GOTが「熱くなる瞬間」は何時?丸屋九兵衛の七王国まで何マイル? 「ゲーム・オブ・スローンズの歴史学」第10回

音楽評論家でbmr編集長、丸屋九兵衛が独自の視点で『GoT』を斬る連載コラム。今回のテーマは「大量破壊兵器」!?
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2019.02.06 03:15

TVの恋愛リアリティショー(『京都恋検定』という番組だ)に出ているくせに、めったにTV番組を見ないわたし。


では、狭い家に似合わない大画面TVで何を見ているのか?


もちろん『ゲーム・オブ・スローンズ』や『スター・トレック:ディスカバリー』の放映は見る。


だが、それ以外はたいていYouTubeだ。それも古代〜中世の軍事関係のナーディな動画たちである。


例1)紀元前の地中海の趨勢を決した「マケドニア王国 vs 共和制ローマ」のバトル。ファランクスとレギオンが激突する!

例2)東西の大帝国が中央アジアで雌雄を決することとなったタラス河畔の戦い。「唐帝国 vs アッバース朝」、つまり中華帝国とイスラム文明による史上初の正面衝突だ。


そういった歴史上の戦闘をインフォグラフィック的に示したものが好みだ。


また


例3)イングランド人の軍事マニアおじさんが、古代ギリシア市民兵の鎧を着脱してみたり、「槍と剣、どちらが強いか」を実験!

そんな自家製感漂う映像も大好きである。


こうして前近代世界の軍事を追究するわたしは、ずっと『ゲーム・オブ・スローンズ』のアレが気になっていた。

そのアレとは……ワイルドファイアーだ!


というわけで本コラム。髪型はジョン・スノウで髭はカール・ドロゴ、性的傾向はオベリン・マーテルで知的傾向はリトルフィンガーな丸屋九兵衛がお届けする『ゲーム・オブ・スローンズ』連載である。■オープニング写真挿入


ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』(通称GoT)の舞台は「火薬発明前の世界」だ。だから、大量破壊兵器は存在しないはずなのだ。二つの例外を除いて。


その例外とは、まずドラゴン。そして「ワイルドファイアー」である。■ワイルドファイアー写真挿入


GoT世界のワイルドファイアー(wild fire)とは?


錬金術師ギルド/火術師(pyromancer)たちが製造し管理している発火性の緑色液体。同時に、その液体によって生み出される緑色の炎そのものをも指すようだ。


王都キングズランディングの地下、この液体はビン詰め(もしくはタル詰め)となって大量に貯蔵されている。いったん着火されると大爆発を起こすし、その炎は水による消火は不可能ときている。鎮火する手段は大量の砂をかける(というか、砂で埋め尽くす?)のみらしい。





このワイルドファイアー、邦訳では「鬼火」とされている。まあ、現代英語で「wildfire」が一般的に意味するのは「山火事」——昨年11月、カリフォルニア州で燃えさかったあれ——だということを考えると、ちょっと訳語に凝りたくなるのもわかる。


だが、ドラマの映像と「鬼火」というイーストエイジャンな語感がどうにもミスマッチとも思える。


「GoTのワイルドファイアには明らかなモデルがあり、それが東アジアとは程遠い」というのも一因だ。


そのモデルとは?




「Greek Fire」である。


グリーク・ファイアーとは?


「ギリシアの火」もしくは「ギリシア人の火」と訳されるこれは、古代〜中世の地中海世界で敵を震え上がらせた伝説の武器である。それは東ローマ帝国あらためビザンティン帝国の専売特許でもあった。

■グリーク・ファイアー絵の写真挿入


十字軍以来、英語では「Greek Fire」と呼んでいるし、他のヨーロッパ言語でも呼称はほぼ同様だ。だが、当のビザンティン帝国側は「ローマの火」と呼んでいた。彼らは使用言語こそギリシア語だが、アイデンティティはあくまでローマ帝国。前回の本連載で触れた奴隷商人湾(Slaver's Bay)一帯のマスターたちにも通じるネジレ現象である。


また、「ローマの火」以外に「液火」「海の火」とも呼ばれていたそうだ。このことが示すように、液状の物質であり、それが発火すると海上でも燃え続けたという。そのまんまワイルドファイアーやん!それどころかグリーク・ファイアーは、「水をかけるとさらに燃えた」という説まであった。



7〜8世紀、ビザンティン帝国の首都コンスタンティノープルは、二度にわたって未曾有の危機に見舞われた。それはイスラム史の初期、つまりアラブ帝国の拡大期。コンスタンティノープルもアラブ軍に攻略されかけたが、2回とも海上戦で「グリーク・ファイアー」を使って敵の艦隊を撃退したという。


まさにバトル・オブ・ブラックウォーター!




この「グリーク・ファイアー」、どうやって作るのか? 何と何を混ぜてどうすれば製造できるのか?■火術師写真挿入


「グリーク・ファイアー」はビザンティン帝国の生命線。だから代々の皇帝と側近たちは、その製造法をトップシークレットとして守り抜いてきた。


時代を超えて極秘機密を伝えるのは難しい。なぜなら、極秘にするためには、秘密を知る人間を最小限に留めなければならないが、その選ばし者たちが政変や王朝交替といった激動の時代を生き残れるとは限らないではないか。


そんなわけで、ビザンティン帝国が滅亡して数百年経った21世紀の今日、「グリーク・ファイアー」の作り方を知るものはいない。


現代の科学をもってしても、調合法は不明だという。



▷「ゲーム・オブ・スローンズの歴史学」バックナンバー

連載第1回:https://block.fm/news/gameofthrones7_1

連載第2回:https://block.fm/news/gameofthrones7_2

連載第3回:https://block.fm/news/gameofthrones7_3

連載第4回:https://block.fm/news/gameofthrones7_4

連載第5回:https://block.fm/news/gameofthrones7_5

連載第6回:https://block.fm/news/gameofthrones7_6

連載第7回:https://block.fm/news/gameofthrones7_7

連載第8回:https://block.fm/news/gameofthrones7_8

連載第9回:https://block.fm/news/gameofthrones7_9




▷『ゲーム・オブ・スローンズ』視聴はこちら

https://warnerbros.co.jp/tv/gameofthrones

https://www.happyon.jp/game-of-thrones

https://www.star-ch.jp/drama/gameofthrones

https://www.amazon.co.jp/dp/B017S14BBW/ref=cm_sw_r_cp_ep_dp_WGxuBb34GA673



written by 丸屋九兵衛(https://twitter.com/qb_maruya) 


photo:YouTube, Amazon


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