電気グルーヴ自粛は、本当に正義なのか?日本の音楽業界と民意の温度差を考える

偏った報道と行きすぎた自主規制で閉塞的な空気が漂う日本。ピエール瀧の逮捕について考える、薬物報道のあり方、企業の対応とは。
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2019.03.14 12:15

電気グルーヴの作品の自主回収・配信停止とコンプライアンス


ピエール瀧逮捕報道が騒がしい。


彼は、言わずと知れた、テクノポップユニット電気グルーヴの何もしてない方である。石野卓球やファンからはとても愛されていて、電気グルーヴには欠かせない存在だ。


近年は、バラエティへの出演や俳優としてドラマや映画で見かけることがメインとなっている。アーティストとしてのピエール瀧を知らない人の方が多いかもしれない。


そんなピエール瀧は今年、電気グルーヴ活動30周年を祝し、デビュー当時の“ウルトラの瀧”として1年間限定で再改名して全国ライブツアーの最中だった。今回の逮捕は、東京ファイナル目前で行われた。


日本のレコード会社やエンタメ産業は、コンプライアンスが重要だ。アーティストや俳優、タレントの薬物逮捕事件が起こると、世間体を気にして、容疑者の関わった作品を徹底して世の中から排除する「自主規制」で、一斉に容疑者が関わった音楽や映像作品を販売停止とする傾向が強い。この慣習は、メディアにとっておいしい"ネタ化"となっている。ワイドショーやSNSでは「どの作品が影響を受ける?」といった作品自粛予想が始まる。そして、街頭の一般人にインタビューを行い、「感想は? 」「残念です」といったお決まりの茶番を放送し根掘り葉掘り追いかける番組が連日続く。


3月13日、電気グルーヴの自身のサイトでは、ソニー・ミュージックが「CD、映像商品の出荷停止」「店頭在庫回収」「デジタル配信停止」するとした謝罪文が掲載された



ピエール瀧の逮捕に伴うソニー・ミュージックレーベルズの対応について(電気グルーヴ公式サイト)



全てをお蔵入りにしていく業界慣習に反して、iTunesストアを見てみると、電気グルーヴの30周年アルバム、『30』が1位。過去作品も軒並みランクインし、20位圏内の7作品が電気グルーヴ作品になっている。日本で大ブレイクした『ボヘミアン・ラプソディー』サントラの前に1997年のアルバム『A』が入っているような状態だ。



(2019年3月14日9:00現在)


これは、電気グルーヴが所属するレーベル側のCD回収、配信停止発表に対するファンの「民意」ではないだろうか。もしかしたらしばらく聴けなくなってしまうという心理がチャートに影響を与えていることも少なくない。


一体誰のための、何に対する「自主規制」なのだろうか? と改めて考えさせられた。



直接の被害者がいるかどうか


薬物違反で逮捕されたアーティストや俳優の作品は世に残ってはいけないのだろうか。


今回のような事件が起きたときに必ず議論が交わされる点だ。僕が思うのは、直接の被害者がいるかどうかで印象はだいぶ変わってくる。ということだ。


本記事では、違法薬物使用のために使われた金が、直接的・間接的に犯罪組織に渡る、といった社会的影響については除外して書いている。また今後出てくるかもしれない余罪についても、憶測していないという点を理解頂きたい。その見方で議論すると、他者に被害や危害が出ない、被害者がいなければ、ピエール瀧のドラッグ使用は個人の問題である。暴行、虐待など被害者が存在する事件と薬物問題とを同列に比較することは不可能だが、直接の被害者がいるならば自主回収や配信停止にも納得ができる。この点はひとつの枠組みに入れて判断してはいけない部分だ。


民意主導か企業主導か


block.fmのニュース記事でもたびたび紹介してきたが、アメリカではアーティストの性暴力問題が国を挙げて社会問題として扱われているのはご存じだろうか。


R.Kellyの性暴力・性奴隷を訴える被害者女性たちが声をあげたことを発端として、アメリカ社会全体を巻き込んだ議論が巻き起こり、故Michael Jacksonから性的虐待被害にあったとされる被害者たちも現れたことで、アーティストの性的虐待疑惑を糾弾する動きが高まっている。そして、彼女たちの声、社会の声が強まることによって、SpotifyやApple Music、ラジオ運営会社などは、R.KellyとMichael Jacksonの作品を配信停止(ミュート)するという動きにまで広がった。


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上記の記事を読んでもらえれば分かるとおり、海外では性暴力に対しての追求は手厳しい。一般市民から声があがり、それに対してレコード会社がレスポンスしているという図式が日本との大きな違いである。


性犯罪、性的虐待と、薬物問題疑惑は、同列に比較できない問題と先述した。だが、R.Kellyのように女性レイプ疑惑で追われるアーティストがセックスの歌や異性愛を美談のように歌っていたら嫌悪感を抱く人は多いはずだ。


しかし、ピエール瀧は「コカイン最高だ」とギャングラッパーのようなことを歌っていただろうか。「薬物ダメ絶対」と啓蒙している作品を世に出していただろうか。


作品やキャラクターとは全く関係のないコカイン使用所持という個人の問題で、作品を排除する必要はないのである。これは罪を償うということと、関係のないことだ。


ピエール瀧は電気グルーヴのステージに立ち、奇想天外な出で立ちでパフォーマンスを行い、石野卓球のビートの上でオーディエンスを楽しませてくれた。それこそが電気グルーヴの醍醐味のひとつであって、オリジナルのエンターテイメント性を創出していた。これは紛れもなくピエール瀧の功績である。


ポジティヴな側面を奪い去ってしまうことで、容疑者の社会復帰の芽を摘んでしまうのではないか。これによりピエール瀧が追い込まれ、再犯してしまう可能性もあるかもしれない。リスキーな対処であることは明白だろう。


僕はピエール瀧の関わる作品をミュートする必要はないと考える。好きなアーティストがドラッグをやっていたら、たしかにショックかもしれない。かといって、すでに世に出ている作品の是非を問うことは無意味だ。



薬物問題からカムバックした俳優やミュージシャン


日本でも、勝新太郎、清水健太郎、田代まさしなど、薬物問題で世を騒がせた人物はたくさんいる。海外でも薬物問題で逮捕された事件など星の数ほどあるのでキリがないが、有名なアーティストでは、ポップアイコンとなったブルーノ・マーズは2010年にコカイン所持容疑で逮捕され、裁判で有罪を認めている。


当時プロデューサーとして成功していたブルーノ・マーズは、B.o.B.の「NOTHIN' ON YOU』、TRAVIE McCOYの「BILLIONAIRE」をヒットさせ、ソロアーティストとしてはバラード曲「JUST THE WAY YOU ARE」で全米チャート1位を獲得、まさにスターダムへ成り上がる大事な転機を迎えていた。


この裁判でブルーノに下された判決では執行猶予付きの地域奉仕活動、カウンセリングへの参加義務などが課せられた。これらをこなしつつ音楽活動を続けたブルーノの人気はさらに高まり、スーパーボウルのハーフタイムショーへの出演、2018年は世界最高峰のグラミー賞で最優秀レコード作品賞を受賞した。


また、マーベル映画『アイアンマン』の主人公トニー・スタークを演じるロバート・ダウニー・Jr.は過去6度も薬物問題で逮捕されている。


しかし彼は、更生施設でのリハビリを経て薬物を断つことに成功した。俳優仲間であるメル・ギブソンの助けも大きかったという。『アイアンマン』を監督したジョン・ファヴロー監督はロバートの波乱万丈な人生と、困難を乗り越えた経験から役柄に活きるとロバートをトニー・スタークとして抜擢した。そこからの活躍は、皆さんも知ってのとおりである。


こうした前例を見ると、アメリカの音楽業界やエンターテイメント業界は、前述のR.Kellyのようなシビアな対応を行う反面、寛容な側面も持っていることが分かる。


ブルーノ・マーズも、ロバート・ダウニー・Jrも、ネガティヴな事象を前向きに活かすことで、見事にカムバックを果たしているのだ。司法はチャンスを与え、社会もそれを受け入れている。


音楽文化が持つ背景


全ての音楽がドラッグと切っても切れない関係性にある、とまでは言わない。しかしHOUSEやTECHNO、HIPHOPなどは、貧困や権力、既存のルール、システムへの反発から生まれてきたカウンターカルチャーの産物であり、その中ではドラッグ・カルチャーの影響があることを忘れてならない。


僕は決して、ドラッグを擁護しているわけではない。コカイン使用所持は法律や規範から外れることである。だが、裏を返せば、我々が無意識で聴いてきた音楽の中にも、権力に中指を立て、身を滅ぼし、命を削って、ドラッグ問題や鬱病を明かすことなく、作品を世に残していった先人アーティストたちの音楽や歌詞がある。


海外メディアによれば、Chance The Rapper(チャンス・ザ・ラッパー)らがアメリカ最高裁判所に“作品として楽曲に用いられた歌詞を捜査の証拠とするのは根拠に心許ない”という旨の文書を送った。その内容は


「HIPHOPに置ける犯罪の表現は必ずしも事実でなく、ラッパーとしてのキャラクター性の誇張や表現の一環であり、ラップカルチャーを理解するリスナーに向けられたもの。HIPHOPでは犯罪的な表現が使われることが多いが、それらを理解するにはラップやHIPHOPカルチャーに精通した知識が必要である」


というもの。これはラッパーのJamal Knox(ジャマール・ノックス)の「Fuck The Police」という楽曲の暴力、脅迫表現な歌詞が、銃器及び薬物所持で逮捕されたJamal Knox自身に対する証拠の一つとして挙げられ、有罪判決となってしまったことを受けてのアクションである。


チャンス・ザ・ラッパーほか複数のラッパーが米最高裁にラップ音楽を解説する書面を提出 | Billboard JAPAN



日本でいうと、KOHH(コー)の楽曲にはドラッグや王子の街に関連するトピックが多い。それだけ聴いて真に受けると東京都北区王子はジャンキーだらけでヤクザや不良しかいない街のように思えてしまう。確かにそういうダークな側面は実在するのかもしれない。というかどこの街にもあるだろう。


僕は王子の街へ足を運んでみたが当然、街には普通の人たちがいて、ほとんどの人々が見た目には普通の暮らしを営んでいる。KOHHはその営みの一部、影の部分や自身の経験、思い出、記憶、景色を切り取り、作品としてリスナーに提供しているのである。


こういったことから、リスナーひとりひとりが想像力を膨らませ、アーティストが創造した背景を思い浮かべながら音楽を享受する必要がある。個人的にはそっちの方が音楽をもっと楽しめると思う。


ダメなものをダメと断罪してしまうだけでは短絡的だ。今の日本の慣習であれば、例えばビートルズやローリングストーンズの音楽も全てミュートしなくてはいけなくなってしまう(これはTwitterでも多く同様の意見が見られた)。


さらに考えれば、アップルの顔、故スティーブ・ジョブズも「LSDは素晴らしい体験だった」と語ったエピソードは有名だけれど、アップル製品をミュートすることができるだろうか。


薬物報道の先を問う


今回のピエール瀧逮捕報道では、日本のリスナーがしっかりと事情を思案し判断して、それを言語化できるか否かが、問題そのものの改善や、当事者への配慮する上で非常に大切なボーダーラインだと思った。法律で決まっているから、有罪だから、無罪だから、ではなく。


日本には弱者に不寛容な空気が満ちている。一度違反した人を徹底的につるし上げる風潮や、民意を踏まえず当事者意識の欠落が思考停止を生む。理解の範疇を超えた物事を理解しようともせず、否定し、マイノリティをぶっ叩く。とても窮屈だ。


薬物報道のスクープは、日本社会ではインパクトが大きい。人の関心を集める。いわゆるバズるネタである。block.fm編集部でも、速報を出すか否か議論が飛び交った。結論は、事実をただ報じるだけでは、他メディアと同じで意味はないのでは。という結論に至った。ワイドショーとは違う、block.fmでできる出し方を考えよう、と。


一人のライターがとやかくいうことではないが、編集部のやりとりはすごく冷静で的確な判断だったと思い返している。正直僕もどうするべきか悩んでいたのだ。思考がそこに生まれた瞬間だった。


逮捕されたから作品も悪なのか? 何が悪くて自主回収なのか? どうして作品を残しておくことがダメなのか? 


こうした社会の疑問に会社は真摯に向き合おうとしていない。そして、メディアも「自粛」を助長するかのように作品回収を"ネタ化"し続ける。


僕は、過剰に薬物ばかりがクローズアップされている報道には違和感を感じざるを得ない。過敏なまでの企業のコンプライアンス対応の報道についても同様である。こうした報道ばかりが世に出てくると、本来知るべき情報や問題に目が行きにくくなる。


日本における薬物報道がどうあるべきか、というこの問いに特別非営利活動法人アスクが報道ガイドラインを提示しているで引用したい。(https://www.ask.or.jp


2016年7月、依存症の治療・回復の関係団体と専門家が「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」を結成しました。

ASKも発起人として加わっています。


結成の理由は、芸能人や有名スポーツ選手の薬物依存やギャンブル問題などをめぐって、偏見や無理解にもとづくバッシング報道が続いていることです。誤解や中傷を振りまくのではなく、依存症という病気を正しく伝え、回復を後押しする報道が増えてほしい――。


特別非営利活動法人アスク『薬物報道ガイドライン』ネットワークの結成より抜粋


こう書かれたページには、ASKA容疑者の覚醒剤報道の際にタクシーのドラレコ画像が使われたことに言及。薬物報道がエスカレートし、社会復帰の目を摘んでいると危惧した有志、識者が集まりガイドライン作成に乗り出したとのことだ。そして以下に続く。


TBSラジオの「発信型」ニュース番組『荻上チキ・Session-22』のパーソナリティを務める評論家の荻上チキさんと、薬物依存症の専門医である松本俊彦医師(国立精神・神経医療研究センター)が問題意識を共有。

番組内で関係者が語りつつ「薬物報道ガイドライン」を練り上げることになったのです。


2017年1月17日の番組に出演したのは、松本医師と、「ダルク女性ハウス」代表の上岡陽江さん、「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さん。いずれも「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」の発起人です。番組ではまず、松本医師が議論の口火を切りました。

「報道のたびに白い粉や注射器のイメージ映像が出る。依存症の人はそれを目にすると欲求が刺激される。だから、著名人が逮捕されて報道が激化するたびに、患者さんが薬物を再使用することが続発していて、回復しようとがんばっている人の足を報道が引っ張っているんじゃないか」


特別非営利活動法人アスク『薬物報道ガイドライン』ガイドラインを作ろうより抜粋


番組の議論を経て、まとまったガイドラインは以下の通り。


【望ましいこと】

・薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者およびその家族や子供などが、報道から強い影響を受けることを意識すること

・依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること

・相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること

・友人・知人・家族がまず専門機関に相談することが重要であることを強調すること

・「犯罪からの更生」という文脈だけでなく、「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと

・薬物依存症に詳しい専門家の意見を取り上げること

・依存症の危険性、および回復という道を伝えるため、回復した当事者の発言を紹介すること

・依存症の背景には、貧困や虐待など、社会的な問題が根深く関わっていることを伝えること


【避けるべきこと】

・「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと

・薬物への興味を煽る結果になるような報道を行わないこと

・「人間やめますか」のように、依存症患者の人格を否定するような表現は用いないこと

・薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと

・逮捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないこと

・「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと

・ヘリを飛ばして車を追う、家族を追いまわす、回復途上にある当事者を隠し撮りするなどの過剰報道を行わないこと

・「薬物使用疑惑」をスクープとして取り扱わないこと

・家族の支えで回復するかのような、美談に仕立て上げないこと


特別非営利活動法人アスク『薬物報道ガイドライン』より抜粋


上記の他にも、薬物報道が容疑者と容疑者に関連した人、また、その報道を見た人がどのような影響を与えるかなど綿密な議論がされており、分かりやすくまとめられている。この議論がなされたTBSラジオ『荻上チキ・Session-22』はアーカイヴされ、オフィシャルページで聴くことが可能だ。


https://www.tbsradio.jp/108928



今の日本に必要なのは、薬物による問題との向き合い方や、事件に応じた容疑者への適切な配慮、ガイドライン、リハビリ更生施設、カウンセリング機関などの整備は急務と言えるだろう。なにより、そういった知識を我々一般人も備えていくことで、より建設的な議論を展開し、有意義な答えを見いだすことができるはずだ。そうした積み重ねが多用的で豊かな日本社会を築いていくことにつながるのではないだろうか。


block.fmはダンスミュージックを扱っているメディアの特性上、電気グルーヴとは比較的距離感の近いメディアである。残念ながら電気グルーヴのツアーは中止となってしまったようだが、二人そろってステージ上に帰ってきてくれることを僕は祈りたい。


その時はひとネタ、今回の件に関連したいつも通りの下品な笑いを挟んでほしいものだ。日テレ系テレビ番組「Another Sky」で見せてくれた、二人がベルリンではしゃいでいたような微笑ましい姿を、また近く見ることができますように。


振り返ることもたまにある 照れながら思い出す


そんな風に歌える時が、またきっと来ることを祈る。





written by Tomohisa“Tomy”Mochizuki


【追記:3月15日12時30分】

記事初出時に本文中で「ピエール瀧のドラッグ使用は個人の問題である」との表現がありましたが、読者からのご指摘を受け、以下を本文に追記いたしました。


本記事では、違法薬物使用のために使われた金が、直接的・間接的に犯罪組織に渡る、といった社会的影響については除外して書いている。また、や、今後出てくるかもしれない余罪についても、憶測していないという点を理解頂きたい。








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