ヒップホップの歴史における最重要機材・MPCはどのようにして人間味のある”楽器”になったのか?

Jディラのビートやサンプリングテクニックがサンプラーを楽器に変えた。そのことが解説される動画をチェック!!
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2017.12.12 08:00

ハウスやヒップホップの歴史において、その発展に貢献した最重要楽器といえば、AKAIのサンプラーMPC。PCを使ったDAWで音楽制作が全盛の今でも、プロはもちろんアマチュアミュージシャンをも未だ魅了し続けるこの機材は、現在はハードウエアだけでなく、スマホやタブレットにも移植されているため、以前よりも気軽に使えるようになった印象も持つ。  


MPCを使ってできることはさまざまだ。例えば、ドラムのワンショットと呼ばれるバスドラム、スネアなどのパートごとのサンプル音をMPCの各パッドごとに配置。それを実際のドラムを叩くようにしてビートのシーケンスを組む、レコードなどから特定のフレーズをサンプリングしてループを作る、またそれを切り刻んだりしてまったく新しいフレーズを作るなど、使い方もアイデア次第でどんどん広がる。そんな機材を駆使してヒップホップに革命を起こしたのが、2006年に亡くなったプロデューサーのJディラ(J Dilla)だ。  


Voxが最近公開した「How this legendary hip-hop producer humanized a machine」という動画では、そんなJディラがどのようにして、機械的なサンプラーのMPCを、ジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)にとってのギター、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)にとってのサックスのように”楽器”として使用したかが解説されている。



動画で解説されるテクニックはまず、Jディラの愛機であったMPC3000を使って、彼が編み出した独特のビートメイキング方法。Jディラのビートといえば、よく「よれた」と形容される生身の人間が叩いたドラム演奏のようなグルーヴ感があるビートを指す。これは動画によると、通常ならそのリズムをよれさせないために機械的に整えるクオンタイズ機能が使われるが、Jディラはそれを使わずにパッドを叩くことで、そのアイコニックなよれたビートを作り出したそうだ。



Photo: Vox Facebook


動画ではそれについて、ザ・ルーツ(The Roots)のドラマー・Questlove (クエストラブ)が酔った三歳児のようなビートで、それを聴いた時に制作上の制限からの解放を感じたと当時のことを振り返っている。またビートに関してはJディラはイコライジングにもこだわりを持っていて、バスドラムの中音域以降をばっさりカット。低音域を増幅させる”Lo-end”という音作りを行っていたことにも触れられている。  


次にベースラインについては、いくつかのテクニックを使っており、そのうち、フレーズをサンプリングしたものでは、例えば、ラッパーのラップが乗るパートでは先述のバスドラム同様、フレーズループを”Lo-end”にしてベースラインを強調したり、逆にインスト部分ではエフェクターのコーラスを使って独特のものに仕上げている。またJディラは、シンセサイザーを使って手弾きしていたこともあり、動画では彼の代表曲である「E=MC²」が例として挙げられている。


 Photo: Vox Facebook


最後に解説されるのは、JディラのMPCの使い方における最もクリエイティヴな部分であるサンプルの切り刻み方。これは音楽制作用語で”チョッピング”などと呼ばれる今ではトラックメイカーにとっては定番テクニックの1つ。これはある一定の長さのフレーズをバラバラに刻み、細かくサンプル化。それをシーケンス的に並べて作るというもの。それにより、動画で聴けるような、ところどころに原曲の歌部分の声がまばらに入り、メロディーが再構築されたオリジナルにはない独特なフレーズを作り出すことができる。そのため、ギターなど普通の楽器にはできないサンプラーの特性をうまく使った表現方法だったと言える。  



Photo: Vox Facebook


このようにMPCを使って革新的な音楽制作手法を世に知らしめたJディラ。現在でもそのテクニックに対応するべく、MPCを作ったAKAI以外のメーカーからもパッドが搭載された機材は数多く販売されている。 動画では締めの部分にMPC3000のマニュアルに書かれた「MPC3000は現代のピアノであり、ヴァイオリンだ」という一節が紹介される。2017年の今となってはもはやそれは音楽制作に興味がある人、もしくはこの動画を見さえすれば十分に理解できることだと思うが、MPC3000が発売された1994年当時はまだまだそんな認識はなかったのかもしれない。その点で考えれば、Jディラの人間味溢れる方法でMPCを駆使するアイディアの数々は、MPCを”機械”でなく”楽器”として認識させることに大きな役割を果たしたと言えるだろう。  


参考: 

https://www.facebook.com/Vox/videos/803533616500909/



Written by Jun Fukunaga 

Photo: Vox Facebook

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