「ブレグジットよりも大切なことだってあるんだ。」Matthew Herbertが最新アルバム『The State Between Us』制作秘話を語る

3月にビッグ・バンド名義で約11年ぶりとなるアルバム『The State Between Us』をリリース。アルバムや楽曲制作についてインタビューを行った。
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2019.04.20 09:01

コンセプチュアルで幅広いジャンルに渡って活躍するプロデューサーのMatthew Herbert(マシュー・ハーバート)がジャパンツアーとRainbow Disco Clubの出演を発表した。3月にはThe Matthew Herbert Big Band(ザ・マシュー・ハーバート・ビッグ・バンド)名義となるアルバム『The State Between Us』を約11年ぶりにリリース。来日前に、楽曲制作や新アルバムからのトラックについてインタビューを行った。




「ブレグジットがアルバムテーマにはなってるけど、それよりも大切なことがあることも伝えたいんだ。」



ー 色々なところからサンプルを録って音楽を作成することで有名ですが、今回のアルバムのテーマに合わせてどういったところからサンプリングをしましたか? 


Matthew Herbert(以下MH):「今作のテーマにちなんだ様々な場所で録音を行ったよ。NHS(国営医療サービスである国民健康サービス)の病院でも録音したし、首相別邸のChequersの周りを自転車で回って録音もした。それからある人にイギリス海峡を泳いでもらったし、別の人に第二次大戦の戦闘機で飛んでもらった。他にも第一次大戦の最前線だったイタリアの古戦場を歩いてもらったし、アイルランド国境の端から端まで歩いて色々録音してもらった。これ以外にも色々なフィールド・レコーディングを行ったよ。

ー今回のアルバムでは、今までと違う制作方法を取りましたか? また、それはどういった方法だったのでしょうか。


MH:今作で最も大きな違いは、僕の知らない人たちにたくさん参加してもらったことだね。今作は彼らと交わした対話でもあるんだ。アルバムには1000人以上もの人が参加しているけど、制作に取り掛かる前から知ってた人はその内の40人か50人程度だ。だからこの作品自体が、演奏家、シンガー、音源を送ってくれる人や、僕に代わってフォールド・レコーディングを行ってくれた人など、直接は知らなかった人たちとの巨大なコラボレーションだった。それが僕にとって一番良かったポイントだ。その多くがヨーロッパの人でもあったよ。バンドの演奏やコーラス部分のレコーディングはスペイン、ドイツ、イタリア、ベルギー、フランスなどヨーロッパ各地で行ったんだ。



ー制作が最も楽しかったのはどの曲ですか?


MH:ちょっと不思議な曲ではあるんだけど、制作していて一番楽しかったのは「Fiesta」という曲だ。この曲はフォード社の車、Fiestaを買って、解体して作った楽曲なんだ。車輪を外して、シートも全部取り出して、全てを解体して車としての機能は完全に失われた。これが今作のテーマでもあるブレグジットのいいメタファーになったよ。普通に機能していたものをあえて解体して機能不全にしてしまう、という行為がね。その工程がおそらく一番楽しかった瞬間じゃないかな。


ーちなみにその後、その車はどうしたんですか。


MH:車の解体業者に渡って、彼らがバラバラの部品を売り捌いたよ。


ー逆に、制作が最も難しかった曲はどの曲でしょうか? 


MH:一番難しかったのはアルバム最後の曲「Women Of England」だったんじゃないかな。あれは2つのバンドが同時に演奏をしているからね。40人から50人くらいの奏者が一斉に演奏して、合唱部分は300人くらいいたんじゃないかな。それを録音する技術的な部分が非常に難しかった。曲のアイデアに煮詰まるというよりは、技術的な部分で苦労した曲だ。


ーそういった様々な制作プロセスがあった中で、最も気に入っている曲は? 


MH:すごく気に入っているのは「Be Still」。ちょうどこの曲を制作している時、友人の息子が亡くなってしまったんだ。だからこの曲は、その子のことを偲んで書いた。僕にとってはすごく大事なことだったんだよ。つまり、ブレグジットは人々にとってさほど重大なことではない、ということなんだ。もし5年前に、イギリス国民に対して「ヨーロッパについてどう思っているか」を聞いたら、関心があると答える人は5%もいなかっただろう。ここにきて急に取り上げられた現象であり、問題なんだ。多くの人々は、日常生活の中でもっと深刻な問題や悩みを抱えている。だからこの曲は僕にとって、友人の息子を偲び、ブレグジットよりも大切なことがたくさんあるのだと思い出させてくれる曲なんだ。




「僕にとっての究極のレコードは、今までに聴いたこともないリズムとサウンドを奏でているもの。」



ー大人数をまとめあげる準備とコントロールが必要なビッグバンド作品と、即興的に組み立てるDJプレイは対極であるようにも感じますが、それぞれどんなところが魅力ですか?


MH:ビッグバンドはすごく人間味があるところに惹かれるね。ステージで演奏する時も、人間が大勢集まって金属を通して息を吹いていれば、誰でも聴くことができる。たとえ電源が切れたりサウンドシステムが壊れてしまってもそのままコンサートができて、いい演奏を届けられる。人が集まって作る“手作り感”があるよね。そこが凄くいい。あと、コンサートの途中で僕がステージを降りても演奏は続く。誰も僕がいなくなったことに気づかない。それも嬉しいんだ。自分が作った音楽が、より大きなコミュニティーを表現しているように感じられる。一方でDJに関しては実力主義なところが魅力だと思うよ。聴き手はこちらが発信する音楽にだけ反応する。そのレコードのジャケットがどんなものか、誰か作った音楽なのか、ほとんど知らない。ただDJがかける音楽として聴いている。ミュージシャンとしてその自由さはありがたいよ。新しい音楽をたくさん聴き手に届けられるから。しかもすごく民主主義的な構造だとも思う。「このレコードをかけてみよう」「こっちの方がさっきの曲よりも反応がいい」「だったら、こっちの曲はどうだろう」という感じでね。ビッグバンドとはまた違った民主主義の形だけど、DJもすごく好きだよ。


ー 現在のロンドンのクラブシーンについてどう思いますか?


MH:今、ロンドンのクラブシーンはなかなか厳しい状況だ。どこのクラブも数ヶ月すると閉鎖になってしまうからね。すごく盛り上がるパーティーやイベントを開催しても、ほとんどのクラブが1年以内に閉鎖される。だから正直言ってロンドンのクラブシーンはあまり良くないんだ。面白いパーティーは常に開催されているけど、継続させるのが難しい。周辺からの苦情や自治体の規制のせいでね。


ー 様々なジャンルの音楽に造詣が深いことが周知されていると思いますが、普段、新しい音楽をどのように見つけていますか?


MH:正直、新しく出てくる音楽を片っ端から聴いているというわけじゃない。大抵は人から勧めてもらうものばかりだ。新しい音楽を発見するために、Spotifyはあまり参考にならない。あとは、いろんな人からデモやDJ音源を送られてくるから、プレイする曲の候補として送られてくるものから探すことがほとんどだ。僕は毎日朝8時から夜11時か12時まで制作作業をしているから、能動的に新しい音楽を探す時間がない。今の世の中は、とにかく色々な音楽で溢れている。その全てを耳にするのは不可能だ。多すぎてついていくのは無理。1998年に世に出た音楽でさえまだ全て聴いていないのに、2019年に出た音楽なんて到底無理な話だよ。


ーDJの選曲にあたり大切にしてることがあれば教えてください。


MH:僕にとってDJプレイは、リズム感のエクササイズのようなもの。リズムが全て。だからすごくいいリズムのある曲を探している。ドラムマシーンが正確無比なリズムを刻んでいるだけの曲ではなく、人間っぽさが感じられる曲だったり、ちょっと変わった曲を探している。サウンドも、自分がこれまで聴いたことのないようなものを探しているよ。だから僕にとっての完璧なレコードというのは、今まで聴いたことのないリズムを聴いたことのないサウンドが出している、というものだ。それこそが究極のレコードなんだけど、なかなか出会うことはない。1年を通して3枚か4枚くらいだ。何千もの楽曲を毎年耳にする中で。釣りに似ているのかもしれないね。本当にいい音源に出会うためには忍耐と諦めないことが大切だよ。


ー今、一番刺激的だと思う音楽のジャンルはなんですか?


MH:最近のリリースは昨年出たものと比べるとまあまあだけど、Critical Musicというレーベルの作品が気に入っているよ。面白いドラムンベースを出しているんだ。個人的にはドラムンベースに傾倒したことがほとんどないんだけど、彼らが出す作品は楽しいだけじゃなく実験的でパンチがきいている。すごく気に入っているよ。


ーあなたのプレイをリスペクトするアーティストは多くいますが、今注目している若手のプロデューサーはいますか?


MH:面白いことをしている人は常にいる。最近すごく気に入った作品を見つけたんだけど、どんな人たちが作っているのか検討もつかないんだ。最近の人なのか、前からいる人たちなのかもわからない。名前を言うから書き留めてね。SHXCXCHCXSHというのがバンドの名前なんだ(笑)。彼らの作品はすごく気に入っているんだけど、一体何者なのか、何歳なのか、最近出てきたのか、前からいるのかさえ全然わからないんだよ。


Matthew HerbertのMIX BLOCKは、4月19日(金)23:30~24:30に放送! ジャパンツアー、Rainbow Disco Clubの詳細もチェック。




▶︎ MIXはこちら:https://block.fm/radios/693


【イベント情報】

東京:

2019年4月22日(月)

代官山UNIT

with Yoshinori Hayashi and 食品まつり a.k.a foodman

Open / Start 19:00

Extra Sound System Provided by PIONEER DJ


北海道:

2019年4月23日(火)

札幌 Precious Hall

with Naohito Uchiyama and OGASHAKA

Open / Start 20:00


福岡:

2019年4月24日(水)

福岡Kieth Flack

with T.B. [otonoha / under bar]

Open / Start 20:00


京都:

2019年4月25日(木)

京都 CLUB METRO

with metome (Live Set)

Open / Start 20:00


Rainbow Disco Club 

2019年4月27日(土)~4月29日(月・祝)

東伊豆クロスカントリーコース特設ステージ(静岡)

http://www.rainbowdiscoclub.com


Written by 編集部

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