“クリエイター・KEITA”が施すサウンドへの巧みなアプローチ。アルバム『inK』レビュー

【特集】ダンス/エレクトロニックミュージック・シーンを横断する多才なクリエイター・KEITAによる完全ワンオペ・アルバムをサウンド面からレビュー。
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2020.04.24 10:00

橘慶太(たちばなけいた)のソロ名義「KEITA」の4年ぶりとなる新アルバム『inK』が2020年3月25日、リリースされた。


KEITAは日本のダンス&ボーカルシーンをリードして来たw-inds.(ウインズ)のメインボーカリストであり、楽曲プロデュースの手腕も評価されているクリエイターでもある。


これまでもマスタリングエンジニアに、Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)の『DAMN』を担当したMike Bozziを起用するなど、サウンドには相当なこだわりを見せていたが、今作では驚くべき事に作詞作曲だけでなく、ミックスやマスタリングまでの全工程をKEITA本人が手掛けている。


本人が細部までこだわり先鋭的なエレクトロニック・ミュージックシーンの動向をポップスとして昇華した本作は、DJやクラブミュージックのリスナーでも聴きごたえのある内容で、ミックス・マスタリングにまで耳を傾けて聴いてみてほしい作品だ。

 



クリエイターとしてのKEITA


2000年の結成以来、男性ダンス&ボーカルグループとして日本国内はもちろん海外でも高い評価を集めているw-inds。ここ10年は、日本のメジャーアーティストの中でも先鋭的な音楽スタイルを追求して来たことで知られている。


KEITAはそのサウンド面の中心となり、グローバルなメインストリームと同期した世界基準の音楽性を牽引。

 

ガチのDTM使いとしても知られるKEITAは、2017年のw-inds.のシングル「We Don’t Need To Talk Anymore」をセルフプロデュース。それ以降もw-indsのアルバムで全曲セルフプロデュースを成功させている。


過去のインタビューでも機材オタク級のディープな機材語りを見せており、その辺りを知っている方には今回のセルフミックスやマスタリングも納得の展開だったのではないだろうか。「敷かれたレールの上に乗っていたらダメになる」と発言しているように、アイドルとも見られがちなルックスだが、その正体は気骨のあるクリエイターだ。


それではニューアルバム『inK』のレビューを通じて、サウンド面からKEITAの音楽性に触れていこう。

 

Tokyo Night Fighter feat. 岡崎体育


今回の新アルバム『inK』は収録曲のうち、12曲が2019年に12ヶ月連続配信限定でリリースされたもの。そしてアルバムのリリースに合わせて新たに2曲が追加され合計14トラックが収録されている。まずは、新たに追加された新曲2曲についてフォーカスしていこう。

 

アルバムのリードトラックである「Tokyo Night Fighter feat. 岡崎体育」。YouTube上でMVも公開されており、斜め上を行ったクールネスが秀逸である。



ジャンルとしてはKEITA流のレトロウェーブと言って良いだろう。イントロを飾るシンセ音はサイン波のLFOでアンプ変調をかけたアナログ系、そしてフィルターモジュレーションとピッチ高めのノイズが別のレイヤーで空気感を表現している、この20秒に満たないイントロの後半に挿入された霧の中に溶けかかるようなフレーズは明らかに意図的に滲ませており、KEITAが作る他の音の分離の良さを考えると逆に「これどうやったの?」と気になってしまう人もいるかも知れない。

 

この曲はアルバムの6曲目に位置しており、DJ的に言うと全体を徐々に盛り上げた直後でピークをガッチリ維持するトラックだ。ビートは派手目のサイドチェイン・コンプを生かした四つ打ち。2,4拍目に位置したスネアとデジドラ系のフィルインはハウスと言うよりロック感が前面に出ており、様々な層のオーディエンスを確実に楽しませるための、プロフェッショナルの流儀さえ感じられる。

 

最後に忘れてはいけないのが、MVで「キャラ立ち濃すぎ!」な岡崎体育の存在。岡崎体育とw-inds.は約2年前に2マンでライブを行ない、KEITAとはプライベートでも親密な関係だと言う。今回のコラボレーションもKEITAから岡崎体育への直接のオファーで実現、岡崎のハスキーな歌声はKEITAの繊細な歌声と好対照である。オーディエンスが限りなく上昇するのは間違いない。

 

Someday


アルバムの最後を飾る新曲「Someday」はKEITAのInstagramでライブ配信中に募集されたアイデアをもとに制作を開始したバラード。「母親に向けた手紙」をテーマにKEITAが書き上げた重要な曲である。『inK』初回盤限定のDVDには、この曲の制作に密着したドキュメントが収録されている。



バックトラックはピアノとストリングス、単音のシンセサイザーとベース音だけで構成。アルバムを通じて縦横無尽な音楽スキルを発揮するKEITAだが、この重要なバラードに対してはシンプルで誠実な回答を与えている。

 

アタックを効かせるピアノは耳に近めのパンニングで、あえてサスティンペダルさえ控えめに中高音域でコードの刻みに徹している。おそらくアレンジの選択肢は無限にあったと思うが、バラードに見られがちなドラマチックなアレンジは回避されている感がある。それはフィクションではなく、他ならぬKEITA本人が母親に捧げた歌詞の世界を最大限に考え抜いた結果だろう。

 

最初のサビで重ねられる低めのストリングスはピアノのサスティンをさりげなく支えている。そしてサビ後のシンセサイザーに高すぎないオクターブをチョイス。単音弾きのシンセに含まれた倍音の奥行きはピアノ音色の艶と反応し、何か幻想的な記憶を輝かせるようである。歌詞の世界と呼応するピアノは生録されており、左手側はあえて鳴らしっぱなしの全音符だ。素直に母親に語りかける場面では、左手側の単音を一部フォルテ気味で録音するなど、どこか母親にぶっきらぼうに接してしまうような思春期の少年の心情を表現するかのようである。

 

バラードとしては速めのBPMも、母親の元へと走るような呼吸と大切なものを抱きしめるような印象が与えられ、KEITAの誠実な判断が深いところに届けられる。ファンとの交流から生まれ、母親に捧げられると言う意味で、KEITAの人としての絆の勝利と言って良いだろう。


ここからは、新曲以外にも注目しておきたい楽曲についていくつか触れていきたい。

 

Don’t Leave Me Alone


オープニングにあたるこの曲では、出だしの透き通るようなシンセベースのフェードインだけを聴いても、ダイナミクスへのこだわりが感じられる。シンセを中心としたアルバム全体のコンセプトを決定づけるようなイントロからKEITAの歌声が入ると、そのままドロップへ引っぱられてしまうような歌メロは何度聴いても完璧と言えるほど。



そして、テープストップと呼ばれるエフェクトを、大胆にも拍の頭に配置したドロップを聴いて「やられた!」と思うクリエーターも少なくないと思う。拍の頭での「タメ」が気持ちよくポップな音像の中で全開になり、KEITAのアイデアとポップセンスが高いレベルで融合していることがわかる。

 

I Gotta Feeling feat. ISH-ONE, GASHIMA


トラップ全盛と言われるトレンドの反対側をついたような、このテンポでの爽快なファンク感は本格的でオールドスクールな印象さえ受けるほどだ。それでいてシーンの流れに不思議なほど調和しているのは、音色のチョイスとミキシングがしっかり最先端の音楽シーンを踏まえているからだろう。



フックを歌うKEITAから入りISH-ONEのラップが聴こえた瞬間、はちゃめちゃな楽しさが爆発する感覚を受ける。このグルーヴィーな高揚感はラップのフロウと音域に対して、KEITAのビートが最適に組まれている証拠だ。空間系の透明感が圧倒的に気持ちいいファンクギターに対し、ここは四つ打ちではなくシングルキックをチョイス。GASHIMAのラップは全体の調和と安定を支えており、次の6曲目で控えるピークに続く絶好のブリッジとなっている。

 

Too Young to Die


全体の流れではピーク直後のブレイクになる7曲目の「Too Young to Die」ではシリアスな緊張感を届ける。ピークタイムのハイスケールな高揚感はそのままで、心地いい酩酊感さえ感じる人もいるのではないだろうか?



ミステリアスに響くベル系シンセプラックはアタックの強さと音の柔らかさが耳に優しく、意識的に作られた無音の隙間がドキッとさせるようなドラマ感を演出。囁くようなヴォーカルとは対照的に、あえて平坦に響かせたベース音は強力に陶酔感をバックアップする。ともすればアンダーグラウンドなムードでもある曲調を絶妙なポップスへと昇華しているのは、インターネットが重要なメディアになった現代のシーンに精通したKEITAならではのバランス感覚だろう。

 

YES


8曲目9曲目のさらなるピークを引き継いだ10曲目という位置で、ハイテンションな気分を維持しながら後半へ向かうキーポイントになっている楽曲。



サイドチェインでアタックを抑えたピアノのサスティンが音のヴェールとして美しく空間に揺れ、サビへとつながる。サビでは多彩な音色の足し算と引き算が流行中のハーフテンポの楽しさを揺るぎないものとして聴かせている。そしてコード弾きのシンセをLFOで揺らす「あの音色」も、KEITAオリジナルのクリアな音圧感である。今作品のミックスの方向性として全体のコンプ感が通常のダンスミュージックより音抜け重視という面があるのだが、そうしたトータルバランスの中で定番の音色を使って音圧感を出す事により、レンジの偏りが解消されて迫力を際立たせているのだろう。

 

Nothing Lasts Forever


この曲ではミックスの細部のこだわりとして、シンセプラックのアタックのみを狙ったディレイが小さな音だがシッカリと耳に入ってくる。こういった仕掛けでリスナーの聴覚を集中させるKEITAの技術は本物以上だと実感させられる。



丁寧に設定されたシンセサウンドが作る奥行きの中で、ヴァイオリンフレーズが生楽器のリアルさを一歩踏み込んで表現する。そしてディケイで減衰を効かせながら途切れることがないベースラインも、音のスペースを作るために機能しているようだ。裏拍のスナップと歯切れ良いシェイカー、そしてサビで入るトライバル系のパーカッションからドロップ前のカウベルまで生き生きした鳴り物が随所で最大限の効果を出している。こうした音色選びで、トロピカルに傾きすぎないニュアンスの調整は非常に巧みで、歌詞の世界とアルバム全体の流れが最も前面に来る、KEITAのコンセプチュアルな姿勢を感じさせてくれる。


世界基準のミックス、マスタリング


アルバム全体の印象だが、音楽クリエーターであればミキシングの丁寧さで心を掴まれるだろう。その驚きは1曲目で訪れて、すぐに新鮮な興奮へと変わっていく。

現代のダウンロード配信ではファイル圧縮による音圧変化がつきまとうのだが、KEITAの作るトラックは先端技術とサウンドの繊細な関係まで見据えられ、必要最小限の音数で構成されている。アンビエンスを自在に操り、繊細にセッティングした定位へのこだわり。KEITAの緻密な判断が積み重ねられて完成したトラックの空間的な広がりは、透明感とパワーを圧倒的な個性として表現している。


マスタリング面では全体をとおして「潰れ感」がほとんどなく、音の自然な伸びと奥行きが贅沢に表現されている。これにより音の分離がずば抜けて良く、この音は世界標準と言うより世界の基準を塗り替えるクオリティとさえ言えそうだ。


以前にインタビューでKendrick Lamarの『DAMN』を担当したMike Bozziを起用した事について、その技術を盗むためだったとも語っていたが、盗んで自分のものにしたばかりでなく、アップデートもかけていると思われる。

 

使用機材へのこだわり


DTMerの方向けに、KEITAの使用機材についても触れていこうと思う。2013年のソロ1stアルバムの制作時期からサウンドプロダクションに目覚めたKEITAは、最初Appleが販売するLogic(ロジック)を使っていた模様。しかし、Daft Punk(ダフト・パンク)とPharrell Williams(ファレル・ウィリアムス)の曲「Get Lucky」がきっかけでAbleton Live(エイブルトンライブ)を使い始めるようになる。その後、業界標準ソフトPro Tools(プロツールス)に乗り換えるという遍歴のようだ。3つのDAWを渡り歩くのは結構ハードルがある話で、よほどのこだわりがなければ、使い慣れた環境を変えたいとは思わない。


そして、KEITAが音楽制作ソフトと並行して愛用しているのがPure Analyzer System(ピュアアナライザーシステム)である。このソフトは音の周波数を視覚的に分析できる専門的な機材で、KEITAは自分の楽曲はもちろん最先端の音楽を数多く分析しているそう。


こういった機材やサウンドの研究心は凄まじく、特に海外の先鋭的なアーティストの手法や機材は常に研究し、取り入れているのだそうだ。


今回のレビューにあたり、現在の使用機材のリストを入手したのでご覧いただきたい。


使用機材

■Mic

Bule Bottole

Manley cardioid

Chandler Redd

Sony C800-G

Upton 251

NEUMAN U87ai

■Head amp

Neve 1073

API 3124V

AURORA AUDIO GTQ2 Mark3

Millennia HV-3C

Martech MSS-10

■Comp

TUBETECH CL1B

UREI 1176 Rev H

WesAudio Beta 1176

■MIX&Mastering Plugin

UAD

Waves

FabFiltter

iZotope

Sound Toys

A.O.M

Softube

Slate Digital


マイクとヘッドアンプはもう完全に沼に浸かってしまっている感がある。シンガーがDTMをちょっとやってるとかの次元ではなく、完全にレコスタ仕様と言えるコレクションだ。特にマイクやヘッドアンプはプラグインでの再現がかなり難しいとされている部分。シンガーとしても重要なパートなので、相当なこだわりが感じられる。


アウトボード類はコンプ類だけというセレクトで、ヘッドアンプとコンプだけはこだわりのハードウェアを揃えるあたりに、サウンドへの深い理解が感じられる。むやみにヴィンテージコレクションを増やすでもなく、ミックスやマスタリングではプラグインを中心にしつつも、レコーディングでは効果的にアウトボードを配置している印象だ。


プラグインは定番がずらりと勢揃い。Invisible limiterでお馴染みの東京代表のプラグインベンダーA.O.M.も使用。自身でセルフプロデュース・セルフミキシング・マスタリングまで行ったのは伊達や酔狂ではなさそうだ。


今回は『inK』のレビューを通じてサウンド面からKEITAの音楽性に迫ってきたが、サウンドに対する巧みなアプローチを深く聴き込んで行くほど、彼が歌詞を中心とした歌の世界を何より大事にしていることが伝わってくる。ここには書ききれないがリリックや歌唱面については、ぜひ実際にアルバム『inK』を聴いて堪能してみて欲しい。

 

誠実に自分の表現と向き合い、本物の音楽を届けてくれるKEITA。今後も彼に熱い注目が集まるのは間違いない。



【リリース情報】



KEITA

3rd Album「inK」

2020年3月25日(水)発売


[CD収録曲]

01. Don’t Leave Me Alone

02. Be On The Stage

03. Around N Around

04. Lonely Night

05. I Gotta Feeling feat. ISH-ONE, GASHIMA

06. Tokyo Night Fighter feat. 岡崎体育

07. Too Young To Die

08. Live For Yourself

09. Hopeless Place

10. Y.E.S

11. Nothing Lasts Forever

12. Give Me Somemore

13. Angel

14. Someday


配信リンク

https://lnk.to/keita-official




written by Yui Tamura


source:

https://nuzikcapo.com/2018/11/13/post-3673/

https://realsound.jp/tech/2019/01/post-304050_4.html

https://news.ponycanyon.co.jp/2020/03/37524

https://realsound.jp/tech/2019/01/post-304050.html

https://www.rittor-music.co.jp/pickup/detail/14072/

https://lucirc.com/w-inds-keita-tachibana/

https://news.ponycanyon.co.jp/2020/03/37401

https://tokyo.whatsin.jp/244658





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