渋谷慶一郎+初音ミク「ボーカロイドにおけるオペラは可能か?」

「THE END」"ボーカロイド"と"オペラ"という一見対照的な要素同士を組み合わせた新たなる世界への挑戦
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2018.06.13 01:21

「THE END」対照的な要素同士を組み合わせた新たなる世界への挑戦


2013年、過ぎ去りし春夏の合間。電子の歌姫「初音ミク」と電子音楽アーティスト「渋谷慶一郎」という組み合わせと気鋭の作家やアーティスト達の協力の元に創り上げられた、"初音ミクによるオペラ"。初音ミクというものの存在を知っている者、知らなかった者、そのどちらもが驚きと熱狂の渦に巻き込まれた事だろう。


気鋭のアーティスト達と共に創り上げられたコラボレーション作品


岡田利規、YKBXなどそうそうたる面子の他、時代の先端を担う若きアーティスト達が集ったこのプロジェクト、その中心となる楽曲を提供する渋谷慶一郎。彼らは電子楽曲歌唱ソフトたる"初音ミク"に「オペラ」を謳わせるという、これまでに類を見ないような作品を創り上げた。"初音ミク"は声優のボイスデータから音源抽出をしてアーカイブ化された、まさに"電子の歌姫"である。歌姫によるオペラ上映、という言葉の響きは、演芸文化の発達が著しかったルネサンス期のイタリアの雰囲気をも彷彿とさせるだろう。しかし、「オペラ」という単語そのものと"初音ミク"とを繋ぎ合わせてみたところ、どうにも違和感を覚えてしまう人も多数出てくるのではなかろうか。


それもそのはず。古くは18世紀以前より発展してきた伝統気高き音楽ジャンルと、2018年現在で既に誕生から11年の歳月が経っているとはいえ、日々新たな試みが勧められる新文化の電子ソフト・ボーカロイド。我々日本人が抱くオペラへのイメージと、ポップカルチャーの最先端を行く歌姫"初音ミク"へのイメージが、どうにも擦り合わせし辛いのである。


「ボーカロイドによるオペラは可能か?」 イベント事前に投稿された予告動画には、そういった一文がキャッチコピーとして用いられていた。それはまさに話題を耳にした人々の疑問そのものだっただろう。渋谷慶一郎+初音ミクという驚きの組み合わせそのものに観劇を躊躇う人も居れば、逆に興味を惹かれた人とて居るはずだ。では、その問いの答えは如何なものであったのだろうか?




「歌で進められる劇」と「初音ミク」の親和性


そもそもオペラとは「歌劇」とも称されるように、セリフの大部分が独唱・あるいは重唱や合唱などで構成される。より大衆向けに特化したミュージカルと時々混合されることもあるが、そもそもミュージカル自体がオペラを下地にして生まれた文化であるとされているため、オペラは「作中キャラクターの感情を歌で表現する」演劇のさきがけであると言えるだろう。


 そして、"初音ミク"もとい"ボーカロイド"を用いる楽曲として有名なものの中には、その通り「歌の中でストーリーが展開されていく」曲も多数存在する。喜劇、悲劇、復讐劇からシリーズ展開されているものまで様々な種類の楽曲が投稿され、視聴され、多くの人にシェアされている。彼女自身、緑の長髪をツインテールにした少女、という二次元的キャラクター要素に満ちた容姿で設定されているためか、"初音ミク"が歌う楽曲の中で、"初音ミク"そのものが、楽曲中展開されるストーリーに出てくるキャラクターの一人として演じ歌う楽曲も決して少なくはない。


そう。問いの答えは「YES」だ。"初音ミク"は、オペラを歌うことができるだけのポテンシャルを持ち合わせているのである。そして渋谷慶一郎は、そんな"初音ミク"にオペラを歌わせることができるだけの技術と才能を持ち合わせていた。


 


賛否両論渦巻きながらも"新たな時代"の始まりを告げた「THE END」


もちろん、"初音ミク"がオペラを歌えるのだとして、それが観衆に受け入れられるかどうかは全く別の話だ。イベント前の事前評価は真っ二つに割れ、上演を観劇しに行った者達の感想もまた賛否両論であった。しかし劇中展開されたストーリーの難解さは、裏返せば多くの考察点があるということでもあり、上演された音楽・映像のクオリティは、まさに新時代の技術を最大限駆使して創り上げられた傑作であったとされている。深く刺さる人には突き刺さる、そんなセンシティブな作品に仕上がったのだと言える。現在も閲覧することのできる上演予告動画を聞けば、楽曲中の"初音ミク"は、淡々と無機質に歌った次の瞬間、人のそれによく似た息継ぎをしてみせたりもした。ジャスト1分で構成された予告動画は、それをただ見てみるだけでも、「THE END」の世界の一端を味わうことができるようになっている。


三次元の劇場と二次元の歌姫。古典音楽と電子歌唱ソフト。相容れないはずの、しかし共通性のあるそれらがミキシングされ、1つの作品として完成されたことそのものが、ミュージックカルチャーにおける新時代の幕開けであったのではないか。これまでにも海外で何度も上演されている渋谷慶一郎+初音ミク『THE END』は、直近だと2018年3月時点、日本・スペイン国交150周年記念イベントにおけるマドリード・バルセロナの2都市にて再び公演が行われた。


日本の電子音楽アーティスト、渋谷慶一郎。同じく日本で製作された電子音楽ボーカロイド、初音ミク。海の壁をも超えてみせた両者の今後の活躍に、これからも期待が高まるところである。


photo: https://www.facebook.com/pg/THEEND.opera/photos/?ref=page_internal


written by 編集部


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