レビュー|夜猫族 tip jamの新EP『東京夢宵区』に見る春の夜の夢

2月1日にリリースされた夜猫族 tip jamのソロ2nd EP『東京夢宵区』を本人のコメントとともに紹介。
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2021.02.11 10:00

Written by Tomohisa Mochizuki


noma(ノーマ)、XakiMichele(ザキミケーレ)、Tade Dust(テイド・ダスト)、Bonbero(ボンベロ)といったラッパーを擁し、Amebaが運営するAbema Mixや人気プログラム「ラップスタア誕生」への出演、XakiMicheleが主催するイベント「V/LINE」の開催など頭角を顕してきた夜猫族。メンバーそれぞれ個性あふれるスタイルから“異端”と形容されることが多い夜猫族の中で、一際異彩を放っているのがtip jam(ティップ・ジャム)である。





夜猫族tip jamのEP『東京夢宵区』に綴られる、ありふれた物語の顛末と春の夜の不思議な気配


オーセンティックなビートとジャジーなメロディに載せるXakiMicheleのローボイスとはまた違った心地良さを醸す揺らぎのある低い歌声。文学的で叙情的な景色と心情を切り取るリリックは座して黙々と筆を進める往年の文豪のような迫力を携えている。オルタナティヴなスタイルとは対極にありながらそれこそがtip jamたらしめるアイデンティティとオリジナリティを確立しているように思う。


tip jamは2019年8月に夜猫族nomaとのジョイントEP『ARP .1』をリリース、翌月にはtip jamとしての1st EP『JAAM』をリリースし精力的に作品を制作。「InterFM Tokyo Scene」といったラジオでもピックアップされtip jamのスタイルと世界観を広めていく。


2020年にはnomaの3rd EP『丹青』収録「アダルト」に参加。さらにEP『JAAM』に収録されている楽曲「Partly Cloudy」にOleを迎え、ビートには気鋭のビートメーカーであり、noma×tip jam「Rolling Stone」のビートを担当するなど関係性の深いKUVIZMを起用した「Partly Cloudy feat. Ole 〜remix〜」を発表した。このリミックスバージョンも『東京夢宵区』に収録。「アダルト」MVでも撮影を担当したChilly SourceのフィルマーFoolishとともに制作したMVが昨年公開されている。


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並行してシティポップ色を強めたtip jam, ld philo, KenLowからなるユニットMellow Aftersとしても活動。11月には2nd EPとなる『東京夢宵区』(とうきょうゆめよいく)収録のリードシングルrnoseビートの「Loving」のMVを公開。そして2021年満を持してソロとして2nd EP『東京夢宵区』を2月1日にリリースした。





まるで私小説のような春の宵の夢『東京夢宵区』




tip jamいわく


「自分の夢にも酔えないような人の音楽じゃ、聴く人も曲に酔えないだろ」


という思いを発端に制作されたのが『東京夢宵区』だという。


「タイトルにもある宵の言葉の意味は「夜の初めの部分」なんですけど、東京で夢に酔い始めた人の物語序章って感じのコンセプトで『東京夢宵区』と名付け作りはじめました」


EP『東京夢宵区』は出会いと別れを回顧して綴った私小説のような印象を受ける。丁寧に紡がれる言葉、情景描写がEPでも基調となっているジャジートラックと溶け合い、温かさと冷たさが入り混じる春の夜を思わせる。EPの1曲目となるタイトルトラック「東京夢宵区」では愛した人への後悔とともにフックでは


“とわに感じる悲しみすら飲み干して”


と歌われており、すでに終わった物語であることを示唆している。続く「此処から」では、


“いつか此処から離れ忘れ去ってしまったとしても ひとつひとつなぞりいつでも思い出す”


という歌詞にその経験ひとつひとつがかけがえのないものであり、虚無感の中、再起に向かって歩き出すような仕草をうかがわせる。


「自分の曲を作る上で1番大事にしたのが、生きていく中で小さな分岐点が人には無数にあって、多くの人が当たり前だと思い流してしまう出来事1つ1つを流さず少しでも考える事です」


そう語るtip jamは2月10日(水)にKUVIZMがトラックを担当する「see ya」のMVを公開した。リリックにはお互いの関係が修復不可能であり、別れが決定的になってしまっている恋愛模様が切なく描かれている。“あのときこうしていればこうだったかもしれない”という後悔を滲ませながら、当たり前だった光景がもう戻らないことを互いに悟っている。


「何事でも、無意識と意識的に何かを行うでは、結果的に同じ未来になってしまう事があるかもしれませんが、着地までの経験値の差がとてもその先にでると思っています。僕はその経験を音楽に変換し、tip jamとして発信しています」



『東京夢宵区』で歌われているのはフィクションの群像劇なのかもしれないし、至って私的な想いを実在する誰かに宛てたもの、あるいはその両方なのかもしれない。どうあれ、tip jamが描き出す光景には共感できる孤独と、ピュアな愛情がひしひしと伝わってくる真摯さがある。


1月に夜猫族の仲間たちとともに出演した『ニート東京』のtip jamソロパートで語られていたストーリーでは、ジャズを好きになったきっかけや、過去についてが語られた。甘い恋愛経験と圧倒的な孤独、その両方を経験しているからこそ、tip jamは甘くロマンティックな表現の裏に、ニヒリスティックな哀愁を漂わせているのだ。


誰しもが『東京夢宵区』の住人になり得るし、思い返してみればかつてそうだった人もいるだろう。そんなありふれた物語を、tip jamは自身の声と音楽でシグネチャーした。詩を朗読するかのようにラップするtip jamのローボイスと、静かにゆらゆらと漂うようなジャジーサウンドに一足早く春の訪れを感じている次第だ。




▶tip jam『東京夢宵区』

リリース:2021年2月1日(月)

レーベル:夜猫族

収録曲:

1. 東京夢宵区

2. 此処から

3. Loving

4. see ya

5. Partly Cloudy (Remix) [feat. Ole]


配信URL:https://linkco.re/T8Eumrc6




▶tip jam


夜猫族 

福島県出身、東京都在住。 異彩のHIP HOPプロジェクト夜猫族にて、楽曲を発表し、2019年から東京を拠点に本格的に音楽活動をスタート。

ジャジーなテイストが漂うビートにローの効いた心地よいフロウを武器とし、2019年8月に夜猫族nomaとのジョイントEP『ARP .1』をリリース後「AbemaMix」出演。続けざまに自身のサウンドの現在形を詰めたEP『JAAM』を同年9月1日にリリース。

2020年8月にはEP「Hello Mellow Afters!!」をリリースし「InterFM Tokyo Scene」や2021年1月には「ニート東京」に出演しスタイルを確立している。


tip jam

・Instagram

https://www.instagram.com/tip__jam/

・Twitter 

https://twitter.com/tip_jam



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