日本のゲーム業界がHIP HOPに与えた影響とは? part.1 1990年代

度々HIP HOPの歌詞に登場する「任天堂」や「セガ」といったワードたち、実際どんな意味合いで使われているのか
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2018.07.18 03:30

任天堂とセガは今のHIP HOPシーンに置いて、切り離すことのできないワードの1つである。まるでまったく形の違う2つの歯車が噛み合うように、ビデオゲームとHIP HOPは時として絶妙にマッチする。非現実的な日常が描かれる2次元の空間は、人々の心に大きな影響を与え、日本を代表する世界のカルチャーとなった。 U.S.ラッパーの間ではこれらの日本のカルチャーをどのように認識し、どんな気持ちを表現するためにリリックに落とし込むのだろう。いくつかの例を上げ少し掘り下げてみたい。




 1990年代


任天堂にセガジェネシス。金がなかった頃は思いもしなかったさ


ゲームと言われ、真っ先に思いつくのはThe Notorious B.I.G.の「Juicy」ではなかろうか? 彼はバース3の最初のラインでこのように表現している。 


「任天堂にセガジェネシス。金がなかった頃は思いもしなかったさ」 


セガジェネシスとは日本名でメガドライブのことで、1988年に日本、その翌年に北米でリリースされた。全世界で3000万台以上の売り上げを記録したメガヒット作品である。現在はこのように表現されることはないが、この歌詞では任天堂とセガジェネシスをかなり高価なものとして描いている。それもそのはず、本体価格189.99ドル、現在の価値で計算すると軽く3万円を超える。それにカセットやコントローラーを買うのだから、そう簡単に手の届くものではなかったに違いない。お金がなかった時期の彼にとって、ゲームというのは喉から手が出るほど欲しかったものなのだろう。  


セガと任天堂が歌詞に登場するとき、意味の違いはあるのだろうか?


セガと任天堂は常に覇権を争ってきたなかであり、日本人としてはこの2つの区別は簡単につくだろう。ただ当時のラップを見てみると、なんとなく誤認をしていたかのような歌詞も見つかっている。Method Manの「Elements」からだ。 


「アルファからオメガまで、64からセガまでラップする」


 単に自身のラップの幅広さを表現しようとしているのだが、少しおかしな部分にお気づきだろうか? アルファとオメガは対応しているが、64とセガは(64は任天堂のゲーム機だが、セガは会社名なので)対応していない。この年代だとサタンにした方が自然であろう。ゲームは高価であったため、一般との差別化や、一種の特権のような価値を表現したかったのだろうか。だとしたら細かい点を気にしなかったのも理解できる。  


ゲーム機器は高価なものであった一方で、当時から任天堂が身近な存在であったかのようなリリックも登場する。Public Enemyの「Bedlam 13:13」では「スーパー任天堂を(ウィードを隠して)窓から投げた」と、リリックで日常をよりリアルに再現するために任天堂を用いている。他のラッパーたちと比べ比較的裕福に育ったHIP HOPグループは、既に新たな任天堂の見せ方をスタートさせていた。


忍者はラッパーにとって憧れの戦士


今ではゲームというとオタクといった固定概念が押し付けられがちだが、ゲームに登場する日本独自のキャラクター(忍者など)は、彼らの目に非常にクールに移っていたようで、現在でもその流れは続いている。Wu-Tang Clanの「Triumph」でInspectah Deckは以下のようにラップしている。


「勇敢な戦士を見よ、地球をゆっくりと制御している。攻撃を続ける、忍びみたいに刀を振り回すぜ」


当時、日に日に影響力を増していくWu-Tang Clanと、自分たちのラップスキルを表現した面白いラインだ。英語にするとわかりやすいのだが、「Behold the bold soldier, control the globe slowly」と母音のOを強調してライムするスキルの高さが異常である。


ShinobiについてRZAは2005年に発売された「ウータンクランマニュアル」でこのように定義した。


「忍者は剣を引き抜き、相手を切り裂き、鞘に収める。すべて1つの動きでだ」


この部分を読むと自分たちのライムがいかにスムースであったかも、同時に表しているようである。


他国のカルチャーが海を越えるとき、時として誤認され、少し違った意味合いで解釈されることが稀にあるが、忍者の場合は彼らラッパーに80%くらいは認識されていたようである。独立した諜報部隊として活躍していた忍者は、スパイのようなイメージで伝わっていたはずだ。それぞれビギーの「The What」からMethod Manのバースと、「Unspoken Word」よりRZAのバースである。


「これは静かな殺人だ。死の罠。まるで漆黒の忍者だ。お前がいるとこは既に囲まれている」


「忍者がスパイする、鋼鉄の弾薬が飛んでいる中で。奴を見つけたらタンポポの種みたいに頭を吹き飛ばすんだ」


前半部分は忍者そのものの静かな動きであるが、後半部分はアメリカナイズされた派手な散り方だ。これが80%と表現した理由である。


他にも2pacの「Fake Ass Bi@ches」を筆頭にDr. Dre、LL Cool J、Ice Cubeなど多くのラッパーが、NintendoやSegaを通して自身のスキルを見せつけあった。



HIP HOPが任天堂とセガを通して伝えたことは? 


彼らの世代が伝えているのは、ワードプレイや小ネタとしてのゲームが主であり、幼い頃からゲームをして、それが生活の一部として育ってきたことを伝えている訳ではない。それでは、なぜこれほどまで多く、歌詞に登場したのだろうか? HIP HOPと任天堂、セガが強く結びついた理由として考えられるのは2つ。1つは、HIP HOPが他の音楽と決定的に違う点であった、資本主義への参入、お金持ちへの欲望。それらを内包している音楽ジャンルが、当時高価なものであったゲームに辿り着いたのは自然なことだろう。2つ目は、GameやPlayなど、HIP HOPと関連ある言葉が多かったため、多くのワードプレイで使われたことだ。ストリートの非現実性を訴える上で、同じく非現実的であったゲームは相性がよかった。NintendoやSegaが持ち込んだゲーム機器は、結果としてHIP HOPに奥深さをもたらしたのだ。 


written by Yoshito Takahashi


source:

http://shezcrafti.com/15-dope-sega-nintendo-rap-lyrics-from-back-in-the-day/ 

http://www.hopesandfears.com/hopes/culture/music/213899-biggie-super-nintendo 

https://retronauts.com/article/666/super-nintendo-sega-genesis-when-i-was-dead-broke-man-i-couldnt-picture-this 


photo: youtube



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