日本のゲーム業界がHIP HOPに与えた影響とは? part.2 2000年代

2000年に入り多様化するゲーム業界、HIP HOPとの間に存在した接線はどこに繋がっていくのだろう?
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2018.07.25 03:00

日本のゲーム業界とHIP HOPの関連性について、2000年代に行われたことを中心に考察していきたい。1990年代の記事はこちらから。


関連記事『日本のゲーム業界がHIP HOPに与えた影響とは? part.1 1990年代


2000年代


サウンド面での影響が目立った2000年代。マリオのテーマソングをそのままサンプリングした曲も!




1990年代では、当時のラッパーの主にリリック面に影響を与えていたNintendoやSegaといった日本産のゲームだったが、2000年に入るとサウンド面での進歩が大きく見られるようになった。


上リンクはCocoa Bravazの「Super Brooklyn」だ。1985年から変わらず親しまれている、スーパーマリオのアンダーグラウンドのテーマをほぼそのままサンプリングしている。時折、マリオのジャンプ音やコインを獲得する音なども曲のアクセントとして取り入れており、マリオの世界観を表現しつつ、個性的な仕上がりになった。ちなみにこのアンダーグラウンドのテーマは、1979年にリリースされたFriendshipの「Let's Not Talk About It」をサンプリングしている。






その9年後にはCurren$yが、マリオがスターを獲得して無敵状態になった時のテーマをサンプリングした「Star Power」、その翌年には最も有名であろうマリオのテーマソングをそのまま使った、Saigonの「Get Busy」がリリースされるなど、マリオサンプリングブームは2000年代を中心に大きく盛り上がった。中でもSaigonの「Get Busy」は、クッパがピーチ姫をさらってそれをマリオが助けにいく定番ストーリーの、ストリート版になっていて面白い。中でも小ネタがクスッとくるので少し紹介したい。


・最初のバースでSaigonは、マリオがスーパーキノコを食べて大きくなる様子と、マッシュルームでハイになる様子でワードプレイしている。その時のビートは、マリオがスーパーキノコを獲得し、大きくなるときの音をサンプリングした。

・各バースの終わりで、マリオが死ぬときの効果音を挿入している。

・曲の中で「Up up down down left right left right BABA Start」とラップしているが、これは世界で最も愛されているコナミコマンドの1つで、一種の裏技のようなものである。


多様化するサンプリング元


各ゲーム会社が競って開発していたそれぞれのゲームだが、1990年後半から徐々に一般家庭にも浸透し始めた。2000年代に突入すると、ポケモンやマリオブラザーズ、ファイナルファンタジーなどを中心に、ゲーム自体のバリエーションが増えると共に、その内容も細分化されていった。拡大したビデオゲーム業界はサンプリングの材料を大量に排出し、多くの曲に使用されていく。そこでゲームのテーマ曲をサンプリングした有名な曲を年代とともに遡ってみたい。


2002年にEminemとJ-Black、Masta Aceからリリースされた「Hellbound」は、ナムコから発売された「ソウルキャリバー」のテーマをサンプリングした曲である。同作品は20年経った今でも新作が出るほどのロングヒットを記録しており、2018年には新作が出る模様だ。「地獄へ行くのはお前が先だ! 」という日本語のアナウンスから始まるこの曲は、所々に日本語が差し込まれており、「勝ったのね! 」と女性(ソフィーティア?)の声とともに曲が終了する。




2004年にリリースされた「Game Over」は、Lil Flipを代表するヒット作品となった。パックマンのテーマを使用したこの曲は、パックマンのピコピコしたクセの強い音を残しつつ、サウスっぽさを失わない不思議な曲になっている。少し脱線するが、この曲で面白いのは「8ヶ月ごとに新アルバムをドロップする」とラップしているところである。2週連続でアルバムをリリースしたFutureや、約1年で4つのミックステープをリリースしたLil Babyなどと比べると、かなりスローペースに聞こえてしまう。そもそもミックステープの概念が広がったのが2007年周辺なのを考えると、この時のハードワーカーの概念はこれが基準だったのかもしれない。


80年代から活動をスタートさせたKool G Rapは、2006年にファイナルファンタジーVII のテーマソングをサンプリングした「We G's」をリリースした。ファイナルファンタジーから引っ張ってきたビートなのは、聴けばすぐに理解できるのだが、なんとも怪奇的な音になっていて面白い。この曲を作った当時、40歳手前だったKool G Rap。ゲームは確実に世代間を超えつつあった。


ガラケーが広まり最先端の技術が家庭でも使える時代。ゲームへの影響は? 


今ではiPhoneやアンドロイドなど、一面スクリーンのタップ式携帯電話が主流だが、2000年代の日本はガラケーが急速に広まっていった時代だった。現在は、家でも、会社でも、学校でも、通勤中でも、どこでも携帯でゲームができる時代だが、10年以上前ではどうだったのだろう。携帯ゲームが普及すれば、それと結びつきの強いHIP  HOPの歌詞に登場してもおかしくない。



しかし実際にそれが起こることはなかった。日本ではガラケーが一般的であったが、当時北アメリカやヨーロッパで普及していた携帯電話は、フィンランドのNokiaという会社であった。2003年、Nokiaが携帯電話(もちろん通話できる)とゲーム機を合体させた「N-gage」を発売した。しかし結果は散々なものであった。使いにくさや値段の高さなどにおいて、市場で勝ち残るには乏しい内容であったため、後に消えていったのである。


その一方で、日本のゲーム産業は好調であった。2000年と2006年にソニーがそれぞれプレーステーション2,3、2001年にNintendoがゲームボーイアドバンス、2004年にDS、2006年にWiiと次々とヒット作品を誕生させていく。任天堂を例にとってみよう。



(source:http://www.asymco.com/2013/09/09/game-over/


2000年代前半を支えていたゲームボーイアドバンスや初期DSが衰退すると共に、DS Lite、Wiiが続いて爆発的ヒットを叩き出している。革新的なアイデアを提供し続ける日本産のゲーム業界は、他の付け入る隙を与えなかった。ゲーム業界の覇権を長い時間握ると同時に、それらがHIP HOPへ徐々に、そして深く浸透していったのは事実であろう。



意外と知られていないJoe Buddenのゲームとの結びつき


さて、話は少し変わるが、リリックの面での影響について考えていきたい。去年までComplexのEveryday Struggleでホストを務め、近年ことある度に話題になっていたJoe Budden。その主たる要因は彼の奔放なスタイルにあった。自分自身の強い主張や、相手の話を聞こうとしない姿、若手ラッパーとの対立が表立ち、最近の印象は難しそうな人間といったところだろう。しかし今から10年以上前、彼のラップには新鮮味が溢れていて、強いオリジナリティーがあった。その代表格が、彼のゲームを取り扱ったラインだ。2つ紹介したい。以下は彼のアルバム『Mood Musik2: Can It Get Any Worse? 』から「6minutes Of Death」。


「あいつらはスーパーでもルイージでもマリオでもない。なんも力を持ってない。しかもフラワーを見つけたとしても、炎を出すことができないんだ」


そして「Slaughterhouse」から


「そんな探すのは大変じゃない。ホンダの車でE(エクスタシーのE)をやるのにね。なんせE. Hondaみたいな手をしてるから、彼はモンスターさ」


最初のラインは皆さんご存知マリオブラザーズからだ。マリオがフラワーを獲得すると、炎を出せるようになることから来ている。次のリリックは、ストリートファイターのキャラクターE. Hondaが、まるで手が何個にも見えるような必殺技をするシーンがあり、そこに自分を重ねている。Eをホンダの車でやるところから上手く繋げた名リリックなのだが、Joe Buddenが相撲の格好をしているイメージが先行してしまうのはなぜだろう...


この他にも、NBA LIVEというバスケットボールゲームについて言及するリリックや、この記事内の後半で紹介するが、PS2のゲームに自分自身がキャラクターで登場するなど、ゲームと多くの接点を持っていたラッパーだった。


そして少しずつ難解になっていくリリックたち




ゲームのクオリティーが年々アップデートされ、その技術が日に日にグレードアップしていくにつれ、HIP HOPに置けるビデオゲームの役割も、より深く面白みが出て来たのもこの年代からだ。Joe Buddenのリリックは実際にゲームをやらなければ思いつかないリリックばかりであり、ゲームが実生活に近づいてきているのがわかる。そしてより個性を出していくために、複雑化していくリリックであった。


上リンクはシカゴが生んだ天才、Lupe Fiascoの素敵なラインから始まる曲である。


「俺が戻って来た、俺はイケてる、(シカゴの)西をレペゼンするぜ。全て俺だ。ゴーストじゃない。セガジェネシスみたいな16ビットでもない」


ここでのゴーストはセガジェネシスのソフトであった、「ゴーストバスターズ」だろうか? ゴーストライターと両方の意味で捉えることができる。そして最も興味深いのは、通常16小節で1verse組まれることが多いHIP HOPの「おきまり」を逆手にとって、自分がそれに縛られずラップしていることを、セガジェネシス(16ビットの家庭用ゲーム機、日本名はメガドライブ)とかけてラップしている。いかにオリジナリティーの溢れるスタイルであるかを、わずか4秒で示したLupe Fiascoに拍手を。


Juelz Santanaもまた面白いリリックを残している。


「農夫みたいに土地を守る。ポケットはToccaraみたいに丸ぽちゃだ。ザ・パッカーズっていうべきだったかな。でかい銃を持ち歩いてる、魂斗羅をやってるようにね」


比喩を使いまくりでありながら、まとまったリリックなのだが、説明したい部分はそこではない。1時間遅刻した上にライブをバックれたり、空港でハンドガンが見つかりその場から走って逃げるなど、破茶滅茶なエピソードを持つJuelz Santanaに、魂斗羅は難易度が高すぎるのではなかろうか(難易度が高い上に一度死ぬと終了のイライラ度の高いゲームであった)。もしかしたら最初からライフを30個に増やせる「コナミコマンド」を知っていたのかもしれない。いやしかし、あのJuelz Santanaがコナミコマンドを使うのか? 会う機会があったら聞いてみたいものだ。


ゲームと共に成長していったHIP HOP


HIP HOPとゲームにおいて、最も反響が大きかったゲームはこれではなかろうか? 「Def Jam Fight For NY」とタイトルがつけられたこの格闘ゲームは、この業界に大きなインパクトを残す。1990年代にセガと協力していた、アメリカのビデオゲーム販売会社「EA」は、2004年にDef Jamと協力して狂ったゲームを作りあげた。実在のラッパーを登場人物にしたこのゲームは、ヒップホップファンをゲームの世界に放りこむ1つのきっかけになったのである。ラッパーを登場させる斬新さもそうだが、ゲームとしての新しさも人気を引きつけた理由の1つだ。クリエイトモードで(似てるかはともかく)キャラクターの顔やスタイルを編集できたことから、新たにラッパーを作成して戦わせることもできた。文字通りアウトローな世界観のこのゲームは、物で殴ったり、武器を使ったり、電車で引かせたり(意味がわからない)、他にはない魅力を秘めており、瞬く間に広まった。




実は1990年代からHIP HOPをメインアイデアとしたゲームはリリースされていた。ノストラダムスの大予言の少し後の1999年11月、「Wu-Tang: Shaolin Style」と題された格闘ゲームは、アメリカのゲーム会社Activisionと日本のSuccessとの間で制作された。内容は一般的な格闘ゲームだが、後のDef Jamのように時代をクラッシュすることはなかった。中でもWu-Tang Clanモデルのコントローラーは、形が最悪で使いにくさの塊であったようである。



00年代で強い絆の生まれたHIP HOPとビデオゲーム


この年代を一言で表すとしたらなんだろう? 強いて挙げるとしたらビジネスであろうか。1990年代前半は、ラッパーたちにとってビデオゲームは革命的で新しいものであった。それに乗っかり供給が増えれば、自然と増えるのは需要である。これら2つの一件相反するように見えるジャンルは、共に助け合い、成長していったのが2000年代だ。特筆すべきなのは、ゲーム側からHIP HOPに歩み寄っていったところだろう。上記ではDef JamとWu-Tang Clanの2つをあげたが、Fight For NY以降は、多くのゲーム会社がSnoop Dogg、Lil Jon、Nelly、50centなどあらゆるタイプのラッパーにフォーカスを当てていった。それだけ世間にゲームとしてのHIP HOPが浸透していたのだろう。


1990年代のパートでは、ラッパーがビデオゲームが自身のライフスタイルを比喩する上で1つのファクターであると述べたが、それは2000年代でも変わっていない。変わったのはゲーム側の立ち位置だ。相思相愛なHIP HOPとゲームは2010年代に入ると、さらに形を変えていく。


written by Yoshito Takahashi 


source:

https://www.complex.com/pop-culture/2014/07/30-hip-hop-songs-that-sample-video-games/ 

https://www.complex.com/pop-culture/2011/04/50-best-vg-references-in-rap/ 

https://youtu.be/-2sq7pfA7sc 

https://www.complex.com/pop-culture/2011/11/25-games-featuring-hip-hop-stars-as-playable-characters/ 

https://www.hotnewhiphop.com/10-best-hip-hop-video-game-soundtracks-of-all-time-news.42077.html 

https://noisey.vice.com/en_us/article/rkqdzn/def-jam-fight-for-new-york-was-the-definitely-the-best-rap-video-game-ever-in-life 

http://www.asymco.com/2013/09/09/game-over/ 

http://articles.mcall.com/2006-07-17/news/3689746_1_el-dorado-crocodile-rock-stage 


photo: youtube




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