【レビュー】The Chemical Brothers『No Geography』、レイヴ要素に見る”原点回帰”

フジロックで来日前にチェックしておきたい約4年ぶり9枚目となる最新スタジオアルバムがリリース。
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2019.04.19 11:00

今年のフジロックにヘッドライナーの一角として出演することもあり、多くの日本のファンが心待ちにしていたであろうThe Chemical Brothers最新アルバム『No Geography』。本作は、彼らにとっては9枚目のアルバムで、前作『Born in the Echoes』以来、約4年ぶりにリリースされる作品だ。


思い起こせば彼らは昨年から収録曲をアルバムリリースを匂わせていた短いティーザー動画のリリース後からコンスタントに先行曲数曲を公開。その度に日本のみならず世界中のケミカルファンたちは『No Geography』に対する期待を膨らませてきたのではないだろうか?



分断の時代に”NO”を告げる『No Geography』  


そんな本作は、まずアルバムタイトル『No Geography』が示すとおり、分断なき世界がテーマに掲げられている。これは今、彼らの本国イギリスが抱える大きな問題、同国のEUからの離脱”ブレグジット”やトランプ大統領就任以降の分断的な風潮が生んだ社会の混沌に対する”NO”という意思表示であり、アルバムにはそういったメッセージが込められている。例えば「Eve Of Destruction」、「No Geography」、「We’ve Got To Try」、「Free Yourself」といったアルバム収録曲のタイトルからも、このアルバムが破壊や分断、そしてそこからの逃避や解放、自由を表現する作品になっていることに気づくはずだ。




”閉塞、停滞の時代”に対するカウンターとしてのレイヴ 


本作ではゆるふわギャングのNENEが客演した「Eve Of Destruction」のアシッドハウス由来のレイヴィーなリフや「MAH」のウネるTB-303など、彼らの初期作品のルーツとなったレイヴミュージック的なアプローチが取り入れられている。そもそもイギリスでレイヴが勃興した時代は”閉塞、停滞の時代”でレイヴはそれに対する”カウンター”の象徴だった。マンチェスターの伝説的クラブ「ハシエンダ」をルーツに持つ彼らは当然レイヴから発展したセカンド・サマー・オブ・ラブ/マッドチェスタームーブメントの影響を色濃く受けている。それ故にその当時以上に最悪かつ危機的な時代の到来に直面している現代イギリス社会に対して、音楽で「No」を表明するためにはレイヴをキーワードとして取り入れることは必然だったのかもしれない。




サウンド面に取り入れられたレイヴ要素 


またレイヴといえば、アシッドハウス、セカンド・サマー・オブ・ラブの多幸感のあるピアノリフ、うねるドラッギーなアシッドベースのイメージが強い。しかし、ブレイクビーツを取り入れた楽曲もレイヴミュージックを語る上では外せない要素だ。本作では「No Geography」、「Gravity Drops」などビートを強調した往年のビッグビート的アプローチの曲が、2010年代にリリースされた前々作、前作アルバムよりも増えている印象を受ける。またレイヴとビッグビートをつなぐ曲としては「Bango」が挙げられる。同曲はTodd Terryのレイヴクラシック「Bango」のブレイクビーツがサンプリングの元ネタになっているが、それと同曲を聴き比べて見るといかにビートが強調されビッグビート化しているかがよくわかってなかなかおもしろい。さらに「Eve Of Destruction」でもTodd Terryのアシッドハウス「Weekend」がサンプリングされてオマージュが行われるなど、レイヴ要素は本作でサウンド面にも強い影響を及ぼしている。



ブレないケミカルらしさも健在 


本作では彼らのアルバムではおなじみのロックスターの客演が行われていないが、ロック由来のベースライン、ディストーションのかかったパートを持つ「The Universe Sent Me」は、過去曲「Out Of Control」などのデジタルロックの系譜曲だ。また名曲「Block Rockin' Beats」を彷彿とさせる「MAH」、「Free Yourself」のファンキーなベースラインには”ブレないケミカル節”が健在。そのことも本作を原点回帰的だと感じさせる部分になっている。このように、これまでのサウンドを踏襲したケミカルらしさも十分に感じる内容になっているため、ファンにとっては”こういうのが聴きたかった”という要望に答えてくれる作品に仕上がっているのではないだろうか? フジロックでの来日に期待が高まるアルバムだ。



written by Jun Fukunaga 


photo: The Chemical Brothers Facebook


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