音楽から黒人差別の歴史や現状を知る。5/25以降新たに発表されたプロテストソング

5月25日以降アメリカ全土に広がる「Black Lives Matter」活動のさなかにリリースされたプロテストソングをピックアップ。
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2020.06.09 11:30

Written by Tomohisa Mochizuki


5月25日、ジョージ・フロイドさんが警察官に殺害されたことをきっかけに(その他にも同様の事件が重なっている背景があるが)アメリカ全土で「Black Lives Matter(以下:BLM)」運動が活発化。SNSではさまざまな情報と意見が飛び交っている。個人としてはもとより、あらゆる差別に対し断固としてノーという姿勢を表明する。block.fmでは以前、黒人差別問題のなかでたびたび取り沙汰されてきた「Nワード」についての記事に携わらせてもらった。そのたびに、自分も無意識的な差別をしてしまっているのではないか、今考えると過去に差別的な発言を軽々してしまっていたのではないか、と考える。今でさえ認識が間違っているのかもしれない、理解が足りないかもしれない、そんなことが頭を巡る。


僕は音楽に触れることで多様な価値観や感性に触れてきた。そして、アーティストたちの作品や主張に触れていると、個人としても声を上げることに勇気をもらえる。


本稿の終わりに、ジョージ・フロイドさんや「BLM」活動への寄付について日本語でわかりやすくまとめられた記事をリンクしている。



絶望と怒りが音色に滲む:PIG FEET/Terrace Martin, Denzel Curry, Kamasi Washington, G Perico,Daylyt



LAジャズシーンにおける顔役の1人、サックスプレイヤーTerrace Martinが同じくサックス奏者のKamashi Washington、ラッパーDenzel Curry、G Perico、Daylytとともに怒りに満ちたシングルをリリース。動画には抗議デモの映像と、警察官に殺された黒人たちの名前が最後に映し出される。タイトルは“豚の足”。ジョージ・フロイド氏の首を押さえつけ死に至らしめた忌まわしき警官の足を指している。曲の中には民衆の悲鳴やサイレンの音が鳴り響き、サックスの音が緊迫感を伴って迫ってくる。Kamashiとともにサックスを奏でるTerrace MartinはKendrick Lamar 『To Pimp A Butterfly』で注目を集めたトランペット奏者Josef LeimbergとのプロデューサーデュオLove Dragonの1人。混迷極めるアメリカという国の実情が背景にあるせよ、政治性を伴いながら痛みや怒りをアウトプットし、芸術作品として昇華する姿勢は素晴らしい。彼らにとってはそれが当たり前なのだろうけれど。


配信URL:https://terracemartin.lnk.to/pigfeet


紙幣に刷られた奴隷主が語るアメリカ合衆国憲法第13条の矛盾:Run The Jewls JU$T feat. Pharrell Williams,Zack de la Rocha




「This Is America」を始めとした過去のプロテストソングも聴き返されているなかで、block.fmプログラム『INSIDE OUT』で現在2週にわたってお送りされている特番、「What's Really going on in America? 」のPart.2、“プロテストソング特集”で紹介された楽曲。アトランタのフォトグラファー AKI IKEJIRIを迎えたPart1では印象的なアトランタでの演説が取り上げられたKiller MicとEL-Pによるプロジェクト、Run The Jewels新作アルバム『Run The Jewels 4』に収録されている。このアルバムはジョージ・フロイドさんの事件と「BLM」活動の広がりの中で、正式なリリースよりも2日前倒しで無料ダウンロード提供を実施。並行してRun The Jewelsは活動団体への寄付を呼びかけている。

この曲では、Rage Against the MachineのZack de la RochaとPharrell Williamsをフィーチャー。番組内でShiho Watanabeによって語られていた通り、一般的にピースなイメージがあるPharrell(日頃から環境問題に取り組み、BLMについてもグラミーのパフォーマンスにBLMへのメッセージを掲げた演出を取り入れるなど、活動家としての側面ももちろんあるが)がかなり語気を強めているのが印象的だ。“$”マークがタイトルに用いられているかこの曲のキモ。コーラスでPharrellは1865年にアメリカ合衆国憲法第13条で定められた奴隷制の禁止を揶揄しつつ、フックで「Look at all these slave masters posin' on yo' dollar」と奴隷を所有していた人物が紙幣に印刷されているという道徳的矛盾を指摘する。ひいては、教育、資本、SNSなど、問題になっている“制度上の黒人差別”の実態と問題をつまびらかにし批判しているのだ。番組内でも触れられていたが、楽曲が作られたのはおそらくジョージ・フロイドさんの事件や、「BLM」運動が広がっていく前だと思われる。それだけ、黒人差別問題は日常的に黒人アーティストたちが意識しなければならないほど、長い時間横たわっている問題であり、今に始まったことではないことがわかる。アメリカ合衆国憲法第13条についてはNetflixオリジナル番組「13th」が詳しく、YouTubeで無料視聴できるようになっているので、黒人の奴隷制を学ぶにあたって非常に参考になる。


配信URL:https://runthejewels.com/


寄付:https://us-preorder.runthejewels.com/pages/donate (プレオーダー時のページ)


ロシア発アナーキーアクティビストがカマす怒りの叫び:1312/Pussy Riot,Parcas,Dillom, and Muerejoven



世界的な事象が起きると活発になるのはハッカー集団Anonymousだけではない。個性的な目出し帽がトレードマークのロシアの活動家グループPussy Riotの出番である。2018年、ロシアワールドカップ決勝フランス・クロアチア戦に乱入したことは記憶に新しい。Pussy Riotについてよく知らないサッカー好きな友人たちは「なんだあいつら? 」みたいな冷ややかな反応で「まあ無理もないか」と心の中で思いつつ、その乱入に僕は人知れず興奮していたのだが、この場を借りてPussy Riotを擁護したい。世の中には自分が考え得る以上の不条理にさらされていて、大衆の目につく場所で“迷惑”をかけなければ届かない声があるということは紛れもない事実なのだ。この曲では南米チリのParcas,Dillom,Muerejovenとタッグを組み、ラテンアメリカにおける性に基づく犯罪や警察の暴力への批判をシャウトする。退廃的なグランジサウンドがメタルの質感を伴って、清々しいまでの怒りが押し寄せてくる。Puusy Riotはこの曲のリリースに合わせ警察権力に対して声明を発表。「警察は平和的なデモにさえ暴力的な対応を取る」「民衆が困ってるときは役立たず」「金と利権の犬」と、警察組織の現状を嘆き、批判している。Pussy Riotはこれらの問題の解決策も提案しており、“警察力を民間人の保護に向けて再焦点化”することを説く。他にも、暴力行為に対する警察の責任や警察が活動家に危害を加えることなくデモで自由に発言できるようにすることを要求し、人種や男女平等のためのデモに参加するよう警察に求めること。そして自分たちの権利だけでなく、すべての人の権利を守るために警察力を再教育することによって、平和へ向けた警察と民間の団結が達成できると訴える。





正しき魂の解放と祈り:Let Go/D-Smoke,SiR



Netflixのラッパーオーディションプログラム「Rhythm&Flow」で優勝したラッパーD-Smoke。客演しているのはKendrick Lamarとも共演するTDE所属のシンガーソングライターSiR。D-smokeの実弟にあたる。家系的に音楽エリートであるが、父親が逮捕され収監されてしまったことが彼の生き方に影響を及ぼし、ストリートに身を置かない(ギャングに属さない)姿勢を貫く。審査員であるSnoop Doggにすごまれるも、そのスタンスを崩さなかったことでも注目を集めた。アルバム『Black Havits』では父親を含めた家族写真をジャケットに据え、内容も家族という最小単位の社会から地元イングルウッド、自身を取り巻く環境をアカデミックかつ普遍的な視点で描く。「Let Go」では黒人として生きることが、いかにリスキーか、抑圧され、警官に体制に命がおびやかされているかを淡々と描写している。さらに、全米各地に飛び火する抗議活動においてとりわけ暴力的な側面がメディアでフィーチャーされてしまう実情もある。それをいちばん問題とし、頭を抱えているのは彼ら黒人自身なのではないだろうか。暴動がメディアの注目を集めるという側面もある。権利や尊厳、命を奪われ続けてきた彼らに対し、一概に「略奪」は悪いことだからやめようとは言えないが、そんな背景を踏まえ、個人的にこの楽曲から感じたのは哀しみと、今まで繰り返されてきた悲劇を自分たち(黒人)が正しく変えていかなければならないという強い使命感である。D-Smokeはジョージ・フロイド氏が亡くなった当日にこの曲を故人に捧げている。


配信URL:https://empire.ffm.to/letgo 


過去から学び、自分の進むべき道を探す旅:FIND A WAY/DUCKWRTH,Alex Mali,Radio Ahlee




LAのラッパーDUCKWRTHの2019年のEP『THE FALLING MAN』以来のシングルとなる。客演にはニューヨークブルックリンのシンガーAlex Mali、サウスミネアポリス出身のラッパー・シンガー・ダンサーRadio Ahleeを迎えている。躍動感に溢れるアフロビートとエレクトリックサウンドが融合し、Alex Maliの爽やかで伸びのあるボーカル、DUCKWRTHの軽快なラップが心地イイ。「泣かずに戦い続けろ」「これはオーバーリアクションじゃない 奇跡は必ず起こる」といったポジティヴなメッセージが散りばめられ、「俺が野蛮だったって言うやつもいるだろう 狂気の中で迷子になってた」と過去の自分を振り返りつつ、「自分の道を見つけるんだ」と力強くエールを贈る。人々の心に寄りそうアンセムと呼ぶにふさわしいこの楽曲についてDUCK WRTHは「"Find A Way "というフレーズについて、これ以上のタイミングはないと思う。だから、この曲を聴いて“あなたは1人ではない”ことを思い出してくれることを願っています。そして、努力の中で団結し、最終的に私たちは正義、平等、平和への道を見つけることができる。これ以上、“沈黙”してはいけない」とInstagramのアカウントでメッセージを発信した。日本でも10代〜40代の黒人三世代による暴動を諫める動画が日本でも拡散されている。30代の男は40代の男に「暴動はやめろ」と説き、10代の少年には「10年後に同じことが起きたら俺と同じことをしろ、そして新しいやり方を考えろ」とその意志を伝えるものだ。長きにわたって存在し続けてきた黒人差別問題とレイシズムに対して、新しい道を見つけるタイミングが来ている。


配信URL:https://duckwrth.lnk.to/FindAWay


その他のプロテストソングと活動支援を日本語でまとめた記事とサイト



紹介した楽曲以外にも、先述の『INSIDE OUT』で紹介されたMeek Mill「Otherside of America」、YG「FTP」、ジョージ・フロイドさんと同じくミネアポリス出身のアーティストでアクティビストDua Saleh「body cast」などジョージ・フロイドさんの事件以降、多くのプロテストソングがリリースされている。


亡くなられたジョージ・フロイトさんとその遺族に対する支援や全米に広がる「Black Lives Matter」への寄付について日本語でまとめているメディアの記事をリンクするので、日本からの支援の参考にしてほしい。


Esquire(日本版):ジョージ・フロイドさん、そして #BlackLivesMatter を支援するさまざまな方法


i-D Japan:オンラインでBlack Lives Matterを支援する方法


TimeOut Tokyo



アメリカと日本のバックグラウンドを持っている二人が始めた、日本人女性の歴史の記録を収めたデジタルアーカイブプロジェクト、Ko ArchivesではSNSと連動し、日本からできる支援や、情報を分かりやすくまとめ支援している。Ko Archivesは多文化と繋がるアクティビストとしても活動するプロジェクトであり、買う事で売り上げが寄付されるアイテムも販売中だ。


Ko Archives:Donate(直接寄付できる基金、支援団体まとめ)


また、ヒップホップカルチャーとつながりが深いグラフィックアーティスト/デザイナーVERDYは交流のあるアメリカのブランドと協業したチャリティアイテムを販売するなど、日本のクリエイター、アーティストが「BLM」支援の方法を考え提案している。それぞれ自分にマッチした支援方法を見つけてみてはいかがだろうか。


発言したり意志表示したりすることは勇気のいることだ。人の目を気にしてしまうことでもあるし、ほんの少しのことで誤解を招いてしまう恐れもある。今回の「BLM」に関するトピックにおいて、何人かの友人と意見を交わしてみたが考え方を伝え合い理解し合うというのは、口で言うのは簡単だが実際とても難しいと感じる。それはどうしても痛みを伴うし、辛い。そして正解というものもない。


とはいえ、世の中ではその辺を歩いているだけで犯罪者扱いされて命を奪われたり、生きているだけでその血や出生、性別、容姿を非難される人が現実にいる。それに比べればきっと僕個人の抱く恐れや苦しみなど取るに足らないものなのである。なによりも、関心を持ち、学び続けることに意味があると思う。本稿では黒人差別の事実や警察に対する批判といった各アーティストの主張を、音楽から汲み取ることを旨としている。社会的なメッセージを投げかけている楽曲から、関心を持つきっかけを得るとともに知識を深めてみてほしい。


Source:

https://hypebeast.com/2020/6/duckwrth-find-a-way-single-release-info

https://www.nme.com/reviews/album/run-the-jewels-run-the-jewels-4-album-review-2680792

https://genius.com/20013493

https://www.nme.com/news/music/cupcakke-shares-new-track-lemon-pepper-to-benefit-minnesota-freedom-fund-2680030

https://consequenceofsound.net/2020/06/pussy-riot-1312-music-video-stream/

https://www.nme.com/news/music/pussy-riot-team-up-with-argentinian-artists-for-new-protest-song-1312-2679335

https://www.revolt.tv/new-music/2020/5/29/21275072/d-smoke-sir-george-floyd-let-go-song





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