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2010年のデビューアルバム『Crooks & Lovers』、2013年にリリースしたセカント・アルバム『Cold Spring Fault Less Youth』、そして先月最新アルバム『Love What Survives』をリリースしたマウント・キンビー（Mount Kimbie）にしか鳴らせない、メロウなシンセのうねりから、ハードなエレクトロニックビーツを網羅したサウンド。私にとっては、いつまでも変わらずに大好きだろうと確信できる音です。

10月に来日を果たして、yahyelとライブを行ったマウント・キンビーのカイ・カンポス（Kai Campos）とドミニク・メイカー（Dominic Maker）。二人にはblock.fmへ最新アルバムをインスパイアさせたSpotifyプレイリストを一曲一曲深い解説付きで頂きました。Suicideの「Cheree」からThe Funkeesの「Akula Owu Onyeara」まで、トラックのドラムビートやプロダクションスタイルでも、各曲はアルバムに違う役割を持ってました。

ソールドアウトした渋谷「WWW X」の単独ライブが始まる直前に、マウント・キンビーの二人を訪ね、『Love What Survives』が二人にとってどんな音楽的な意味があるか、そして彼らが考えるアルバム制作のプロセスについてインタビューしてきました。

写真は全て「Blue Train Lines」から。

▷ 大阪でのファーストショーはどうでした?

カイ・カンポス（以下"カイ"） ：しばらくプレイしてなくて難しかったけど、良かった。

▷ 最後に一緒にプレイしたのはいつでした?

カイ：この一年の間にはちょっとしたツアーをやっていたけど、長い間はしてなかった。

ドミニク・メイカー （以下"ドム"）：これがツアーのはじめなんだ。

▷ドムはまだLAに住んでいるんですか?

ドム：そうなんだ。

▷ 今回、二人は東京に集まったんですか?

ドム：僕はLAから来た。

カイ：大阪で集まったんだけど会ったけど、ドムはその前から少し東京にいたよね。

▷ 二人が会うのは久しぶりでしたけど、ツアーの流れに戻るのは難しくなかったですか? 特に、世界の反対側から集まると。

カイ：そうだね。新しい曲をプレイする時が一番難しいね。今回、大阪で今までプレイしたことない曲を2曲プレイしたけど、リハーサルも一ヶ月くらいしてなかったから、僕も曲をよく覚えてなかったよ。

▷ 大丈夫でした?

カイ： そうだね、ま、なんとか、大丈夫だったよ（笑）。

完成したアルバムを聴くとかなりびっくりするんだ

▷ block.fmに頂いたプレイリスト、本当にありがとうございました。日本でも、このアルバムをインスパイアした楽曲やサウンドを知りたい方多いと思います。

カイ： 技術的には、プレイする時とは大幅な変化はあまりなかったんだ。新しいことと言えば、レコーディングで毎回エディットするより、もっと長いテイクで収録したことかな。それが、レコードに落とす前に何度も解剖できて、今までのアルバム制作のプロセスとはかなり異なっていたところだ。それから、アルバムが完成してるからもう手遅れなんだけど、ベースギターがかなり下手なことに気付いてきた。もっと上手になれるように自習してみようかな。

▷ 次のアルバムに使いたいスキルとか見つけました?

カイ： レコードが完成して振り返るまでに、実際自分がどんな状態でいるべきか、分かっていないんだ。制作している時は深く創作プロセスにのめり込んでいる、そこから自分を引っ張りだして客観的になるのは難しいんだよね。でも完成したアルバムを聴くとかなりびっくりするんだよね。だから、新しい曲をプレイしてプレイスタイルをもっと変化させていくのが楽しいんだよ。だから、質問の答えは、「よく分からない!」だね。でも、来年になると、もう今のスタイルがつまらないと思っちゃうかも。

▷ 完成したアルバムを聴いた時のリアクションはどうでした?

ドム： 本当によかった。初めてフルでアルバムを聴いた時は、ロンドンにいて、すごくポジティブなリアクションだった。音が終わってほしくないと思ったよ。ロンドンの街とも絡んでいたように感じられたね。

アーチーは完璧主義者なんだよ

▷ 個人的に、このアルバムで一番好きな曲はキング・クルールをフィーチャリングした「Blue Train Lines」です。この曲はどうやって作ったのですか? もともと彼のために音を作ったのでしょうか?

ドム：メインのシンセラインがいろいろなバージョンで数年前から僕たちの中で共有していたんだ。キング・クルールのアーチーが絡んでくる前は、かなり荒かったけどね。彼がトラックすべてのディレクションを担当した。そしてボーカルを録って、ドラムから回りをビルドアップしていった。

▷ 一緒にスタジオに入ったんですか?

ドム： アーチーとのセッションはいつもエキサイティングだけど、残念ながら一緒にいれなかった。

▷ 一緒に音楽を作るのは、二人にとってどんな経験ですか?

カイ：びっくりするかも知れないけれど、アーチーは完璧主義者なんだよ。彼は必要なら何度でもレコーディングするんだ。いつもテイクを聴き返して、休憩して、そのテイクを何バージョン作れるかを考えるために、さらに聴き返す。それに毎回、喜んで参加してくれる。今回はギターとピアノの音をたくさん試してみたんだ。彼と一緒にトラックを作るのは、いつも楽しいね。

▷ 『Cold Spring Fault Less Youth』でも「You Took Your Time」にフィーチャリングしていましたよね。毎回アルバムを制作していて、何か彼からインスパイアされたりしますか?

カイ： アーチーはセカンドアルバムを一緒に作っていた時よりも、さらに自信を持つようになったと思う。あの頃、彼はまだレコーディングに慣れていなかったから、今より緊張していたかもね。それから、今よりも若かったけど、経験を重ねて、今はもっと落ち着いたことで、いろいろなことを実験している。アーチーとの経験のおかげで、ぼくたちももっと自信を持つようになった。

ドム：もう一ついいころは、たまにアーチーと一緒にライブで唄ってくれることだね。最近だったら、ドイツのハンブルグで「Blue Train Lines」を唄ってくれた。彼がフロントマンとして参加してくれるのは、最高なアイデアかもね。本当のパフォーマーが一緒にいるのは素晴らしい気持ちだ。

▷ ヨーロッパーツアーには、またステージに呼びますか?

ドム：ぜひやりたいんだけどね・彼、とても忙しいんだよね。

カイ：僕らと彼はお互いツアーをはじめるから。調整しようとしてるけど。本当に難しいんだよね。でもいつか一緒にすると思う。

▷ 私もいつか見たいです!

カイ： 楽しいと思うし、そう思う人は多いはずさ。

フランクやタイロンにはクリエイティブを任せているんだ

▷ 二人と何度もコラボレーションしているのは、ミュージックビデオのディレクションや、アルバムのカバーを担当している、映像作家のフランク・ルボン（Frank Lebon）と、タイロン・ルボン（Tyrone Lebon）のレボンファミリーです。二人は、1980年代からファッション業界で著名な写真家マーク・ルボンの息子ですが、今回は「MARILYN’ FT. MICACHU」のMVをフランクが監督していましたね。クリエイティブディレクションで彼らにはどんな役割を担当しているのでしょう？

カイ： フランクやタイロンにはクリエイティブ全般を任せているんだ。特に『Love What Survices』のアートディレクションは、フランクにリードしてもらった。今回のアルバムは、どんな内容になるか、どんなビジュアルであるべきかを、僕たち自らが見つけ出す必要がないと感じたんだ。だから、僕たち以外の誰かからアルバムにインスピレーションが与えてくれれば興味深いプロセスになると思った。フランクは、僕たちが想像できないアイデアを持ち込んでくれる。

＊フランク・ルボンは、23歳の映像作家。マウント・キンビーの「DELTA」、「We Go Home Together ft. James Blake」、キング・クルール「Czech One」などのMVを監督するほか、『Love What Survives』のアートディレクションを担当する。

▷ タイロンはどうですか？

カイ：彼の兄、タイロン・ルボンが僕たちのファーストアルバムのクリエイティブを担当してくれたことも、僕たちが彼らとの仕事を楽しみにする理由の一つだよ。セカンドアルバムでは、僕たちはファーストから少し違うやり方や方向を試したかった。そして今回も、前回とは違う方向性に進みたいと思ったんだ。音楽的にも、ファーストから今まででかなり進化したから、ビジュアル面でその連鎖を見せる手法には満足しているんだ。

*映像作家で写真家のタイロン・レボンは、フランク・オーシャンの「Nikes」のMVを監督する他、デビューアルバム『Crooks and Lovers』のアートディレクションやMV監督を担当、またルイ・ヴィトンやSupreme、Nike、カルヴァン・クラインなどファッションブランドのキャンペーンを担当する。

▷ アーティストのレイフ・ポドハイスキー（Leif Podhajsky）が担当したセカントアルバムのクリエイティブでは、どんな方向に行きたいと思ったのですか?

カイ：デビューアルバムのアートやミュージックビデオでは、ローファイの方向だった。セカンドアルバムでは僕たちが他の方向性も持っていることを証明したかったんだ。その頃は、僕らのイメージから大きく外れないようにクリエイティブに注意しすぎたとも思えるよ。歳を取ると、あまり周囲の目が気にならなくなって、何かを証明しようとすることも減ったよね。

僕にはカイのような忍耐力がないんだ

▷ 二人がロンドンとロサンゼルスと離れて活動することで、一番難しいことは何でした?

ドム： あまり問題ではなかったんだ。でも、一番難しかったことは、アルバム制作ムードに入ることと、アルバムに必要だった音や楽器を見つけること、そしてスタジオを確保することだね。前のツアーから充電期間が長かったんだ。

▷ スタジオはロサンゼルスですか?

ドム：僕がよくヨーロッパでDJしに行ったり、カイがロサンゼルスに来たりしたから、あまり問題じゃなかったし、その間にもお互いで話したり、何回かライブもやっていたんだ。ロサンゼルスに一間の部屋を貸りたんだけど、ほとんど機材を持ってこなかったから、エレクトリックピアノ1台とシンセ数台、すごく古いドラムキットがあるだけ。多くの機材はまだロンドンに置いてあるんだ。

カイ： 機材が無いから「ヤバイ!」って感じで。でも、ロサンゼルスに行って、少ない機材で数トラックを作ってみて感じたのは、「機材がすべて」じゃないってこと。表現のために、少し実験出来たと思う。

▷ また二人で一緒に活動できたことはどうですか?

ドム： 最近、マウント・キンビーのライブバンドが大きくなったよね。ステージでは2人ミュージシャンが増えた。それだけで、僕たちのサウンドに何が起きてるか、客観的に見るいい機会だよ。そういう意味では、「朝霧JAM」は最高な瞬間だった。狂っていたよ（笑）。僕らは、お互いが別々の強みを持っていて、カイは音楽を作るプロセスや、音探しに没頭しがちで、僕はそんな忍耐力は無いって感じたね。

▷ カイ、いかがですか?

カイ： こんなに長く一緒に作業をすると、普通なら、たくさんコミュニケーションを取らなければならないけれど、僕たちはあまり話さなくてもいいくらいの信頼を持つようになれたよ。音楽の聴き方も変わってくるんだ。はじめは失敗に聴こえると思ったり、リリース出来るものじゃないと思っても、彼のような人と一緒にいると楽だね。前向きになれる理由や、仕事以外のパーソナルなものも作らないと、と思えてくる。それが僕たちには一番大きいな。

▷ 『Love What Survives』はどういう意味を持っていますか？

ドム： このアルバムは、僕たちの時間と多くの変化を記録したアーカイブみたいなものかな。たくさんの楽観的なサウンドも聴こえるけど、ノスタルジアも感じれるから。その意味で、すごくタイトルが合うと思う。

▷ このアルバムを制作中、何を考えていました？

ドム：僕らは、これまで使ってきたテクニックをまた使い始めたり、それらを進化させたりもした。僕にとって『Love What Survives』は… 未来について考えさせるし、過去のことも現在のことも考えさせる。それは、僕個人の時もあるし、マウント・キンビーというグループのメンバーの時もある。この4年間、いろんなものを失ったけれど、大切なものもたくさんキープできた。だから、今まで無くしたものから得る前向きさ、楽観的視点、認識のバランスかな。

▷ カイはどうですか?

カイ： 僕たちの答えは似ているよ。でもレコードを作る時は、自分がどこからその場所に来たかなんて分からない。だから、それを分析し過ぎて固定されないように、それらを表現していきたいんだ。そうじゃないとつまらないかも。でも『Love What Survives』は僕らが迎えてきた変化から残ったものなんだ。

▷ それって、例えばどういう変化ですか?

カイ：僕は19歳の頃、まあ若かったっていう意味だけど、自分のやりたいことすべてで「ぜったい上達してやる」っていきり立ってた。はじめの数年は、それで良かった。でも、20代に入ったら、中にはそれらが悪影響を及ぼすことがあるって気が付いたから、僕にとってモチベーションだった多くのものを手放し始めたんだ。あの頃は、自分だけじゃなく、周りにもすごく厳しくしていて、何をやっても満足に思えなかった。だから、そうする必要が無いことに気が付き、そうした気持ちにも飽き飽きしてきた時、そうした感情から自分を切り離さなければ、と思ったんだ。そこから残ったものを改めて見てみると、不必要なものに気付けたし、音楽を作りたいというモチベーションがまだ残っていることも気が付けた。『Love What Survives』は、人生の変化を代弁していると言えるね。

▷ 今日はありがとうございました!

＊　＊　＊

Written by Amy.

Photos from 「Blue Train Lines」 by Beatink

Support: Beatink

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