【レビュー】GREENROOM FESTIVAL'19出演 Tom Mischのカラフルな音楽観を感じる『Geography』

イベント前の予習として昨年リリースされたTom Mischの傑作デビューアルバムをふりかえり。
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2019.05.22 09:00

現在、音楽シーンで新たなトレンドの発信地として注目を集めるサウスロンドン。同地はローファイなインディーポップに始まり、ジャズ、ヒップホップなど新しいアーバンなロンドンサウンドを表現する才能ある若手アーティストを次々に排出していることから、音楽好きにとっては今、最も動向が気になる音楽の聖地になっている。そんなサウスロンドンシーンを代表するアーティストの1人、Tom Mischが昨年のサマソニ出演に続き、今年はGREENROOM FESTIVAL'19に出演する。 


そこで今回はイベント前の予習として、昨年リリースされたTom Mischの傑作デビューアルバム『Geography』をふりかえってみたい。



『Geography』のキャッチーさを担うディスコ要素  


10代の頃からベッドルームプロデューサーとして、音楽好きの間で注目を集めていたTom Mischは、学生時代に学んでいたジャズ、そしてビートメイカーのJ Dilla、ギタリストのJohn Mayerからの影響を公言するアーティストだ。そのため、J Dilla直系のよれたビートやスキルフルなギターサウンドを搭載したジャジーなベッドルームポップのアーティストといった印象が強かった。しかし、満を持してのデビューアルバムとなった本作では、従来の洒落た音楽性にキャッチーな要素が加わることで、ポップスとしての強度がより高まった印象を受ける。それは従来の音楽性は踏襲しつつも、新たにダンサブルなディスコサウンドでポップさを打ち出した「South Of The River」、「Disco Yes」「Cos I Love You」などを聴いていると強く感じる部分だ。




J Dillaの影響 


その一方でこれまでのTom Mischらしい先述の従来のよれたビートは少し鳴りを潜めた印象も少なからず受ける。しかしながら、そのスタイルから完全に脱却したというわけでなく本作ではもちろんそういった曲も健在だ。例えば、予てからのコラボレーターでサウスロンドン拠点のラッパー、Loyle Carnerを迎えた「Water Baby」では、J Dilla愛溢れるよれたビートが聴ける”Tom Mischらしさ”を感じるトラックになっている。また同曲ではオールドスクールなフュージョンナンバー、The Crusaders「My Lady」をサンプリングするなど、ソウルフルなネタ使いもまたJ Dillaオマージュ的だといえる。


またGold Linkとの「Lost In Paris」は、トロピカルなギターリフやサックスパートがよく耳に馴染むが、タメが効いたグルーヴィーなイーブンビートも印象的だ。そして、De La Soulとの「It Run's Through Me」は、ラウンジテイストの洒落たボサノヴァ調のトラックだが、こちらもバウンシーなビートがエキゾチックなリフとうまく絡みあっていて心地よい。こういったラッパーたちとのコラボ曲からは本作でもJ Dillaの影響はキープされていることが伝わってくる。



耳に残るウェルメイドなバラード 


ディスコ、ヒップホップ系の曲のほかに本作ではソウルフルでウェルメイドなバラードにも注目したい。中でも「You’re On My Mind」は、本作屈指のエモチューン。女性ヴォーカルのコーラスとTom Mischの歌声が絡むサビのフレーズ、泣きのギターソロに胸を撃ち抜かれるといった具合で一度聴けば耳に残るキャッチーさを持っている。また同じくスローテンポなバラードでは、「Movie」のノスタルジックでムーディーな質感も心地よい。



そのほかにKaytranada風のつんのめったハウスビートが印象的なインストナンバー「Tick Tock」や「We’ve Comes So Far」、Stevie Wonderをローファイなギター音色でカバーした「Isn’t She Lovely」、クラシカルで牧歌的な「Man Like You」など本作に収録された曲はバラエティーに富んでおり、多様なジャンルをうまくブレンドした『Geography』には、Tom Mischの”カラフル”な音楽観が反映されている。



written by Jun Fukunaga 


photo: Justin Higuchi


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