音楽ライブでの「声出し」緩和へ 現場は“コロナ前”に戻るのか

この記事をシェア
※本稿に記載した政府の対処方針、ガイドラインの内容は全て2022年10月時点のものです。
新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から収容人数に制限のあったライブハウスが、条件付きで100%収容可能となるニュースが話題を呼んでいる。
一般社団法人ライブハウスコミッション、NPO法人 日本ライブハウス協会、一般社団法人日本音楽会場協会が定める「ライブハウス・ライブホールにおける新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」が10月14日付けで改訂され、条件をクリアすれば会場の収容率を100%とすることが認められるようになった。
「会話程度の音量」「決められた時間内で」観客が声を出せるように
政府の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(以下、対処方針)を踏まえて作成されたこのガイドラインだが、今回大きく注目されているのが「声出しの具体的な条件」だろう。今回の改訂前までは、観客が声を出さない「大声なし」公演であれば収容率100%までの集客が認められていたが、「大声あり」の場合は収容率50%までに抑えなければならず、主にライブ主催者側の収益の問題から「大声なし」公演を選択していたケースが多かったと予想できる。
しかし今回の改訂によって、収容率100%の公演でも観客が声を出すことが可能となった。ただし「大声」はNG。観客の声が通常の会話の音量を上回らず、さらに1曲あたりの声出しする時間が25%程度に抑えられていれば、フルキャパでの公演が可能となったのだ。もちろん今まで通りマスクの着用、会場内の換気や観客同士の適切な距離など基本的な感染対策は徹底した上での条件となる。
実際にガイドライン改訂後にいくつかの「声出しOK」ライブが開催されており、NHKによるアイドルグループ仮面女子のライブ現場取材では、ガイドラインを守って開催された「声出しOK」公演の様子や、観客、出演者が規制緩和をどう受け止めているか垣間見ることができる。
NHK:ライブハウス 観客の声出し時間など条件に収容率100%容認へ
アリーナクラスの会場や野外フェスでも「声出しOKライブ」の実施が
政府の対処方針を踏まえ、最近では自治体やイベント施設と連携して「声出しOK」の公演を開催するアーティストも増えている。
Perfumeは10月7日宮城・セキスイハイムスーパーアリーナで実施した公演にて、観客の「大きな声出し」を可能とした。
政府の対処方針では「大声あり」公演の場合収容率を50%と定めており、Perfumeの10月7日公演では当日までに想定される収容率が32%であることと、宮城県や会場とも協議した上で「大声あり」公演を決定したという。「大きな声出しあり」を決定した経緯としては「ライブを最善の形で楽しみたいというメンバーの想いがあり、観客にもより楽しんでいただける方法を模索した」といった内容が明らかにされていた。
2022.10.7 Perfume 9th Tour 2022 "PLASMA"
宮城セキスイハイムスーパーアリーナ#prfm pic.twitter.com/cB4RR2JWXP— Perfume_Staff (@Perfume_Staff) October 7, 2022
音楽ライブにおいての「声出し解禁」に早い段階から言及し話題を呼んだのはロックバンドのSiMだろう。SiMは7月19日の声明において「10月からスタートする全国ツアーを、各会場の収容率を50%にした上で“大声あり”公演とする」旨を発表した(会場が独自に“人数に関わらず声出し禁止”のガイドラインを設けている会場を除く)。「大声あり」ライブを行う意図として同声明では、「このままいったら一生変わらない」「“大声ありでも大丈夫だった”前例を作るため」といった、「大声あり」公演を開催する決断に至った思いが語られている。
【NEWS】
“The Rumbling”を含む4曲入りEPのタイトルが「BEWARE」に決定!
リリースに伴い、全国ツアー開催決定!
只今よりSiM App会員限定先行受付開始!※「声出し」に関して画像2枚をよく読み、ご応募ください。https://t.co/vCBUDucp8F pic.twitter.com/z52RPc4Wpy
— SiM_Official (@SiM_Official) July 19, 2022
また、10月15、16日に東京・お台場で開催されたアイドルフェス「ギュウ農フェス秋のSP2022」も限定的に「大きな声出し可能」として実施された。主催者である電撃ネットワークのギュウゾウは「野外で5,000人以上の収容でもあり、出演者、会場、スタッフと協議して限定的・実験的に声出し大規模ライブイベントの一歩を踏み出す」といった内容のコメントを出している。
声出し解禁。
出演者様の中には ブッキング後のご相談となり不本意な状況下での出演になったチームもあり ファンの皆さまにはご心配をおかけしており恐縮です。今イベントは エンタメがコロナ禍に苦しむ状況から新しい歩を踏み出すきっかけを作る場として開催します。ご理解を頂けましたら幸いです。ギ pic.twitter.com/F0YHRZ4Jti— ギュウ農フェス (@gyunoufes_SP) October 13, 2022
「大声あり・なし」の定義
このように次々と「声を出せる」ライブ・フェスが解禁となっているが、ここで改めて政府の定める「大声あり・なし」の定義を確認しておきたい。政府の対処方針では
「大声」を「観客等が、(ア)通常よりも大きな声量で、(イ)反復・継続的に声を発すること」と定義し、これを積極的に推奨する又は必要な対策を十分に施さないイベントを「大声あり」に該当するものとする。
としており、具体例として、
・観客間の大声・長時間の会話
・スポーツイベントにおいて、反復・継続的に行われる応援歌の合唱
※得点時の一時的な歓声等は必ずしも当たらない。
と挙げている。
音楽イベントについての具体例はないが、例えば
・アイドルライブでのコールや会場全体での合唱:「大声」に該当
・サプライズでゲストアーティストが登場したときの一時的な歓声:「大声」に該当しない
と解釈することができるだろう。
ただ上記はあくまでひとつの解釈であり、「どこまでが許容範囲か」はそのイベントによって異なる。引き続き観客はイベントごとに定められた「感染症拡大予防対策」をきちんと理解した上でライブに参加しなければならない。
乃木坂46は10周年ライブ開催前に公式サイトに掲載した「有観客公演開催についてのガイドライン(5月9日)」内で
“歌唱やコールなどは禁止事項に該当致しますが、思わず出てしまう一時的な歓声等は必ずしも禁止事項には当たりません。ライブにおきまして、演出内容によっては思わず歓声が上がってしまう事もあるかと思いますので、マスクの着用は、必ず常時お願い申し上げます。”
という文章を掲載している。ところが5月14日、15日に日産スタジアムで行われた乃木坂46のライブでは歓声以外にもコールが起こってしまったことが問題視され、ネットで議論の声があがった。
その後、改めて公式サイトで発表された「『真夏の全国ツアー2022』観覧中の声援に関する注意事項(7月17日)」では「一時的な歓声は禁止ではない」旨は記載されず、「会場内では大声を発する行為は禁止」と掲載。5月のイベントは卒業メンバーがサプライズで登場するなど通常の公演とは異なる演出があり、そのため注意事項の内容が異なるという面もあるかもしれないが、同じアーティストのイベントであっても、参加する公演ごとに観客は注意事項を都度把握してライブを楽しむ必要があるだろう。
スポーツの現場でも一歩ずつ「声出し応援」が緩和に
「大人数が同じ場所に集まる」という点で音楽イベントと比較されることが多いスポーツの試合でも、「声出し応援」が少しずつ緩和されている。
Jリーグは5月、政府の対処方針に基づき「声出し応援エリア」を段階的に導入することを発表。これは数試合で「声出し応援エリア」を試験的に導入し、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)と協力して運営ガイドラインが守られているかを確認、さらに今後のガイドライン改訂のためのデータを取得するもので、産総研のサイトではその検証結果も公開されている。
検証結果として声出し応援エリア(マスクあり)でも空気の停滞は確認されなかった等の内容が明らかになっており、この検証は試合を観戦する観客の安心につながるとともに、限定的でも観客による応援があることで選手のパフォーマンス向上や会場の一体感の醸成にも貢献した、前向きな取り組みだったのではないだろうか。
一方プロ野球では9月にガイドラインが改訂され、都道府県の許可が下りれば球場での「声出しエリア」設置が可能となったが、本稿執筆時にはまだ実現しておらず、スポーツの現場でもその足並みには違いがある。ただ「声出し応援の解禁」を求める声は多く、観客がチームや選手に応援を届けられる仕組みについての議論が期待されているようだ。
音楽の現場は“コロナ前”に戻るのか
話を音楽ライブに戻し、改めて現状を整理してみると、少しずつではあるがコロナ以前の音楽ライブ体験に近づけるための取り組みが行われていることがわかる。
実際に12月10日に行われるロックバンド打首獄門同好会のライブでは、先述したJリーグの試合と同様「声出しありエリア」を設置し、声出しを解禁することが発表された。「声出しなし」のエリアもあるため、観客は自分でエリアを選択しライブに参加することが可能で、観客の心情に寄り添った決定だと感じる。
【お知らせ】打首獄門同好会は、12月10日(土)横浜ぴあアリーナMMで開催される
「新型コロナウイルスが憎いツアー」ファイナル公演において声出し、解禁いたします!
詳しい話は画像化したテキストをご参照ください。
そして…チケットについての話も、恐れ入りますがそちらをご参照ください。 pic.twitter.com/ayehz39VjW— 打首獄門同好会 (@uchikubigokumon) September 30, 2022
また、年末に開催される大型フェス「COUNTDOWN JAPAN」では「会場内で大声を出すことは原則禁止」としながらも、「自然に起こる歓声等、マスクを着用した状態での一時的な声出しは可能」となっている。
【COUNTDOWN JAPAN 22/23】来週からのアーティスト発表・チケット受付に伴ってお伝えしたいこと
9/28(水)からの第1弾出演アーティスト発表&チケット申し込み開始に先立ち、事務局からのメッセージです。https://t.co/LfpIBhsRiU#CDJ2223 pic.twitter.com/gbbPSwti2y
— rockin'onフェスOFFICIAL|COUNTDOWN JAPAN開催 (@rockinon_fes) September 21, 2022
「声援」の「援」という字は「手をさしのべて助ける、力をかす」という意味を持つ。今はまだ“以前のように”とはいかなくとも、観客からの「声」はステージに立つアーティストにとって大きな力となるに違いない。そしてその一つひとつの前向きな声援が、逆風の中でも歩みを止めなかったライブの現場を“コロナ前”以上の体験ができる場所へと進化させる一助になるはずだ。