菊地成孔『アベンジャーズ』とマーベル映画を語る

菊地成孔とDos Monosが『アベンジャーズ』とマーベル映画を語る!
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2020.03.09 11:00

菊地成孔さんがblock.fm『TOKYO BUG STORY』に出演。Dos Monosの3人と『アベンジャーズ』やマーベル映画の特徴などについて話していました。




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▶「TOKYO BUG STORY」

放送日:毎月第1月曜日 21:00 - 22:00 O.A.

番組URL : https://block.fm/radios/728



荘子it:今言ったようなことを一番代表しているなと思ったのが(『菊地成孔の映画関税撤廃』)第一章の、リアルサウンドに連載した評が載ってるうちの最後なんですけど。『アベンジャーズ』評が一番僕的にそれっぽかったんですね。今回の本を代表する論調というか。まあ「ニキャ経」っていう言葉……「第二キャラクター交換経済」っていう概念をいきなり提示するところからこの文章が始まるんですけども(笑)。


菊地成孔:フフフ(笑)。


荘子it:まあ略してニキャ経……これを言いたかっただけなんじゃないか?っていうのもあるんですが(笑)。第二キャラクター交換経済っていうのを言っているんですが。これ、すごく大雑把に紹介すると『アベンジャーズ』のこととかを言ってて。いわゆる『スター・ウォーズ』みたいな映画っていうのはサーガ形式だったりして。監督とか作家が作品世界を作り上げて、時系列とかも垂直に並んでいて。それを観客が享受してああだこうだと言うっていう世界だったんだけど。それにはある意味の批評性というのを支える歴史性みたいなことが強くある……まあ垂直だからっていう話なんですけど。


『アベンジャーズ』とかマーベル・シネマティック・ユニバースになってくるともっと水平というか。「キャラクターをトレードして遊ぶ」みたいな感覚というか。ポケモンみたいなじゃないけども。とにかくかならず推しキャラがいたりして。アイドル、AKBとかみたいなものにたとえてもいいんだけども。まあ、作品がどんどんとそういうものになってきて。だから要は作家の手から離れて、観客が勝手に推しキャラを作って。それで「今回のマーベルの新作はあのキャラが立っていたから面白かった」とか、ああだこうだと言うっていう。で、そこにはいわゆる前時代的な批評性っていうのはなくなっていてっていう。第二キャラクター経済っていうのはたぶんそれを言うための概念だと思うんすけども。


菊地成孔:そうですね。


荘子it:つまり、これが「欺かれる者はさまよう」っていうのにつながるのは要はそういう映画に対して普通に古臭い批評の剣を振りかざしたところで何も意味がないという。「単純に作品を楽しめなかったから、それはお前がそのキャラクター経済に負けて損失を出したのだ」っていう表現をこの本ではしているんですよね。


菊地成孔:そうですね。


荘子it:だからそこがいわゆる前書きに書いてあったことを代表しているなと思ったので最初に選ばせていただいたんですが。だいたいそういう意図で合っていますか?


菊地成孔:そうですね。経済行為だから「交換」が重要で。推しをずっと信じるのはむしろ宗教行為に近いっていう。ずっと推してるんだから、お布施を払って、とにかく推しは動かないんだっていう人たちは宗教性の高い人で。それで、宗教性が高いか、経済性が高いかってのはね、別にこの世にキャラクターグッズがなくてもっていう。だからその経済性が高い人っていうのはね、交換し続けているんだよね。とにかく。


荘子it:推しチェンジするとかね。


菊地成孔:推しチェンジがたぶん、一番大きな分かりやすい交換なんだけど。いろんな多岐に渡る剰余価値の交換をしてるわけね。で、価値交換してないと生きていけないというか、価値交換の連続によって利益が出たりするわけでしょう。で、損失が出てもまた次に利益が出ればいいわけで、これを無限に続けるわけね。


荘子it:まあ株のトレーダーみたいにっていうことですよね?


菊地成孔:そうそう。それで、そのキャラクター商売っていうのは宗教性も持ってるけど、経済性もちゃんと持っていて。で、その二キャ経の「二」っていうのは「一経」っていうのがあるわけね(笑)。


荘子it:いわゆる普通に想像される経済。現実のリアル市場のことですね。


菊地成孔:まあ、それもPayPayとかってこう、違うリージョンに持っていこうとしているけども。まあとはいえ、お金が回って……っていう暮らしを我々はしているわけで。まあデイトレードをしてる人もいるし、株なんか全然やらない人でも経済行為をしている限りは交換をしてるわけなんで。だから、映画を見てキャラクターがこう動いた。それでCGがこうなっていて、監督はこうで……っていう情報をいっぱい得ている中で、我々はものすごく高速でキャラクターの交換行為をしているんだよね。で、そこにはもう批評はなくて、損得しかないっていう。


荘子it:忖度じゃなくて損得。


菊地成孔:そう。だからうちらは『アベンジャーズ』なんかを見る時に、最初にこれを書こうと思ったきっかけは結局、『アベンジャーズ』って……まあマーベルの映画ってのは定期的に出るわけでしょう? それで世界的な娯楽のものじゃないですか。それで一番売れている。もう『スター・ウォーズ』もだけど、全てはウォルト・ディズニーの手のひらの上と言われればそれまでだけども。まあまあ、それでも『スター・ウォーズ』シリーズをはるかに抜く。サーガ形式じゃなくてユニバース形式にしたということも大きいけども。で、その中で「これが面白い」とかさ……俺が若い頃は「『キングコング対ゴジラ』は名作だけど『キングコングの逆襲』っていうのはちょっとな……」っていうのは一致していたの。


荘子it:わかります。それがある意味、批評性のバックボーンがあるってことに等しいですよね。


菊地成孔:ちゃんと担保されいたんだよね。だけど今って「はい、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』が出ました」ってなった時にかならず賛否両論になるの。絶対に。


荘子it:前衛映画とかじゃないのに。一番売れてる映画なのにぱっくりと大衆の意見がわかれるっていう。


菊地成孔:だから、たとえばさっきもチラッと話題になったけども、アリ・アスターの映画(『ミッドサマー』など)とかっていうのはこれは賛否両論出したいし、出るべきだし、自然に出る映画。だけど『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』っていうのはさ、いいならみんなが「いい」って言うし、つまんないならみんなが「つまんない」っていう風に言うものなんじゃないの?って思うわけ。それでもまだ絶対に割れる。で、マーベルの映画っていうのは「これはマーベルの中でも名作なんだよね」とかさ、「これはマーベルの中でもちょっと残念だった」とかっていうのが、公衆とかでは出るかもしれないけど、批評にはあまり出なくて。絶対に割れている。それでこれ、なんで割れるのか?っていえば、結局誰も批評をしてないからで。要するにキャラの交換っていう経済行為を行なっているだけで、それに損が出た人は悪く言うし、得した人はよく言っているだけだから(笑)。


荘子it:そうそう。それってどうなんだ?っていう話ですよね。それで批評を振りかざしたところで「それはお前が損をしてるだけだよ」っていうのがまあ、この『アベンジャーズ』評の中ですごい痛快だったんですよね。で、二キャ経、第二キャラ経済っていうと普通の人はいきなり謎の概念に驚くかもしれないですけど。まあキャラクターから批評するっていうスタイルは結構日本の伝統で言うと、たとえば東浩紀さんとかは割と早くから、まあオタク批評、アニメ批評、ゲーム批評とかでそういう文脈でキャラクター批評をやっていたじゃないですか。


で、菊地さんがそれをやるっていうのがすごい新しいなって感じて。ゼロ年代とか、華やかなりし頃の東浩紀さんとか斎藤環さんとか、そのへんがやっていたことを……菊地さんはそこからは距離を取っていたから。「クールジャパン、アニメはわかんない」っていう立場だったから。それが『アベンジャーズ』を通すことで菊地さんからそのスタイルの評が出てきたことがすごい面白かったなって思うんですけども。





菊地成孔:ここではやっぱりね、経済概念として交換が入ってきたっていうのが大きくて。そのキャラがさ、たとえば斎藤環さんみたいに精神分析と結びついて。その自己像の問題とキャラクター像の問題とか。そこにまあ当然だけど性意識が入ってくるとかさ。東さんみたいに社会意識が入ってくるとか。そういうところよりも、やっぱり結局どんどんどんどん鉄火場というか、損得になってきて。とにかく我々はすごい速度で経済行為をしている。で、やがては自分をもキャラクターとして売買する可能性も持っているから。


荘子it:そうですね。それも指摘されていますね。


菊地成孔:キャラクター経済っていうのは。だからまあ、それで見ればいいんじゃないのというような感じで。まあ経済性に対する……俺もめちゃめちゃフロイディアンだから。フロイディアンの多くがそうなんだけども。「ケインズは勉強してないけどフロイトは勉強した」っていうのは多いんだよね。で、どっちもやると文武両道みたいな感じなんだけども(笑)。


荘子it:フフフ、文武両道が精神分析と経済学ってどんな……「文文」じゃないですか(笑)。


菊地成孔:まあ、文文だけどね。ブンブン丸ですけども……(笑)。懐かしいけどさ。だけどまあ、全然経済のこととかわからないわけ。俺、全くわかんないんだよ。カード、いまだにね、しょうがないから使うけど。カードはやっぱり苦手だね。クレジットカードも。クレジットカードの段階で苦手なうちにね、だんだんPayPayとかね。


荘子it:PayPayなんて何が起きてるのかわからない(笑)。


菊地成孔:セブンペイがあっという間に出滑りしたりとかさ。ああいうのもなんだか全くわかんないわけ。公定歩合の意味もわからないし。まあ、もちろん原理はわかりますよ。なんだけど、民俗学まで行かないと貨幣価値とかがわからないから、今の鉄火場の経済のことも全くわからないし。でも経済って本当にあれが科学なら恐慌が予測できるはずなのに、誰もできないでしょう? だから経済も宗教みたいなもんだと思ってるし、俺はね、科学も宗教だと思っていて。というのはかならずその時代に信じられてる科学は次の時代に「あんなものは蒙昧だった」という風に刷新されているわけだから。


数学以外はみんな宗教だと思ってるんだけど。だから、その経済オンチの人間が『アベンジャーズ』とかずっと見て、その民の……「奥田民生さんじゃないですよ」って言うパターンですけども(笑)。その民の動きを見てると、何となく「経済行為ってこういうことかな?」っていう風に、逆にその『アベンジャーズ』と『アベンジャーズ』の評を見ることで我々がいかに交換しながら生きているのか。要するにマルクスの原理ですよね。というのが僕の中で立ち上がってきたのだというような話だよね、これは。


荘子it:ですね。


菊地成孔:だから本当だったら精神分析を使ったりとかね、得意な武器で戦った方が早いわけなんで。精神分析というフロイトのナタで何でもバサバサ切っちゃえばいいんだけども。ここではあえてそれをやめて。


荘子it:そうですね。そっちの刀じゃない、その文文のもうひとつの刀で切ったっていうことですよね?


菊地成孔:そうそう。初めて抜いたっていうね(笑)。


荘子it:そうですね。その経済に触れたということが……菊地さんって浅田彰フリークじゃないですか。『構造と力』とか。浅田彰がもともと経済学者で、経済学者を廃業したっていう歴史があるので。そこの墓掘りじゃないけど。菊地さんがそれでまた経済の話をするとか……。


菊地成孔:まあ、そんな立派なもんじゃないけどね(笑)。


荘子it:フフフ、それは思想ファン、批評ファン的にちょっと上がったポイントだったんですけども。まあでも、そういう状況に対して『アベンジャーズ』評なんかでちょっと懐疑的なことも最後に挟んでいたっていう風に僕は思ったんですけど。それがなにか?っていうと、リアルサウンドの初出時にはなかった文言が『アベンジャーズ』評の一番最後に足されていて。「『スパイダーマン:ホームカミング』がフェイズ4の最初ではなくてフェイズ3の最後だということが意外だった」っていうことがリアルサウンドの初出時には「それはそこそこ重要なことである」って言っていて。「どう重要なの?」っていうのはわからないんですけども。「そこそこ重要なことである」っていうので文章が終わっていたんですけども。


今回の本ではそこが「刮目に値する」に変わっていて。めちゃめちゃ違う表現になっていて。「つまり、人々はキャラクター交換経済に疲れている。だから国家による株価への介入を求めている」という表現があって。その「国家」っていうのは作り手ですよね。だからさっき言った水平に対する垂直の方。いわゆる『スター・ウォーズ』的なもの。作者の世界観を提示してくるってことを求めているんじゃないのかな?っていうのを、リアルサウンドにはなかったものが今回の本で足されてたんで。


そこ結構、もしかして菊地さんのアティテュード……菊地さん、そこが絶妙なところで。やっぱり東浩紀さんほどポストモダンに、交換経済の世界っていうところに行かない、ちょっと1個手前の、モダンにとどまるみたいなバランスがその一文にすごい出てるなと思ったんですけど。それは?


菊地成孔:ああ、まあそれはその通りですね。やっぱりキャラ経に関わらず、なんというか疲労の問題があるの。疲れてしまうっていう。で、疲れてしまった時に何にすがるのかっていうことなんだけど、まあそれは神様にすがるでも何でもいいんだけど。ここでは要するに作り手による……まあなんというか公定歩合みたいに上下できるっていう。その『スター・ウォーズ』の中にはあった階級というか。


その発生を『アベンジャーズ』はとにかく自由だから。なんかマーベルの映画って見てる間に刻一刻とキャラへの価値、値踏みが変わっていくんだよね。兜町みたいにザーッて。あれが昔の映画だったら、もう最初の頃の『バットマン』だったらもう「バットマン:100」とかさ。あるいは「ジョーカー:70」とか。もうほぼそこから動かないんだけど、それがマーベルはガランガランに変わっていくわけよ。


だから、あんなに動いちゃったらトレーダーも疲れるよねっていうような気持ちがあって。で、トレーダーが全員疲れた時に何が来るのか?って考えると、恐ろしいじゃないですか。それでまあ、介入っていうことが刮目に値することにちょっと上がったかなっていうね。


荘子it:その見積もりを高めに。そういうことを世界は求めているんじゃないか?っていう風に。


菊地成孔:そう。要するにマーケットの疲労を感じましたよね。


荘子it:フフフ、「疲労を感じました」ということで。それが菊地さんの今のキャラクター、二キャ経に対する見方、分析、アナライズがそういう感じになっているということですね。


菊地成孔:そうですね。



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書籍情報




菊地成孔の映画関税撤廃

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荘子it(MC/トラックメーカー)、TAITAN MAN(MC)、没 a.k.a NGS(MC/DJ)からなる3人組HIP HOPユニット”DOS MONOS”による番組『TOKYO BUG STORY』。圧倒的な音楽性の高さと、独自に作り上げた世界観を是非ラジオで体感してほしい。


written by みやーんZZ





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