ミュージシャンは音楽ストリーミング時代の”アルゴリズム”にどう向き合うべきなのか?

アルゴリズムが聴くべき音楽を選出する時代におけるアーティスト戦略を考える。
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2019.09.16 11:00

アメリカではアナログレコードの売上が2018年下半期と比べ、12.8%上昇。近年のアナログ人気は未だ右肩上がりでセールスの面で好調を維持し続けており、近年、その落ち込みが目立つCDの売上を30年以上ぶりに上回る可能性があると最近、全米レコード協会(RIAA)が発表する一方で、音楽の聴き方のデジタル化は進み、ストリーミングによるヒット曲も数多く生まれている。

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そういったデジタル化に関連して、インディペンデントで活動するミュージシャンの作品発表やその収益化を支援するサービスも、SoundCloudのマネタイズ機能など以前に比べて随分普及。今週もTuneCore Japanが、現在の”コラボ”文化に対応する収益の自動分配サービス「スプリット」を発表するなど、現在の音楽流通の現況にあわせた機能がミュージシャンたちの間で話題になった。


その一方でDJ業界にもストリーミングの波が到来しており、音楽販売サービスのBeatportによるサブスクリプションサービス「Beatport LINK PRO」とDJ機材を販売するPioneer DJのDJ用アプリ「rekordbox」が提携し、サブスクリプション音源をDJがパフォーマンス用に使用できることになるなど、業界においても高まる”ストリーミング音楽配信サービス楽曲を使ってプレイしたい”というニーズに応える動きも目立つ。

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アルゴリズムが力を持つストリーミング時代のアーティスト戦略


最近、ミュージシャンたちの間で話題になっているのがストリーミング時代のアーティスト戦略に関する「Terry McBride’s (Nettwerk) Bigsound Keynote was so forward-thinking, it will bug you」という記事だ。これはAvril LavigneやColdplayのキャリアマネジメントに関わったTerry McBrideによる現在のストリーミング主流の音楽シーンにおいてミュージシャンは一体どう向き合うべきか? という彼の見解を解説するものになっており、非常に興味深い。


例えばSpotifyを例に考えるとアーティストはサービスが持つアルゴリズムと向き合う必要があり、そのためにはまず自分の音楽性とリンクするコミュニティを見つけてそこに所属する必要性があるという。なぜならアルゴリズムはどんなブログ、プレイリストに取り上げられているか?、関連するアーティストとの関係性などの影響を受けるからだ。


まずSpotifyで収益を得るためにはストリーミングされることが大前提として必要になってくる。そのために有効なのは”プレイリスト”にキュレーションされることだ。確かに人気プレイリスト入りはアーティストに箔を与える。それがある種のブランディングに繋がることもあるだろう。しかしながらそれはアーティストがストリーム数に応じて得る収益面から考えると果たして本当にプラスになるのか? 見解によると長い目で見たときには、どうやら別の答えがあるようだ。




長期的に収益を得るには”オーガニック”な状態のストリーミングが必要


Terry McBrideは、音楽キュレーターやSpotifyの音楽エディターとの密接な関係性については警告する。理由は彼らが選択権を持つ”プレイリスト”入りは、選ぶ側やそのフォロワーの好みの傾向という人間の生身の心理に左右されるところが大きいからだ。しかも、もし、プレイリスト入りした場合でもデータ上の反応が芳しくない場合は、その24時間後には削除されるという憂き目にもあう。


そういったことを踏まえ、長期的にアーティストがストリーミングから収益を得たい場合、できるだけ長く”オーガニック”な状態でストリーミングされ続けることが必要だという。もし、一時的に人気プレイリストにキュレーションされたとしよう。当然ストリーム数は伸びを見せるだろう。しかしながらそれはあくまでも一時的なものに過ぎず、時間が経てばその数字に陰りが見えはじめるはずだ。だが固定ファンがいる場合、彼らは好きなアーティストだからこそ、いつまでも曲を自発的に聴き続ける傾向があり、それが長期間にわたり収益を生み出すことに繋がるという。




コミュニティに入る


そのための戦略として興味深いのは、コミュニティに入るという部分だ。そうすることでアルゴリズムが選ぶ”今、バズになっているアーティストの関連アーティスト”として、自分のファンベース以外のリスナーにも音楽を再生してもらえる可能性が高まる。つまりヒット曲の”棚ぼた効果”を得るということだ。例えば、Twitterで投稿がバズった際、そのスレッドに自分に関する何かを”宣伝する”ユーザーを見かけたことがあるだろう。これについてはそれをイメージするとなんとなくご理解頂けるはずだ。


そこから自分に興味を持つフォロワーが生まれれば御の字。何より近い音楽性だからこそ、フォロワーになることへの心理的な抵抗もあまりないはずだ。極端な例でいえば、もし、YMOを聴いて坂本龍一が関連アーティストとして示された場合、よほどのことがなければ次はそっちを聴いてみようとなるだろう。このように”関連する場所”からの恩恵を受けることは、適切なアーティストイメージを確立し、その”コミニュティ”の一員になることで起こりやすくなる。それをアーティスト側でコントロールしていくことは、アルゴリズムを逆手にとったスマートな戦略に思える。




月間リスナー数やストリーミング数でなくフォロワー数に注目すべき理由


次に興味深いのは、フォロワー数に注目すべき理由だ。Spotifyでは無料ユーザーと有料のプレミアムユーザーによるストリーミングではアーティスト側が得る収益に差異があり、無料ユーザーよりも有料ユーザーによるストリーミングの方がアーティスト側が得る収益のロイヤルティのレートは高くなっている。そのため、仮に1000万回のストリーミング数を得たとしても収益はユーザーの質の割合によって変わってくる。


確かにストリーミング数は人気の指標にはなるだろう。しかし、一概に数が多いだけではアーティストのマネタイズにプラスに働かない。そのため重要なことは、月間リスナー数やストリーミング数ではなく、そのアーティストが好きなフォロワー数だという。Spotifyではフォローしているアーティストが新しいリリースをする度、フォロワーに通知が届く。フォロワーはアーティストのファンであるため、新曲を複数回ストリーミングすることは往々にしてあるはすだ。その際に有料フォロワーが多いほど、アーティストは高単価のストリーミング収益を得ることができる。


またこういった通知は基本的に毎週金曜日(世界的な音楽配信日)に行われ、翌週月曜日までのデータが集計される。Spotifyではそのデータ動向に基づき「ディスカバー」や「デイリーミックス」にキュレーションするかどうかを判断する仕組みになっている。そのためオーガニックで起こるファンのアクションはシステムに影響を与え、ユーザーに特定の”注目すべき”曲やアーティストへの新規流入を促す。こういった一連の流れを掴むことで、アーティスト側はシステム、言うなれば”ルール”に則りつつ”良質”なストリームを獲得。収益を増加させることができるのだ。だからこそ、アーティストは見栄えの良い数字に捉われず、本質的なファンであるフォロワー数に注意を払うべきで、その多い少ないこそが死活問題として考えるべきポイントのようだ。

*2015年以降、著作権侵害防止を目的に国際レコード産業連盟(IFP)は、60カ国を対象に音楽配信日を金曜に統一している




新人アーティストがキャリアの早い段階で”地元の星”になると世界進出が遅れる!?


そして、この記事の中で最も興味深いことはというと、音楽があまりにローカライズされすぎるとその枠の外に出ていくことが容易ではなくなるというものだ。これはどういうことか簡単に説明しよう。あるアーティストの音楽が、特定の地域、国における影響力を持つプレイリストにフックアップされたとする。そうなるとアルゴリズムが働き、そのエリアのユーザーにとって「今、聴くべき音楽」として取り扱われるようになる。そのため、対象となった音楽は”ローカル向けの音楽”として扱われることになり、そこから抜け出すことが難しくなる。そういう意味でこれは”アルゴリズムの罠”のようなものなのかもしれない。


現在の音楽シーンではネットを通じて音楽を広げていくことができるため、文字どおり「音楽に国境はない」といった状況だ。近年の90sジャパニーズハウス、80sアンビエントのようなインスト主体の曲の再評価だけでなく、日本人が日本語で歌う80sシティ・ポップ、さらにはアジアや欧米でも受け容れられる日本のヒップホップ、その逆で日本でも注目される各国のローカル言語でラッブされるアジアのヒップホップ、世界的に注目を集めるアフリカンミュージックのトレンド化を見ていると実にそういった印象を受ける。


しかしながら、新人アーティストがキャリアの早い段階でその”ローカルエリア”を対象にしたプレイリストにキュレーションされてしまうと、そのデータを基にしたアルゴリズムが働き、エリア外に広がる可能性が縮小されるという現象も少なからず起きているという。そのためにできることは、もし、アーティストが海外進出を希望するなら早い段階で”輸出”のための戦略が必要となってくる。


記事ではオーストラリアのアーティストを例に挙げ、その対策としてマネジメント側は先述の関連アーティスト機能を利用すべく、同じコミュニティに属するアーティストを複数の国で売り出すことにしたという。ちなみにオーストラリアの全人口はおよそ2500万人。それに対して世界人口は国連が発表している「世界人口推計2019年版データブックレット」によると77億人だ。そう考えると世界に幅広く広げることができるストリーミングの場合、オーストラリアに特化することは非常に小さい市場に向けてのビジネスになってしまう。そういう意味でまだグローバルなファンがついていない段階でローカルエリア向けの「New Music Friday」プレイリスト入りすることはその地域にアーティストを縛り付けてしまうという危険性も孕んでいる。


ただ、それも戦略上の問題でアーティスト自身のスタンスにもよることだろう。先述のとおり、サービスの特性上、異なる地域で同じストリーミング数をカウントしても有料ユーザーの割合によって収益は変わってくる。通常、アーティストの地元エリアの方がほかのエリアに比べて、興味関心を持つロイヤルユーザーは生まれやすいはずだ。しかし、それも最近のグローバル化する音楽市場を考えると、現在のアーティストには”地元”に限らず、もっと広い範囲、国際的な舞台で成功する可能性がないとも限らない。これに関しては様々な条件を踏まえて、どこを主戦場、どういったファンを想定して訴求するのかということは、アーティストの意向に沿って考えるべきことではないだろうか? 


このような”アルゴリズムの罠”ともいえるジオロック現象の対抗策として、アルゴリズムに影響を受けない段階まで成長することが大切だという認識を示しているところもまた興味深い。




音楽ビジネスとは感情を収益化させるということ


記事では最後にTerry McBrideの「音楽ビジネスとは感情を収益化させるということだ。そして、それはAIがその感情的な概念を解明するまでアーティスト戦略の基礎であり得る」というコメントを紹介している。


現代はデータを基にAIがあらゆる物事を解析。個人に最適な設定が届けられる時代になってきている。音楽に関しても各音楽プラットフォームが提供するサービスは確かに好みに合わせた”おすすめ”を紹介してくれる(個人的には特にSoundCloudの関連曲紹介は非常に優秀だと思っている)。こういった行動履歴を解析した結果の最適解が届けられることは一般リスナーとしては効率的に好きな音楽に巡り会う機会を提供してくれるため、好ましいといえばそうなのだろう。


しかしながら、音楽を提供するアーティスト側が、特に戦略的に考えた場合、アルゴリズムのことは少なからず意識せざるを得ない。だが、ものは考えようで、コミュニティベースに自分の音楽を届けることはそのアルゴリズムをうまく利用した有効手段であり、まさにアルゴリズムのハック的な手法だ。また今はバイラルによって広がる情報に対して、人々がその本質を問い、自ら必要なものを選択する流れができつつある。


そういう意味で”感情の収益化”とは興味深い考え方であり、必要な場所に必要なものを届けるという目的とプロセスをより明確に描くことができるアーティストがそれをなし得ることができるのだろう。そして、それが現段階におけるアーティストのストリーミング戦略なのではないだろうか? 


おもしろいことにすでに若い世代のアーティストたちは個人レベルでSNSを駆使し、ファンベースを作り上げ、そこに自分が意図するアーティスト像を投影している。特に自分をミーム化し、受けての感情をあおる手法は現在、世界中に普及している状況であり、物議を醸す言動による炎上はもちろん、コミュニティをエンパワメントするスタンス、共感を得るメッセージ性の発信などから生まれるバイラルヒット曲は日々増え続けている。そして、それらには全て感情を収益化させるためのルートが紐づけられており、この世代のアーティストは個人レベルで日々、その方法を学び実践しているように思えてならない。


重要なのは今のルールを理解した上で、ハックし、目的を果たすことなのではないだろうか? 少なくとも現段階ならまだAIは感情がなぜ収益化につながるのかまでは理解しきれていない。人間であるアーティストにとってのストリーミング時代の光明はそこにあるはずだ。


written by Jun Fukunaga


source:

https://theindustryobserver.thebrag.com/terry-mcbrides-nettwerk-bigsound-keynote/

https://www.unic.or.jp/news_press/info/33789/

https://wired.jp/2016/09/15/new-music-fridays/
https://en.m.wiktionary.org/wiki/geolocked


photo: pixabay
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