女性クリエーター向け音楽機材に批判の声、機材メーカーは性別で仕様を変える必要があるのか?

音楽業界でも性差の格差問題が議論される中、女性に特化した音楽制作機材も登場しているが…。
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2019.02.05 09:00

「多様性」という言葉が、現在、様々な業界でキーワードになり、これまであったジェンダー、人種による格差を撤廃しようという動きが盛んに叫ばれるようになって久しい。音楽業界でもそれは同様で、昨年のグラミー賞での女性アーティストの受賞者数の少なさや音楽フェスのラインナップにおける男女比率において、圧倒的に男性上位になっていることなどが問題になっている。


ジェンダー格差是正が叫ばれる時代に機材メーカーは性別で仕様を変える必要があるのか? 


また2013年から2018年までの間にグラミー賞にノミネートされた899人のうち、実に90.7%が男性アーティストだったという研究結果も報告されている。そのため、まだまだ業界におけるジェンダー格差の是正に向けての取り組みはこれから本格化していくべきだと思わされる。そんな状況の中、台湾の機材メーカーMIDIPLUSが発売したオーディオインターフェース「Mirror」が物議を醸している。


音楽制作機材といえば、どちらかといえば、男性用、女性用で使い分けるものだというイメージがないが、Mirrorはどちらかといえば、無骨なデザインが多いイメージがある従来のオーディオインターフェースと違い、女性のメイク用パレットをイメージしたデザインになっているのが特徴。確かに一見して女性音楽クリエイター向けというのがわかるデザインだが、これに対して、当の女性側からは苦言が呈されている。 





「国際的な今の市場状況を理解していない」など厳しい批判も  


LAを拠点とするレコーディングアーティスト、音楽プロデューサーのMegan Mitchellは、Mirrorのデザインに対して失望したと自身のTwitterで発言。彼女は音楽機材にそのようにフェミニズムを対象化したものは必要ないという姿勢を打ち出している。これに対し、「男性のEDMプロデューサーはこういったものを必要とするのか?」、「国際的な今の市場状況を理解していない」などといった厳しい意見が寄せられている。




”女性にも男性と同じことができる”ということに関心がない 


確かに商品を作る側のメーカーからしたらマーケティングの観点に沿った場合、ターゲットとなる対象は存在するものだが、音楽のようにあるひとつのジェンダーグループに属している存在だけでなく、複数のグループが関わる業界からすると、いくらこれまでに女性に特化した機材がなかったとはいえ、ここまで女性をターゲットにしたわかりやすい対象商品を作る必要があるのかという疑問の声が上がることは理解できる。また先述のとおり、音楽業界はジェンダー格差の是正が声高に叫ばれる最たる業界のひとつだ。この問題は賞レースやフェスのラインナップだけではなく、音楽制作用の機材においても、そういった視点が必要とされる時代になっていることを物語っているように思える。  


またマッセイ大学のBridget Johnson博士は、Mirrorのような機材を売り出すことに対し、「こういったマーケティングに焦点を当てている企業は、この時代においてもまだ”女性にも男性と同じことができる”ということに関心がない」と指摘している。


有名機材メーカーによるジェンダーに捉われないマーケティング戦略 


しかし、有名機材メーカーのAbletonは実際にすでにクリエーターのジェンダー格差是正を目指し、同社が主宰するカンファレンスイベント「Loop」にて、2018年にはジェンダー格差是正のために女性の創造的技術研究への誘致を専門とする非営利団体「Women Audio Mission」によるワークショップとプレゼンテーションもプログラムに導入している。台湾のローカル企業であるMIDIPLUSとは、企業規模の違いがあるとはいえ、Abletonのようにグローバルな市場を持つ企業は、やはりそれに見合ったマーケティング戦略を持っていることがよくわかる。



他方、ギターメーカーにも音楽業界のジェンダー格差是正に関して動くメーカーも存在する。これまでミュージシャンが使うエレキギターは歴史的にその開発と演奏には大物男性ギタリストの意見を取り入れてきたが、最近では女性アーティストの意見を取り入れたモデルも制作に取り組んでいるという。  


有名ブランドのFenderの調査によれば、現在のギター初心者の半数は女性であり、業界としても成長の兆しを見せるこの市場を重視。その取り組みとして手ごろな価格のギター販売のほか、広告に採用するアーティストたちも多様性を感じさせる人選に変更。さらにそういった初心者のためのオンラインギター指導サービス「Fender Play」を開始し、これまで業界がコンシューマー層として意識していなかった層にも応じる構えを見せている。




そのほかにもギターメーカーのErnie Ballは、昨年サマソニで来日した女性アーティストのSt Vincentと提携。彼女のためのシグネチャーモデルギターを制作している。そのギターは従来のギターに比べ、より女性の体格にあった使いやすいデザインになっているのが特徴だ。



時代遅れな価値感を打ち出すことはマーケティング戦略にも悪影響を与えるのか?  


もちろんMIDIPLUSも業界における女性クリエーターの活躍の場を拡大することを目的にMirrorを販売したと思う。確かにひと昔まえならそのマーケティング戦略は受け入れられたかもしれない。しかし、現在のグローバルな市場においては、それはもはや過去の話で、なんならその戦略は無知として捉えられかねない。 


 無骨なデザインを好む男性やフェミニンなデザインを好む女性もいる。しかし、その逆に無骨なデザインを好む女性もいるし、フェミニンなデザインを好む男性もいる。そういった個人の好みはあって当然だが、どんなジェンダーの持ち主も同じように取り組むことができる音楽のようなものに対しては、何かひとつのジェンダーに限定にした商品を売り出す販売戦略は、最近の業界におけるジェンダー格差是正の動きからは大きく外れたものと言わざるを得ない。そんな風に思わされた出来事だ。

written by Jun Fukunaga


source: https://www.radionz.co.nz/national/programmes/nat-music/audio/2018677952/can-music-technology-be-gender-biased


photo: Midiplus




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