AKAI MPC最新バージョンの実力を☆Taku Takahashiが実機検証!

ハードウェア単体でのAutotune的なピッチ補正・ケロケロボイスエフェクト、さらにシンセやエフェクトなども追加されたMPC 2.10を実機検証!
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2021.09.02 10:00

ビートメイカーにとっての永遠の定番機材、AKAI MPCが最新バージョン2.10で大きな進化を遂げている。ハードウェア単体でのAutotune的なピッチ補正・ケロケロボイスエフェクトが追加され、さらにはシンセやエフェクトも数多く追加された。


当記事では「MPC Live II」ユーザーであるblock.fm局長☆Taku Takahashi所有の実機をアップデート&検証してもらい、気になるサウンド面や実際の使用感を聞いてみた。一部のサウンドは動画でも紹介しているので、これからアップデートするユーザーから購入検討中の方まで参考にしていただけると幸いだ。





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ー☆Takuさん的には今回のアップグレードはどのように感じていますか。


☆Taku Takahashi:神アプデですね!


MPC v2.10というバージョンですが、ほとんどv3と言ってしまってもいいくらいのインパクトがありました。MPCがDAWソフト環境の対抗馬といえるような本格的なワークステーションに進化したと感じています。


MPCの一番の強みはハード単体で制作を完結できるところなのですが、とは言ってもこれまではミックスダウンやレコーディングなどの作業は別途パソコンとDAWソフトがあることが前提でした。今回のアップグレードではこういった作業も全てMPCで完結できるような可能性を示しているように思います。


本格的なシンセエンジンも増えたので、例えばHouseやR&B、EDMなどサンプリングよりもシンセが中心となるサウンド制作でも十分使える機材に変貌しているのではないでしょうか。


動作面ではまだアップデートが出たばかりということもあって、作業に支障のないレベルですが多少バグかな?と思うような挙動もあったりはしました。ただこの程度のことはパソコンとDAWでもよくありますし、作業していて困ると感じることはなかったですね。今後アップデートで改善していくので問題ないと思います。


ーMPC版Auto-Tune的エフェクトとなるAIR Vocal Tunerのサウンドはいかがでしたか?


☆Taku:いわゆるケロケロボイスをつくるためのエフェクトとしては、これまでもiZotopeのNectarやハードウェア・エフェクトではTCHeliconのVOICETONE C1、実際にAuto-Tuneを搭載しているTASCAMのTA-1VPなど、いくつかのメーカーが同じようなAuto-Tune的な効果の出るエフェクトをリリースしていて、MPCのAIR Vocal Tunerも含めそれぞれ音の特性に違いはあります。


ただ相当なプロじゃないと、オリジナルのAuto-TuneとMPCのAIR Vocal Tunerの音を聴き分けることはできないと思いますね。


AIR Vocal Tunerは、たとえばヒップホップやダンス、ポップミュージックのボーカルなどでケロケロさせるなら全く問題なく使えるんじゃないかと。


こういうエフェクトを使いたい場合、声ネタを少し加工したいだけでも、以前までは一旦MPCから音を出して上述のソフトやハードウェアで加工してMPCに戻すしかなかったので、この点がMPC1台で完結できるのは大きいですね。


【AIR Vocal Tunerサウンドチェック】


トラックへのエフェクトの追加は非常に簡単に行える。ケロケロ〜ナチュラルな補正をつまみで調整でき、この辺りもAutoTuneと同様の使い勝手。


ーエフェクト的な声加工ではなく、純粋なピッチ補正としてはいかがですか?


☆Taku:MPCの機能では本家Auto-TuneやMelodyneでやるようなマニュアル補正はないので、スタジオで行うようなすごく細かい補正や、大きく音を外してしまっているようなボーカルに使うのは違うけれど、ある程度ちゃんと歌えているボーカルを補正する感覚なら十分使えますね。


ーこういったプラグインはパソコンでもやや動作が重い印象がありますが、AIR Vocal Tunerを複数立ち上げるとMPCの動作が重くなるようなことはあるのでしょうか。


☆Taku:AIR Vocal Tuner自体はそこまでCPUを使っているという印象はありません。いま手元にあるMPC Live IIでAIR Vocal Tunerがインサートされていますが、CPU使用率はせいぜい15%くらいで余裕のある状態です。


例えばシンセで長い持続音があると少しCPUに負荷があるような印象ですが、とは言っても3〜4トラックくらいなら20%ちょっとなのでまだまだ余裕がありますね。



サンプリングはほとんどCPUを使わないので、全体としてサンプリング、シンセ、各ボーカルトラック、エフェクトくらいの一般的な構成であれば問題ないと思います。


ーAIR Vocal Harmonizer、Doublerといったボーカルエフェクトも追加されましたね。


☆Taku:1本のボーカルからハーモニーやダブルを作ることができるプラグインですね。

僕の場合はレコーディング時にすべて録音してしまうことが多いですが、それでもリミックスなどでボーカル素材がメインしか送られてこない場合もあるので、そういう時に使ったり、楽曲を作るときのエフェクトとしても使えると思います。


AIR Vocal Harmonizerはキーを指定するだけで自動でハーモニーを生成でき、ハーモニー4トラックのオン・オフやボリューム、パンニングの調整もできます。


例えば僕の場合はオクターブ下の低い声はセンターにするのが好きなんですが、そういった調整もミキサーのような画面で簡単に出来たり、機械的なハーモニーにならないようボーカルにズレを加えるなど、必要な機能は揃っているし音もいいと思います。


【AIR Vocal Harmonizer】


上述のケロケロ加工をした素材にハーモナイザーをかけた状態。ナチュラルな音声にかければナチュラルな声質のままハーモナイザーがかかる。ボーカルをハモらせるだけでなく、トラックの声ネタを派手に加工する用途にも使える。


ー追加されたシンセエンジンはいかがでしたか。


☆Taku:今回、ダンスミュージック〜ポップスの定番シンセOdysseyやMellotron、Solina、マルチ音源のHypeが追加されたことで、サウンドの幅は大きく広がりましたね。シンセを多用したTrapやR&B、House、DnBなど、どんなジャンルでもオールラウンドに対応できると思います。


今回のシンセエンジンはトータル1.3GBの容量で、例えば本格的なオーケストラ用のサンプルライブラリなどでは数10GBは今時当たり前なのですが、シンセ音源としては1.3GBはかなりの容量です。


これまでもシンセはあったのですが、「まあ一応ついてるかな」という程度でした。今回のアップデートでは全く別物の本格的なシンセが増えたようなイメージです。


ーシンセのサウンドや機能についてはいかがでしょうか。


☆Taku:普通にシンセとして使う分には全く問題ないですね、たとえばHypeではオシレーター、フィルター、LFO、ADSR、空間系やディストーションなどのエフェクト類と、通常の音作りで必要なものは揃っています。


クラシックシンセの再現であるOdysseyは、そもそも僕も全てのパラメータを理解できているわけではないんですが、プリセットも使えるいい音が多く、いじれるパラメータも豊富でした。


Solina、Mellotronについてもオリジナルの音色が良い感じにソフトで再現されていると思います。


【シンセエンジン「Hype」】


【シンセエンジン「Mellotron」】


【シンセエンジン「Solina」】


【シンセエンジン「Odyssey」】


タブを切り替えることで様々なパラメータにアクセスできる本格的なソフトウェアシンセとなっている。パラメータはつまみにアサインされるので、マウスでの操作のようなストレスもなくハードウェアのように感覚的に音作りができる。AKAIの親会社であるinMusicではAIRなどをはじめ結構な数のバーチャルシンセやエフェクト類を開発販売しているため、今後の移植も期待できるかもしれない。


ー今回はエフェクトも多く追加されましたね。 


☆Taku:今回のアプデで、MPC一台でちゃんとミックスダウンまでできるっていうくらい、必要なエフェクトは全部入ったんじゃないかな。これまでもEQやコンプなどはあったので、やろうと思えばできなくはなかったんですが、今回のアップデートでは本当の意味でのミックス作業がMPC内部で完結できるようになっていると思います。


ー実際にMPCハードウェア単体でミックスやマスタリング完結という選択肢もありそうでしょうか。


☆Taku:「MPCだけで完成させ、リリースしました!」という人たちが実際にでてくるようになると思います。なんとかMPCだけでリリースできるようにしてやろうというAKAIの意地みたいなものを感じましたね。


少し前のアップデートで追加されたChannel Stripをはじめコーラスやピッチエフェクトなど、ミキシングに必要となる基本的なエフェクトは揃っていますし、​​マスタリング・マキシマイザーとしてAIR Maximizerというプラグインもあります。


フィンガードラミングやビート制作という用途から、一歩突き抜けたような感じですね。


【Air Lo-Fi】


☆Taku Takahashiお気に入りのビットクラッシャー、Lo-Fi加工エフェクト。こちらも上述のinMusic傘下AIRによるもので、Pro Toolsにデフォルト搭載されているAIR Lo-Fiと同等のものと考えられる。


ーMPCがDAWの対抗馬になるかもと言うお話がありましたが、操作性という点で画面の小ささは不便ではないでしょうか。


☆Taku:MPCはショートカットがすごく良くできているんですよ。ボタンやツマミ類が画面と連動して割り当てされますから、パソコンのようにMIDI割り当てやマウスを使ったり、パソコンのキーボードでショートカットを覚えるといった煩わしい作業もない。画面に表示されない部分はハードウェアが補っている感じですね。


ワークフロー的にもパソコンの大きな画面を見ながら進めるより、直感的にパッと思いついたものを音楽的に記録していく感覚なんです。ある程度フォーマットの決まっているダンスミュージックならMPCで作り始めた方が圧倒的に早く作れるんじゃないかな。


ー今回のアップデートではオーディオインターフェイスの接続も可能になりましたね。


☆Taku:トラック制作だけであれば2チャンネルのインプットがあれば十分なんですけど、DAWのない環境でボーカルのレコーディングをするのであれば、マイクやヘッドフォン接続のために、このオーディオインターフェース接続機能は必須ですね。


アウトプットも増やせるので、ライブではクリックだけをアウトするチャンネルを作ってモニターしながらフィンガードラムを叩くとか、キック、スネア、ハイハットなどドラムパーツや楽器を1つずつバラバラにアウトプットできるので、例えばZeppみたいな大きな会場でのライブでもちゃんとしたPAができます。


ーレコーディングにも本格的に対応できるということで、いよいよDAW無しで完結できそうですね。


☆Taku:これから機材を揃える人たちはDAWとパソコンで10〜20万円前後かけるのか、10万円ちょっとのMPCで完結してしまうのかという2択で考えられるんじゃないかな。どちらにも長所短所はあって、パソコンの無限の可能性に対してMPCはとりあえずこれが1台あれば大丈夫だという機材。


選択肢の広さではパソコンの良さがあるけど、MPCはこれ一台でライブ、ビート制作、レコーディング、ミックスダウンをこなせます。このMPC Live IIはスピーカーもついていてバッテリーで駆動できるから、ソファーでリラックスしながらビートを作ったり、気が向いたら電源を入れるだけですぐに制作に入れるという手軽さはパソコンにない部分ですね。


ー逆に☆Takuさんのように、すでにDAWの制作環境がある場合もMPCはあると便利ですか?


☆Taku:スケッチ用途など、曲の作り始めにめちゃくちゃおすすめですよ!ループしながらガンガン作れる感じで、パソコンだと迷ったり悩んだりするようなことが、なぜかMPCだと潔くどんどん作れてしまう。普段は思いつかないようなアイディアも出てくると思います。


DAWでもループしながら作っていくというやり方はあるんですが、選択肢が多すぎたり、いくらでも後戻りができてしまうので、便利な代わりに迷っている時間も多いのかもしれないですね。


デスクに座ってパソコンを起動しキーボードやドラムパッドを接続して、といった手間がないのも快適で、Spliceのサンプルも購入済みの状態になっているものはMPC内蔵のWi-Fiで直接ダウンロードできるようになっているし、すでにDAWで作業している人へもおすすめです。


最後に1点だけ注意点を言うと、MPC本体のアップグレードの際には今もパソコンが必要です。動画や説明を見ながら手順通りにやれば誰でもできることなんですが、MPC本体のアップデータと、今回追加された音源のインストールという2段階での作業なので、詳しくはやり方を解説した動画を見てください。


Wi-Fiも内蔵しているのでこの点は今後もっと簡単になるのではと期待しているのですが、まだ完全にパソコン不要となっていないので、この点は注意してください。


【MPC 2.10ファームウェアを更新方法】



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90年代よりビートメイカーの定番機材として進化を続けるAKAI MPCは、今回のピッチ補正などを中心としたDAW的側面の強化により、ハード単体でのワークフローの完結という新たなステージに向けて動き出している。


スマホ中心でパソコン離れをしている時代にDAWを始めるとなると、パソコンそのものの使い方に慣れ、かつDAWも覚えるということになるが、制作〜録音からマスタリングまでパソコンが不要な完結型の単独ハードウェアがあるなら、そちらを使いこなせる方が音楽クリエイターにとっては合理的だ。


こういった完結型のハードウェアが、音楽制作の環境を次のステージに導くのではないだろうか。


AKAI MPCシリーズの今後の動向からますます目が離せなくなりそうだ。

最新の情報はこちらのAKAIウェブサイトから。

▶http://akai-pro.jp/index.php


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written by Yui Tamura





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