


7. Nothing Lasts feat. Stella Talpo ナッシング・ラスツ feat. ステラ・タルポ 


8. Lost, Never Gone feat. Linnéa Lundgren ロスト、ネヴァー・ゴーン feat. リニア・ラングレン 


9. The Child Inside feat. Benny Sings ザ・チャイルド・インサイド feat. ベニー・シングス 




【Yaffle】

Instagram:https://www.instagram.com/yaffl3/

Twitter:https://twitter.com/YAFFL3 

YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCzr5-d6S0NBr_IxaultNgSg



written by Jun Fukunaga


photo by Ki Yuu





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