ジョフリーの剣に込められたGoTファンタジーの意外な流儀とは?:七王国まで何マイル? 〜ゲーム・オブ・スローンズの歴史学〜 第6回

bmr編集長、丸屋九兵衛氏が『GoT』を鋭く考察する好評連載、第六章。日本での初ブレイクはここから...!
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2018.10.24 07:55

 やあ、髪型だけジョン・スノウで髭はカール・ドロゴ、性的傾向はオベリン・マーテルで腹の中はリトルフィンガーな丸屋九兵衛だ。本連載は、そんなわたしがドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』(通称GoT)に関して、いろいろと回り道しながら、あれこれ語るものである。



GoTのビーストはファンタジーの定番だが...


 巨人(Giant)。

 スナーク(Snark)。

 ワイト(Wight)。

 ドラゴン(Dragon)。



 以上、GoT世界に登場する(あるいは言及される)超自然的存在のラインナップである。

 

 おわかりだろうか?



 ホワイトウォーカー(White Walker。ただし原作ではthe Others)やチルドレン・オブ・ザ・フォレスト(Children of the Forest)といったオリジナルものもいるものの、ほとんどの種族が「ファンタジーの常連さん」なのだ。



 巨人は説明不要だろう。



 スナークは、英文学を学んだ者の脳内にルイス・キャロル経由で叩き込まれている謎の生物。


 そしてワイト。ファンタジー系ゲーム、特に(テーブルトーク)ロールプレイングゲームの本家本元『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のプレーヤーなら馴染みのアンデッド(死にきっていない死者)だ。


 最後は真打ちドラゴン。いま触れた元祖ファンタジーRPGが『ダンジョンズ&ドラゴンズ』と命名されていることからも分かる通り、ファンタジーといえばドラゴンである。ファンタジー界には、鷲とライオンのハーフであるグリフォン/グリフィンや、そのグリフォンと馬のハーフであるヒポグリフ、「人間の顔+ライオンの体+コウモリの羽+サソリの尻尾」という無茶なデザインが秀逸なマンティコア等々、わたしが個人的に思い入れを抱く動物は多いが、そんなものは薙ぎ倒して、やっぱりドラゴンこそがファンタジー系ビーストの王者であり、ファンタジーの代名詞なのだ。




 つまり。GoTはそういった面だけ見ていけば、とっても典型的なファンタジーなのである。


 これだけ使い尽くされた要素を用いて、ファンタジー界に新風をもたらす、という奇跡。その背景にあるのは、原作『氷と炎の歌』の著者ジョージ・R・R・マーティン(George R. R. Martin。以下、面倒なのでGRRMと略す)のアティテュードだ。



マーベルのアメコミ・ヒーローに対する疑問



 GRRMが発起人となったスーパーヒーローSF小説シリーズに『ワイルド・カード』というものがある(Wild Cards)。複数の作家が書く、シェアード・ユニバース形式の作品だ。


 設定は……異星人による生物兵器の実験場所に選ばれてしまい、ウイルス爆弾が投下されたニューヨーク、マンハッタン。そのウイルスに感染すると致死率90%、つまり、生き残るのは10%だ。そのうち9%は変異を遂げてミュータントとなり、「ジョーカー」と呼ばれることに。だが、最後の1%は超能力者「エース」となるのだ! こうして誕生した善のエースたちの活躍、悪のエースたちの暗躍、それを見つめるアメリカの世相……等々を、華々しくも緻密に描くのが『ワイルド・カード』シリーズである。




 GRRMがこのシリーズを生み出した背景には、マーベル等のアメコミ・シリーズ(特に『アベンジャーズ』?)におけるヒーロー乱立状態への疑問があったという。


 例えば、放射線を浴びて変身体質になった生物学者。チベットの寺で魔術を学んだ天才外科医。クモに噛まれて特殊能力を獲得した高校生。神秘のハーブの力で戦う国王……。同一世界内における超常能力の獲得が、なんでこんなに多様な原因で起こるのか? いろいろな場所で、さまざまな機会で。なんぼ絵空事でも御都合主義過ぎ、スーパーパワーを安売りしすぎではないか。


 フィクションを楽しむためのsuspension of disbelief(不信の宙吊り。理性的な批判を一時停止し、フィクション内の「真実」を読者や観客が受け入れること)を邪魔しないためには、ヒーローたちの力の源はたった一つ、単独の出来事に起因すべきだ、と。


 ここで理解しておかねばならないのは、GRRMがアメコミやスーパーヒーローものの大ファンだということ。つまり、そこにあるのは「愛しているからこそ、より良くしたい」という気持ちである。



 このGRRMの姿勢がファンタジーに活かされたのが『氷と炎の歌』でありGoTである、とは言えまいか。




 外野が「ファンタジーとかいうつまらねえジャンルに革命を起こしてやるぜ」とイキがっているのとは違うのだ。そのジャンルのベテランでありインサイダーであるファンタジー/SF作家が、自分のジャンルにカツを入れたのである。偉大なる先達『指輪物語』を見習うあまり、お決まりの展開になってしまいがちなファンタジー文学に、リアリズムという新たな息吹を!


 神秘的な展開や超自然的存在の出現がとても限定的なのは、ヒーローもの小説シリーズで「スーパーパワーの大安売り」を戒めたのと同じである。それがゆえに、ふだんファンタジーには親しんでいない☆Taku Takahashiのような男がGoTの虜になったのも事実だろう。


 だが、GRRM自身はあくまで「ファンタジーをレプリゼントしている」という意識なのだと思う。だからこそ、ファンタジー愛好家だけに通じるインサイダー・ジョークもあるのだ。



ファンタジー好き視聴者の笑いを誘う「仕掛け」



 GoTの第4シーズン第2話『The Lion and the Rose』で描かれたジョフリー(Joffrey Baratheon)とマージョリー(Margaery Tyrell)の結婚式。祖父タイウィン(Tywin Lannister)にヴァリリアン鋼製の新たな剣をプレゼントされたジョフリーは、今しがたティリオン(Tyrion Lannister)にもらったばかりの歴史書をその剣で切り刻む。


 

 鼻息荒いジョフリーは、そのまま、結婚式の賓客たちに問いかけるのだ。「良い剣には名前が必要だ! 何と名付けようか?」


 すると客たちは口々に「Stormbringer」「Terminus」と叫ぶのである。



 

……このシーン、実はファンタジー読者の笑いを誘うようにできている。


 というのも……まず、前者「ストームブリンガー」は、マイケル・ムアコックによる病弱ヒーロー異世界ファンタジー小説『エルリック』シリーズで、主人公エルリック8世が使う巨大な黒い剣の名。





 そして、後者「テルミヌス」は、ジーン・ウルフの遠未来ファンタジー小説『新しい太陽の書』シリーズで主人公セヴェリアンが使う処刑専用の剣「テルミヌス・エスト」のことだ。




 ただし。原作『氷と炎の歌』で描かれる同じ場面には、これらの名前は出てこない。では、テレビ版GoTを支えるオタクども(スタッフ)による勇み足なのかっ?!


 いや、違うのだ。だって、この回の脚本を書いたのはGRRM自身だから。


 で。


 ジョフリーの新たな剣の名前は?




 ……結局、Widow's Wail(残された妻の嘆き)という、とっても性格の悪いものになりましたとさ。もっとも、この命名の直後に死ぬのは……





▷「ゲーム・オブ・スローンズの歴史学」バックナンバー


連載第1回:https://block.fm/news/gameofthrones7_1

連載第2回:https://block.fm/news/gameofthrones7_2

連載第3回:https://block.fm/news/gameofthrones7_3

連載第4回:https://block.fm/news/gameofthrones7_4

連載第5回:https://block.fm/news/gameofthrones7_5



▷『ゲーム・オブ・スローンズ』視聴はこちら


https://warnerbros.co.jp/tv/gameofthrones

https://www.happyon.jp/game-of-thrones

https://www.star-ch.jp/drama/gameofthrones

https://www.amazon.co.jp/dp/B017S14BBW/ref=cm_sw_r_cp_ep_dp_WGxuBb34GA673




written by 丸屋九兵衛( @QB_MARUYA ) 


photo:Amazon, YouTube , DEN OF GEEK


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