「未知の国」インドからのリリースと現地クラブシーンのリアル RBMA卒業生Daisuke Tanabeインタビュー

何度も海外ツアーを成功させた実績を持つDaisuke Tanabeは、なぜインドからのリリー スを選択したのか?
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2018.08.21 09:00

日本を拠点にしながらも、これまでにSónar Barcelonaをはじめ、ヨーロッパやアジアを中心に何度も海外ツアーを成功させている音楽プロデューサーのDaisukeが7月に最新EP『CatSteps』をリリースした。


Daisuke Tanabeは、20代でイギリスに渡り、当時ロンドンで話題になっていたオーディエンス参加型イベントCDRにてそれまで作りためていた楽曲を披露。その緻密にプログラミングされた楽曲構成とメロディセンスが話題になり、同イベント発のコンピレーション『BurntProgress1.1』」に楽曲提供。逆輸入という形で日本からも注目されることになった。




またこれまでにイギリスのレーベル「Fluid Ounce」からリリースした作品が、クラブミュージックシーンで大きな影響力を持つGilles Petersonの耳にとまり、「BBC Radio1 GillesPeterson Worldwide」にて、その年のベストトラックの1曲に選出。さらに2010年にはRed BullMusic Academy(RBMA)にも日本代表として参加。2012年にはベルリンの名門レーベル「Project: Mooncircle」から盟友Kidkanevilとともに名盤『Kidsuke』を、2014年には2ndアルバム『Floating Underwater』をリリースし、その度にビートミュージックシーンにおける世界的な評価を獲得してきた。



そんな世界を舞台に活躍する彼が先述の最新EPをリリースしたのが、インドはムンバイを拠点にする新興レーベルの「Knowmad Records」だ。これまでに有名レーベルからのリリースやSónarのようなビッグフェスでもプレイするなど、ほかのプロデューサーたちが羨む様な輝かしい実績を積み重ねてきた彼がなぜ、今、クラブシーン的には”未知の国”である同国の無名レーベルを選んだのか? それには以前、インドでツアーを行ったことが関係があるというが、そこには一体どんな魅力があったのだろうか? 『Cat Steps』の内容ともにその理由についても尋ねてみた。






Daisuke Tanabe インタビュー


今回のEP『Cat Steps』のタイトルにある”Cat Steps”とはどういった意味なのでしょうか?


Daisuke Tanabe(以下D):以前友人から僕の音楽のジャンルはなんだって聞かれて「自分のジャンルは何かよくわからない」と彼に話したところ、「じゃあCat Stepでいいんじゃない?」と提案されて。


▷へぇ〜、それはダブステップとかそういったジャンル名としてということでしょうか?


D:彼はそういう意味で言ったんだと思います。そんな話が頭に残っていて適当にその名前を使いました。最初のアルバムの頃は曲のタイトルにも意味がそれなりにあって、例えば「Artificial Sweetener 」なんかは音楽に甘い感情みたいなものをより多く盛り込んだ方が人は喜ぶのかなと極端にコードをどんどん盛り込んでみたから、人工甘味料ってタイトルにしてみたり、でも誰もタイトルのことはツッコンでくれませんでした(笑)。




例えば2014年のアルバム『Floating Underwater』はメロウだったりメロディックな曲が多かったと思うのですが、今作はドラムンベースやジャングルやなどアグレッシヴなビートが目立つ曲が多いと思いました。そういった収録内容の変化は何か心境の変化からくるものだったのでしょうか?


D:それに関しては単純に僕のEPとアルバムの捉え方の違いです。アルバムの場合は、どうしても1枚を通して聴く世界観という感じで捉えているから、イントロとかインタールードとかも盛り込んで、ストーリー性みたいなものを大事にしていたんだけど、EPの場合は、DJも一時期やっていたというのもあったし、もっとDJフレンドリーなフォーマットという捉え方が自分の中でありました。だからストーリー性を出すこともできるんだけど、それよりはジャンルも絞って同じ方向性でまとめてみたという感じでした。



なるほど。そういうアルバムとEPというフォーマットの捉え方の違いがあったんですね。個人的にEPを聴いていて、例えば、以前のKidsukeのライヴとかでもそうですが、Daisukeさんのライヴはイメージと違ってアグレシッヴなビートが鳴る場面、ドラムンベースみたいになることも結構あるじゃないですか?


D:そうですね。




▷でもDaisukeさんの音楽はさっきもおしゃられていましたが、甘いコードとかメランコリックなメロディーとかエモいものが多いじゃないですか? でもそういうメロディックなウワ音系だけでなくやっぱりビートにもこだわりを感じるんですよ。基本的に音楽を作りだす時は、ビートから作り出すんですか?


D:その辺りは作品毎に変化してきますが最近はメロディーからが増えました。今作に関してはジャングルなんかのリズムを絶対に取り入れようという考えがあって作る前にフォーマットを決めていたので、いくら先に出来たメロディが良くてもビートとあわないと意味がないし、兼ね合いを見つつほぼ同時に作り始める感じでした。


環境音をそのまま流すというよりは細かくミジン切りにして並べ変える


▷ではそんな今作の制作にあたり、欠かせない機材となったのはどのようなものですか?


D:機材も結構その年、その年で新しく買い揃えたりもするんだけど、今回、プラグインに関しては「Crazy Ivan」をどうしても使いたいとは思っていました。ランダムな要素があって、暴れることもあるし、そういう時はスピーカーから酷い音が鳴り続けるってこともあるんだけど、どうしても使いたかったからあえて古いプラグインを走らせることができるプラグインを買いました。




あとは最近購入した機材でスプリングリヴァーヴが付いているのがあってそれも使いました。それとフィールドレコーダー。


▷フィールドレコーダーを使ったとのことですが、今回のEPでもフィールドレコーディングで録音した音素材は多用しましたか?


D:う〜ん、それなりにあったりするかな。環境音をそのまま使うというよりか、自分の場合はそれをぶった切って素材にする、細かくミジン切りにして並べ変えるというか。これがあの音だ、みたいなのはわかりにくいかもしれない。でも全曲でフィールドレコーディングした音は使っています。


作ったままのディティールを残すか、それともパンチのある感じを取るか


▷フィールドレコーディングといえばYosi Horikawaさんの名前が浮かびますが、これまでのDaisukeさんの作品では彼がマスタリングを手がけたものもあります。作品の仕上げ作業で彼を起用することで、どのような影響があるとお考えですか?


D:元々流れとしては彼と一緒に何回もツアーに行ったり、その都度、現場でのコラボレーションも求められたりもして。それに一緒に行った先でのライヴの時に、会場でこの曲だけ音圧がどうしても低いんだよなって時にYosiくんがその場でイジってくれるなんてこともあったりしたし、そういう経緯からです。彼の音ってすごく柔らかいですよね。圧があるのに、痛くないから長時間聴いていても疲れないし。


マスタリングで作ったままのディティールを残すか、それともパンチのある感じを取るかというのは、多分アーティストみんなにとっての悩みどころだと思うし、例えばライヴの会場でPAさんから僕の音は細いと良く言われるんだけど、結局大きな音で出すと機能しちゃうっていうか。そういうことも考えると音圧があるものよりもディティールの方を優先するって感じでした。


▷それはDaisukeさんの求めている音にはYosiさんの音がマッチするということですか?


D:そうですね。Yosiくんは僕の音楽をよく知ってくれているというのもあるし、曲の最終的な部分に関することだからこっちとしてもよく知ってる人の方が気兼ねなく、違うと思ったら「違う」って言えるのも大きいですね。




▷では、今回のEPでこれだけは絶対に聴いてもらいたい曲を選ぶとしたらどの曲でしょうか?


D:難しいですね。でも「For The Twin」のTwinってAphex Twinのことなんです。Aphex Twinの「nannou」という曲があって、リズムの打ち方はドラムン的なんだけど、物凄く静かな曲で、昔これを彼なりのドラムアンドベースの解釈だと思って聞いた時にすごく衝撃を受けて。昔から彼の音楽が好きだったし、そういった意味も兼ねてのタイトルだし、やっぱりこれなのかな。




どこの国からリリースしたっていうのはほとんど関係ない時代になってきている


▷これまでは例えば「Project Mooncircle」のような有名レーベルからもリリースしていましたが、今回は今までとは違ってインドのレーベルからのリリースとなりました。一体なぜ無名のインドのレーベルからリリースしようと思われたのでしょうか?


D:そうですね、確かに一気に無名のレーベルからのリリースになった感じですね。きっかけはこのリリースの話が来る前にインドにツアーに行ったことで、それよりもっと前にバックパッキングでインド旅行に行ったことはあったんだけど、その時は全くインドにクラブミュージックシーンがあることは想像もできないっていうような感じでした。


でも実際にツアーに行ってみて、当然しっかりとしたシーンがあって、お客さんも付いていて、フェスもあったりして。そういうところで自分の音楽をリリースすることで何かの変化があるのかもしれないという多少の期待があったかな。今回のEPはヨーロッパからの影響みたいなものもあって、特にドラムン、ジャングルに対するオマージュみたいなものもあったから、流れとしては本当はヨーロッパ、イギリスあたりのドラムンとも縁のあるレーベルからと考えていたんだけど、それよりももっと”未知の”国からでもいいのかなとも思いました。


▷:と言いますと?


D:リリースして誰かに聴いてもらうということには変わりないし、今はもうどこの国からリリースしたっていうのはほとんど関係ない時代で、どこからリリースしても、リリースしたという意味合いの重みは変わらないし、それだったら知らないところから出してみようという。


▷でもこれまでの実績から考えたら「Daisuke Tanabeなんでインドの無名レーベルから新作リリースしたの?」みたいな疑問の声はあったりしませんでしたか?


D:う〜ん、あるのかな(笑)。でもあまり気にしていない部分だし、インドからのリスナーが増えました。それに9月にまたインドツアーが決まったし、インドリリースならではの流れみたいなものは感じるかな。


▷今回のアートワークもインドのアートチームblankfoundが手がけたとのことですが、そちらについてはどのような経緯があったのでしょうか?


D:インドの街中に貼ってあるようなチープな移動サーカスのポスターのテイストが欲しかったんですが本物のサーカスポスターを作っている人は、ゲリラ的に夜中にポスターを貼っては立ち去るらしくて、結局手がかりがなくて探せなかったんです。それでレーベルとつながりのある彼らが手がけることになりました。タイトルなんかも最初は英語で描いてあったんですが、ローカルのサーカスポスターの雰囲気がどうしてもほしかったからヒンディー語に直してもらいました。




▷そうなんですね。そういえばこのEPはカセットテープでもリリースされるとお聞きしましたがリリース日はもう決定しているのですか?


D:レーベル曰く、今作っている最中とのことで、近々リリースはするとだけ聞いています。インドツアーあたりには是非出てほしいですね。


▷購入する場合はbandcampなどで販売されたりするのですか?


D:そうなるはずです。何本かは自分にも送ってもらう感じで。でも相当小ロット生産なはずで、100本くらいしか作らないんじゃないかな。


▷では日本で、もし買おうと思ったらDaisukeさんのライヴ会場での物販として販売されるというイメージですか?


D:そういう感じになると思います。


いろんなものが混ざったごった煮感があって、インドではそれが機能している


▷2度目のツアーが決定したとのことですが、実際にDaisukeさんから見て、現在のインドの音楽シーンはどのような状況ですか? 例えば、Daisukeさんの作るビート系の音楽に対しても熱心なファンがいたりするのですか?


D:それはもうすごく熱心で、こちらが驚くくらいでした。ライヴに来てくれた子たちも、昔から僕の音楽を聴いてくれていると言ってましたよ。シーンに関してはムンバイで連れて行ってもらったクラブでは、フォークバンドが出演した後にテクノのDJが出て来るみたいな感じだったけどお客さんは入れ替わらずにどっちでも盛り上がっていました。すごく自由な雰囲気があるし、色んなものが混ざったごった煮感があって、インドではそれが機能しているって印象でしたね。


▷ジャンルでいえば、ほかにはどんな感じのものが流行っているのでしょうか?


D:イギリスとのつながりもあるし、グライムなんかは人気みたいです。


▷アジアのシーン、例えばちょっと昔の中国とかは欧米から移住してきた人がシーンを主導しているような感じでした。今のインドのシーンもそういった感じなのでしょうか?


D:フェスに関してはヨーロッパと地元の複合という感じで運営されているようでした。ただクラブ運営に関しては地元のインド人の方が圧倒的に割合が多かった気がします。遊びに来ている欧米人はもちろんますが主催側は圧倒的に地元の人でした。




▷インドのシーンに関していえば、例えば有名なローカルイベンターとかエージェンシーなども存在したりするのですか?


D:KRUNKっていうイベンターが有名らしいです。あといくつかそういったところがインドにはあって、ブッキングに関するメールもすごくビジネスライクでプロフェッショナルでした。


▷KRUNKのウェブサイトを見ていてもブリテッシュカウンシルや有名な企業がパートナーになっていたり、すごいですよね。これって日本に住んでいて、現地にいたことがないとあっちのシーンが今、こんなことになっているって絶対に気付かないですよね。




D:ですね。自分もツアーで現地に行っていなかったらそういうことは絶対知らなかったと思うし、そもそもインドのレーベルからリリースするなんてこともなかったかもしれません。


▷なるほど。色々と興味深いお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。ではDaisukeさん、最後に今後のアーティストとしての展望を教えてもらえますか?


D:音楽って、とても汎用性が高いメディアだし、色々なものと一緒にできるものだと思うので、ライヴだけでなく例えばアニメーションだったり、舞台だったり、メディアアートだったり、そういったものとコラボレーションを色々としていきたいですね。アウトプットは増やせるだけ増やしたほうがいいかなって。


▷表現というものに関して、フィールドはこだわらずといった感じですね。


D:ですね。


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Daisuke Tanabe

Twitter:https://twitter.com/daisuketanabe

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SoundCloud:https://soundcloud.com/daisuketanabe



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