「自分のいるところが世界の真ん中」Moment Joon『Passport&Garcon』インタビュー

アルバム『Passport&Garcon』についてMoment Joonにロングインタビュー。キャリアのきっかけ、Moment Joonが語る“リアル”とは。
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2020.04.06 09:30

Written by Tomohisa Mochizuki


移民の少年がラッパーへと成長する物語。Moment Joon『Passpport&Garcon』ロングインタビュー




移民ラッパーMoment Joonのアルバム『Passport&Garcon』は、1人の少年が成長していくライフストーリーだと僕は解釈している。この物語をより楽しむための、ちりばめられたさまざまな思考について本人に話を聞いた。傍らには、Moment Joonを支えるレーベル、GROW UP UNDERGROUND RECORDS代表の浅芝祐こと、楽曲にもたびたび登場するシバさんも一緒だ。





「選んだのが“日本に逃げる”っていう選択肢でした」


—まず『Passport&Garcon』について、あらためてblock.fmの読者にアルバムのコンセプトとタイトルに込めた思いを聞かせてください。


Moment Joon(以下:Moment):“Passport”って多くの人にとっては、広い世界に出て行く時の通行証を意味するパスポートだと思うんですけど、日本に住んでる僕にとっては在留カード以上の身分証明書なんです。例えば「Momentって在日韓国人らしい、イカついらしい」というような、他人から言われる外からの自分を表すものが僕にとっての“Passport”だと思ってて。でもそのイメージの裏にある本当の自分は、すごく子供っぽい。いい意味では繊細、悪い意味では戯言や不満を言ってみたり、野望に満ちている“Garcon(少年)”の自分がいるんです。その両面を見せたいと思って付けたタイトルが『Passport&Garcon』ですね。コンセプトというと大袈裟ですが、アルバムで「僕はこういう風に生きてる」っていうのを見せたい。ただ、聴いてくれた人がどんな風に受け取るかはその人たち次第です。


—アーティストとしての確固たるスタンスと、無邪気でユーモアあふれる二面性を感じられるアルバムでした。作中、ルーツに立ち返るようなリリックも多く散見されますが、Momentくんがこだわる“日本のヒップホップ”に惹かれた一番のきっかけは何でしたか? 


Moment:きっかけはジブさん(Zeebra)ですね。CDを集めるのが好きだったんですが、当時韓国ではまだ、韓国とアメリカのヒップホップしか売ってなかったんです。でもある時、ジブさんの4thアルバム『The New Beginning』を見つけて。「日本のヒップホップらしいよ」ってCD屋さんの店長に教えてもらって買ったのが日本のヒップホップとの出会いでした。当時のジブさんのラップは王道というか。細かいテクニックでカッコよさを見せるんじゃなくて、基本的な技がめちゃくちゃ充実していてカッコイイ。正直、当時韓国であれほどちゃんと“王道”を聴かせられる人がいなかったんです。その時韓国で、ゴットファーザー的存在だったDrunken Tigerもメインストリームではありつつ、Wu-Tang(Clan)のOl' Dirty Bastard的なちょっとトリッキーな感じでしたし。だから凄い衝撃でした。当時、アジアでこの人が一番ラップうまいんじゃないか? って思うくらい。


—ZeebraさんがきっかけっていうのはMomentくんに対するイメージとしては新鮮です。

 

Moment:ヒップホップ自体は2000年ぐらいから聴いてました。本格的に聴き始めたのは2003年からですね。当時は日本のヒップホップをもっと聴きたいと思ってもアクセスできる手段があまりなかったんです。自分の中での割合は45%韓国のヒップホップ、50%US、残りの5%が日本という感じですね。そのなかのひとつの教科書としてジブさんがいた。言語もわからなかったけど、僕にとっては貴重な参考資料でした。


—ラッパーMoment Joonとしてラップそのものに影響を与えた日本のラッパーはいますか? 


Moment:直接的な影響を受けた人はほとんどいません。“Moment Joon”は僕とプロデューサーとで、ぶつかり合いながら作りあげてきたスタイルなので。ラップのスタイル以外の部分ではECDさんですね。ECDさんをリアルタイムで体感した世代ではないですが、歴史として振り返る度に、僕の前にこういうことをやろうとしてた人がいたんだって勇気を貰えます。


浅芝祐(以下:浅芝):Momentが作りあげてきたものに、多少なり影響を与えたものはあるかもしれませんけどね。SEEDAさんとかも聴いてきているし。


Moment:そうですね。特にMoment Joonを名乗るようになってからは、より自分らしくオリジナルであることに力を入れるようになったかもしれません。


浅芝:当時ラップ録って学校で配ったりしてたんやろ? 


Moment:中学校3年生のときですね。卒業するちょっと前、2005年くらい。録音してミックステープ作って、配ったり、売ってました(笑)。中学生にしては結構儲かったんですよ(笑)。


—周りでそういう人、Momentくん以外にもいました? 


Moment:いなかったですね。当時ヒップホップっていうカルチャー自体あまり浸透してなくて、ラップ好きはオタク扱いでした。そこから2、3年経ってインターネットの影響でヒップホップが爆発的に広がって。日本はラッパーによるミックステープ(=アルバムではないミックスCD形式の作品集)ブームが2011年くらいから隆盛したと記憶しています。韓国はそれよりも少し早く、2008年くらいからミックステープで30万稼いだとかそういう人が出てきました。そこからヒップホップを聴いていなかった層にも認知が広がって、今みたいに大衆化される土台ができたんです。僕もそれに乗っかって、高校入ってからもラップを録って売ろうとしていたんですが、そもそも“ラッパー”のステレオタイプにハマる人間ではなかった。学校の中でも「変わったやつ」って思われていたし。親も、というか韓国社会全体が「大学に行きなさい」という圧力をかけてくる、それに反発してラップしますってことは声に出しては言えなかったですね。


—それを言うのがはばかられる環境だったんですね。


Moment:それを言う勇気が僕にはなかった。だから、選んだのが“日本に逃げる”っていう選択肢でした(笑)。



「アルバムのストーリーは脚本を書いてすべて共有した」—チームで作ったアルバム




—アルバムでは、メッセージ性とかリリックについて取り上げられることが多いと思いますが、僕はサウンドだけ聴いても楽しめました。2曲を1曲にして、曲調がガラッと転換したり、景色が浮かぶようなSE、リリックだけでなくサウンドにもストーリー性を持たせて、次の曲に繋がってたり構成が面白いなと。サウンドにこだわった部分を教えてください。


Moment:意図した訳じゃないですが、ラップ以外の部分でもヒップホップの多様性は表現できたと思います。“メッセージ性”って歌詞を押し付けるような感覚があるんですけど、歌詞は伝えることの一部分にしか過ぎなくて、他の要素でもテーマを伝えることはできる。例えば「Home/Chon」の「Chon」は、最初もっとストレートにラップする感じだったんです。でもこういう内容だから抑揚を付けた歌い方にして、ビートも最初のものに比べてキックがかなり弱くなっています。リリックの内容自体が過激だからサウンド的にキックは弱くして、スネアを強く鳴らして、あえてアンバランスな仕上がりにしました。「Chon」という曲が持っているシニカルなユーモアを伝えるために、そういうアプローチが必要だなと思ったんです。他の曲も全部、テーマを伝えるためには何が最適解かをプロデューサーやチームと突き詰めました。


—プロデュースされているのはずっとパートナーとして制作を行うNOAHさんですよね。トラックも全てNOAHさんが手掛けたんですか? 


Moment:全曲やってもらいました。


浅芝:ユーモアを取り入れるのはラップだけじゃなくサウンド面でも、けっこうやったんちゃうかな? リリースしたときに「オモロくない」ってなったらアカンよね、ちゃんと音楽として楽しめるものにしないとっていう話をNOAHさんとして。それでかなり細かい遊びを入れてもらいましたね。作るのはすげえ大変だったと思います(笑)。


Moment:最初に、アルバムのストーリーと各楽曲の脚本を書いたんです。歌詞だけでなく物語のセリフを全部書き出して。それを制作に携わってくれた全員に共有しました。そうすることで、楽曲に参加していない人からも色んなアイデアをもらえるんですよね。チームに全体像を示すことはとても大きなメリットでした。僕ひとりで作りあげたわけではなく、みんなが僕の提示したストーリーを完成させるために細かいところまでこだわってくれたんです。



“リアル”も“フェイク”もない。—「良いヒップホップと悪いヒップホップがあるだけ」




—「Home/Chon」の「Home」では井口堂を訪れた男と喫茶店で対話しているようなユニークなかたちで曲が展開されていきます。その中の「神風 本物 大和魂/M-floはダサいって言ってたね 懐かしい」というリリックはどのような意図を込めているのですか? block.fmの局長はm-floの☆Taku Takahashiなので、ちょっと気になって。


Moment:これは僕がラップしていますけど、僕の意見ではないんです。右と左からそれぞれ音を出すことで2人の対話を表現していて、一人称も“僕”と“俺”になっています。同じ井口堂に住み境遇も似ているのに、聴いてきた音楽や触れてきた文化が違うから、対立してしまうっていうことを表現しています。“僕”の場合は“ヒップホップ”、“俺”の場合は“日本語ラップ”って言うんですね。その“俺”が語る“リアルヒップホップ”っていう文脈でそういう風に書きました。


—“俺”が語る“リアルヒップホップ”論を聴く限り、m-floはやり玉にあげられそうな対象ですもんね。僕もずっとヒップホップが好きで聴いてきて、“リアル”ってなんだろうって考えるんです。“リアル”だと言われているUSのアーティストにこの質問を投げかけたとき、「もともとヒップホップはパーティから生まれた音楽だからリスナーに楽しんでもらうことがいちばん。貧しい犯罪者の黒人の音楽というステレオタイプは排除すべき」、「たとえフィクションであっても、ポジティヴな思いが込められているならそれはリアルだよ」と言っていたんです。そのインタビューはまだ世には出ていないんですけどね。Momentくんは“リアル”ってなんだと思いますか? 


Moment:僕は、“リアルヒップホップ”なんてものはないと思ってます。“リアル”は“良い”=“カッコイイ”と言い換えることができる。日本だと特に“リアル”と“良い”が混同されているんじゃないでしょうか。極論、全部フィクションだとしても世の中において意味のあるものは良いヒップホップだと思います。ヒップホップの文法を用いてラップをしているから、曲の中で「俺はリアルだ」って言うかもしれないけど。そういう文法を全部取っ払ったとしたら、フェイクもリアルもなくて、ただ、良いヒップホップと悪いヒップホップがあるだけ。“リアルヒップホップ”のステレオタイプに憧れが強い人々からしたら、それがリアルなのかもしれないけど。彼らがそう言い続けたとして、果たしてそれが良いヒップホップなのかと言ったら、僕はそうは思わない。



HUNGERとJUSTHISを客演に迎えた理由


—ユーモアという点で言うと、HUNGERさんを迎えた「Losing My Love」、あの楽曲の構成はほんとに衝撃的でした(笑)。あの楽曲を作る上でどのようなやりとりがあったんですか? 


Moment:HUNGERさんにオファーするときに、曲のテーマや展開を全部説明した企画書をお送りしました。あの曲のテーマは、世の中に傷付いて、愛情に飢えて、冷めてしまって、文句言っている子供っぽい自分。そこに同じような経験をしてきた大人が現れて、冷めてしまった子供に心からのアドバイスをする。でもそのアドバイスさえ聞きたくなくて逃げてしまう場面まで見せることで、自分の“Garcon”、幼稚で子供っぽい部分をインパクトを持って伝えられると思ったんです。


—HUNGERさんがMomentくんに「うるさい」って遮られるのは、異様な生々しさがあって、かなりインパクトがありました。


浅芝:仕上がり聞いてHUNGERさん爆笑してましたもん(笑)。


Moment:ラッパーはみんな誇りを持ってやっているので、演出とはいえこんな表現を理解してくれる人は誰だろうって考えたときにHUNGERさんが思い浮かんだんです。何人か候補がいたんですけど、HUNGERさんがいちばん適していると思いました。SKY-HIさんの「Name Tag」で共演したときに彼のラップからそう感じたんです。GAGLEに野心的なイメージってあまりないんですが、「Name Tag」のHUNGERさんのバースを聞いたとき、自分のスタイルを極めることで他のラッパーたちと勝負する姿を目の当たりにして、彼の野望が見えたんです。だから、単なるラップゲームではなくもっと上の次元の芸術として僕の考えを理解してもらえると思ったんです。途中切られてる部分、実際はあの先も全部録って、それを遮るように編集で切っています。


浅芝:作業的には切っちゃうから、なくてもいい手間ではあるんですが、それをやるのが重要やなって話してて。そこまでって決めて歌うんじゃなくて、最後まで歌ってもらったものを切りたいっていう。最初、怒られへんかなあって心配してたんですけど、ちゃんと楽曲の主旨や役割を理解してもらえたんで。良かったですねえ。


Moment:わざわざ関西まで来てくれて、NOAHさんのスタジオで一緒に作業しました。


浅芝:録ったバースを送ってもらうだけじゃなくて、一緒にMomentとスタジオに入ってもらうことで、意図していた空気感をパッケージできましたね。こっちのやりたかったことを全部HUNGERさんが理解した上で動いてくれました。


—客演ではもう1曲、「Seoul Doesn’t Know You」でJUSTHISさんをフィーチャーしています。Momentくんが曲中やSNSですごくリスペクトしていたのが印象的でした。韓国のヒップホップシーンにおいても有名な存在ですが、あらためてどのようなアーティストなのか紹介していただきたいです。


Moment:2人とも1991年生まれで、出身もソウルの芦原区(ノウォング)っていうところなんです。彼は…こう言うと本人は嫌がると思うんですけど、僕があそこに残っていたら、ああなったかもって思う存在なんですよ。育ちは似ているんですが、僕は日本に来て、彼はソウルでずっとラップミュージックをやり続けて、今はお互い全く違う人間になってしまった。彼はオーラがすごくて、圧倒される。ひとりの人間のはずなのに、エネルギーと知識が3人分入ってるみたいな(笑)。まさにソウルっていう競争社会の頂点に住んでいる人だから、そうならざるを得なかったんでしょう。彼とは3、4回会って話をしたんですけど、会う度に違和感を感じて、僕は完全に“井口堂”の人間になったんだなって気づきました。同じ言語で話しているのに何もかも全部違う。彼もまた、韓国のヒップポップになかった作品を出してるんですよね。彼のデビューアルバム『2 MANY HOMES 4 1 KID』は僕の『Passport&Garcon』とはまた違うストーリーを持ってるアルバムです。韓国のヒップホップでは『2 MANY HOMES 4 1 KID』の前と後で時代が変わったとさえ言われてるんです。


—言語が分からなくても、JUSTHISさんのパワーや怒りみたいなものは伝わってきました。「Seoul Doesn’t Know You」のテーマとJUSTHISさんを迎えた意図を教えてください。


Moment:ソウルには居場所がない、でも日本にも居場所があるとは思えない。じゃあどうすればいいんだっていう迷いを歌った曲です。ソウルって日本から近いけど、行ったことない人の方が多いと思うから、ソウルがどんな場所かを見せたい。しかも、僕一人で表現するんじゃなく、ソウルという場所を象徴できる人を呼びたかったんです。彼にも企画書を送りました。彼にはソウルを擬人化した存在になって、ソウルという場所の恐さを表現してほしいと伝えました。なので僕はわざとゆったりとしたフローで、JUSTHISはめちゃくちゃ攻めるようなラップになっています。言語が分からなくてもフラストレーションが伝わるように。結果、「Momentはソウルには住めない」ということを提示しています。


—僕の地元である山梨の仕事でお世話になっている人も、韓国の在日2世なんです。興味本位で、ソウルで過ごした学生時代の話や、どういう環境だったのか聞くと、“怖かった”というんですよね。日本とは違う、脅威と圧力がある場所なんだとは理解していたんです。JUSTHISさんはソウルという場所に対して否定的なんですか? 


Moment:否定的ですね(笑)。彼も、ゆったりした環境で生活ができたら、もしかすると優しさがもっと前に出てくるのかもしれない。“化け物になってしまった自分“というのが彼と僕の音楽の共通点なんです。取り巻く環境を批判しつつ、俯瞰すると自分もその一部になっている。JUSTHISの場合、何倍も過剰に演じていますが。彼は移民になりたいとよく言ってるんですが、移民は移民で大変だよって思います。彼はもうお金を手にしているから、いいところに行けるかもしれないですけどね。ドバイとか(笑)。





「ステレオタイプやイメージなんて馬鹿馬鹿しくて、それは本当の僕じゃない」




—「MIZARU KIKAZARU IWAZARU」では、JinmenusagiさんとMomentくんのTwitter上のやりとりが反映されたと思われる一節がありましたが、意図と経緯を教えていただけますか? 


Moment:僕が日本の政治や差別に対する不満をTwitterで漏らした際に、Jinmenusagiくんが「じゃあ見なきゃいいんじゃない」って言ったんですね。僕もJinmenusagiくんが考えなしにそんな風に言うとは思っていないですし、そもそもJinmenusagiくんはSNSでそういった社会についての話題を出さないと自分で決めています。それをわかった上で僕はあえて公共の場で議論することを試みたんです。でもSNSでは話せませんでした。その後、2人で電話で話しをしたんです。


—ワンマンにもJinmenusagiさんクレジットされてたので、ちゃんと2人で消化されているとは思っていました。


Moment:僕もJinmenusagi×DubbyMapleのアルバム『EMOTAPE SIDE A』収録の「ISITTRU3? 」に参加してますし、彼のワンマンにも出演する予定でした。「MIZARU KIKAZARU IWAZARU」のその部分でも彼の声を入れたかったんですけど、彼が忙しくて実現できませんでしたが、仲が悪いとかではないです。この曲でJinmenusagiくんを批判するような意図は全くなく、むしろ彼のアドバイスを受けてできた曲なんです。当時本当に辛かったので、情報をシャットアウトして生活できるか実験してみたんです(笑)。電車の中吊り広告の韓国、中国、右、左、リベラルといった様々な見出し、誰かと話していて、僕が韓国人と分かったときに変わる態度。そういった些細なことでも僕は今の日本でネガティヴな情報を気にせず生きていけるのか。その経験があの曲には詰まっています。歌詞にもありますが、日常で社会問題に対して言及しないようにしても、どうしても出てきちゃうんですよね(笑)。僕がそういう情報をシャットアウトできない人間なのか、それとも今の日本が情報をシャットアウトできない状況を作ったのか。それは聞いている人が判断してほしい。僕自身、分からないから。もしかしたらそうやって生きられる人もいるかもしれないですからね。


—「MIZARU KIKAZARU IWAZARU」だけでなく、『Passport&Garcon』全体の大きなトピックとして、人種差別、移民問題、Momentくんが感じてるフラストレーションがすごく伝わります。韓国の貧困差別が描かれた映画『パラサイト 半地下の家族』は世界中で絶賛されました。人種だけではなく性差別、無意識、無知による差別が社会には蔓延していると思います。僕も無意識でしてしまっているかもしれないし、差別意識に鈍感なだけで自分が差別されていることに気づいてないのかもしれない。対してMomentくんは悪意や差別に敏感にならざるを得なかった。そんなMomentくんが提示した『Passport&Garcon』を通して僕らが得るべき教訓ってなんでしょうか? 


Moment:教訓はないと思います。僕は「KIMUCHI DE BINTA」でステレオタイプやイメージなんて馬鹿馬鹿しくて、それは本当の僕じゃないってことを表現しています。でもステレオタイプを信じ込んでる人はこの曲を聴いて喜ぶと思うんですよ(笑)。「ほら、やっぱりそうじゃん」って。よくメッセージ性って言われますが、僕の中ではメッセージって特にないんです。テーマはあります。あるものに関して描写して、情報や感情を理解して欲しい。けど、メッセージを押しつけて理解させたいという気持ちはないですね。


—賛成でも反対でも、“人種差別”や“移民”というトピックに興味を持ってくれるだけでMomentくんの目的は達成されているということですか?  


Moment:そうですね。そういったトピックに興味が湧くまでいかなくても、僕の立場になって聴いてくれたらそれでいいですね。1人の人間の経験を聴いて、共感しても、しなくてもいい。1つの視点が世の中に生まれるということが肝心です。


浅芝:作品性から「こういう風に伝えたいんでしょ」って思われがちなんですけど、全くそんなことはないです。Momentの中ではそれをどう解釈してくれてもいいと思ってますし。


Moment:アーティストとして、作品を作るときはものすごく考えて作りますけど。世の中に出したあとは、もう僕の手からは離れてるものだから。「どうぞご自由に受け取ってもらってかまいませんよ」って感じです。むしろ作り手はそういう風に考えないといけない。


—僕は文章を書いてますが、書き手の狙い通りに読み取ってもらえることはまずないと思っていて。いくら善意を持って書いたとしても誰かが傷付くかもしれないし、嫌な思いをするかもしれない。伝える側ってそれを承知でやらなければならないものなんだと理解しています。


浅芝:受け手に視点が生まれて、そこに議論が生まれることに意味があると思います。



ステレオタイプへの憧れを捨てる—「大阪・井口堂が僕の世界の中心」




—“移民”や“差別”とはまた違ったスケールの話なんですが、僕は地方に住んでいて東京に対してすごくコンプレックスを抱いています。好きなカルチャーが発信されている場所も東京が中心で、スポットがあたるのも東京。環境のせいにはしたくないけど保守的で排他的な地方在住者は日陰者で、住んでいると閉塞感を抱かずにはいられません。対してMomentくんは東京ではなく大阪・井口堂を拠点にその強みをいかし、強度の高い作品を作って世の中に発信していますよね。地方在住のクリエイターに対してアドバイスというか持つべきメンタリティを聞きたいです。


Moment:もちろん東京という場所にお金、人も機会もインフラが集中していることは無視できないですよね。ただ、東京で生み出されているものを冷静に見たときに、「本当に日本の中心で生まれたものなのか? 」とは思います。“東京”っぽいものが生産されているだけな気がするんです。東京・渋谷のヒップホップという世界観を作ってその中で遊ぶ。それをカッコイイものとして、メディアの力を使って日本全国に配信しているからそれがメインストリームに見えるだけで、大多数の人々の人生に共通しているものとは思えないんです。東京のヒップホップカルチャーに携わっていない人が、東京のステレオタイプなヒップホップを聴いて、これが東京の誇りだと自負を抱くだろうか? と思います。悪い言い方をすると使い捨ての音楽だと思う。例えばラップにしても、流行の最先端はその時代によって次々と入れ替わる。どれもクオリティは高いし、面白いんですけど。俯瞰すると大多数は似たり寄ったりで、意味があるのかと思ってしまいます。なぜそういうことが起こるかというと、東京自体が“東京らしさ”への憧れが強いからだと思うんです。


—地方から東京への憧れでなくて、東京自体が、“東京”というブランドにこだわっているということですか? 


Moment:大阪から見ると、すごく分かるんです。大阪って、自分たちをアジアの一部として受け入れている節がある。大阪の人に大阪と似ている都市を聞くと、釜山、台北とかって出てくるんです。だけど東京の場合、ロンドンとかニューヨーク、パリと並べがちじゃないですか。それはたぶん、世界の大都市に対してのコンプレックスの裏返しなんじゃないかと思います。残念ながら現実にそれらの大都市と文化的な成熟度を比べると、かけ離れていると思いますね。それを受け入れないまま、未熟な“東京”っぽいものが再生産・再開発されてしまうことが多い気がします。そういう意味では日本語ラップ、日本のヒップホップに置いては、東京のステレオタイプに憧れを抱く、オリジナルをコピーしただけの人たちを大勢生みだしてきた。日本の、東京のヒップホップカルチャーとはなんなのか? 、先輩たちの偉業、そういう歴史は理解して受け継いでいくべきものですが、そのまま繰り返す必要は全くない。東京に住もうが住まなかろうが憧れを捨てれば、もっと面白いものがどんどん生まれてくるような気がします。


—Momentくんが言う、面白いと思うアーティストを具体的に挙げるとしたら誰でしょう?   


Moment:大阪でいうとHibrid Entertainmentがカッコイイことをやっていますし、そういう人たちを見ていると、どこにいても自分のいるところが世界の真ん中なんだなと思えますよね。僕の場合は本当に井口堂が世界の中心なんで。僕も以前はステレオタイプへの憧れがありました。憧れ、コンプレックスや弱さを抱いているならそれを素直に表現すれば消化されます。でもそれを受け入れずに、変にカッコつけたりするからコンプレックスが解消されずに、同じようなものが生産され続ける。僕から伝えられることがあるとすれば、どこにいても素直になりましょうってことです。



Moment Joonとシバさんの絆—「Momentの中に絶対に仲間やっていうのが一人でもおったらいいな」




—Momentくんとシバさんの関係性はかねてから歌われていることなので、たぶんリスナーに伝わっていると思うんですが、信頼と絆の強さをすごく感じます。『Passport&Garcon』の制作において今回シバさんはどんな役割、存在だったのかを最後に、Momentくんから教えていただきたいです。


Moment:前作のEP『Immigration EP』を作るずっと前から、今回の『Passport&Garcon』を作りたかったんです。その思いをシバさんに何度もぶつけて、理解してもらってました。でも実際やってみたら、怖い部分もあったのが正直な気持ちです。「Chon」とかああいった曲も入っているので。僕ひとりでこれをやってるわけじゃないっていうのを常に意識しなきゃいけなかった。ネガティヴに考えれば、僕がヘタ打ったら、周りも被害を受ける。でも、「これを聴いて、勇気を貰える人々もいるし、世の中を変えていきたいと思う人々も現れるかもしれない」とポジティヴに考えた時に、いちばん近いところにいてくれるのがシバさん。NOAHさんと同様、シバさんも本当に重要な意見や視点をくれます。制作以外の面でもシバさんがいなければ僕は今までやってこられなかったので。僕が信頼に応えられなかったことも何度もありました。でもまた頑張って信頼を取り戻す。それを何度も繰り返してきてるので、これからも一緒に頑張っていけるんじゃないかと思いますね。


—Momentくんからの言葉を聞いてシバさんはどうでしょうか? 


浅芝:Momentとは「こういう関係です」みたいなことを逆に意識しいひんぐらいの関係なんですよね。自分の中ではもう家族みたいな。自分の一部やし。だからMomentがやりたい音楽がもちろん最優先なんですけど、それをMomentが世の中にどう伝えたいかっていうのは、Momentだけの目線やと難しい。例えば歌詞で、「これはどうなん?」ていうような過激な歌詞が来ても、NOAHさんと2人でどう表現するのがベストか話しますし。どうやったらこの音楽を、Momentが伝えたいことを踏まえてより良いものとして、世の中に伝えられるかを考えてますね。レーベルとアーティストっていう、ビジネス上だけの感覚は全くなくて、パートナーというか、家族みたいな感じです。だから気を使うこともあんまりなくて。人として「ここはこうやろ? 」って怒ることはもちろんあるし。そういうことを言い合えるのはお互い本気でやってるからだと思ってます。「俺のことが面白くないと思ったら別に俺を選んでくれんでもいいで」っていつも言ってるんですよ。契約の縛りとかじゃなくて人生を一緒にやってる感覚なんで。だから逆に、改めてこういう場でMomentの思いを聞くと恥ずかしくなりますね(笑)。


—狙い通りです(笑)。Moment Joonというアーティストについて記事を書く上で、僕はシバさんの存在は欠かせないと思って、インタビューにも一緒に出てもらいたいとずっと思っていたんです。“Moment Joon”っていうのはひとりじゃないんだなっていうのを、作品と今日、2人のお話を聞いていて感じます。


浅芝:それMoment自身も思っていてほしいと思いますね。誰が敵であろうとも一緒におるのは俺やし、Momentの中に絶対に仲間やっていうのが一人でもおったらいいなって。


—それだけで救われる人って大勢いると思います。


浅芝:口だけで言うんじゃなくて、行動で示してあげたいですよね。俺はMomentに何かあれば守るし。そういうことも共有しながら、しんどくなんねやったらMomentもいつでも言えたらいいなと思うし。


—Momentくん、めっちゃ幸せじゃないですか。こんな風に言ってくれるひと、なかなかいないと思います。


Moment:そうですね。


浅芝:それだけMoment本人がやってくれているからですけどね。



日本へと居場所を求めた少年は、怖れを知り傷つきながらも、たくましく成長を遂げた。彼を家族と言い切るシバさんの言葉を聞いて、その表情が少し緩んだ。


ひとつひとつ丁寧に受け答えしてくれたMoment Joonの声には、冷たさとあたたかさが入り混じり、不思議な心地よさがある。胸には鈍く光るドッグタグ。彼を象徴するアイテムだ。それについては兵役の実体験を基に彼が描き下ろした自伝的小説『三代 兵役、逃亡、夢』を参照してほしい。i-Dにて完全版が公開されている。また、4月3日(金)に東京・CIRCUS Tokyoで行われる予定で残念ながら延期となってしまったキャリア初となるワンマン『Garcon VS The World』。代わりに、当日は大阪からYouTubeでライブ配信を行い、ライヴの他『Passport&Garcon』フィジカル盤の無料配布、送料を負担することを発表した。その翌日には、ライヴ配信で披露し、リリースをファンに約束した新曲「Diamond(令和フリースタイル2)」をリリース。配信では『Passport&Garcon』のデラックス盤も制作中と言及している。『Passport&Garcon』の送付を希望の方は、住所と名前を明記のうえ、指定のメールアドレス【passport.garcon@gmail.com】までメールを。




「KIX」は関西国際空港を表す3コードである。帰国した少年は、不安の中イミグレーションを無事通過する。空港からの「Limo」に乗り込みひとまず安堵を噛み締める。そして高らかに宣言する。欲しいものすべて「KACHITORU」決意を新たに、警察も入国管理局もその住所を知っている「IGUCHIDOU」グリーンハウス25号へと戻ってきた。愛する人との安らぎの時間も束の間、敵意を持った招かれざる訪問者が罵声ともにチャイムを鳴らす。「KIMUCHI DE BINTA」でもカマしてやろうか。なんて妄想とともにドアをあけ、訪問者と対話を試みる。彼と訪問者の「Home」について。けれど隔たるのは見えない壁、「Chon」のレッテルを貼られ分かり合うことはできないまま「Losing My Love」。「MIZARU IWAZARU KIKAZARU」のごとく心を塞ぎ、「Seoul Doesn't Know You」、故郷に居場所は無い。深い「DOUKUTSU」をさまよった末に「Hunting Season」が訪れる。少年は鏡に目を向ける。「Garcon In The Mirror」、映った自分の向こうに同じ孤独を抱えた人々を見つけた。勇気を出して。1人じゃない。みんなの分まで歌う。だから「TENO HIRA」を見せてほしい。『Passport&Garcon』は憂いを帯びた人間賛歌。1人の移民が血の繋がらない家族と作り上げた勇気の賛歌だ。


Artwork by 澁谷忠臣


▶『Passport&Garcon』

リリース:2020年3月13日(金)

レーベル:GROW UP UNDERGROUND RECORDS

収録曲:

01. KIX/Limo

02. KACHITORU

03. IGUCHIDOU

04. KIMUCHI DE BINTA

05. Home/CHON

06. Losing My Love feat. Hunger from GAGLE

07. MIZARU KIKAZARU IWAZARU

08. Seoul Doesn’t Know You feat. Justhis

09. DOUKUTSU

10. Hunting Season

11. Garcon In The Mirror

12. TENO HIRA feat. Japan


配信URL:https://linkco.re/zt3Uh09M



Photo by 小原泰広


▶Moment Joon

Moment Joon (モーメント・ジューン)。移民者ラッパーとして、唯一無二の目線を音楽で表現する。2019年に『Immigration EP』を発売。2020年には最新アルバム『Passport & Garcon』をリリースしジャンルを越え大きな反響を呼ぶ。執筆業では、「文藝」秋季号で4万字にわたる自伝的ロングエッセイ「三代」を執筆。今の日本に必要な事、今の日本に届いて欲しい言葉をMoment Joonでしか書けない目線で届けている。





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